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イオン照射によってⅡ‐Ⅵ族化合物半導体に形成される

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イオン照射によってⅡ‐Ⅵ族化合物半導体に形成される
平成 23 年度
修士論文
イオン照射によってⅡ‐Ⅵ族化合物半導体に形成される欠陥の評価
Evaluation of the defects formed in ion irradiated Ⅱ-Ⅵ semiconductors
平成 24 年 3 月
高知工科大学大学院 工学研究科
基盤工学専攻
物質・環境システム工学コース
学籍番号
藤田
指導教員
1145014
和希
谷脇
雅文
~ 目次 ~
第1章
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第2章
実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.1 試料の諸特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.2 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.3 SRIM コードを用いた原子空孔数の算出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
第3章
実験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3.1 SEM による表面観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3.2 X 線回折による構造解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
1) 2θ/θ 法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2) 2θ/1.0 °法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
3) 2θ/0.5 °法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
3.3 紫外可視分光測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3.4 フォトルミネセンス測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
第4章
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第5章
総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
5.1 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
5.2 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
要旨
本研究は、Zn 系Ⅱ-Ⅵ化合物半導体の光学特性、イオン照射によってどのような影響をうける
のかを調査するものである。対象とする化合物半導体のサンプルとして ZnS、ZnSe、ZnTe を使
用し、それぞれ 60 keV の Sn+イオン 1.0×1015 ions/cm2 を低温(-150 ℃)および室温で注入し
たものとアンドープの計 9 種類を、紫外可視分光測定、XRD(X 線回折)
、PL(フォトルミネセ
ンス)
、SEM(走査型電子顕微鏡)でそれぞれ測定した。
紫外可視分光測定で得られた結果から、それぞれの化合物によってバンドギャップに相当する
ピークが表れ、高波長側に欠陥に由来するとみられる吸収がみられた。また、フォトルミネセン
ス測定より、ZnS の低温照射の場合で新たな発光ピーク 3.26 eV を確認できたが、その準位が不
純物もしくは欠陥に起因するかは特定できなかった。今後の課題として、フォトルミネセンス未
測定の試料に対して実験を行っていくとともに、測定精度を向上させていきたい。
第1章 緒言
イオン注入法は、半導体への不純物添加法として発展し、現在の半導体プロセスにおいては不
可欠の技術である。しかしながら、この方法によると、半導体基板内に多量の点欠陥を形成し、
