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Page 1 NDC770,922 G. エサレッジ (1634ー1691) の喜劇 (使用
NDC 770, 922
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇
西村好 弘
(使用テキスト)
The Plays of George Etherege, ed. by
Michael Cordner, Cambridge Univ. Press.
の制約を目に見える形で暗黙のうちに了解し℃いることを
Foreword(はじめに)
あらわし,この制約に反抗する人間の本性から切り離され
正義に基づかず,物事の本質に基盤を持たないものが美
たものと考えられるからだ。4
しいはずがない。機知の基礎は真実性であり,良識がその
この時代の紳士作i家たち,.Lord Rochester, Lord
根底で作用していないような考え方は,値打ちがない,ユ
Dorset, Sir Charles Sedley, Sir George EtheTege, Duke
とAddisonはフランス人批評家Bouhoursのことばを引
用して,18世紀に入ってからwitについての意味を限定
of Buckingham,それにDrydenはそれまでになく無作法
している。これは王政復古時代が機知の尊ばれた時代で,
た。それ自体は誠に人為的・作為的でありながらも,現実
な文学を作り出したが,それはある種の写実の文学であっ
中には駄酒落なども機知と錯覚する傾向があったからだ。
をよく写し出している。ふしだらな新たちを描き,自分達
機知と判断力とは理性の時代にあっては文章を書く上で
の放蕩を描き,自分達のやった子どもつぼくて,はめを外し
の頼みの綱で,機知は必然的に判断力の補助的な役割とな
た戯れを描いている。5
る。ホッブスが言うように(Leviathan,1661, Part I.
Spenceによればエサレッジはこれまで見たこともない
Ch. V皿)機知は素早い想像の特徴を備え,二つの異質な
ほどのめかし屋(fop)で,まさしくサー・フォップリング・
ものの間にある共通性を感知する能力を持つ。この敏速な
フラッターその人だ。それでいてドリマントを自分ぴった
思考を時として,思いつき(fancy)とも呼ばれる。逆に判
りに,才気あふれる上品ぶった放蕩者に仕上げている。6
断力とはこ者の差異を見極める能力のことである。不穏当
それほど興味のある男ではないが,非常に魅力のある,驚
な隠喩は二つの異質なものを一緒くたに混同することから
くべきほどに手応えの確かさのある男で,「優しいジョー
出発する。それは明確な判断力を犠牲にして素早い想像を
ジ」「いい加減なエサレッジ」「目の前に投げ出された野卑
用いるからだ。しかし,この素早い機知気転は理解を促す
な快楽の中をあてもなくさまようエサレッジ」などと,
働きをする。この隠喩(metaphor)とは異なり,たとえ
Southerneは彼を評している。7王政復古期の社会の特質
(similitude)は冷やかなほどに明快である。王政復古期
は心の高尚な怠惰であり,チャールズニ世はその最たる
の風習喜劇は観念(idea)喜劇でもある。作風は知的なも
人8であったが,エサレッジも,この時代にふさわしい人
ので心の働きに助けられ,途方もない気分や衝動や行動な
物であった。30才のころには職業もはっきりしない無名の
どに頼って解明しようとする。まさにことばの芝居である。
男であった。多分,良い家系に生まれ,資産があり,パリ
そこにはShaw流の冷やかささえある。王政復古期の観
とその当時のフランス文学には造詣が深かったと思われ
客は説教を聞くみたいに聞き耳を立て,流れの意味合いを
る。g彼はチャールズニ世の命をうけて,作家活動を止めて,
つかみ,その意図するところをことばの優雅さ,即ち,そ
ドイツのラティスボンへ大使として赴くが,そのラティス
の観念を把えるその正確さとその見事さを鑑賞した。当意
ボンからの膨大な資料としての手紙をFujimuraが分析す
即妙(repartee)のやりとりは生活描写の手段となってい
ると,彼のくったくのない放蕩な生活態度と感情のおもむ
る。2決闘や果し合いがなくてもことば自体がとても重要
くままに振舞う自然流がうかがえる。10そしてこの資料の
な行為である。3会話は行為であり,ことば,衣裳,振舞い,
中に写し出される人物像は本物の才人(true wit)で,愛
その他の外観的なものそれ自体が重要である。なぜなら,
想がよく,機知に富み,懐疑的で,世慣れていて,寛大で
それらは個人の私生活,即ち,その人の本質から切り離さ
ある。11彼の作品は純粋に芸術品であり,何かの目的で書
れているからだ。それらの外観は社会的な制約や,その他
かれたのではなく,まさに,作品自身のために書かれ,
一111一
津山高専紀要第24号(1986>
Drydenのことばを借りれば楽しみを提供するために書か
の世界にとび出して来た紳士である。彼は機を捕えてはそ
れた。彼は何ら倫理的刺戟に動かされることはなかったし,
れを警句にする。しとやかに機に応じられる間は,その一
彼の喜劇も,自由気ままな雰囲気の中でのみ実を結ぶ,あ
瞬一瞬で彼は生きている(しとやかに応じられなくなると,
り余るほどの豊かな動物的エネルギーから生まれたもので.
粗野,粗暴になる)。「男というのは酔ったときには弱点を
ある。12モリエールもJonsonも道徳喜劇を書いたのに対
さらけだすが,女はしらふのと.きに弱点をさらす」(Lii
して,エサレッジは風習喜劇を書いたのである。13そして,
69−70)のことばはイギリス喜劇の中で新しい響きをも
イギリス喜劇の新しい派の創立者であり,当時の散文体の
つ0 1
創始者である。、4Middletonは長年にわたって彼の時代
この作品に町の当世風な男たちを登場させ,巧みなこと
の実際のロンドンの情景を忠実に作品の中に再現したが,
ばと洗練された趣好を盛り込んで快活な楽しい気分を作り
その手法は.B. Jonsonの気質の風刺的性格とその時代の
出している。この第一作が認められて,エサレッジは社交
ドラマの筋立てにおけるロマンチックな傾向から影響を受
界の身分の高いお歴々やジ;ントリーの中に混って,中心
けているが,気分としてはエサレッジやDrydenの世俗性
的な才人たちの花形となった。Pepysはこの作品を「実
に極めて近く,15風習喜劇はMiddletonの系列に入るか
に愉1央」と言い,Evelynは,「滑稽」と言い, Langbaine
も知れない。
の記録によれば「好評を博した」とある。2
処女作『喜劇的復讐,桶の中の恋』はJohn Evelynが『桶
題名の示す通り四つの復讐が四つの次元の異なる筋立て
の中の恋』という滑稽な芝居を見て来たと書きしるしてい
の中で展開される。悲劇的調子すら帯びる準英雄的な恋と
るのが1664年4月27日であり,4月の初演と考えられる。
名誉の物語はキャブレットで語られ,貴族階級に属し
この作品はLincol㎡s lnn Fieldsの劇場でDukes Com・
high plotとなる。 low plQtには二つあり,その一つはク
panyによって上演され大成功を収めた。. John Dowesに
ロムウェルの時代にサーの称号をもらった間抜けなサー・
よればこの喜劇の快演のお陰でそれ以前のどの喜劇よりも
ニコラスが二人目詐欺師にペテンにかけられる話。もう一
劇団は高い評価と利益をうけたという。しかし,この作は
つは下男下女たちの世界でフランス人ドゥフォイが女中た
1726年12月16日以降今日に至るまでロンドンでの上演の記
ちを追いまわし,逆に下女に桶漬けにされる笑劇的な突飛
録がない。
な行為。次がhighとlowの両方の世界にまたがりながら,
第二作『出来ればやるさ』も同劇団によって同劇場で,
金持ちの未亡人との恋のかけひきをするしゃれ者,即ち,
1668年2月6日に初演された。Pepysの日記によれば午
この作品のヒーU一とヒロインの物語である。
後2時半に劇場に着いたときには入りきれない客1,000人
この作品は王政復古喜劇の全趨勢を定め,中心テーマを
が溢れていて,彼は女房が先に行っていたお陰で入れたと
提示し,このテーマはその後,一定不変のものとなった。
ある。しかし芝居の方は何とバカバカしく,よいところな
この第一作でおどろくべき直観力をもってエサレッジはこ
しで誰も楽しんでいなかったとある。役者が下手でエサ
の時代の最も発展性のある素材に手を伸ばしたのであ
レッジも失望するほどのみじ.めな初演だったようだ。
る。3
第三作『当世紳士』は8年後の1676年3月11日に同劇団
によってDorset Garden劇場で初演され,大成功を収め
1 あら筋
第一幕第一場(サー・フレデリック邸の寝室の前の廊
たが,後にSteeleは『スペクティター紙』65号(1711年
下) ビュフォート侯の下男が使いにやってくる。サー・
5月15日付)で「この有名な作品全体が品行,良識誠実
フレデリックの下男ドゥフォイによると,主人は朝方に泥
さとは真反対の作品であり,美徳と清廉潔白の崩壊の上に
酔して帰り,寝るようにすすめたらなぐられて,旦那は深
成立するもの以外の何ものでもない」と非難している。し
酒のため,おれは怪我のために頭が痛いとばんそうこうを
かし,これは商人階級の道徳主義的な見方で,その後
Steeleの考え方は否定され,王政復古喜劇の中で最もす
撫でながら怒っている。
ぐれた作品の一つに位置づけられている。
第二場(サー・フレデリックの寝室) サー・フレデリッ
クはドゥフォイにばんそうこう代に1クラウンの借りにし
ておくから怒るなと慰める。ビュフォート侯が伺うことを
I The Comical Revenge『喜康ll的復讐』(1664)
告げて下男が退ち去ると,篭かき,松明持ち,楽士,客室のメ
主人公のサー・フレデリックは後に結実するCongreve
ードなど,昨夜の飲み遊びのっけがやってきた。それぞれに
のミラベルの先駆をなす人物で,カーテンが開くと何か新
金を渡してすませ,怒鳴り込んで来た女だけを中に呼び入
しいものを観客は感じ取ったにちがいない。つまらぬこと
れる。深夜に.「売女!売女!」とわめき散らし,夜警を叩き
を問題にする気質(straw−splitting of humours...気質喜劇
のめすやら,窓ガラスを壊わすやらでこの女の主人(娼婦)
を指す)ではなく,この時代と様式のまっただ中から喜劇
はその地域では恥ずかしくて住めなくなったほどだと苦情
一 112 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西村
を並べられて,金で解決して女を帰す。さてビュフォート
サー・ニコラスに例の美人は今日は都合が悪くなったから
侯が訪れて,ベビル侯の宴に誘われる。ビュフォート侯はサ
とり止めで,ここは楽しく飲んでサイコロの賭博をすすめ
tレデリックのいとこでベビル侯のところへ下男とし
る。二人で組んでパーマから大金を巻き上げようというわ
ー・
て入り込み娘のグレイシアーナと恋仲で,結婚を待つばか
け。負けたら,そこはウィードルとパーマは知り合いの仲
りである。
だから,ツケで勝負すれば負けは取りもどせるという。パー
第三場(ウィードルの宿) ウィードルとパーマーの二人
マーが大きな袋をもって上って来て,.サイコロの話をきく
の詐欺師は親しくなったばかりのカモのサー・ニコラスか
とそんなゲームを知らないと嘘を言う。サー・ニコラスは
ら金を巻き上げる計画をたて,パーマーは富裕な牧場主に
いよいよこのカモから金を巻き上げようと乗り気になる。
扮して3時に居酒屋で落ち合うことにする。すれ違いに
第三幕 第一場 (居酒屋) 勝負が終ってサー・ニコラ
サー・ニコラスがやって来る。そこで最近間抜けな男と結
スはだまされて1,000ポンドもの借金となり,明朝8時迄
婚したばかりの婦人が居て,その女との色事をす・めると
に払わねばならない。
サー・ニコラスは乗ってくる。そこで同じく居酒屋で落ち
第二場(コヴエント・ガーデン) 深夜にバイオリン弾き
合うことになる。
や松明持ちなどを先頭にサー・フレデリックは未亡人の家
第四場(ベビル侯邸) 姉のグレイシアーナがビュフォー
までやって来た。通りがかりのベルマン(町の触れ役)か
ト侯を待ちわびていると,妹のオーレリアがブルース大佐
ら鐘を取り上げて,ベルマンを装い,鐘を鳴らしながら大
からの手紙を持って来る。オーレリアはブルース大佐に片
声でどなる。「亡くした夫が恋しくて眠られぬ未亡人よ,
思いしているが,父親がブルース大佐を家に近づけないほ
起きろ。お前に喜びをとりもどせる代物がここに居る」と。
どの嫌いようである。一計を案じたオーレリアは姉に夢中
未亡人はサー・フレデリックの悪ふざけを受けないでいる
のブルース大佐を姉に接近させて家に引き入れようと考
と外で大騒ぎをする。仕方なく未亡人は彼を中に入れる。
え,ブルースに恋文まで書かせて姉に届ける。しか.し,姉
第三場(未亡人の家) 仮面舞踏会をしょうと一同を中に
は受けとらない。今晩は晩さん会。姉のグレイシアーナと
呼び入れ,サー・フレデリックは未亡人に求愛するが応じ
サー・フレデリックを結ばせようとべビル侯は決めてい
てもらえず,仕方なく一同ひき上げる。
る。ベビル侯の妹の未亡人はサー・フレデリックとの結婚
第四場(サー・フレデリックの宿) 主人からの言いつけ
を望み,妹のオーレリアは姉の方に向いているブルースを
で下男のクラークはサー・フレデリックを待っている。ドゥ
自分の方に引きたいと願っている。
フォイの話によると,朝帰りは週に.6・7回だという。待
第二幕 第一場(ベビル侯邸) 未亡人リッチ夫人とサー・
つ問,ドゥフォイはパリでどうして今の主人に見込まれて
フレデリックが庭に出ての夕涼みは愛し合う二人の語らい
召使いになったか話す。
の場なのだが,未亡人は彼に愛を告白させようとし,彼は
第五場(野原) 借金を払わないということでサー・ニコ
未亡人に体を受け入れさせようとする愛のかけひきの場。
ラスはパーマーと決闘することになるが,いざ勝負となる
そこヘサー・フレデリックの下男のドゥフォイが現われ
とサー・ニコラスは響けて決闘をとりやめ,借金が払えな
て,未亡人に下女のべティーは彼の愛の告白を少しも受け
いときは財産を出すという証文を書く。
入れてくれないと陳情すると,嫌いではないベティーは彼
第六場(ベビル侯邸) ロビスは親友のブルースとグレ
のからかいの調子に腹を立て,復讐してやると誓う。
イシアーナとを結婚させるように父ベビル侯に再度す・め
第二場(ベビル侯邸) 相思相愛のビューフォート侯とグ
るがはねのけられる。ブルースは人殺しの疑いが晴れて釈
レイシアーナだが,許されぬ恋をグレイシアーナは悲しむ。
