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被災地の路上から - ビッグイシュー基金

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被災地の路上から - ビッグイシュー基金
被災地の路上から
2012 年 3 月 1 日発行
発行元 ビッグイシュー基金
HP:http://www.bigissue.or.jp/
Mail:[email protected]
“ 道 ” から見える被災地 ——発行にあたって
2011 年 3 月 11 日。東日本を、未曾有の震災
が襲いました。
忘れることのできないあの日から、
もうすぐ一年。
現状でした。その最たる姿が、路上生活を余儀な
くされる方々です。
震災以降、被災地最大の都市である仙台に、ホー
この震災から学び、この震災の体験を風化させ
ムレスとなる人が集まっています。震災後、延長
ず息の長い支援が続くように、そして、今後被災
を重ねた雇用保険・失業給付の給付期間が 2012
地への様々な支援が減っていく中で、ホームレス
年 1 月から徐々に切れ始め、失職者の生活再建
になる人たちが増えないようビッグイシュー基金
の道も依然不透明な状態が続いています。
も何かサポートできないか。そんな気持ちから、
どのような支援があれば、彼らはホームレスに
2011 年 9 月以降、月に一度仙台へ行き、路上で
ならず、また、なってしまっても路上生活を脱す
生活する人たちや、彼らを支援している方々、仮
ることができるのか。
設住宅への訪問を続けてきました。
この便りが、被災地の路上と被災地以外の市民
そこで見えてきたのは、震災前から生活基盤が
の皆様を結び、その時々に必要な支援の形をとも
弱く、既存の社会保障制度を享受できていない人
に考えるためのツールになればと思っています。
たちほど、震災を機に「災害弱者」になっている
なぜ、仙台の路上?
仙台駅周辺は一見、もう元通りの生活を取り戻
しているかに見えます。
津波の被害が大きかった沿岸部に比べて、仙台
に来られるということと、震災前から続くホーム
レス支援の活動が仙台で持続的に行われているか
らです。
は比較的被害が少なく、テレビや新聞などで見聞
初回の発信となる今号は、仙台の路上生活者向
きするような「被災地」の印象が薄いことも確か
け支援を行っている「仙台夜まわりグループ」と、
です。
仮設住宅で被災者の支援を行っている「パーソナ
この便りの発行にあたって仙台の路上を中心に
情報を集めることにしたのは、他県や沿岸部で仕
事を失った方々が東北の最大都市仙台に職を探し
ルサポートセンター」からお話を聞きました。
次号以降も、被災地の「路上のいま」を、仙台
から、お伝えしていきます。
1 被災者支援のいま
仙台市内で路上生活者の自立支援や仮設住宅の見守り事業などを行っている2つの団体から、現状や今
後の課題について、現場の声をうかがいました。
NPO 法人 仙台夜まわりグループ
2000 年から、仙台市内で路上生活者の自立支援を行っている「NPO 法
人 仙台夜まわりグループ」
。昼・夜まわりのほか、炊き出しや食事会・
相談会などを定期的に実施。市の委託事業も行っており、仙台の路上生活
者支援の草分け的な存在です。2011 年 3 月 11 日の震災以降、仙台の路
上では、いったいどんな変化が起きているのか ― 仙台の路上で 12 年間
活動を続けてきた、理事長の今井誠二さんにお話をうかがいました。
Q:震災後、" 路上 ” でどんな変化を感じますか?
ますが、何か影響は出ていますか?
ホームレスの人数自体は、ほぼ横ばいなのです
まだ路上では出会っていませんが、相談の電話
が、顔ぶれは以前とまったく違います。人の出入
は何件かありました。「仕事が見つからず、来月
りが激しく、年令層も変わりました。今まで路上
の家賃が払えない」という内容です。今までホー
にいた人が、瓦礫撤去などの仕事で一時的に飯場
ムレスとは関係ないような、一般の人が支援団体
やネットカフェに移っている一方で、仕事を求め
に電話をかけてくるんですよ。SOS を出せずにい
て来た新しい人が路上に溢れ出しています。
る人も多いと思います。路上に出て来てしまう前
Q:新しく路上に出た人の特徴は?
に支援に結び付けられるような体制の整備が必要
30 ~ 50 代が多く、被災地だけでなく全国各
ですし、何より早めに SOS を出していただくこ
地から来ています。被災地なら仕事があると思っ
とが肝心です。多くの場合、路上に出て来てしま
てくるのでしょう。
でも、
思ったほど仕事がなかっ
う前にやれることがまだあるからです。
たり、十分な賃金をもらえなかったりして、路上
Q:被災地外からできる支援はありますか?