重照射した場合、表面に損傷領域が形成され、アモルファス状態に変質させる。Si や Ge といっ
たⅣ族半導体においては、この欠陥形成とその回復現象がはやくから明らかにされ、GaAs、InP
などにおいてもおおむね理解はなされている。最近、他のⅢ-Ⅴ化合物半導体あるいはⅡ-Ⅵ化合物
半導体の可能性を拡げることに関心がむけられてきているが、イオン照射欠陥挙動に関しては研
究があまりすすめられていない。
そこで、Zn 系Ⅱ-Ⅵ化合物半導体 ZnS、ZnSe、ZnTe をサンプルとして使用し、イオン照射に
よって光学特性がどのような影響をうけるのかを調査した。
ZnS は、1907 年 Rutherford と Geiger が α 粒子の散乱実験にシンチレータとして用いた。こ
れは ZnS がバンドギャップよりも高いエネルギーを持つ光によって励起された際に発光するとい
う性質を利用したもので、ブラウン管等の蛍光体原料としても使用されており、青色発光ダイオ
ードにも使用可能である。ZnSe は、ZnS 同様に青色発光ダイオードや半導体レーザー素子、遠
赤外線カメラのレンズを作るのに用いられる.。ZnTe は、緑色発光ダイオードの材料として、人
体に無害で環境負荷の少ないことに加え、これまで使用されていた GaP に比べて、低コスト化を
図りやすいことから注目されている。[1]-[5]
サンプルはそれぞれ 60 keV の Sn+イオン 1.0×1015 ions/cm2 を低温(-150 ℃)および室温で
注入したものとアンドープの計 9 種類を用い、実験前には SRIM コードを用いて原子空孔数を算
出した。
実験内容は SEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察と XRD(X 線回折)による構造解析、
紫外可視分光測定に加え、PL(フォトルミネセンス)測定を行った。
1 / 23
第2章 実験方法
対象とする化合物半導体のサンプルとして ZnS、ZnSe、ZnTe を使用し、それぞれ 60 keV の
Sn+イオン 1.0×1015 ions/cm2 を低温(-150 ℃)および室温で注入したものとアンドープの計 9
種類を、紫外可視分光測定、XRD(X 線回折)
、PL(フォトルミネセンス)測定、SEM(走査型
電子顕微鏡)でそれぞれ測定した。
2.1 試料の諸特性
サンプルとなった ZnS、ZnSe、ZnTe はいずれも結晶構造は閃亜鉛鉱型をとり、バンド間遷移
は直接遷移型である。詳細は Table 1 に記す。また、今回使用したのは 001 面である。
Table 1
結晶構造
ZnS、ZnSe、ZnTe の諸特性
バンドギャップ
格子定数(Å)
融点(℃)
イオン性
ZnS
5.4093
1830
0.623
346 (3.58 eV)
ZnSe Zinc-blende
5.6687
1520
0.676
474 (2.61 eV)
ZnTe
6.1037
1295
0.546
561 (2.21 eV)
(nm)@RT
バンド間遷移
直接遷移型
2.2 実験方法
今回の照射実験には京都大学の原子炉実験所の重イオン加速器を用いた。詳細な照射条件は
Table 2 に示すが、それぞれの低温照射の温度は ZnS が-149 ℃、ZnSe が-152 ℃、ZnTe が-
153 ℃である。
評価方法としては、まず走査型電子顕微鏡で表面を×200、×1000、×2000 の 3 種類の倍率別
に観察し、X 線回折の汎用測定法から 2θ/θ、2θ/1.0 °、2θ/0.5 °の 3 種類の方法で構造解析を行っ
た。
次に、紫外可視分光測定でそれぞれの波長における透過率を、分光器でフォトルミネセンスを
測定した。
Table 2 イオン照射条件
イオン照射条件
加速電圧
60 kV
イオン種
Sn
照射温度
低温, 室温
照射量
1×1015 ions/cm2
2.3 SRIM コードを用いた原子空孔数の算出
前述の測定を行う前に、まず SRIM コードを使った原子空孔数の算出を行った。SRIM コード
とはモンテカルロシュミュレーションであり、乱数を用いた計算を何度も行うことによりイオン
注入の近似解を求めるシミュレーションソフトウェアで、もっとも定評があり、世界中で利用さ
2 / 23
れている。IBM 社の James.F.Ziegler 氏が開発し、無料で配布されている。[6]
パラメータには Table 3 の密度と弾き出し閾値を用い、トータルイオン数 1000 個で計算を行っ
た。