放されて出獄して出て来る。グレイシアーナの気持ちはフ
実はブルースが兄のロビスの親友でビューフォート侯の西
ランス宮廷の作法を身につけたビューフォート侯に傾いて
翠になるからだ。ブルースは色事師の名をはせていたが,
いるが,ブルースには憐みや同情を示したものの愛情を告
持ち前の英雄的美徳が蒔いた種をうまく刈り取り,兄のロ
漉したことはなかった。しかし妹のオーレリアは姉を責め,
ビスと親友になり,お互いに血縁になるために父親のべビ
ロビスはグレイシアーナを非難し,ブルースにビュー
ル侯を口説いて,彼の人柄と地位を見込んで一且は縁談が
フォート侯と決闘するようにす・める。もし敗れたら,次
決まったようだ。一方,妹のオーレリアの方は何たる悲し
にロビスが闘うという。オーレリアは悩み苦しむ。
いことと悲嘆に暮れて下女のレティティア相手に傷をいや
第七場(ベビル邸の庭) グレイシアーナはビューフォー
している。
ト侯に愛していることを打ち明け,ブルースの一人合点に
第三場(居酒屋) ウィードル,パーーマー,サー・ニコラ
は困ったことと話しているところへ,ブルースとロビスが
スが集まると,家畜を責つた大金をとどけに来たという知
現われる。ブルースはビューフォート侯を恋仇と決め,名
らせでパーマーが下へ降りている問に,ウィードルは
誉にかけてもグレイシアーナを自分のものにしようとして
一 113 一
津山高専紀要 第24号 (1986)
刀を抜く。グレイシアーナはビューフォート侯をかばい,抱
毒のためか,とにかく酔ってもいないのに階段の陰でごろ
くようにして刀を抜かせない。見せつけられたブルースと
ごろしている。御者が持って来た桶をドゥフォイが眠って
ロビスはビューフォート侯に捨てゼリフをはいて退場す
いるうちにかぶせてしまおうと下女のべティーとレティス
る。ビューフォート侯はこのままにしておくと争いが長び
が合意する。ドゥフォイが目をさますとおどろき,桶を壊
くだけだと言って今後の波乱を予想させる。
そうとするが壊れない。バイオリンに合わせてみんなでは
第四幕 第一場(ベビル侯邸) ブルースの使いとしてロ
やしたて,そのまわりを踊りながらまわる。さんざんから
ビスがビューフォート侯に決闘を申し入れる。サー・フレ
かって一同退出する。
デリックがビューフォート侯の助人にやって来る。グレイ
第七場.(同上) サー・フレデリックが決闘で死んだとい
シアーナは思う人と兄が決闘することになり悲しみも大き
うことで死体が運び込まれる。未亡人は嘆き悲しむが,こ
い。
のとき,桶に入ったドゥフォイが入ってきて一か月どろき,
第二場(居酒屋) パーマーは豪華に着飾りベビル侯に化
サー・フレデリックもおどろいて起き上ってしまう。未亡
け,ウィードルの娼婦グレイスをリッチ未亡人に化けさせ
人はもう少しで胸の内をすべて打ち明けてしまうところ
てドープウェル夫人の家に送り.込んだ。サー・ニコラスは
だったと胸をなで下し,こんどはもっと巧妙な手を使って
破算寸前でサー・フレデリックを真似た身なりで金持ちの
仕返しをしてやるからと何かを企んで出て行く。
リッチ夫人を手に入れようと必死である。しかし,果して
第五幕 第一場(ベビル侯邸) 手術の終ったブルース
ベビル侯が妹の未亡人にす・めてくれるかどうか不安がる
の病床ヘオーレリアが来て,今までのブルースに愛を抱い
が,ウィードルは身ぎれいで才覚もあり男らしいサー・ニ
ていたことを告白し,今,求めているものは愛よりも慈悲
コラス以外に再婚の候補者はいないことをベビル侯は認め
であり,墓の中には自分の灰も入れてほしいと言う。ブルー
ていると勝手な話をする。
スは感激し今ほど命が恋しく思うことはないと言うが,医
第三場(ドープウェル夫人宅) パーマーは侯爵の姿,グ
者からは助からないと宜告されている。
レイスは貴婦人の姿である。そこヘサー・ニコラスがワイ
次いでグレイシアーナが訪れて,ブルースの愛と自分の
ン3本を居酒屋の小僧に持たせてウィードルと一緒にやっ
幸せに盾ついたことを告註し,ブルースが命を落せば彼女
て.来る。サー・ニコラスはグレイスに下品なほどに求愛し
は一生結婚しないで喪に服すと言う。ブルースはビュー
追いまわす。この二人を結婚させて,サー・ニコラスの財
フォート侯こそ高潔な人でグレイシアーナにふさわしい男
産を徹底的にしぼり取ろうというのである。
は彼しか居ないと言う。
第四号(野原) 第一次内乱の折,父親がブルースに殺さ
ビューフォート侯は名誉と思ったことが彼女の意に反し
れ,その息子がブルースを死刑にすべく買収したが,その
当惑し,彼女に嫌われ・ば,生きている心地はないと嘆く。
もくろみが発覚してブルースは釈放された。この怨念を晴
第二場(夫亡人の家) サー・ニコラスはサー・フレデリッ
らすべく,ブルースとロビスは4,5人の賊に囲まれる。
クの姿に化けて未亡人と結婚するつもりで訪れた。未亡人
ビューフォート侯とサー・フレデリックが助っ人になりブ
は怒って彼を追い出すが,外で執行吏の集団相手に剣を抜
ルースを窮地から救う。
いて闘うと,逮補されないようにサー・ニコラスを中へ再
さて,決闘となるが,ブルースは戦意を失っているが,
び入れる。ひどい酔い方で彼は眠ってしまう。
けしかけられてようやく戦いとなる。しかしブルースは剣
ドゥフォィが主人を救おうと出て来るとべティーは彼を
を落し,二度までも命を救われ,生き延びてもグレイシアー
桶から出してやる。未亡人とべティー以外は変装した
ナの愛をとりもどすことは出来ないと考え自害する。重傷
サー・ニコラスとサー・フレデリックの区別がつかない。
のブルースはべビル侯の邸に運び込まれる。
サー・ニコラスは未亡人から金を巻き上げてくやしがらせ
第五場(ベビル候邸) 幸福の気分は吹き飛び悲しみだけが
てやろうという計略で,バイオリン弾きを執行吏に仕立て
ふくれ上る。ブルースの行為にベビル侯は同情を示す。妹
上げて,200ポンドの借金が払えないために逮補される筋
はブルースの気の毒さは姉のせいだと非難し,姉は愛だけ
立てである。未亡人は200ポンドを出してサー・フレデリッ
でなく名誉もあることを今後の行動で証明すると何かを決
クを救う。
意している。
目をさましたサー・ニコラスは未亡人と結婚するつもり
ビューフォート侯はグレイシアーナのために名誉ある行
で,この未亡人は下唇が盛り上って,キスも濃厚だ(未亡
動をとったと告げると,決闘などを避けるようにお願いし
人に化けていたグレイスのこと)とサー・フレデリックに
たにもかかわらず,私を裏切ったと怒り,ビューフォート
言うと,嫉妬にかられてサー・フレデリックは未亡人に腹
侯は愕然とする。
を立てる。このとき武装したドゥフォイが出て執行吏に襲
第六場(未亡人リッチ夫人の家) 下男のドゥフォイは梅
いか・る。執行吏がバイオリン弾きで,200ポンドがだま
一 114 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 村
されてサー・フレデリックに巻き上げられたことがわかる
アーナもビューフォート侯と結婚出来る。
と未亡人は怒り,サー・ニコラスと結婚してやると言う。
サー・フレデリックと未亡人が登場し,お互いに相手に
サー・フレデリックはどうしてここにサー・ニコラスが
愛を告白させようとするが,双方ともに応じず,これで永
居るのか膀に落ちない。このとき外でベビル侯(実はパー
遠の別れということになる。お互いの意地の張り合いを見
マー)がサー・ニコラスを連れて来いと使いをよこす。
てベビル侯が仲人となって二人をとりもち,結婚すること
サー・フレデリックはそのべビル侯をつかまえて来いと皆
になる。
に命じ,パーマーであることが判明する。そしてウィーード
このとき,喜び一杯のサー・ニコラスとしょんぼりして
ルとパーマーの詐欺行為が解明されてサー・ニコラスを借
いるウィードルとパー一一マーの三人がそれぞれ花嫁をつれて
金から救い出し,妹と結婚することをす・める。
入って来る。サー・ニコラスは,サー・フレデリックの妹
第三場(ベビル侯邸の庭) グレイシアーナはオーレリ
だとばかり思っているが彼の娼婦のルーシーであることが
アの下女のレティティアとあずまやに入り苦しい心の内を
明かされる。ウィードルとパーマーは不幸の仲間が増えた
打ち明けている。物陰ではビューフォート侯を求めて悲し
と喜ぶと,サー・ニコラスは執行吏を呼んでいかさま師た
み,人前では彼を嘲笑わねばならない。すべて名誉のため。
ちを逮捕してもらうと怒ると,サー一一・フレデリックは今,
ブルースが生きられればビューフt一ト侯と結婚するが,
1000ポンド払わなければお前が逮捕されると言う。サー・
亡くなれば彼への追悼として独身を通すと決意をもらす。
ニコラスは母親や近所の人たちに育ちのいい有徳な女だと
これを立ち聞きしたビューフォート侯は喜び勇み出て,ブ
嘘をつかねばならないと嘆くと,悪ずれた女は徳を装うの
ルースの命はとりとめたと報告する。
もうまいから心配するなとなぐさめる。そして,ドゥフォ
第四場(ドープウェル夫人の家) ウィードルと未亡人に
イにはべティを指す。ベティががっかりすると,ドゥフォ
変装したグレイスがサー・ニゴラスとべビル侯に変装した
イがベティをなぐさめて,結婚しないで,これからもっと
パーマーを待っている。サー・ニコラスは使いを田舎へ走
仲よくしょうと言う。
らせ,財産の書類を持ってくることになっている。そして,
さて外の執行吏とは変装した楽士たちであった。結婚式
サー・ニコラスとグレイスを結ばせようというのである。
の祝いが陽気にはじまり,ベビル侯は今夜の主人の権限を
そこヘサー・フレデリックも一緒にやって来る。執行吏
たちもやって来てウィードルを逮捕する。即ち,1000ポン
サー・フレデリックに与える。サー・フレデリックは
サー・ニコラスをウィードルの借金の証文から解放する
ドの借金があるからだという。即ち,ウィードルとパーマー
が,いつでも執行出来るように保管すると言う。サー・フ
とが結託して,賭博でサー・ニコラス.とウィー.ドルにIOOO
レデリックは未亡人にむかって,出血の儀式がはじまると
ポンドずつの借金を作らせた。サー・ニコラスから1000ポ
いうのに,どうも処女膜が破れるなんてことはみんななさ
ンド巻き上げたら二人で山分けして,形ばかりのウィード
そうだなと言って笑わせ,我々の運命なんてほんの小さな
ルのIOOOポンドの借金を破棄する予定だった。サー・フレ
事件で左右される。しかし警戒ばかりしていたら幸運は把
デリックはパーマーを懲らしめて,サー・ニコラスの借金
めないと言って終わる。
の証文を破棄させ,ウィードルの借金の証文をパーマーか
2 場面解説
ら取り上げ,サー・ニコラスに譲渡した。従ってウィード
High Plot(高貴な筋立て) ビューフォート侯とグレイ
ルは,サー・ニコラスに1000ポンド払わなければ逮捕であ
シアーナは相思相愛の仲で結婚式を待つばかり。ところが
る。
恋仇のブルースがネイズビーの戦いで,人殺しを問われて
ウィードルとグレイスがひらあやまりにあやまって赦し
投獄されていたが,疑いが晴れて釈放された。グレイシアー
を乞うと,サー・ニコラスはその1000ポンドをグレイスの
ナの兄のロビスは友情と名誉のためなら,たとえ血を流し
自筆金にし,ウィードルがグレイスを女房にするように提
てでも闘うという直情的な男でブルースの親友である。ブ
案する。そしてグレイスの下女ジェニーと:パーマーを結婚
ルースはロビスとの友情が元で血縁関係を結ぶためにグレ
させることにする。サー・ニコラスとサー・フレデリック
イシアL・一ナを愛しはじめた。しかし,グレイシアーナはブ
の妹を結婚させるということで,全員ベビル侯の邸へ行き,
ルースの情熱に応えたのではなく,彼への憐れみの情を示
その席で逮捕を解除するという。
しただけであった。ブルースを慕う妹のオーレリアはブ
第五場(ベビル侯邸) ブルースが他人の手を借りて登場
ルースの願いを達成させようと姉にブルースの恋の強さを
する。オーレリアは彼の快方へ向う姿を喜び,愛の炎を押
吹き込み姉を困らせた。オーレリアは「私の悲しい運.命が
し殺し,耐え,その結果,喜びが一層大きくなったと述べ,
あなた(ブルース)の傷手のあだになっていることがわか
それにしてももっとはっきり愛を告白すればよかったと言
らないのね」(皿.Vi.132−3)と独白する。ビューフォー
う。父親のべビル侯は二人の結婚を認め,これでグレイシ
ト侯はフランス宮廷仕込みの風習を身につけた魅力的な男
一115一
津山高専紀要第24号(1986)
でこのビューフォート侯に恋人を奪われたと思い込むブ
しかし,私のためにブルースが命を落とすことになれば,
ルースはロビスからの勧めで,.決闘することになる。
哀悼の意を貫き」(v.ii.34一一5),一一生独身を通すと誓う。「我
決闘を前にして,ブルースは彼に恨みを持つ数人の賊に
が魂は運命によって,何と妙な方向へ連れて行かれるので
襲われ,危ないところをビューフォート侯に助けられる。
あろうか。わが慕う人を憎んでいるふりをしなければなら
これでブルースは戦意を失うが,「義務を果たした・S一けの
ない。嘲笑を装って彼の姿を避けねばならない。あの人の
こと。さあ,構えろ,義務には恩義など伴わない」(】V,
姿が見えないのが最大の悲惨なのに」(V.i.103−6)と嘆き,
iv.55−6)と言われ,決闘となる。しかし,ビューフォー
愛は名誉によって引き裂かれる。
ト侯の方が剣術の腕は上で,ブルースを刺す前に剣を止め
このhigh p玉otの部分はすべて韻文で書かれ,散文の部
る。二度までも命を救われたブルースは生き延びてもグレ
分と対比をなし,悲劇の様相さえ呈するが,男に寛容さ
(generous)(V. i.83)を要求するあたりは,王政復古期
イシアーナの気持をとりもどすことは出来ないと言って,
自害して重傷を負う。看病にあたる妹のオーレリアの愛情
のヒロインの特徴である。
を知って生きる意欲を持ち,彼は怪我から回復する。
この作品の英雄的筋立て(heroic plot)は愛と名誉のも
ビューフォートは「運命にまかせていると,いつまでも
つれで,この時代の英雄劇の様相を呈し,名誉の法規とで
この対立が続く」(皿.Vii.50−1)と思うのに対し,グレ
もいうようなものがあって,それが人物たちの行動と態度
イシアーナは「野戦場に出かけて行ってブルースに会った
を規制し,愛と名誉の葛藤の中で絶えずこの法規が愛より
りしないで。あなたの心は私のもの。私に与えて下さった
勝っている。4
その心をあの荒くれ者にさらすつもり?あの人たちは名誉
Low Plot(低俗な筋立て)①従僕ドゥフォイ 未亡人の
心というものがないのよ。友だちだって譲れるようなゲー
下女のべティーを恋するフランス人のドゥフォイはいんぎ
ムに平気で名誉を賭けたりするんですから。さあ,その怒
んに,嘲笑的に,ベティーに言い寄り,彼女はその失敬な
りのために,愛を曇らせることがないことを証明して」(IH.