に出てしまう。夜まわりの途中で、原発関係の仕
いま仙台には、全国から来て路上に出てしまう
事に向かうという人にも何人か会いました。毎週
人が後をたちません。これは元々あった不安定就
2 ~ 3 人は新しい人を見るので、路上に留まって
労・不安定居住の問題が震災をうけて加速化した
いる人たちの全体数は横ばいでも、震災後に路上
ものです。そういう意味では、被災地だけでなく
に出た人数は 100 人をくだらないのでは、と思
実はみなさんの足元の問題なのです。だから、ま
います。建築現場の仕事ばかりで女性の行き場が
ずは住んでいる地域の路上支援団体の活動に関心
ないせいで、
相対的に女性の割合が増えています。
をもって支援してほしい。自分の地域を支えるこ
震災後新たに路上生活を始める人は、以前から
とが、被災地を支えることにもつながるのです。
路上にいる人と比べ、事情も複雑で背景もさまざ
まです。
「自分は他のホームレスとは違う」とい
う意識も強いので、困ってもすぐには助けを求め
ません。そのため、状況の把握や、彼ら彼女らへ
の支援がより困難になっています。
Q:被災地では雇用保険が切れた人も出始めてい
2
理事長の今井誠二さん
NPO 法人 仙台夜まわりグループ
【活動概要】昼・夜まわりのほか、炊き出し・食事会・
相談会などを定期的に実施。そのほか、
リユース事業、
ビッグイシュー販売者支援、仙台市委託事業などを行
い、路上生活者の自立を支援。仙台市内のホームレス
支援 5 団体の連絡組織「仙台協友会」にも参加。
HP:http://www.yomawari.net/
一般社団法人 パーソナルサポートセンター(PSC)
仮設住宅を中心に被災者支援を行っているの
が、パーソナルサポートセンター(PSC)です。
ば生活保護へとつなげ
ています」と話すのは、
今の事業の柱は、6 月から仙台市と協働で担っ
PSC マネジャーの芳賀さ
ている「安心見守り協働事業」です。この事業は、
ん。彼女は 2003 年以来、
阪神・淡路大震災の際、仮設住宅や復興住宅で孤
ホームレス支援活動を続
独死や自殺者が発生してしまった教訓から誕生し
け る NPO 法 人「 萌 友 」
たものです。緊急雇用創出基金の枠組みで雇用さ
の代表でもあります。
れた被災者の方々が、
「絆支援員」として仮設住
「絆支援員が入っている
宅に住む人のメンタルケアや生活再建を支援して
仮設住宅は、全体の一部。仙台市では『みなし仮
います。
設(下記参照)
』に住む被災者が 8,600 世帯ほど
「絆支援員」は、二人一組で仮設住宅を1日約
おりますが、市内に点在していて入居者の情報入
30 ~ 40 世帯を訪問し、必要に応じて保健や福
手が難しいことから、みなし仮設への支援が届き
祉など専門機関へとつなげる役割を果たします。
にくくなっています。お金がない、仕事がないと
現在、支援員は約 50 名で、12 か所の仮設に住
いうことはご本人からは言い出しづらいもの。こ
む約 700 世帯をカバー。絆支援員には、湯沸し
うした人たちが路上へと出る前に、どう支援を行
器の使い方から家族問題までさまざまな相談が寄
うかが課題になっています」と語ります。
せられます。中には、
アルコール依存症や DV(家
庭内暴力)
、障害など、被災前から抱えていた問
題が、表面化・深刻化しているケースも少なくあ
りません。また、時間がたつにつれ、金銭面や将
来への不安の声が多くなっています。
見守り事業の様子
一般社団法人 パーソナルサポートセンター(PSC)
【活動概要】さまざまな事情により、安定した生活を
送ることが困難な人たちへの伴走型支援(パーソナル
サポート)を目指して、10 団体が連携して設立。設
立直後に東日本大震災があったため、活動を被災者支
「失業手当が切れ、義援金も尽きてきたり、様子
援へとシフト。仮設住宅の見守り支援と就労支援を中
がおかしいなと思ったら声をかけ、必要があれ
心に取り組んでいる。
被災者が見えない、みなし仮設住宅
被災者を路上に出してしまわないためには、ま
「みなし仮設住宅」は、被災者が住む家を選べる
ず仮設住宅に住む方々をいかに支援していくかと
という被災者にとって嬉しい制度ですが、一方で、
いうことが大事です。
入居後は「被災者が住む家」が外部からわからな
仙台市内での仮設住宅は、
主に 3 種類あります。
くなるという問題があります。個人情報保護の壁
私たちがよくテレビなどで目にする、震災後に
によって、支援物資やボランティア、PSC 等が行っ
建てられた仮設住宅は、
「プレハブ仮設住宅」と
ている見守り支援など、プレハブ仮設では当然の
呼ばれます。仙台市内では、プレハブ仮設住宅約
ようになされている支援や情報が届かずに被災者
1,500 戸の他に、民間賃貸住宅を仮設住宅と認め
が孤立してしまう状況が生まれています。