シミュレーションの結果は Fig. 1~3 の通りで、イオン照射表面が左側で、そこに 1000 個のイ
オンを打ち込んでできるカスケード損傷が表れている。赤い軌跡が入射イオンを表し、緑色の部
分がはじき出された原子を表す。
Table 4 を見れば分かるが、イオンレンジは大体 20~30 nm の間となり、ZnS だけが 1 イオン
あたりに形成される原子空孔数が 2366.4 個と他の 2 つと比べて、著しく少なくなっている。こ
の原因として、ZnS は 3 つのサンプルの中で最も密度が小さいことに加え、硫黄の弾き出し閾値
が他と比べて 1.5~2.2 倍も高いことが理由だと考えられる。
Table 3 SRIM コードに使用した密度と弾き出し閾値
密度(g/cm3)
弾き出し閾値(eV)
ZnS
4.09
9.9(Zn)
15(S)
ZnSe
5.27
7.6(Zn)
8.2(Se)
ZnTe
6.34
9.7(Zn)
6.7(Te)
ZnS
Fig. 1
SRIM コードを使った原子空孔数の算出シミュレーション(ZnS)
3 / 23
ZnSe
Fig. 2
SRIM コードを使った原子空孔数の算出シミュレーション(ZnSe)
4 / 23
ZnTe
Fig. 3
SRIM コードを使った原子空孔数の算出シミュレーション(ZnTe)
Table 4 SRIM コードを使った原子空孔数の算出結果
イオンレンジ
1 イオンあたりに形成
(nm)
される原子空孔数
ZnS
27.307
2366.4
ZnSe
23.316
4210
ZnTe
22.484
4024
5 / 23
第3章 実験結果
先述の SEM(走査型電子顕微鏡)
、XRD(X 線回折)
、紫外可視分光測定、PL(フォトルミネ
センス)測定を一通り行った。走査型電子顕微鏡による表面観察では芳しい結果は得られなかっ
たが、紫外可視分光測定で、照射前と照射後で吸収に変化が観察され、フォトルミネセンス測定
でも ZnS の低温照射の場合で、基板のピークの高波長側で新たな発光ピーク 3.26 eV を確認でき
た。
3.1 SEM による表面観察
まず、走査型電子顕微鏡でサンプルの表面を×200、×1000、×2000 の 3 種類の倍率別に分け
て観察し、その写真を撮影した。Fig. 4~6 を見れば分かるが、表面に傷跡や微細な埃らしきもの
を確認できたものの、どの試料においても特に照射実験の影響と思われるような特筆すべき変化
は観察されなかった。
ZnS(undope)×200
ZnS(undope)×1000
ZnS(LT)×200
ZnS(LT)×1000
ZnS(RT)×200
ZnS(RT)×1000
Fig. 4
ZnS(undope)×2000
ZnS(LT)×2000
ZnS(RT)×2000
SEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察写真(ZnS)
6 / 23
ZnSe(undope)×200
ZnSe(undope)×1000
ZnSe(undope)×2000
ZnSe(LT)×200
ZnSe(LT)×1000
ZnSe(LT)
×2000
ZnSe(RT)×200
ZnSe(RT)×1000
ZnSe(RT)×2000
Fig. 5
SEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察写真(ZnSe)
ZnTe(undope)×200
ZnTe(LT)×200
ZnTe(RT)×200
Fig. 6
ZnTe(undope)×1000
ZnTe(LT)×1000
ZnTe(RT)×1000
ZnTe(undope)×2000
ZnTe(LT)×2000
ZnTe(RT)×2000
SEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察写真(ZnTe)
7 / 23
3.2 X 線回折による構造解析
次に、X 線回折でサンプルの構造解析を行った。粉末定性の汎用測定(集中法)を用い、測定
方法は 2θ/θ、2θ/1.0 °、2θ/0.5 °の 3 種類をそれぞれ行った。また、測定条件は全て連続モードで
5 °~90 °を測定し、アッテネータは自動、スピードは 1.2 倍に設定した。
1) 2θ/θ 法
まず、最初に 2θ/θ 法で構造解析を行った。結果は Fig. 7~9 に示した通りだが、見て分かる通
り、ZnS、ZnSe、ZnTe のいずれも共通して、アンドープ、低温ドープ、室温ドープを比較して