からかいに腹を立て,今度仕返しをしてやる(ll.i.77)
vii.42−55)という。これが結婚条件(Proviso)である。
と言う。彼はみんなに叩かれ,生傷が絶えず,顔色も冴え
ない。「イギリスの外科医の奴め,桶の蛇口を止めやがる
High Plotの倫理観(IV.v.32一一51)
から,水液がどんどん上って来て,肩から頭の中まで入っ
ビューフォート侯 ここに征服者は勝利を忘れ,何に
ちゃった」(且.i. 12−4)と言うように,梅毒をわずらって
も勝るあなたの目の前に誉れを差し出します。グレ
いる。ひどく泥酔して,ころがって眠っているときに首と
イシアーナ,あなたの賎しき下僕があなたよりの審
腕だけ出て,底の抜けた桶をベティーに着せられて,ダル
判を求めんがために,戦いに勝利してもどりました。
マのような姿だ。この場面がこの作品のもう一つの題名『桶
勝利を喜んで下さい。名誉に対して不実であるなら,
の中の恋』になっている。
ドゥフォイの場面(IV.vi.22−77)
あなたに対しても不義ということになる。
グレイシアーナ 不実な方,裏切りを許してもらえる
とお考えですか。悪い予感に気を取り乱して,ため
ベティ さあ,やかましい音でこの紳士の目を覚まし
息にのどをつまらせ,涙に溺れんばかりに,あなた
て頂戴。(バイオリン弾きが演奏する)
のはやる気持を静めるよう,昨夜お願い申し上げた
レティス 目脂で瞼は堅く閉されて,手はとどかない
折,あなたは決して戦いませんと約束なさいません
し。(ドゥフォイは目を覚ましはじめる)旦那,手
でしたか。退ち去って,自分の勝利に酔うがいい。
を貸しましょうか?
私の敵となって野戦場に出向き,今,私の憎む人,
ドゥフォイ 何しやがるんだ,畜生。これは何だ。お
私の悲しい運命の邪悪な手先となってもどって来ら
れはびっくり箱か?誰だ,おれをこんな中に入れ
れた。寛大な恋人の誠実さを試めすために,あなた
てやがつた奴は。
に愛を装ってみただけのことだった。(退出)
ベティ お早よう,旦那。今朝も薬を飲むんだろう?
ドゥフォイ 飲まねえよ。お前なんかこそ,悪魔に呑
ビューフォート侯 ああ,天よ,わが運命の何たる奇
妙,何たる残酷。愛のために保たれた運命が,憎し
まれちまえ!こんな目に合わせやがつたのはお前だ
みによって滅ぼされるとは!
な?おれはイギリス中の女中を片っ端からぶつ殺
してやる。
「私のために血を流し,私のために死ぬ」(v.i. 84)人
レティス 旦那,一杯やるかい?中味が体にいい飲
こそ寛大な情熱を持つ,夫にかなった人と考え,「ビュー
み物が入ったビンがここにあるよ。
ドゥフォイ お前までが畜生,おれを苦しめやがって。
フォートの恋仇が助かればビューフォートと結婚しよう。
一116一
G.エサレッジ(1634一ユ691)の喜劇 西村
こんな侮辱はありゃあしねえ。
ぎが肉体的苦痛をもたらすのと同じだ。5ここの発汗桶は
ベティ 旦那,とても格好いいよ。そら,愛の告白で
17世紀の一般的な梅毒の治療法であった。6機知の才がな
言い寄ってごらん。冷たくあしらったりしないから
いためにフランスでお払い箱になった男で,簡単に人にか
さ。
つがれ,鈍重で不器用で物笑いの種となる人物である。7
ドゥフォイ 悪魔のいとこなんかと結婚出来るかって
んだ。ばかやろう。
レティス じゃあ,この人ったら女房をどうするつも
りなんだろうね。女房を入れる余地がないけどね。
サー・フレデリックが楽士を警官に変装させると,ドゥ
フォイは主人を窮地から救おうと,かぶとをかぶり,大刀
を手にして楽士たちに襲いか・るが,このような変装はこ
の当時の秩序であり,この芝居が楽しいバーレスクになっ
ベティ 旦那,どうして頭を中へひつ込めないのかね。
ている。8
レティス 外は嵐が吹きまくっているんだよ。
②許欺師たち ペテンにかけられるサー・ニコラスは,母
ドゥフォイ てめえの処女膜こそしまっておけだ。ざ
が昔ベティーの祖父の酪農場で働いていた女で,父が並み
まあみろ。
外れて王に対して不敵,不義を働いたことが称えられて,
御者 手袋とかリボンとか,何かフランス製品の売り
オリバー・クロムウェルから勲爵士の称号が与えられた。
物はないのかね。そうやって屋台を構えてらっ
才能もなく,虚栄心だけは強いが世間知らずで,成り上り
しゃつて,旦那。
ドゥフォイ あるともよ。使い勝手のいいホールダー
だから,勲爵士が板についておらず,コピー人間(mirror
of knighthood)(V. ii.123)である。カモ(deer)で半バ
はどうかね。畜生/こいつを壊せないだろうか。
カ(half−wit亡ed)(1. iii.81)と目をつけられ,親しく近
ベティ 旦那,汗が出て来たわ。この桶は体にいいわ
づいたウィードルから恋のアバンチュールを持ちかけられ
よ。
て,「貧欲な魚で,釣人が糸を垂らさないうちに魚の方か
ドゥフォイ もう我慢がならねえ。こいつを壊すか,
おれの首を折るかだ。てめえら,みんな吊し首にし
らとびついた」(1.iii.・81−5)。居酒屋で待ち合わせるが,
相手の立入が来られないということになって,飲んで陽気
てやるからな。(出ようともがく)
になったところでサイコロ(box and dice)(II.iii.117)
レティス そら,わめきはじめたわ。頑張って!
の賭博に誘われる。即ち,ウィードルの友人のパーマーは
ベティ 彼の気持を落ちつかせるために早い曲にし
金持ちだから,ウィードルと組んで勝ち,金を山分けしょう
て。(曲がはじまり一同まわりで踊る。ドゥフォイ
というわけ。もし負けてもウィードルが頼んでツケで勝負
は桶を身につけたままよちよち歩く)かたつむりが
を続ければ,負けも取りもどせると。結果はパーマーに負
お家をしょって,上手上手。あんたの女房じゃなく
けて,共に1,000ポンドの借金となり,サー・ニコラスは
て残念ね。女房だったらほんもののかたつむりにし
払わないと言うので決闘となる。しかし,サー・ニコラス
てあげるのに。頭に角が生えてね。
ドゥフォイ 我慢しか他に仕方がない。悪い売女たち
は怖じ気づいて,明日までに支払うという証文に署名する。
そこでウィードルはサー・ニコラスにサー・フレデリック
だ。畜生!何も言うまい。
に化けて,結婚を望んでいる金持ちの未亡人のリッチ夫人
ベティ すてきな舟だわ。よく浮くわよ。馬洗い池へ
に結婚を申し込むことを勧める。実はウィードルの娼婦の
連れて行かない?
グレイスをリッチ夫人に化けさせて;結婚させ,とことん
レティス 機.嫌のいいうさぎみたいにふくれっ面に
まで,サー・ニコラスから汁を吸い取ろうというわけ。
なってきたわよ。置いて行きましょうよ。
しかし,一連の詐欺行為をサー・フレデリックに見破ら
御者 旦那,これで失礼つかまる。
れて,楽士を警官に変装させて一同を捕え,借金の証文を
ドゥフォイ ウー,首をくくることも出来なきゃ,溺
れ死ぬことも出来ない。身を隠して,飢え死でもし
取り上げる。ウィードルはグレイスと,パーマーはグレイ
スの下女ジエニーと,サー・ニコラスはサー・フレデリッ
よう。こしゃくなイギリス人に笑われてたまるか。
クの妹だと思っていたフレデリックの娼婦のルーシーと無
ウー。
理矢理結婚させられる。
業の誉れ(master of art),素早い手さばきで鳴らすパー
ドゥフォイは梅毒の苦痛をベティの嘲笑のためだと言っ
マーは「干しぶどう酒の不思議を知っているだろう。お前
て彼女のせいにしたが,その仕返しをされた。
は玉の興だ」(v.iv. 76−9)と言われて,これは死刑の執
エサレッジにおいてはシェークスピア同様,性病はから
行猶予だ。本来なら絞首刑なんだからと納得する。頭の回
かいの対象となる。この病気は社会的な問題ではなく個人
転が早く,ことば巧みに人をそそのかし,悪徳の数ほど美
的なもので,個人的な不幸でしかなく,丁度,酒の呑みす
徳を心得ているペテン師のウィードルは「若い相続人みた
一 117 一
津山高専紀要 第24号 (1986)
二人の恋のかけひきで男女の相克がたくみに扱われてい
いに手に入れないうちに財産に手をつけてしまった。(グ
レイスの腹をさすりながら)この肉入りパイをはじめに切
る。14互いに顔を合わせるチャンスを作ると,
り開いたときに,本当は結婚祝いまでお預けにしておくべ
その①(ll.i.17−100)
きだったとは」(v,iv.60−4)と観念する。
このサー・ニコラスが滑稽なのは愚鈍で田舎者であるば
サー・フレデリック どこへ連れて行こうってんで
かりでなく,ピューリタンの祖先を持つからであり,g
す,未亡人。何を企らんでいるの?
ウィードルはこの時代の世俗的な生活によく見られる人物
未亡人 お庭を散歩して,涼しいあずまやでひと休み
の写真的な肖像画である。10この事実はRichard Head:
するだけよ。
protezts Redivz’rus: or the Art of Wheedling, or lnsinuation,
サー・フレデリック そんなみだらな物陰になんかと
London,1675.の出版物でも明らかだ。このペテンの筋立
ても行けませんよ。きっと愛の告白でもしょうとい
てはエリザベス朝の数多い喜劇の中心的な常套手段であ
うんでしょうけど,おれの心はとても繊細だから,
り,11Middletonの『ミカエルマス開廷期』(1607)のう
そんなこと打ち明けられたら破裂しちゃう。
さぎ捕り劇の再現であり,特にエセックスの紳士(エセッ
未亡人 ひどい思い上りね。そんなふうに変に気取る
クス生れで育ち(Essex・calf)はバカという意)のイメージ
のはあなたの機知のせい?それともあんたの人柄な
の苦境は,サー・ニコラスのそれと酷似している。12
の?
主人公のサー・フレデリックと未亡人のリッチ夫人
(中 略)
サー・フレデリックはしゃれ者(gallant)である。「女な
サー・フレデリック ここに座って身を寄せ合ってワ
んて手品師のトリックみたいなもので,純情な奴には神秘
インでも飲もうよ。だいぶせかされたのでね,ねん
的に見えるが,本質的にはペテン師の塊だ」(1.ii.197−9)
ごろに馴れ馴れしくする気になってきた。
と考え,「女なんて魚みたいに,餌を引き離すと貧欲に釣針
未亡人 まあ,フリース屋か,あんたの行きつけの飲
に飛びかかってくる。とても用心深いから容易にだまされ
み屋にいるみたいに,序すり合わせて私に飲ませよ
ない代りに自分のペテンにひっか・るんだ」(1.ii,
うっていうの?
225−230)という女性観だ。そして「頓着しない振舞い」
サー・フレデリック そう,どうやったら満足いたYh
(careless carriage)(1.ii. 218)をし,深夜の2時にウィー
けるか。ぼくが普段睦まじく親しんでいるもののど
ドルの娼婦の宿を訪れ,近所中に響きわたる音をたて,ド
れかになってもらいたいんだ。
アを開けないからといって.「売女!売女!」とわめき,何
未亡人 まあ,私にどんな女になれっていうの?さあ
人もの松明持ちを引き連れて大行進をし,突然の・しり声
言いなさいよ。
をあげ,お巡りさんともめて投げとばし,窓ガラスを次々
サー・フレデリック そんなどっちだなんて罪深いこ
に壊わしたりする(1.ii.76−146)。未亡人リッチ夫人か
と言えやしませんよ。ああ,そんなふうに考えたら
らはっきりした結婚の色よい返事が得られず,毎晩酒と女
たまらない。どうしてもそのどれかになってほしい。
に浸り,失敗をしては翌日しらふのときに謝まったりする。
仲 略)
苦情を言って来た女がますますしゃべろうとすると,口を
サー・フレデリック その唇に誓ってね。
手で抑えて「しゃべらせちゃいかん。5,6軒の紙工場の
未亡入 だめよ。やめて。
音よりもやかましくなる。この女に比べりゃあ,引き潮の
サー・フレデリック どっちが思い上りかな?おれが
ときのロンドン橋なんて静かなもんさ」(1.ii,125一・8)と
キスをしたがっていると思った?
機知に富むことばがとび出す。ここはロンドンを舞台にの
未亡人 敵の近くに置かれ・ば用心深くなるのはあた
せたりするエサレッジの敏捷さ13の際立ったたくみな描写
り前でしょう。
である。
サー・フレデリック 守りに自信があるというなら,
さて,ヒーローのサー・フレデリックは飲んだくれで遊
どんな守りにするわけ?この恐るべき敵の接近に
び人。ヒロインの未亡人はすでに結婚を体験して男を知り
ラッパを鳴らすわけ?
尽している。彼は自分が魅力的であるということを心得て
未亡人 訓練を積んだ兵士にはそんなもの不要だわ。
未亡人が彼を愛しているということを知っていて,何とか
いざ戦いとなればラッパなんて使わない。鐘が合図
して男の目の前で彼女に愛を告白させたいと願っている。
よ。
そのためにからかい気分で,彼女に愛を告白しては身をか
サー・フレデリック なるほど退却の鐘か?
わす。未亡人の方はすでに彼に心を奪われているが,彼に
未亡人 どうして?