て、家賃を補助金として出す「借り上げ民間賃貸
このままでは、生活困窮者のホームレス化や孤
住宅(みなし仮設住宅)
」が約 8,600 戸、公営住
独死が防げないかもしれない。その思いから、み
宅を借り上げて被災者へ貸し出す仮設住宅が約
なし仮設住宅に住む被災者のニーズ調査が始まろ
700 戸あります。
うとしています。
3 ネットカフェ泊体験記
仙台のネットカフェに泊まることにした。女 1 人。
ことを午前 3 時頃、心から後悔した。なぜこんなと
「ネットカフェ難民」という言葉が生まれる前の学生
ころに泊まってしまったのだろう? いつ蹴破られて
時代、終電で帰れず友人と泊まったとき以来の、ネッ
もおかしくない薄いドア、開いたブースの上から誰か
トカフェの夜だ。
にいたずらされるかもしれない。背中も痛んできた。
わたしが泊まったネットカフェでは、24 時間パッ
ク (3,800 円 ) や 1 週 間 パ ッ ク (14,800 円 ) が あ り、
しばらくため息をついているうちに、それでも、と思
い直した。私は明日からはベッドで眠れる。
それらが目玉商品として大々的に PR されていた。22
しかし仮に、こんな毎日が続いたらどうなるだろ
時から利用を開始するも、フラット(簡易ベッド)タ
う?働いて帰ってくる場所がここだったら。疲れも取
イプの部屋は満室。
「横になれる部屋」の争奪戦に出
れないまま夜が明け、またここから仕事に向かうとし
遅れた私は、リクライニングシートタイプの部屋で夜
たら。生活にも心にも、余裕などもてるはずもない。
を明かすことにする。12 時間 2,450 円。シャワーは
その上、そんな生活からいつ抜け出せるかも分からな
無料で、発泡酒とカップラーメン付。
かったら・・・。もう、想像するに余りある。
狭い個室のしきりには、ジーンズやタオル、傘がか
「雑誌の売り上げがよかった日はネットカフェで寝る
けてあり、そこで生活する人がいると一目でわかる
んだ。」と言っていたビッグイシュー販売者さんを思
ブースもある。個室より安価なフリースペースに数人
い出し、「自分が帰る家を持たないこと」の途方もな
集まっている。女性はおらず、男性ばかり。
いしんどさを、身をもってかみ締めた夜となった。
夜が更けても横にもなれず、小さな物音で目が覚め
(ビッグイシュー基金スタッフ N.S)
る。全く眠れない。ネットカフェに泊まろうと思った
みなさまからのご支援をお願いいたします!
今回、紹介した仙台市で活動する 2 団体では、以下のような支援を募集しています。みなさまのご協力を心よ
りお願い申し上げます。※詳細につきましては、各団体にお問い合わせください。
◆ NPO 法人 仙台夜まわりグループ
仙台夜まわりグループの支援活動をご理解いただき、カンパし
てくださる方、また、会員・助成会員になってくださる方を募
◆一般社団法人 パーソナルサポートセンター
(PSC)
一 般 社 団 法 人 パ ー ソ ナ ル サ ポ ー ト セ ン タ ー
集しています(正会員 12,000 円 / 年、賛助会員 6,000 円 / 年)。
(PSC)では、活動にご賛同いただける方からのご
また、支援物資(特に具入りのインスタントみそ汁、カセット
寄付をお願いしています。また、PSC では、仮設
コンロ用のガスボンベ)のご提供もお願いしています。
住宅の見守り事業とあわせて、被災者の就労支援に
※送料は元払いでお願いしております。また、大量に送ってい
も取り組んでいます。被災者雇用、仮設住宅ででき
ただける場合は、事前にご連絡くださるとありがたいです。
る内職のご紹介など、ご協力いただける企業や個人
【カンパ・会員年会費のお振込み先】
■郵便振替 02240-5-66005 (ゆうちょ銀行 二二九店 当座 0066005) 仙台夜まわりグループ
事業主の方がいらっしゃいましたら、ご連絡をお願
いします。
【寄付のお振込み先】
■七十七銀行 八本松支店 普通 5214271
■七十七銀行 名掛丁支店 普通預金 6018149
特定非営利活動法人 仙台夜まわりグループ
一般社団法人 パーソナルサポートセンター
■宮城第一信用金庫 保春院前支店 普通 1014823
代表理事 鈴木宏二
特定非営利活動法人 仙台夜まわりグループ
■ PayPal アカウント:[email protected]
【支援物資のご送付先】
〒 983-0044 宮城県仙台市宮城野区宮千代 2-10-12
仙台夜まわりグループ
TEL/FAX:022-783-3123
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【就労支援に関するご連絡先】
仙台市太白区あすと長町 4-3-20
TEL:022-398-8747
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