も特筆すべき違いは見られないという結果であった。
これは、イオン照射によって形成される欠陥領域が、サンプル表面の浅い部分にのみ形成され
るからだと考えられ、
2θ/θ 法では欠陥の形成されていないサンプル深部の構造を解析してしまい、
照射による影響を観測できなかったからと考察される。
[105] 4
Count
3
ZnS(undope)
ZnS(LT)
ZnS(RT)
2
1
0
20
40
60
2θ(deg)
Fig. 7 2θ/θ 法による構造解析結果(ZnS)
8 / 23
80
[105] 4
Count
3
ZnSe(undope)
ZnSe(LT)
ZnSe(RT)
2
1
0
20
40
60
2θ(deg)
Fig. 8 2θ/θ 法による構造解析結果(ZnSe)
9 / 23
80
[105] 4
Count
3
ZnTe(undope)
ZnTe(LT)
ZnTe(RT)
2
1
0
20
40
60
80
2θ(deg)
Fig. 9 2θ/θ 法による構造解析結果(ZnTe)
2) 2θ/1.0 °法
次に 2θ/1.0 °法で構造解析を行った。結果は Fig. 10~12 に示した通りである。
Fig. 11 の低温ドープのグラフ 22 °付近に見られる ZnSe(LT)のピークは当初 Se 101 のピ
ークではないかと考えられていたが、詳細な解析の結果、Se 101 のピークが 21.94 °であるのに
対して、件のピークは 22.06 °であることがわかったので、Se 101 のピークではなく、ノイズで
はないかと推測される。
Fig. 10、Fig. 12 で特に気になるピークは観測されなかった。
10 / 23
4000
Count
3000
ZnS(undope)
ZnS(LT)
ZnS(RT)
2000
1000
0
20
40
60
2θ(deg)
Fig. 10 2θ/1.0 °法による構造解析結果(ZnS)
11 / 23
80
4000
Count
3000
ZnSe(undope)
ZnSe(LT)
ZnSe(RT)
2000
1000
0
20
40
60
2θ(deg)
Fig. 11 2θ/1.0 °法による構造解析結果(ZnSe)
12 / 23
80
4000
Count
3000
ZnTe(undope)
ZnTe(LT)
ZnTe(RT)
2000
1000
0
20
40
60
80
2θ(deg)
Fig. 12 2θ/1.0 °法による構造解析結果(ZnTe)
3) 2θ/0.5 °法
そして、
構造解析の最後に 2θ/0.5 °法で解析を行った。結果は Fig. 13~15 に示した通りである。
Fig. 13 では、低温ドープのグラフで 28.59 °に ZnSe 111 のピークが見られ、室温ドープで
29.06 °に S 200、32.71 °に S 111 が見られる。
室温ドープの方で S のピークが観測された理由として、イオン照射によって結合が切断され Zn
が拡散し、S が凝集したのではないかと考察される。
13 / 23
4000
Count
3000
ZnS(undope)
ZnS(LT)
ZnS(RT)
2000
1000
0
20
40
60
2θ(deg)
Fig. 13 2θ/0.5 °法による構造解析結果(ZnS)
14 / 23
80
4000
Count
3000
ZnSe(undope)
ZnSe(LT)
ZnSe(RT)
2000
1000
0
20
40
60
2θ(deg)
Fig. 14 2θ/0.5 °法による構造解析結果(ZnSe)
15 / 23
80
4000
Count
3000
ZnTe(undope)
ZnTe(LT)
ZnTe(RT)
2000
1000
0
20
40
60
80
2θ(deg)
Fig. 15 2θ/0.5 °法による構造解析結果(ZnTe)
3.3 紫外可視分光測定
次は、紫外可視分光による測定を行った。今回使用したのは日本分光の V-550 紫外可視分光光
度計である。
Fig. 16 を見れば、ZnS と ZnSe では吸収が、低温照射、室温照射、照射前の順番で大きくなっ
ており、照射前と照射後で吸収に変化が見られることが確認できる。ただし、ZnTe のみ低温照射
と室温照射でさして大きな変化は見られなかった。
また、この結果を微分したグラフを Fig. 17 に示すが、これより照射前と照射後での吸収の変化
以外にも、それぞれのピークの右側がなだらかになっていることが確認でき、何らかの吸収があ
る事が分かる。これは特に ZnS に顕著に表れている。