ひざまずかせるまでは男に対して優位を保とうとする。
サー・フレデリック こっちは総動員かけて危険な火
一 118 一
G.エサレッ.ジ(1634−1691)の喜劇 西 村
わせばこの世にない。なんて私は不幸な女。私の唯一の喜
を鎮火させるが,未亡人の方は激しい炎に包まれて
びだったこの人なしにどうして生き延びられようか。何た
悲鳴をあげるから,ますます炎は燃え上る。
る悲しみ」(W,vii.20−3)と本音を告白した途端にドゥフォ
サー・フレデリックのこの横柄な求愛はCongreveの
イが桶を着て入って来て,その姿に一同びっくりし,サー・
ミラベルとミラマント夫人の愛へ連なり,Farquharの
フレデリックもとび起きてしまい,笑いが起きて夫人は出
サー・ハリー・ワイルドエアーで終結する。15
て行こうとする。
次に,一人寝の未亡人を慰めてやろうと真夜中に未凹め
その③(IV.vii.4−58)
家の窓の下に楽士を連れて来てセレナードを歌い,通りか
かったベルマンの鐘を取り上げて騒ぎ,中へ入れてもらっ
サー・フレデリック お願いだ,聞いてくれ。これま
て仮面舞踏会でもしょうと押しかける。未亡人を誘惑する
で女を狂わせてきた悪魔にかけて。
つもりである。
未亡人 サー・フレデリック,誓いなんていいのよ。
その②(皿.iii.1−45)
サー・フレデリック こっちを向いて。微笑だけ見せ
て。そう,そういうふうに。キスをして,仲直りし
サー・フレデリック こんな破目になるとは思わな
よう。(未亡人ふき出す)いくらあんたに財産があ
かった。恋のために夜眠れないなんてことは以前に
ろうと,二度と息の感じられるところまで近づくこ
はなかったことだ。…未亡人,おれに腹を立てない
とはなくなるよ。これ以上そばに居ると,未亡人,
でね。おれの恋心を茶化すと危険なんだ。まだはじ
あんたにはもっと不都合なことだが,嫉妬心とイン
まったばかりで,調子を取るようにしないと危ない
ポに襲われそうだ。(出て行こうとする)
んだ。
未亡人 聞かなかったの?とても生き延びられない
未亡人 どうしろって言うの?
ほどあんたを愛している女に,そんなにいらいらす
サー・フレデリック キスと,こういう猫可愛がりで,
ることないでしょう?
こうやって。(彼女にキスをする)
サー・フレデリック 未亡人,男の欲望が強くて,あ
未亡人 だめよ。あんまりお行儀が悪ければ里子に出
んたもおれくらいに夢中になるまで寝かせたくない
しちやうから。あんたが思うほど,そんなの好きじゃ
位なんだ。(出て行く)
ないのよ。
未亡霊 まあ,なんて幸運な出来事だったんでしょう。
(中 略)
でなかったらあの人は私の女の弱さをいいことに高
サー・フレデリック 冷たい女だな。それじゃああん
慢になったでしょうから。サー・フレデリック,用
たのメイドを貸してくれ。おれの愛情の強さをたし
心のために,私が愛を告白する前に,もっと巧妙な
かめたいんだろうから,あんただと思って彼女をう
手をあんたに試してあげるから。
んと可愛がってやるから。
未亡人 もし警官に監獄へでもしょっびかれたら知ら
次いで借金で首がまわらなくなり,執行吏にサー・フレ
せなさい。保険金代りに(みだらなことの好きな)
デリックが逮捕され,200ポンド用意しないと監獄送りに
仕立屋でも送り込んでやるから。
なるという知らせを聞いて,未亡人は200ポンドを出し,
サー・フレデリック 勝手に寝やがれ。お.れの不幸よ
その囚人を家の中へ連れて来るように指示する。(V.ii.
りもっと悪かろうに。さあ演奏開始だ。おれたちが
63−70)。実は楽士を執行吏に仕立てたわけで,未亡人は出
来ていることを広く知らせよう。あばよ,未亡人。
し抜かれたことに腹を立て,「ええ,自分への懲らしめと
して,あんたを苦しめるためにも,前代未聞の呑んべえと
一人虫なんて可哀そうに。膝でも抱いて寝な!
結婚してやるから」(V.ii.165−7)とくやしがる。サー・
フレデリックは「この金がなくなるまではあんたの邪魔だ
このあっけらかんとした,さばさばした気分はエサレッ
ジの後に続く作家たちにとって喜劇的なスタイルの手本に
てはしないよ。金のなくなるころにはそのばかげた誓いも
なっている。エサレッジの仲間たちはこの二人の場面を見
破棄されているんだろうよ」(V.ii.174−6)と言い,ポケッ
て,よほど意識的にエサレッジに反発でもしなければ,あ
トの金貨をチャラチャラ鳴らしながら勝ち誇る。そして,
われなほどにそれまで手本にして来たJonsonにもどるこ
「この2時間位は腹を立てますように。そうすれば仕返し
とが出来なかった。16
したことになる」(V.ii.187−9)とつぶやく。
次にサー・フレデリックは未亡人の同情を買おうと死を
愛はすでに双方とも告白しているが,双方の願う告白で
装う。未亡人が嘆き悲しみはじめ,「この人の死の埋め合
なく,大団円までお互いのじゃれ合いが続く。
一119一
津山高専紀要第24号(1986)
その④(V.v.43−89)(Proviso)
し21te一一一一一一一一.
サー・フレデリック おや,未亡人。こいつらの結婚
どんなに短かかろうと未亡人のしめくくりの結婚承諾条
式につられてここへ?よだれが出てるよ。
.件(Proviso)(V.v. 80−2)はエサレッジのどの作品にお
未亡人 そんなもの望んでいたら,あんたに身をまか
いてもこの手段を拡大し,この期の喜劇を風靡して『世間
せていたでしょうに。
の習い』で完結することになる意義を持っている。17
サー・フレデリック そんな意地を張って。おれと結
3 評価
多して仕返しをしてやろうと思っているくせに。だ
二つの対立する世界,即ち理想の世界(high plot)と
が,この守り神のエンジェル貨幣がある限り,あん
世俗の世界(low plot)が歌と踊りの網をなして描かれ,
たの呪いなんて効かないよ。鷹匠は鷹が獲物を攻撃
その両極を突飛に,そして幻想的に統一させている。18こ
する前に褒美を与えたりしないだろう?
の作品の面白さはheroとdupe, witとfool, gentleman
未亡人 空腹になれば,おとりにまた舞いもどるわ。
とfopの対比であろう。サー・フレデリックと未亡人の
サー・フレデリック この世の空しさをもう少し味
世界は名誉に打ちのめされている規律の社会から飛び出
わったら,シュンとして自暴自棄になるかもしれな
し,一方ヴォードビル的な行いしかない低俗な社会に
いね。
ちょっかいを出して楽しむ。
未亡人 その空しさを同じように体験して,苦しんで
主人公たちに機知が少し欠けているのはリッチ夫人が未
いる女と結婚すればいいわ。
亡人のために,彼女は性的欲望が強いと考えられ,機知に
サー・フレデリック とんでもない。そんな立派な道
富んだ若い女の真剣さを失い,さらりとかわしていくから
義に基づく女をとても誘惑なんてする気はないね。
であろうか。この主人公たちはお互いに結婚しようと心に
いいかい。万一おれが善良で金をあんたのもとへ返
決めているが,どんな形で結婚することになるのか,即ち,
すといったら,えらそうに構えてぼくの好意を認め
愛のかけひきが興味の焦点になっている。重要なのは人柄
ようとはしないだろうからね。
ではなく,二人の間で交わされるからかいであり,その軽
未亡人 あんたが感謝の気持を示すなんてあり得ない
妙さと無頓着の装いである。未亡人のリッチ夫人は風習喜
わ。私をそんなに間抜けだと思って?二束三文の
劇のヒロインの三つの不変な貢物を備えている。即ち,機
品物をとりもどすためにあり帯すべてをゲームに賭
知才覚と美貌と財産と。1gそして,サー・フレデリックは
けると思って?
この機知才覚と美貌と財産と結婚する。20
サー・フレデリック 未亡人,そうなさったらどう
サー・フレデリックの快活さ,目先のきく洞察力,意地
かって言ったんだ。少し用心深すぎるよ。とてもあ
の悪さなどは才人の証であるが,礼儀i正しさの標準からは
んたにはおれはっとまらないね。お別れだ。
逸脱し,行動には尊大なところが際立ち,ドリマントやミ
未亡人待ちなさいよ。さあ,お別れの握手をしましょ
ラベルの基準に従えば騒々しさといい,粗暴な行為といい,
う。
彼はtrue witの資質に欠けてしまう。
サー・フレデリック だめだ。このおれの体(手のこ
この作品にはロマンチックなFletcher流の筋があり,
と〉を知ったら別れられなくなるよ。そう,触って
ペテンと賭博と騒々しさと酒酔いのMiddleton流の筋,
確かめてごらん。(手を差し出す)
そしてドゥフォイのまわりには沢山の笑劇的な場面が密集
ベビル侯 妹よ,お前の好みを以前から知っていた。
している。22Fletcherの『ムシューL一・トーマス』(1619)
わしにまかせろ。サー .■フレデリック,さあ,彼女
の冷笑的なメアリーに言い寄るトーマスのように無鉄砲
を取りなさい。お互いに幸せになるんだ。
で,そ・つかしい,かなり粗野なしゃれ者のサー・フレデ
未亡人 ではあんたをわが家に受け入れる今,下女た
リックがメアリーに対応するリッチ未亡人に求愛する。手
ちをせっせと彼女達の持ち場に就かせて頂戴。
を変え,品を変えて策を仕組むこのような状況設定の発端
サー・フレ.デリック 亡くした夫に非難されないな
はBeaumontとFletcherに負うところが大きい。23モリ
らば。結婚初夜のあの悪弊の掟がないならば。未
エールの『才女気取り』(1659)の陽気さと爽快さに感激
亡人,どんな古いしきたりがまだ残っているのか
したという印象は劇の出だしにあり,モリエールの常套手
い?おれは三組も縁組をさせた。ベビル侯,今
日ばかりは,この私に彼等を迎えにやるわがまま
段のstaccato dialogtteの多用も目立つ。24
この作品の成功は笑劇的な要素に依るものだと1655年1
をお許し願いたいのですが。連中を連れて来る
月4日にPepysが書きしるし,その限界をはっきりと指
と,この喜びの日を倍増させることになるでしょ
摘している。それは身の動きの面白さであって機知による
一 120 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 村
ものではないと。25エサレッジがこの作品で試みたものは
ーは出て行く。
イギリス喜劇のおなじみの計略の伝統を囲めしてみたので
隠れていたセントリーが出て来て,御主人に見つからな
あり,この芝居の大成功は新しい喜劇様式にあるのでなく,
くてよかったと胸をなでおろし,コートオールは『熊亭』
観衆はこのような伝統的喜劇になじみが深かったからだ26
をうまく抜け出して,夫人のところへうかがうと伝えて,
というきびしい見方もある。
セントリーも出て行く。
初期の作品によくあり勝ちなごたまぜ(pastiche)
コートオールはこれまで夫人に不愉快な思いをさせない
で,27まちまちな評価の中で意見が一致しているところで
ようにしながら,しつこい夫人とのあいびきを出来るだけ
はこの作品が演劇的混合(hodge−podge)で,新しい要素,
少なくするように夫人を避けてきた。フリーマンが出てき
古い要素,まったく伝統的な要素などのごたまぜ(confused
て,コートオールとセントリーに対するあざやかな気転に
mixture)である。28風習喜劇として読まれるよりも喜劇
感心する。サー・ジョスリンの身内の若い二人の娘のこと
もあり,とにかくレストランの予約をしょうと出て行く。
バレーとして読まれるべき2gかも知れない。
第二場(サー・オリバrの宿) 返事を待っているコック
[ She Would If She Could
ウッド夫人はセントリーから,もう少しでサー・オリバー
『できればやるさ』(1668)
に見つかるところだったと聞いて胸をなでおろす。男たち
が『熊亭』へ出かけ,コートオールがうまく抜け出して来
第一作の桶の場面はそれだけで終ってしまう発展性のな
いものであったが,第二作では芝居の発展と各人物を描い
ると聞いて夫人は期待に胸をふくらませる。セントリーは
ていく発展性のある場面で構成し,男女の若い四八の主人
隠れていたときに聞いた御主人の女あさりのことなどを夫
公たちが軽快さと陽気さとを漂わせている。
人に伝える。女房の夫人はいつも夫に騙されている女で,
この作品が非凡で卓越した喜劇だということでShad−
夫は偽善家ということになっている。
wellは『ユーモリスト』の序文の中で「この作品は劇場
そこへ夫とサー・ジョスリンが入って来て,今晩は伯父
再開以降では一番いい喜劇」と述べて,Gosseがエサレッ
のサー・ジョゼフと一緒だから外出を許してやってくれと
ジを再発見して以来,現代の批評家たちの一致した意見
夫の許可をもらって出て行く。
になっている。1しかし感傷喜劇を担うSteeleあたりには
夫人とセントリーがこれでよしと嬉しそうな顔をするの
気に入られないらしく, The SPectator紙の51号でこの作
をサー・ジョスリンに町へ連れて来られた娘二人が目撃し
品を嘆かわしいみだらな喜劇の代表作だとしている。
て,何かあると悟る。昨年ははめを外したらしく,引っ込
エサレッジはサー・オリバー・コックウッドのコック
み思案の姉のアリアーナは昨年の男に見つからないかと恐
ウッドを夫人の呼称にして,彼女の見境のない色情を題名
れている。大胆な妹のギャティーは久しぶりの都会で,は
の中に凝縮させて,サー・オリバーのオリバーは護国卿の
めを外そうと浮き浮きしている。
没後10年という政治的な響きを持たせてクロムウェルの名
第二幕 第一場(マルペリーガーデン) 男4人で飲んで,
になっている。2
コートオールとフリーマンが抜け出してきたところ。
1 あら筋
サー・オリバーはいつも泥酔して帰り,くだをまいて女房
第一幕 第一場 (コートオールの家の食堂) コートオー
にあたり散らし,翌朝は手を合わせて謝る。サー・ジョス
ルが友人のフリーマンと一緒に女あさりにでも出かけよう
リンの方はもてなしの返礼として男達を家に連れて行き,
と相談をしているところヘコックウッド夫人の使いで下女
二人の小娘にひき合わせるくせがある。そこで,二人は酔
のセントリーが訪れる。そこでフリーマンは私室に隠れる。
いをさまして,再び『戸〆』にもどり,コートオールはちょっ
1年ぶりで夫のサー・オリバーと町へ出て来て,昨年同様
と急用が出きたがすぐもどると言うことにする。