16 / 23
80
70
ZnS
透過率(%)
60
ZnS+Sn l
50
ZnS+Sn r
40
ZnSe
ZnSe+Sn l
30
ZnSe+Sn r
20
ZnTe
ZnTe+Sn l
10
ZnTe+Sn r
0
300
400
500
600
700
800
波長(nm)
Fig. 16 紫外可視分光測定結果
7
6
ZnS
5
ZnS +Sn l
nm-1
4
ZnS +Sn r
ZnSe
3
ZnSe +Sn l
ZnSe +Sn r
2
ZnTe
1
ZnTe +Sn l
ZnTe +Sn r
0
300
(1)
400
500
600
700
波長(nm)
Fig. 17 紫外可視分光測定結果(微分)
3.4 フォトルミネセンス測定
最後にフォトルミネセンスによる測定を行ったが、残念ながら調整の段階が非常に困難だった
為、大半のサンプルで芳しいデータが得られなかった。例えば、Fig. 18 の ZnSe の低温ドープの
データを見ても分かる通り、目的のピーク以外にノイズが多く、良い結果だとは言えない。なお、
17 / 23
グラフ中に 267 nm、533 nm、798 nm の 3 つのピークが存在するが、これは装置の光源のピー
クであり、測定結果とは関係ない。
その中で唯一好ましい結果を得られたのは ZnS の低温ドープのみである。Fig. 19 の一部を拡
大した Fig. 20 の 338 nm で見られる ZnS 基板のピークの右側 380 nm に、微弱ではあるが新た
なピーク 3.26 eV が確認できる。しかし、この新たな準位が不純物によるものか欠陥によるもの
かは現時点では不明である。
7.00E+05
6.00E+05
5.00E+05
Count
4.00E+05
3.00E+05
2.00E+05
1.00E+05
0.00E+00
200
-1.00E+05
300
400
500
600
700
波長(nm)
Fig. 18 フォトルミネセンス測定結果 [ZnSe(LT)]
18 / 23
800
900
5.00E+04
4.00E+04
Count
3.00E+04
2.00E+04
1.00E+04
0.00E+00
200
300
400
-1.00E+04
500
600
700
800
900
波長(nm)
Fig. 19 フォトルミネセンス測定結果 [ZnS(LT)]
3.00E+03
Count
2.00E+03
1.00E+03
0.00E+00
320
-1.00E+03
340
360
380
400
波長(nm)
Fig. 20 フォトルミネセンス測定結果拡大図 [ZnS(LT)]
19 / 23
420
第4章 考察
アレニウスの式によって照射中 60 分間の原子空孔の移動度と拡散距離を計算した。
D= D0・exp(-E/kT)
D0:頻度因子(温度に無関係な定数)
E :活性化エネルギー
k :ボルツマン定数
この場合、1 個当たりの移動度なので、気体定数をアボガドロ数で割ったボルツマン定数を使
用し、温度は低温、室温でそれぞれ 150 K、300 K とする。また、活性化エネルギーE は空孔の
移動エネルギーEm と空孔形成エネルギーEf の合計 E= Em + Ef で求められるが、照射中の場合、
原子空孔は十分あるので、形成エネルギーを除外して移動エネルギーだけと考えられるので、活
性化エネルギーE は移動エネルギーEm を 2 分の 1 にしたものを代入して計算した。
また、拡散距離は(2Dt)1/2 で求められる。[7]
結果は Table 5 の通りであるが、低温状態での原子空孔の移動距離は室温状態のものよりも格
段に遅くなっていることが分かる。
また、ZnS が一番移動距離が長くなっているが、これは 3.2 3)の Fig. 13 で観察された Zn の拡
散と S の凝集の原因であると考察される。
Table 5 照射中(60 分)の原子空孔の移動距離
D@300K
2
(cm /s)
拡散距離
1/2
(2Dt)
D@150K
拡散距離
2
(2Dt)1/2
(cm /s)
(nm)
ZnS
ZnSe
ZnTe
-17
7.37
(nm)
1.89x10
-27
3.69x10-6
Zn
7.54x10
S
2.65x10-23
4.31x10-3
8.78x10-42 2.51x10-12
Zn
1.05x10-26
8.69x10-5
1.10x10-55 2.81x10-19
Se
1.88x10-23
3.68x10-3
2.27x10-45 4.42x10-14
Zn
5.25x10-19
6.15x10-1
2.76x10-33
Te
2.45x10-19
1.32x10-5
1.46x10-64 1.02x10-23
20 / 23
4.45x10-8
第5章 総括
最後に、これまでの実験結果とそれから導き出された考察を評価し、その反省すべき問題点を
今後の課題としてまとめる。
5.1 まとめ
以上の実験結果をまとめると、Table 6 となる。
X 線回折による構造解析結果から、イオン照射によって形成される欠陥領域は、2θ/θ 法では観
測できない表面の浅い部分にのみ形成されることがわかり、さらに ZnS(室温ドープ)の 2θ/0.5 °
法の解析結果では、原子空孔の移動度が原因と思われる S 200 と S 111 のピークが観測された。
紫外可視分光測定の結果からは照射前と照射後で、イオン照射によって形成された欠陥に起因
するものと思われる吸収の変化が見られた。また、今回測定したサンプルのいずれも低温ドープ
より室温ドープの方が高い吸収を示すという結果から、形成された点欠陥は低温では回復しにく
いと考察される。
そして、フォトルミネセンス測定では、ZnS(低温ドープ)基板ピークの右側 380 nm に、微
弱ではあるが新たなピーク 3.26 eV が確認できた。しかしながら、この準位がイオン照射によっ
て形成された欠陥に起因するものなのか、或いは単なる不純物によるものなのかまでは、遺憾な
がら特定できなかった。
Table 6 実験結果
SEM
ZnS
ZnSe
XRD
S 凝集
PL
低温>室温>
新たな準位
undope
(3.26 eV)
低温>室温>
特に変化なし
特に変化なし
ZnTe
UV-Vis
undope
低温≒室温>
undope
未測定
未測定
5.2 今後の課題
フォトルミネセンス測定は、サンプル測定時の調整が非常に困難だった為、大半のサンプルで
芳しいデータが得られず、今回の実験で唯一良好な結果を出せたのは ZnS(低温ドープ)のみだ
った。よって、今後の課題として、フォトルミネセンス未測定の試料に対して実験を行っていく
とともに、測定精度を向上させていきたいと思う。
21 / 23
参考文献
1) 小山慶太「ケンブリッジの天才科学者たち」新潮選書(1995)
2) 小松正明、椎木正敏、今村伸
「気相合成法 ZnS:Ag,Al 蛍光体における深欠陥密度の低減化」
電子情報通信学会技術研究報告(2000)
3)田口常正「高輝度青色発光のための電子材料技術」サイエンスフォーラム(1991)
4)中山和也、岡島茂樹、川端一男
「遠赤外レーザーの開発とその応用」
中部大学工学部 核融合科学研究所(2011)
5)林田和樹
「有機金属気相成長法による ZnTe のホモエピタキシャル成長と不純物ドーピングに関する研究」
佐賀大学、博士論文(2003)
6)J.F.Ziegler、J.P.Biersack、U.Lttmark
「The stopping and Range of lons in Solids」
Pergamon Press(1985)
7)新田紀子
「低温イオン注入によって化合物半導体表面に形成されるセル状構造の成長機構の解明と構造制御」
高知工科大学、博士論文(2004)
22 / 23
謝辞
本研究を遂行するにあたり、終始変わらぬ御指導ならびに御鞭撻を賜わりました高知工科大学
工学部物質・環境システム工学科 谷脇雅文教授、高知工科大学ナノテクノロジー研究所 新田
紀子講師に深く敬意と感謝の意を表します。
イオン注入実験でご援助を頂いた京都大学原子炉実験所
義家敏正教授に感謝の意を表します。
また、ご援助を頂いた高知工科大学工学部物質・環境システム工学科 前田敏彦教授、堀井滋
准教授に感謝の意を表します。
SEM、XRD 実験においては高知工科大学大学院工学研究科基盤工学専攻物質・環境システム
工学コース 横田正博氏、西岡誠剛氏のご協力で行いました。深く感謝致します。
紫外可視分光測定の実験においては山本貴金属地金株式会社高知第二山北工場 林邦彦氏の御
協力で行いました。
フォトルミネセンス測定の実験においては高知工科大学工学部物質・環境システム工学科 岡
本昌氏の御協力を頂きました。
大学入学当初より御指導いただいた物質・環境システム工学科の先生方に深く感謝致します。
最後に、励ましの言葉をかけてくれた友人、物心より援助していただいた家族に心より感謝致
します。
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