にコートオールとお付合いを望んでいることを伝える。
『熊亭』を出て,夫人のところへ行く途中,面をつけた
そこヘサー・オリバーが訪れて来て,セントリーは薪入
アリアーナとギャティーが通りすぎる。男たちは据え膳食
れの中に隠れる。サー・オリバーは気晴らしを望んでいる。
わぬは男の恥だと二人の女の跡を追う。女たちは急ぎ足で
田舎ではちょっと娘に手でも出して証拠でも残せば村に居
逃げるので,男たちは狭みうちにして追いつく。男たちは,
られなくなる。結局,飲んでばかりいるから呑んべえになっ
男の面目をつぶしたりしないでやさしく対応してほしいと
てしまう。女房は嫉妬深くて,小使いをちょっと使いすぎ
言ってそれぞれ女の手にキスをする。そして面を取れとせ
ると,何に使ったかの釈明を求められると愚痴をこぼす。
まるが彼女たちは応じない。ギャティーはあしたまで他の
さて,いい小娘が二人いて,兄のサー・ジョスリンを誘う
女には会わないと男たちに誓わせ,男たちもどんな条件で
ので,コートオールもフリーマンを連れて,フレンチハウ
ものむと言い,明日の再会を約束して別れる。
スの『熊亭』に誘われて,会う約束をして,サー・オリバ
第二場(サー・オリバーの宿) セントリーとの約束通り,
一 121 一
津山高専紀要第24号(1986)
待ちわびる美人のところヘコートオールがやって来る。彼
約客は誰れかとたずねるとサー・ジョスリンとサー・オリ
はみんなを出し抜くのは大変で,すぐもどらねばならず,
バーで,女を呼んでの会食だという。夫が外出できないよ
逢いびきは明日の午前10時に新交易所で待ち合わせること
うに謹慎の衣裳以外には着る物がないようにして来たのだ
にする。夫人は夫がコートオールのところで夫人の悪口を
が。矢野は不安と嫉妬でいっぱいである。給仕に,女たち
言ったことなどをねたにして懲らしめ,堂々と出られるよ
が来ていることをしゃべらないようにと口止めをして隣り
うにすると言う。
の部屋に移る。
二人の娘が帰ってきて,夫人は二人だけで公園に外出す
サー・ジョスリンとサー・オリバーが入って来る。レイ
るなんて,この口やかましい時代に何を言われるかわから
クヘルがサー・オリバーに紹介されると,サー・オリバー
ないと言って叱る。そこへ夫人の夫とサー・ジョスリンが
の妙な格好をくさす。そこヘフリーマンが入って来る。コー
酔って,コートオールとフリーマンを連れてやって来る。
トオールと一緒だと伝える。サー・ジョスリンはこれから
娘たちはびっくりして逃げるが,コートオールたちにはさ
はじまる楽しみを説明する。するとコートオールも入って
きほど会った娘たちだと感づく。サー・オリバーは酔った
来る。コートオールとフリーマンが練った策を実行に移す。
勢いで女房をくさし,サー・ジョスリンは二人の娘を連れ
芝居小屋へ仮装の衣裳を借りに人をやり,子たちはすで
て来いと歌いながら踊り,.二人目娘たちを男たちに引き合
に衣裳をつけ終っている。そして,女性たちの入場が告げ
わす。他の女には会わないと約束していたので,男たちは
られる。レイクヘルの呼んだ女たちになりすまして入って
先手を打って,こういうふうになることを知っての無礼で,
来る。コックウッド夫人はサー・オリバーと,若い娘たち
占星家の占い通りに行動したと言う。サー・ジョスリンは
はそれぞれコートオールとフリーマン,セントリーは
男たちに娘を売り込み,踊らせてごらん,いい脚をしてい
サー・ジョスリンと組んで踊りはじめる。サー一・オリバー
るからとほめると,ギャティーは踊る。
ははしゃいで,女房に聞かれたら困ることまで口走る。す
第三幕 第一場(新交易所) コートオールはガゼット夫
ると,レイクヘルの呼んだ女たちが下へ来たと知らされる。
人を探しに新交易所にやって来る。そして,アリアーナと
夫人は発作を起したふりをして,セントリーが面を外し
ギャティーを連れ出してほしいと頼む。彼はコックウッド
て,奥様どうなされましたかと走り寄ると,サー・オリバー
夫人とここで落ち合うが,そのドア越しに娘たちが買物を
はび。.くりして倒れている女房の脇でひざまずく。夫人は
することになり,コックウッド夫人をすっぽかして,二人
われに返り,夫に対して怒り出す。
の娘たちを連れ出そうという算段だ。
夫人はこれでしばらく自分が勝手に振舞えるのでいい機
フリーマンがコートオールの指示通り現われる。ガゼッ
会だったと喜ぶ。夫人の怒りがおさまると,サー一・ジョス
ト夫人の助けを借りて,二人の娘を案内する。さて,セン
リンはサー・オリバーに今夜6時にスプリング・ガーデン
トリーを連れて夫人が入って来る。夫人は夫をおしおきし
でランパント夫人に会うことに変更したと伝え,鼻の下を
ていて長びきましたと言う。二人しか乗れない馬車だと言
長くする。
われると,汚れのないわが名誉に傷をつけるようなものと
第四幕 第一場(サー・オリバーの宿の食堂) コックウッ
言って体裁をつける。そこヘガゼット夫人が入って来て,
ド夫人はコートオールの情熱を疑い,アリアーナとギャ
私の店をのぞいて下さいと声をかける。夫人の夫をよく
ティの名前で手紙を偽造する。セントリーは面をつけて芝
知っている夫人だから,コートオールと一緒のところを見
居小屋のコートオールと別の芝居小屋のフリーマンに手紙
られて不都合である。そこへ二人の娘も現われる。夫人は
を渡す。そのあと,再びセントリーは面をつけずにコート
がっかりする。今日の逢いびきは中止にせざるを得ない。
オールを呼び出し,コックウッド夫人のもてなしを申し入
今日のところは二人の娘をフレンチハウスに一緒に誘い,
れる。どちらを選ぶか。コートオールの返事は今晩は不都
明日,逢いびきをしょうということにする。
合で明日という返事である。
第二場(サー・オリバーの宿の食堂) サー・オリバーは
夫人は夫に実は内緒にしてきたがあなたの親友であるこ
昨夜の失態で沈んでいる。遊び人のサー・ジョスリンは売
とをいいことにコートオールはみだらにも,私の名誉を傷
春斡旋屋のレイクヘルと売春婦のランパント夫人と一緒
つけるようなことをしたと告げる。夫人は夫にコートオー
に,ドルアリーレーンのフレンチハウスでの会食の予約を
ルをこの家に近づけさせないようにして,二入の娘にも接
してあるから行こうと誘う。しかし,洋服ダンスは鍵をか
近させないようにする。
けられ,外出出来ない。
このときアリアーナとギャティーが頭巾をして面をつけ
第三場(フレンチハウスの『態亭』) コートオール,フリー
てスプリングガーデンへ気晴らしに出かけようとする。に
マン,コックウッド夫人,二人の娘が入って来る。密室が
せの手紙で誘ったのも同じ場所。夫人はセントリーと一緒
予約ずみで,夫人はこのことが発覚しないかと恐れる。予
に変装して出て行く。
一 122 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西村
第二場(新スプリングガーデンの園亭) ようやく抜け出
たサー・オリバーはサー・ジョスリンとレイクウェルと園
リーマンとコートオールの居るのに驚く。
そこヘサー・オリバーとコックウッド夫人が入って来
亭で落ち合う。昼間女たちをすっぽかしたために今晩は来
て,娘たちがこっそり男たちを家の中へ導き入れたと非難
ないという。女なしで楽しもうと入って行く。
する。男たちは,端たちではなく,セントリーの仕業だと
次いでコートオールとフリーマンが顔を合わす。今晩は
言う。手紙偽造もセントリーの仕業だと言い,すべてセン
お互いに相手が邪魔そうである。お互いに若い娘たちから
トリーの犯行にする。サー・オリバーがコートオールに腹
デートの申込みを受けていて,双方の手紙を比べると文は
を立てるので,夫人はラブユース夫人に打ち明けたら,コー
まったく同じである。
トオールに限ってそんなことはなく,フランス育ちのいん
近づいて来たアリアーナとギャティーに慣れ慣れしく二
ぎんさに外ならないと言われたと言うと,サー・オリバー
人の男は近づく。しかし,二人の娘はそっけない態度をと
はそれで納得する。
り,どうも様子がおかしい。手紙を示して娘たちの態度を
フリーマンが手紙を夫人に渡すと,娘たちがとびつき,
はっきりさせようとする。そこヘコックウッド夫人とセン
その筆蹟がセントリーの手であることを確かめて,美人の
トリーが近づき,コートオールを悪者に仕立て上げる。そ
指図によるものだと言い出す。これで夫人は万事休す。こ
こへ酔ったサー・オリバー,サー・ジョスリン,レイクヘ
こでコートオールが,あんたたち二人がふらふら男狩りに
ルが出て来る。女房とコートオールがそばに居るのを見て,
出かけるので夫人は戒めにやったのだと説明する。そして,
サー・オリバーが怒り出し,男5人で剣の闘いがはじまり,
男たちIl人はあんたたちが作ったと偽証してやろうと思っ
夫人は戸惑うばかり。
たと言う。
第五幕 第一場(サー・オリバーの宿の食堂) 手紙の偽
男たちは女たちの心の内を吐かせようとしながらも,結
造の件が発覚しないかと夫人は沈んでいる。あのとき,
婚までは考えていない。楽士たちを連れてサー・ジョスリ
サー・オリバーたちが現われなかったら発覚するところ
ンが入って来る音が聞えると,新しい男二人を連れて来る
だった。手紙の筆蹟がセントリーのものであることをギャ
わよ。あなたたちよりも,私たちにもつと高値をつけるか
ティーに知られているからだ。夫人はコートオールを捨て,
も知れないわよと男たちの結婚申込みの決断を促す。
フリーマンに乗り換えるべく,セントリーを使って今晩ブ
入って来たサー・ジョスリンにコーートオールとフリーマ
リーマンに会い,何とかしてあの二通の手紙を奪い返した
ンは二人の姪っ子の面倒を引き受けるのでお許し願いたい
いQ
と申し出る。娘たちは,今後一ヶ月間の素行がよければ,
フリーマンが現われ,先ほどの剣の闘いはどうなったか
そして,一ヶ月たってもやはり求婚したいと言うなら見ど
たずねると,二組別々の船に乗り,別れたという。そこヘ
ころのある男性と考えてお受けすると言う。
コートオールがやって来るので,フリーマンを押し入れに
これで万事解決し,セントリーも赦される。サー・オリ
隠す。コートオールは夫人の突然の変りようといい,サー・
バーが田平はいくらだったかとセントリーにたずねると,
オリバーの彼への立腹といい,合点がいかない。その理由
10ギニーだったと答える。セントリーは夫人に,もし10ギ
をせまる。そのとき,サー・オリバーが帰って来たので,
ニー見せうと言われたら,バレてしまうと言うと,夫人は
急いでコートオールをテーブルの下に隠し,どんなことが
そのときは私の財布から出しますと言う。
あっても失人の命と評判を損ねたりしないことを約束させ
コートオールが夫人に焼きもちを妬かないで下さいよと
る。
言うと,これで町の仕事はやめにしてわが家のつまらぬこ
夫が無事にもどったことを喜び,この事態の収拾がつく
とに精進しますと言う。コートオールは夫人に,精神面だ
まで私室に閉じ込めると伝える。このとき,ミカンを落し,
けでなく牧師におすがりなさいと言うと,夫人は,これま
ローソクに火をつけてくれと夫人に言う。セントリーが
で女の野望を幸運の女神が妨げたことはなかったと言う。
ローソクを手にしたとき,ドアを叩く音がして,セントリー
2 場面解説
はそのまま出て行く。夫人は夫にあなたも一緒に行って見
若い男女4人の恋のかけひき(verbal fencing) アリアー
てと言って出て行かせる。暗闇の中でコートオールもブ
ナとギャティーの姉妹は伯父のサー・ジョスリンに連れら
リーマンの入っている押し入れに入れる。そこへ二人の娘
れて,今年もロンドンへ来られて嬉しくてたまらない。昨
と一緒にサー・オリバーがもどって来ると,夫人はもう疲
夏は突拍子もない恋のアバンチュールを夢みて悪ふざけを
れたので休みたいと言い,二人目娘以外は退散する。
し,姉のアリアーナは妹のギャティーの大胆さを恐れてい
娘二人はもう少しのところで筆跡がわかったのにと残念
る。ギャティーは「田舎を恋しがるなんて。引っ込み思案
がる。どうも嫉妬のための手紙の偽造としか思えないと言
を捨てるってもう一回約束なさいよ。そしたら祈ってあげ
う。ギターを弾こうとアリアーナが押入れを開けるとフ
る。あんたの夫は嫉妬深い夫でありますようにって。そう
一 123 一
津山高専紀要第24号(1986)
すれば田舎へ行けますものね」「閉じこもって家の中を往
しゃれ者の重要な仕事であり,その変化こそ,彼等の人生
来するために来たわけじゃないわ。かごの鳥みたいに二本
に値するものだ。7
のとまり木を昇ったり降りたりするだけなんて」「芝居に
その②(皿.i,106−121)
行くにも気分転換の息抜きにも身内と一緒だなんて。大人
たちはいい気になり,この娘たちを処分する権限はわしら
フリーマン 前回二人の若鮎に嫌われたように思える
にあるという顔を世間の観たちに見せびらかす」(以上,
だけに,こんどは手づかみってわけにはいかないそ。
工.ii,136−159)と姉にまくしたてる。
コートオール 心配するな。何と言おうと女なんて男
.が逃げたからといってそれだけ男を悪く思うなんて
その①(1.ii.163−183)
ことはないものだ。それは若さと情熱のしるしで,
ギャティー 男がうらやましいわ。慣習が私たち女よ
かえって女に好奇心を起させて,何とか男を飼い慣
り男の方を上にしているんだから,男を手玉にとつ
らそうとする。一番困まるのは二股がかけられなく
たところで,男の特権のために男にはかなわないわ。
なることだ。恋の一本道なんて芝居の一本筋と同じ
アリアーナ そうね,男たちはどこでも女あさりが出
く味気ないもので,観客同様,恋人だって退屈して
来るんですもの。そして,私たち女は愚かにも男が
しまう。
立派だなんて思ったりして。
フリーマン 都会ではいくつかの脇筋がないと我々も
ギャティー 芝居小屋を次々にのぞき,芝居も女も好
長くはもたないね。今回のを主筋にしてうまく.いっ
かないと思えばかつらをちょっと解かしたりして,
たら楽しい喜劇に仕立て上げよう。
友人にことばをかけて帽子をかぶり,さっさと出て
コートオール 細工は流々,仕上げをごろうじうだ。
行く。
乱入は町の紳士で酒と女と機知を求めてやまない。コー
アリアーナ 何をするにも堂々とやりましょうよ。
トオールの方が才覚に富み,洞察力があり,勇敢で,コッ
ギャティー 賛成!
アリアーナ 君主が寛大になればいい気になって頭に
クウッド夫人に対してもうまくまくことが出来るし,若い
乗る理不尽な廷臣のようなしゃれ者を見たら…
娘たちの気を取ることも出来る。8
ギャティー 徹底的に暴君.になって私たち女が男ども
さて「馴じみの女しかいないから,おれたちの目に新鮮
に許してきた一切の特権を奪い取ってやりましょう
に写るためにはブルゴーニュの上等のワインの一,二本を
よ。
あけないとスカット写らないね」(1.i.6−9)と言ってい
ブリアーナ そうと決まれば喜んで,あんたの言いつ
る二人の男がマルペリーガーデンで女あさりをしている
と,二人の若い女を見つけ跡をつける。「老いぼれの市会
け通り軍隊を進めます。さあ,行進だ。
議員の精力だってかきたてるような魅力」(ll.i.60−1)で,
彼女たちの伯父がそれぞれSly−girl, Mad−capと呼ぶ
跡をつけられていることに気づいた女二人は早足で逃げる
ようにうまく色分けされて描かれている。3ギャティーが
が,「あのきざな足の運びは鬼さんこちらやバーリーブレ
唯一の本物の才人だ。4二人の現われる場面は爽快で優美
イクなどの遊びで肺活量の大きくなった田舎のおてんば
だ。子どもつぽい思いつきと次作のサー・フォップリング
娘」(9.i,83−7)で「強い向い風をうけて走る早いフリゲー
の気取った上品さなどが陽気に表現され,王政復古劇の中
ト艦」(ll.ii.241−2)の「はねかえりのおてんば」(H,ii.
では最も楽しい人物の一人になっている。5
140)で馬にたとえられる手足のほっそりした女たちだ。
一方,二人の男たちの一人,コートオールは結婚に対し
その③(ll.i.・91一一186)
ても冷笑的で「女房なんてごちそうみたいなもので食べあ
二人の男が足早で逃げる二人の女をはさみうちにして捕
きたら,他のものでないと食欲がわかない」(皿.iii.296−8)
え,はじめての出合いの場である。アリアーナもギャティ
と言い,サー・.オリバーが「結婚なんて坊主の金もうけ(処
も頭巾をかぶり,仮面をして顔を隠している。「そんなに
女献納にあずかることも含む)のためのトリックだ」と言
意地悪くこの内気な二人の若者を踏みつけにして面目をな
うと,コートオールは否定して「坊主にキリスト者の自由
くさせるのですか。純情な愛ゆえにこうやって姿を現わし
を認めても,結婚式で失う利益の10倍も洗礼式で得るで
たのに」「この犬の競争路(公園)で何周もいたしまして,
しょう」と,彼の放蕩主義と懐疑主義をのべている。6コー
獲物の肉を見せられてすっかり刺激されて,もう我慢がな
トオールとフリーマン,アリアーナとギャティーの恋の冒
らずがぶりと(強引に彼女たちの手を把んで手にキスをす
険は微に入り細に入り,王政復古期の流行の基準について
る)」「私たちがこれでお払い箱にならないように,何か愛
のエサレッジの考えを示している。恋のかけひきが二人の
の抵当でもいた・“けませんか」「とても激しい御気性(鷹
一 124 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 村
にたとえ)なために,このような頭巾をなさっていらっしゃ
近知り合ったばかりの女ということになるわね」とやりか
る?」「こんな破廉恥なものを取って顔を見せなさい」「こ
えし,「必ずしも一番愛しているわけではないときはとか
んなもの(頭巾)はちょっとした戯れで,恋をしている人
く彼女のことを多くしゃべるもの。すぐ話の種が尽きてし
がそれを悟られないように考案されたもの。その後悪用さ
まう無能なめかし屋は読んだばかりの本から引用するもの
れて,今ではまともな人間はそんな流儀をひどく嫌うよう
だわ」「別に非難なんてしませんわ。殿方にはそれぞれの
になりましたよ」「この真剣な求愛を避けたいなら,少し
流儀がおありでしょうから。狩人は犬の話を,鷹匠は鷹の
は私たちに励みになることを言って下さらなきゃ」と矢つ
話を,馬喰.は馬の話を,しゃれ者は女の話をするでしょう
ぎ早に男たちから語りかけられる。ギャティーは「なるほ
から」「そんな自惚れた自慢話でも認めてやらなければ愛
どあんたたちは多忙な入たちだから飲食店から芝居小屋
なんて結婚みたいにすぐ色あせてしまうでしょうから」と
へ,それからマルペリーガーデンへ奔走し,せかせかと暮
男たちをやっつける。
らして」と反撃し,明日会って欲しいという要求に「それ
女にとって愛ほど真剣なものはあり得ないけど,それに
じゃあ,あした会うまで他の女とは会わないって誓える?」
もかかわらず愛についても冗談をとばす。ギャティーは平
とやり,アリアーナが「妬いているんじゃないのよ。女の
凡なたとえに陥らず,人生に対して機知に富んだ態度を失
生意気な話しっぷりであんたたちが疲れたら困まるから
わずに,本物の才人としての人格を貫き通している。12二
よ。疲れ果てた元気のない顔を見たくないから」と添える。
人の娘は何でもよく知り尽しているが,少女であり,生意
実はこの日のうちにサー・オリバーの家で顔を会わすこと
気だが恥知らずではない。機知に富み,魅力をまき散らす。
になる。
悪意ではなく,気性の盛られたスカッとしたやり口で男た
この四人の対話についてPepysは「とても茶目っ気たっ
ちを手玉に取る。ここが軽快さの特徴だ。13下心の真剣さ
ぷりで機知に富む」と評した。g対話は素早く,短かく,
をうまく隠し,男に夢中なときは鋭くあざけり,からかい
やりとりは活気に満ちている。
のときに男たちと対等となる。14二人の男は馬溜遅々に二
この恋のかけひきは「ことばのかけひき」
入の娘たちに応える声というよりもピアノ伴奏にさえ響
(conversational game)であり,求愛場面ではからかい
く。それにもかかわらずちゃんと四重奏になっている。15
が対話を支配する。ここはその後の恋のフェンシング
(fencing match)の鍵を握りド女たちが男の無礼を攻撃
この四重奏のやりとりはバレーの振り付けのようで,全体
が踊りになっている。おのおのの男女がお辞儀をしてパー
すれば,こんどは二人のしゃれ者は女の自尊心を嘲けって
トナーと向い合う。そして踊りの展開があってお辞儀して
ぐさりと刺す。対話全体が均勢のとれた模様(symmetrical
終る。彼等の値打ちはこういった雰囲気を作り出す能力に
pattern)をあやなす。10最後のアリアーナの「妬いている
ある。16
んじゃないのよ…」はエサレッジの喜劇的いんぎんの典型
その⑤(V.i.473−525,553−577)(Proviso)
である。11
その④(IV. ii.183−234)
コートオール これで私どもの身の潔白を納得いただ
前回のファッショナブルな気晴らしの場所,マルペリー
けたと存じますが。
ガーデンに代って,こんどはスプリングガーデンでの再会。
ギャティー もしあなた方が手紙を偽造していたので
女たちは「やっぱりあんた・ちね。影みたいにつきまとっ
あれば,あなたたちの名を使って結婚契約書を二通
て。どんな女だって恋が自殺行為の亡霊につきまとわれた
偽造して,その証人であることを偽証してやるつも
ためしはないわ」「私たちを恋して下さるならば,せいぜ
りでした。
い夢中にさせず,世間の不興を買わないようにしましよう
アリアーナ そうすれば十分な復讐になったでしょう
よ」「一緒に居ると窮屈でしょ?あなた方は毎日公園をう
から。だって,私たちが結婚もしないで自由になり
ろついていらっしゃる。とんびが家畜をねらう機会をう
たがっているなどと思われたくないのと同様,あな
か・・“って屋敷の裏をうろつくみたいにね」「仕立屋かフェ
た方だって結婚を望んでいるなんて思われることは
ルトの帽子屋の娘か女房に災いあれ。なぜならフォックス
とんだ名折れだぐらいのことは存じておりますか
ホールへ渡るときには町では出来ないことをする何か魂胆
ら。
があるでしょうから」と二つぎ早に男たちをあざける。コー
コートオール 約束を装って.でもそうすることはあり
トオールが「恋人とはスパニエル犬が主人を見失うと不安
得たでしょう。我々は時々えらく勇敢になって,値
になるように思う人を見ないでいると落ちつかず,芝居小
打ちのある報酬のためなら命がけになることがある
屋,公園などをさまよい,一時たりともじっとしていられ
のです。
ません」と言うと,「それじゃあ,あなたの恋人は最も最
ギャティー そうですね,あなた方のような経験豊か
一 125 一
津山高専紀要 第24号 (1986)
な方々が御自分の財産の修復のあてもなく,自分の
コートオール いか・“です?お嬢さん方。間髪を入れ
身を抵当に入れるはずがございませんものね。
ずに。
コートオール ありがたいことに長いこと災難(結婚)
アリアーナ では一つ条件を出します。私たちの好み
を逃れて来て,今こ・に罪ほろぼし(結婚すること)
をお認めいただいたから,私たちは喜んであなた方
をすることになりそうです。多くの家は隠し玉で結
を求婚者として認めます。
婚を用意し,男はだまされて結婚をし,結局,父親
ギャティー これから一ヶ月間にわたるあなた方の素
の借金を肩代りさせられているのです。紳士の望む
行を十分検討して,結婚に進むだけの度胸があれば
幸せとは自分の借金を払わなければならなくなるま
求婚を受け入れて,あなた方を信義を重んずる紳士
で自由に生きたいということなんです。
とみなしましょう。
フリーマン 我々はあなた方が我々に好感を抱いて
サー・ジョスリン 娘たちよ。よくぞ申した。男性諸
らっしゃることはわかってますよ。もう一歩進めて,
君,それでいいかね?
愛の告白をさせて下さい。
コートオール 男の心がそれほどうそ偽りがないとす
ギャティー まさかあなた方はせっぱつまった気分に
れば,きっとそうでしょう。
なっておられて,結婚を肯定なさるわけじゃないで
フリーマン ーヶ月とは退屈だな。おれたちの決意も
しょうね。
鈍るかも知れないそ。まあしかし,結婚前には悔い
アリアーナ 私たちに結婚話を交渉なさろうなんてお
るのはよそう。結婚後はどうなろうと。
門ちがいですわ。丁度,あなた方がかなりの財産が
あるからというので,売春婦が何とか約束(結婚)
アリアーナとギャティーは二人のしゃれ者にはじめから
を果たさせようとするのと同じことですわ。
一目惚れしているが,最後まで激しく男たちにからかいを
サー・オリバー これはこれは,ネッド君,君たちの
浴びせ続ける。男たちも結婚なんて不幸なことで,どうあっ.
問で結婚交渉がす・んでいるのかね。商談をす・め
ても避けなければならない。愛に求めるものは束縛されな
たいのかね。
い自由と変化に富む趣きである。
コートオール そうなんです。
ところが女たちに降参して男たちが結婚を申し込むと
サー・オリバー で,交渉が成立しないわけかね。こ
き,彼女たちから受ける嘲弄と愚弄とによって二人のしゃ
の娘たちは君たちに一生にわたって賃貸借の義務を
れ者の放蕩性は崩れてしまうというとらえ方はエサレッジ
負わせたいと思っているし,君たちは気楽な借家人
の鮮やかな手さばきである。17
になりたがっているんだ。そうだろう,ネッド君?
彼女たちは愛に関して一定の放蕩性を認識しており,結
ギャティー この人たちったら宿でごろんところがっ
婚についての慣習的な価値観とその実施に対しては反抗的
ているのが都合がいいと考えて,わざわざ自分の家
である。だが,その快楽を号外では求めない。この二重の
を持とうなんて考えないんです。
基準を彼女たちがわきまえていて,そのような位置に彼女
コートオール かなりの土地と付随品つきの田舎家な
たちが設定されている。このことは何といっても性の敵対
ら気が向きますけど,狭くるしい町の家なら商談を
関係(sex antagonism)を芝居の世界に持ち込み,芝居の
す・める気はありませんね。
イメージのことばを使えば性の対立(sex warfare)とい
サー・オリバー おや,兄のジョリーが帰って来た。
う中心的な基盤を形成している。18
アリアーナ もう一度,よく自分を点検してから出直
「熊亭での騒ぎ」(第三幕 第三場) エサレッジは第一
されたらいかが?叔父は二人の客を連れて来た。
作で,しゃれ者の生活ぶりを写実的にいくつも描いたが1
あなた方より高値をつける人たちよ。
第三幕第一場の新交易所の場の例えば1−36,71−83,114−6,
(中 略)
121−9などで,軽快な筆致で生活ぶりを鮮やかに描写して
コートオール サー一一・ジョスリン,これからはあなた
いるが,その場に続く場はコックウッド夫人の最も面白い
からこの二入の小娘の世話を免除します。フリーマ
見世場である。
ンと私がこの二人の下僕になることを共に誓い合い
夫人は夫を外出させないようにして家で謹慎させ,コー
ました。
トオールとのあいびきに新交易所で失敗し,あいびきを明
フリーマン 御許可をいただきたいと思います。
日にお預けして,姪の二人を連れだってこの熊亭へやって
サー・ジョスリン 結婚する気があるなら牧師を呼ば
来た。夫のサー・オリバー一はサー・ジョスリンに例の女に
ねばならん。すぐにその件を片づけるために。
会えるぞと誘惑されて,謹慎の服装(penitential suit)の
フリーマン 観念なさい。
ままで同じ店にやって来た。夫人は大あわてだが,一計を
一 126 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 村
案じて夫を出し抜く。夫を尾行して来たかのように装って
若い主人公二人とそのパートナーの男二人とが,美人が夫
夫の部屋へなだれ込み,気絶を装う。
を激しくなじったあとで,夫人の気持をなだめる(1皿. iii,
コックウッド夫人とは「あさはかで厄介で,16才以上の
395−404)。何と魅力のある機知だろうか。実に素直にエサ
男ならとても我慢出来ない女」(1.i.265−7)「ごう慢な女」
レッジはこのことばに承服している。28
3 評価
(㎜.i.45−6)「食欲なとんび」(皿.L65)「大きな翼をし
た悪魔」(皿.L87)である。
この喜劇は風俗を映す作品で観客の熟知している実在の
このコックウッド夫人がこの芝居のタイトルになってい
世界を写実主義に徹して描いている。スプリングガーデン,
る。このファッショナブルな洗練された世界での唯一の不
グレイズイン遊歩道,セントジェごムズ通りと公園,新交
格好な侵入者をエサレッジは容赦なく描く。1g社交界とい
易所,ペルメル,芝居小屋,飲食店やクラブなど。観客に
うものをよく心得ていないし,若い女と同じように町の
はそこが気晴らしと恋のアバンチュールの場所だというこ
しゃれ者にもてると錯覚している。そして哀れにも王政復
とがすぐわかるところだ。『バラ苑』とか『厚歯』などは
古期の恋のやりとりの業を修得出来ていないのに情事を求め
エサレッジやPepysが肘を突き合わせて会食した店であ
てやまない女だ。20世間にも身内にも道徳の手本のように
る。このような身近かに感じる親密感は1668年当時のウエ
とりつくろうのだが,いつも「不幸」(1皿,iii.45)に直面
ストエンドにあった町のおもかげをこの喜劇の中に再現し
する。即ち,夫の不義の発見と自分の不義密通の発覚への
てくれると現代の我々にもこたえられない魅力の一つだ
恐怖である。
し,まして,その当時の観客には抵抗し難い魅力だったは
この作品のおかしさの一つはLynchの言う社交界の規
ずだ。29
準の圧力によって粉砕されるところにある。21そして彼女
人物の役割が第一作から引き継がれている。サー・フレ
の名誉の概念がへこまされているところである。22社交界
デリックに代って二人の喜劇的な主人公のコートオールと
の華麗さの中の醜悪の研究の第一号23であり,社交界の偽
フリーマン,未亡人には二人の女主人公のアリアーナと
購的女の完壁で輝かしい.肖像の第一号24であり,喜劇であ
ギャティー,騙され易い間抜けのサー・ニコラスには二人
り,喜劇の代表的なきまった人物になった,中味のない,
の田舎の勲爵士のサー・オリバーとサー・ジョスリンをあ
偽善的な色気狂いの中年女の第一号25で,博物学的肖像26
てた。そして,この集団に,後の喜劇には欠かせない要素
となった傑作人物である。しかし,欲求不満のために性に
となる女の騙され易い間抜け,即ち,コックウッド夫人を
熱心な女のテーマはそれほど独創的なものではなく,例え
つけたした。これが描く作品の輪郭的なバランスである。
ばShirleyの『売春婦』(1635)でもおなじみである。27
そして,二人の女主人公は,王政復古期のはじめての機知
夫人は本能的なものを隠そうとするのに対し,夫の
にあふれた女性たち(woman of wit)ではなかろうか。
サー・オリバーは本能的に振舞おうとし,夫人がこっそり
これらのwittyな女たちが都会のしゃれ者を相手に対等に
と淫婦になりたがっているのに対し,放蕩者だと思われた
闘うとき,そこには軽快,快活といった気分が生まれてく
がっている。夫人は夫が最悪な夫だと思っているのに対し
る。第一作で竹馬をつけて歩く技巧が際立ったのに対し,
て,彼は夫人が最もよく出来た女房だと思い込むcuckold
こんどは羽根が生えて飛び上る30風情である。
である。兄のサー・ジョスリンとは「ハープとバイオリン
王政復古喜劇の対話の特徴は機知の崇拝である。宮廷の
で,自然の女神がいつも二重奏で間抜けを演じるように音
才人たちの聞で交わされる輝かしいことばに,さらに磨き
程の調律がなされる」伍.i.3−5)人物で,若さと才覚も
をかけた模写が作り出されている。この写実はイギリス人
ないくせにめかし屋を気取る。「田舎では紳士の気晴らし
固有の常識であるsolidity(うつろでなく実質的であるこ
が出来ず,すっかり呑兵衛になつちゃった。男が大声をあ
と)によって変容され,明確化されたプレシウスを写し出
げて誓いをたてれば,まるで発砲したみたいに人々はびっ
している。このイギリス流の整理整頓によって簡略化が進
くりするし,教区の牧師の世話にならずにどこかの娘に手
められているのがm.i.112−120であり,パラドックスの使
をつけて,証拠でも残せば騒動が持ち上って,そこに居ら
用が効果的なのがll . i. 152−160であり, Dryden以上の当
れなくなる」(1.i. 92−9)ので,同じく意気抜きを企てる
意即妙な対話の中に陽気さを盛り込んでいるがII .i.
放蕩者だ。そしてレイクヘルのような牽春斡旋屋やその売
91一一110である。31
春婦などが最も高級でいきな仲間だと思っている。
ここでエサレッジが修得した技法は「抑制のすばらしさ」
この作品でエサレッジはCongreveを除けば彼の右に
出る者のない秀逸さで社交界の規準を浮き彫りにしてい
で,エリザベス調の場面なら,ここで大騒ぎとなって笑劇
る。32即ち,社会的制約と本能的欲望との葛藤33をテーマ
の域にまで跳びはねてしまうところだが,それを悟ってエ
にし,誠刺的な目で各人物の愚行に焦点を合わせて,さま
サレッジは几帳面なことばで乱れないように締めている。
ざまな行為を作り出す。都会とは大きなところで他人に知
一 127 一
津山高専紀要第24号(1986)
られずに居られるから,社会的制約は本音の欲望を邪魔だ
1 あら筋
てしない。個人的自我と社会的自我とを区別することが出
骨一幕 第一場(ドリマントの衣裳部屋) ドリマントは
来る。このように都会は自由をあらわし,田舎は制約をあ
ラブイット夫人との恋も色あせて,儀礼的な恋文も納税の
らわす。情事や恋愛遊戯は都会と自由に結びつき,結婚は
義務を果たすみたいに感動がなく,女は感がいいから見抜
閉鎖と田舎(これは次の『当世紳士』で証明されている)
かれそうだとつぶやく。こんなときオレンジ売りの女の声
に結びつく。34このような自由という条件に人物が置かれ,
がする。中へ寄び込んで品物にケチをつけてからかう。彼.
都会のセンスをあらわす二人の主人公に照し合わせて,田
女の話では母親と一緒に美人の娘が町へ出て来て,ドリマ
舎から出て来た人物たちが洗われて,才人と愚人が選別さ
ントが新交易所でどこかの女をからかっているのを見て,
れていく。即ち,識別の喜劇(comedy of judgement>35
彼女はドリマントを知ったらしい。
になっている6
このとき友人のメドレーが来る。その女の話を聞いて,
この作品の大きなテーマは名誉(honour)であり,喜
メドレーは去年会って知っており,ウッドヴィル夫人と娘
劇的な両義性をもつテーマであった。最も批判されている
のハリエットであることをあてる。娘は絶世の美人で資産
コックウッド夫人の場合にはこの名誉ということばは評判
家だというので,ドリマントはぜひ会いたいと思う。
であり,回外交渉で自由を味わうためには確保しておかな
さて,ドリマントは付き合っているラブイット夫人を捨
ければならない必需品であった。従ってそれは偽善という
て,夫人の親友のベリンダに乗り換えることをベリンダに
意味と同様であり,実体を隠すうわべ,とりつくろい
誓った。夫人にどうやってあきらめさせるか,その秘策を
(appearance)となってあばかれる。36そして,女主人公
ベリンダが練ったという。即ち,今日の午后,夫人を訪問
たちは,結婚の頼りなさというこの時代特有の考え方に付
することにするが,それより一時間前にベリンダが訪問し,
合しながら,頼りになる結婚を達成して人生の自由を得る
ドリマントの他の女との情事を告げ些して夫人を怒らせ,
ために知恵をしぼる。第一作は女主人が未亡人であったが,
彼が入ったときには怒りが爆発するように仕向け,けんか
この作品では王政復古喜劇の最大の魅力である愛のかけひ
別れをしょうというもの。
き(verbal fencing)があって結婚条件(proviso)に至る
下男に手紙を夫人に届けさせたあと,飲んだくれの靴屋
典型的な喜劇になっている。
が金をせびりに入って来て,半クラウンを与えて追い出す。
そのあとベルエアが入って来る。みんなは彼女のところへ
皿 The Ma購of Mode『当世紳士』(1676)
行かなくていいのかとひやかし,ドリマントは召使の手を
この作品の初演は大成功であった。なめらかで機知に富
借りて身なりを整えている。それを見てメドレーは,フラ
んだ対話はそれまでにない出来栄えを示し,確かで輝かし
ンス帰りのめかし屋のサー・フォップリングに対抗意識を
い王政復古期の放蕩者の肖像は傑出している。エサレッジ
燃やしながらも,ラブイット夫人を引きうけてくれること
はWycherleyが『田舎女房』で発展させた善悪の観点を
を喜ぶ。
採用せず,機知(wit)こそ終局の美徳として貫いてい
ベルエアは品行方正な男だからドリマントは彼と親友で
る。iLangbaineはこの作品の上演にあたって「高い技量
あることによって,評判上都合がいいし,礼節をわきまえ
と判断力とで書かれ,これぞ,本当の喜劇と識者から評価
た男として通用する。ベルエアはハリエットとの結婚を親
され,人物は劇場復活以来,最も生き生きと描かれている」
から強制されているが,エミリアとの結婚を望んでいる。
と述べたのに対し,他方,Steeleは The SPectator 65号で
ベルエアの父親が町へ出て来て,エミリアの隣りの家に
「この傑作は善行,良識,公徳心とは真反対の作品である」と
宿泊し,今日の午后にはハリエットとの縁談を受けるのか,
評し,2Steeleの道徳観から非難している。 Walpoleは次
それとも財産相続を放棄するのかの返事をせまられるとい
のように見ている。これはイギリスはじめての気取りの喜
う。とにかく,『ロング亭』で一緒に会食しようと決めて出て
劇(gentee! comedy)だ。筆致は自然で繊細で誇張がない。
行く。
…『スベクテイター紙』でAddisonが(実はsteeleの誤
そこへなじみの娼婦から金をせびる手紙がとどく。ドリ
り)この芝居を呪ったとき,この作品が宮廷の作法を擁護
マントはうなずき,メドレーと一緒に椅子かごで『ロング亭;』
したというよりも調刺したのだということを忘れているよ
へむかう。
うだ。放蕩な会話がなければこの時代を彩ることは出来な
第二幕 第一場(タウンレー夫人の家) ベルエアの父は
かったであろうから」3と。エサレッジの作品が外国作品
息子をハリエットと結婚させようと考え,もし息子が応じ
や以前の作品をモデルにせず,まさにロンドン世界の芸術
なければ父がエミリアと結婚して財産を相続させないと
的な反映とみなされることがDrydenによってこの作品の
言っている。父の妹のタウンレー夫人は相思相愛の甥とエ
Epilogue(1−6)に述べられている。
ミリアを結ばせてやりたいと願っているが,父を怒らせて
一 128 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 村
はいけない。父が現われて,息子をつれてウッドヴィル夫
さて,サー・フォップリングが現われ,ドリマントをは
人のところへ出て行く。
じめ,彼に肘鉄砲をくわせたりしないで,言いたい放題言
そこへ久しぶりにメドレーが現われる。彼は好いた者同
わせてやろうと考える。フランスかぶれのサー・フォップ
志をくっつけたり,トランプのもめ事を修復したりして評
リングを一同がおだて・いい気分にさせる。そして,ラブ
判がよく,町の情報をよく把んでいる。『機知のあそび』
イット夫人をす・める。サー・フォップリングは,昨日会っ
とか『気取りの仕方』などの新刊本をみんなに紹介したり,
たときは迷惑顔だったと自信のないことを言うので,それ
ロシアからバレー団が来て,熊いじめの見世物小屋で近い
はとりつくろい,気取りのためで,サー・フォップリング
うちに公演があるとしゃべる。
のことを心よく思っていると勇気づける。今晩,セント
第二場(ラブイット夫人の家) ドリマントから手紙がと
ジェームズ公園で待ち合わせ,ペルメルで夫人に会える段
どくが,二日間も放ったらかしにされた夫人はいら立って
取りにすると約束する。
いる。そこへ親友のベリンダが現われる。田舎からの淑女
第三場(ペルメル) ドリマントに会えることを期待して
たちを芝居に案内し,ドリマントが動きの優美な地位のあ
ハリエットとベルエアがセントジェームズ公園にやって来
る婦人と一緒だったと告げると,夫人は怒り狂いそう。そ
る。ハイドパークと違ってこの群集の中の方が人目につか
こヘドリマントが現われる。
ないからだ。ハリエットはドリマントが愛想よく振舞い,
ドリマントは気分という奴を抑えることは出来ないもの
やたらと気取るのが好かないなどと話しているところヘド
で,気分は毎日変り,人間の弱さという奴で,どうしょう
リマントが立ち聞きして近づく。お互いがベルエアに紹介
もないと言って夫人を刺激し,夫人が扇子を折ると,冷や
されてハリエットは心の内を明かすまいと決意して恋のか
すのに扇子がいるじゃないかとからかう。.そして,ベリン
けひきが展開される。
ダに,一切を夫人にばらした復讐として,これからはもっ
そこヘハリエットの母親と下女のビジーが現われるがド
とお前を追いまわし,公園ではいちゃつき,どこへでもぴっ
リマントが母親の恐れるドリマントとは知らない。そこヘ
たりくっついて,みんなが嫉妬する位に振舞って,お前の
サー・フォップリングが近づき,ドリマントと声をかける
と,この群集の中にドリマントが居ると思い,急いで娘を
評判を世間が疑うようにしてやると言う。夫人はドリマン
トが愛を誓ったくせにと責めると,彼は愛に溺れていたと
連れて母親は逃げ去る。
きに誓ったことで,愛なんて将来への保証にはならないと
ドリマントはサー・フォップリングにラブイット夫人の
夫人を突き放す。そしてサー・フォップリングに色目を使
居そうなところを指示して行かせる。サー・フォップリン
い,彼をものにしようと気取ったときめつけて出て行く。
グがラブイット夫人をみつけると馬車と馬丁を帰らせ,ラ
ベリンダはこの夫人の捨てられ方を見て,次は自分の番か
ブイット夫人も愛想よく対応し,すっかり意気投合する。
しらと不安になる。
その姿を見て,気の多いドリマントは夫人に嫉妬してメド
第三幕 第一場(ウッドヴィル夫人の宿) ハリエットは
レーにからかわれる。
ベルエアと結婚させられようとしているが,先日ドリマン
そこヘハリエットの母親の下男が使いにやって来て,
トを見て以来,すっかり彼に惚れてしまい,土地や財産を
コーテージという名前で訪問するようにドリマントに伝え
捨て・も愛に生きたいと願っている。そこヘベルエアが現
る。
われ,お互いの心の内を明かし,結婚しないことを誓い合
第四幕 第一場(タウンレー夫人の家) 楽士を呼んでの
い,共同作戦をとることにする。時間をかせぎ,展望を開
社交界で踊りが終っての休憩に入ったところ。ドリマント
くために,まるでお互いが相思相愛であるように振舞おう
はウッドヴィル夫人に今の時勢の嘆かわしい面を強調して
とする。そこヘベルエアの父とハリエットと母が入って来
取り入り,ベルエアの父はエミリアに惚れているが彼女が
て,愛し合う二人の演技がはじまり,親たちは二人の結婚
彼の方に乗って来ないので腹を立て・いる。
を信じる。
さて,ドリマントはハリエットに近づき,恋のかけひき
第二場(タウンレー夫人の家) ベリンダはドリマントが
がはじまる。うっかり,ドリマントは彼女に惚れている様
ラブイット夫人に残酷な仕打ちをしたとしゃべり,ラブ
子を表にあらわしそうになるが,こらえて,お互いが相手
イット失人とサー・フォップリングの仲をドリマントが嫉
に愛を告白させようとする。
妬するほどだという評判を流す。
そこヘサー・フォップリングとお伴の者が面をつけて現
そこヘドリマントが現われ,ベリンダに指示をする。即
われる。ホワイトホールでの国王の夜の接見に出会い,帰
ち,今晩,ラブイット夫人をペルメルへ連れ出し,間もな
りが遅れ,音楽が聞えたので立ち寄ったという。連れはフ
く来るサー・フォップリングをペルメルへ行かせて二人を
ランスで舞踏師をしていた男たちで,一緒にサー・フォッ
合わせようと。
プリングが踊る。
一 129 一
津山高専紀要 第24号 (1986)
ドリマントはコーテージという名前ですっかり気に入ら
感じて,体の不調を理由に帰って行く。
れるが,ベリンダとの情事の時間だ。ウッドヴィル夫人に
第二場(タウンレー夫人の家) タウンレー夫人は兄に内
この連れの中にドリマントが紛れ込んで居るかも知れない
緒でベルエアとエミリアを結婚させてしまおうと牧師を連
とおどし,娘を連れて帰るように促す。
れて来ている。そこへ父親のベルエアが現われ,牧師を押
第二階(ドリマントの家) ドリマントとベリンダの情事
入れに隠す。父親は息子とハリエットを結婚させるべく,
が終って,下男のハンディーがシーツをまるめている。ベ
階下で書記に結婚の書類を書かせている。一同が階下へ行
リンダはドリマントにラブイット夫人とは会わないことを
き,ハリエットとエミリアと下女のビジーだけになると,
約束させて,椅子かごで帰るところ。そこヘタウンレー夫
好きでもないベルエァと結婚させられる位なら田舎へこも
人のところに居た連中が訪れて来たので,見つからないよ
うにベリンダを裏から逃がす。
りたいと嘆く。ドリマントが好きでたまらないのだが,誰
れに対してもドリマントをくさす。ビジーがドリマントの
サー・フォップリングはおしゃれについて講釈を並べ
作った歌を唄って彼女をなぐさめる。
て,ラブイット夫人とはすっかりうちとけたと自慢し,き
そこヘドリマントが現われる。ベルエアとハリエットの
かせてやった歌をここでも披露して出て行く。メドレーと
結婚誓約書が作られ牧師が迎えにやられた今,ドリマント
ベルエアの三人になって,ドリマントはラブイット夫人と
の力でハリエットをものにし,ベルエアとエミリアが結ば
ハリエットの話に移り,財産目当てのドリマントには簡単
れないと時期を失ってしまう。ドリマントはハリエットに
にラブイット夫人に見切りをつけることも出来ず,ハリ
愛の告白をはじめるが簡単にはハリエットは愛を受け入れ
エットには自信を失ったと言う。みんなから,ハリエット
ない。ドリマントは一切の欲望を捨てて,すべてをハリエッ
も彼に夢中であることを説明され,励まされる。
トに捧げることを誓う。ドリマントはハリエットについて
第三場(ペルメル) かごに乗ったベリンダがおろされる。
田舎のハンプシャーで暮らさなければならない。ハリエッ
トは最後の最後まで結婚に抵抗しようと決意する。
色男のとこから何も言わずに乗ればここへ連れて来られる
ようだ。ラブイット夫人の指示で下男が見張っている。ベ
一同が二階に上って来て,ベルエアの父はエミリアと結
リンダはかごかきに金をにぎらせてストランド街から乗せ
婚式をあげようとする。妹のタウンレー夫人は押入の牧師
たことにするように頼む。下男が近づき,ラブイット夫人
を紹介するが,すでにユ2時をすぎていて式はあげられない
がぜひ会いたいし,朝5時までには出て来るはずだと言わ
し,すでに午前中にベルエアとエミリアの結婚式をあげた
れたと言う。バレたら大変だ。
と言う。ウッドヴィル夫人は,いつまでもこんなところに
第五幕 第一場(ラブイット夫入の家) ラブイット夫人
居るとペテンにかけられそうだと言って娘のハリエットを
はベリンダを疑い,かごかきに彼女がどこから乗ったか,
連れて行こうとする。そこヘラブイット夫人とベリンダが
下男に調べさせるが,ベリンダの言う通りなので疑いが晴
入って来る。ドリマントとの話を聞いていたウッドヴィル
れる。そこヘドリマントの来訪が告げられる。ベリンダに
夫人はコーテージがドリマントであることに驚く。ここで
は心外である。夫人から詮議やら,ドリマントのことやら
ハリエットはドリマントの愛を受け入れることにする。
で,血の気が失せて気分が悪くなり,ラブイット夫人の私
ドリマントはプライドを傷つけないように,ラブイット
室へ連れて行かれる。
夫人を愛していたが結婚するわけにはいかなかったことを
ラブイット夫人はドリマントをあきらめきれないが,と
説き,ベリンダにも対面と名誉を傷つけないように説明す
にかく冷たく対応しようと決意してドリマントを迎える。
る。
ドリマントはサー・フォップリングのまねをして夫人にと
メドレーは父親のベルエアに息子とエミリアの結婚を祝
り入り,サー・フォップリングに嫉妬して,サー・フォッ
福するように説得する。そこヘサー・フォップリングがラ
プリングをくさす。夫人はサー・フォップリングこそ女性
をたてる人格者だと言い,双方とも意地を張り合い,これ
ブイット夫人を追って現われる。しかし,夫人の不気嫌の
理由がわからず面くらう。
で別れようということになり,ドリマントが出て行こうと
なかなか応じなかったウッドヴィル夫人はみんなに説明
すると,夫人は呼び止め,あんな吐気を催させるサー・
されて,ドリマントが娘と結婚することを許す。都会好き
フォップリングなんて嫌いだと白状する。ドリマントはも
のハリエットは,ドリマントとの結婚をものにしたが,ロ
う一度ペルメルで公衆の前で彼を不気嫌に扱ってみうと言
ンドンのいやな物売りの声「ヒメウイキョウとキューリの
い,自分の虚栄心を満たそうとして夫人を苦しめる。
ピクルスはいらんかね一」の声よりもっといやなミヤマガ
ベリンダが現われ,ドリマントは驚く。万事休すだ。と
ラスの「カア,カア」の声が聞えると言って終る。.
にかくドリマントは逃げ出す。ベリンダを疑う夫人はベリ
2 場面解説
ンダに一緒に出かけようと誘うが,ベリンダは身の危険を
ベルエアとハリエットが相思相愛であるようにみせかける
一 130 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 村
場(皿.i.136−9,160−201)
少し下げうと言ったんですが,駄目な仕立て屋だ。
お互いに求めるものが相手に不足で,お互いに結婚しな
タウンレー夫人 手袋のししゅうはすばらしくて,大
い宣誓(IH,i.87−go)をした上で,時間かせぎをするため
きく優雅ですこと。
に,両親に疑われないように愛し合っているところを見せ
サー・フォップリング フランスでも手袋だけはよい
る場である。うつむいて扇子を見たり,重心を一方から他
ものをするという評判でした。
方の脚に移したり,一瞬扇子を動かして,優しいまなざし
エミリア パリの有名店の独創品ばかりお召しになつ
を送り,指で一本一本の扇子の骨に触わり,すばやく手を
てらっしゃる。
胸にあてて上へ少し押し上げ,ため息をついて手を放し,
サー・フォップリング おっしゃる通りです。
胸をゆっくりと下へ下げる。扇子を手の掌で軽く打ち,ロ
タウンレー夫人 上衣は?
へ持って行き,軽やかに笑い,笑いを止めて真剣な表情を
サー・フォプリング バロイ。
する。お互いに演技の指示をしながら恋人同志を演技する。
エミリア装飾品は?
確かな筆致と鋭い洞察力のある描写4で描かれるこの場
サー・フォップリング レグラ。
面を通してエサレッジの出入りする社交界の振舞い,態度
メド1/一
が示されている。5
サー・フォップリング ピカー。
サー・フォップリングがおだてられていい気になる場佃.
軒ヒは?
ドリマント かつらは?
ii. 193一一259)
サー・フォップリング シェドラ。
フランス貴族気取りのサー・フォップリング・フラッ
女性たち 手袋は?
ターは副題にまでなっているように,現代のしゃれ者の典
サー・フォップリング オランジェリー。においでわ
型で,肘まである長い手袋,丁寧にカールされたかつら,
かるでしょう。
舌のもつれるような発音,頭を一方へ少しかしげ,思い悩
んだような表情(以上,1.i.400−411)をして紳士を気取
「意気盛んで元気がよいが中味がなく,いきがっている
る。紳士とは身だしなみがよく,踊りが上手で,剣術使い
が,切れ味の悪いめかし屋」(II.ii.288−2go)で,「自然
で,恋文の才能があり,寝室ではうっとりさせるような声
そのものが詐欺師であって,頭脳を発酵させ,気の抜けた
を出し,好色になるが控え目で,しかし,堅くならず(1.
ブドー酒を発酵前の新ブドー酒に混ぜると本物の機知と上
i.425一・7)をモットーとする。サー・フォップリングは第
気した気分が生まれ」(皿.ii.293−6)る人物だ。「冴えな
三幕になってようやく登場するが,他の人物による機知に
いイギリスの阿呆の恥さらしとしてフランスへ行き,こん
富んだ彼の描写は逸品である。
どは大げさなフランスの痴れ者になって帰って来た」(IV.
「女性よりも機知の方が興味がおありのようで」「あな
i.328−330)と言われる。「女なんてバレーで跳び上っての
たのことばの輝きは女の美しさなどかないませんわ」など
脚の交叉ほどの値打ちもない」(v.ii. 423−4)と人物に不
とおだてられると,必ず装身具を中心に「あなたのスペイ
似合いな機知をとばす。
ンのレースの盛り上ったししゅうほど美しいものはない」
形だけが整い内面的欠陥が表出するサー・フォップリン
とほめ返す。「ベニスのレースほどではございませんわ」
グはドリマントが注釈を加える社交界の流行のパロディー
と来ると「とても涼しげで季節にぴったり」と。イギリス
となって演じられる。彼のsophfsticate dullness(皿.ii.
のtumbri1(荷車)をくさし, gallesh(幌つ.き二輪馬車)
294)はtasteless multitude(皿.ii.295)で,重要な問題
は優雅な形をしていると言ってほめる。イギリスの不細工
にはまるで関わる能力のない人物が見事に作り上げられて
さをくさし,フランスの優雅をたSえる。
いる。
サー・フォップリングは一瞬たりともVanbrughの
ドリマント そのパンタロンは実にふっくらとして。
Lord Foppingtonのような低能ではないし, Crowneの
サー・フォップリング飾り房は新しくて綺麗です
Sir Courtly Niceとも違って,私たちに批判めいた態度を
よ。
作らせない。6サー・フォップリングは丁度,めずらしい
メドレー 上衣のカットがいい。
ランの花が熱狂的な庭師に対する関係のようにエサレッジ
サー・フォップリング こうすると胴長に見せて,細
にとってはかけがえのない見本である。6人によっては才
身になります。
人だと見間違えかねないほどの王政復古期の典型的なめか
ドリマント 女性にもてる形だ。
し屋7であり,文学の数少ない完壁なめかし屋8であり,新
メドレー ズボンが心持ち高いようだが。
鮮さと独創性をもって作り上げられた傑作品gで,一段と
サー・フォップリング メドレーには参った。何回も
秀でたエサレッジの毛刺の無類の成果10である。
一 131 一
津山高専紀要第24号(1986)
ラブイット夫人がドリマントに放っておかれて,ベリンダ
夫人は保証代わりにすがってきた旧時代の倫理の宣誓
のことばで怒り出す場(皿.ii.1−135)とドリマントとの
(oath, vow, protestation)(1.ii.224−5)はこの時代の
倫理の自由思想(libertinism)によって崩れ去る。
決裂の場(H.ii.202一一244)
二日間もドリマントに放ったらかしにされていらだち,
ドリマントとハリエットのFencing Match
下女が婦人に合わせて「どうせ新しい女を追いかけまわし
その①(皿,iii.69−118)
ていたんでしょう」とドリマントをくさすと,夫人は下女
財産家であることを知り,美人であることを確認したド
に 「不器量な女は別丁に悪意を抱くように間抜けはとか
リマントは,もしハリエットが知性(wit)にたけていれ
く才人をよく思わないものだ」と腹を立てる。以前,別の
ば最高級の女と考える。ハリエットはドリマントを一目見
女の扇子を拾ってやったというだけで,その男を追放して
て一目惚れしてしまうところではじまる最初の対話のあざ
しまったほどの嫉妬深い女だが,どうしてもドリマントだ
やかなこと。ドリマントの顔を見てハッとするハリエット
けは手放せない。そこヘドリマントより先にベリンダが
に間髪を入れず,「空模様が突然あやしくなりましたね。
やって来て,地位のある婦人と一緒に芝居見物をしていた
今まで何千という微笑がこぼれていましたのに。そのよう
と告げ,ドリマントとの打ち合せ通り,夫人をカッカさせ,
な空の激変を見たことがありません」とドリマントが言う
と,ハリエットは「心の激変だわ,どうしょう。でも知ら
もう怒り狂いそう。そしてドリマントが登場する。夫人が
「貞節を誓ったくせに」と言えば,ドリマントは「この年
れないようにしよう」と傍白する。都会のしゃれ者らしく
で節操だなんて。季節外れもはなはだしい。秋に実る果実
遠まわしにハリエットにお付き合いを申し入れると,ハリ
が春に実るのを期待するようなものだ」「青春とは長旅。
エットは「町の男性には希望に期待をかけて暮すなんて大
泊った宿屋にいつまでもとどまっていたら,今のしあわせ
変な苦行なんでしょうけど,女性に対して四旬節を守れま
に到着出来やしない」「おれは好みには忠実なんだ。年の
すか」といなすと,「楽しいイースターを思えばその40日
いった女に若いなんて錯覚させるつもりはないし,故意に
間を耐えて見せます」と返事が返り,彼女に次のことばが
つくりごとを本当のように思わないし,あきたものを夢中
ない。そこで「ねえ,ベルエア,行きましよう。男の人が
だったときのように好んでいるように振舞う気もない」「恋
気むずかしくなると退屈だわ」と言ってドリマントを突き
心が我々に金メッキを施し,しばらくはお互いにいい物の
放すところは実に男たらしである。ドリマントが彼女との
ように映ったが,メッキがはがれて地金が出て来た」と夫
対話を続けるために,多少ケンカ腰で彼女が機知に富んで
人を怒らせる。「誓い(oath, vow, protestation)はどうなっ
いるかどうかを探る。「こうして見ていると,めかし屋た
たの?」と頼りの誓いを持ち出すと,「愛しているとき誓っ
ちが,あの女は美しい,実に美しいなんて言って,大声で
たんだ」「愛の誓いはそのときの情熱をあらわすが,将来
あんたの名前をささやくと嬉しそうな顔をして色々な表情
への保証にはならない」とやり返され,ドリマントが出て
をする。そして,もっといい顔をしょうとして気まぐれに
行こうとすると,・まだ言うことがあるといって夫人は引き
頭なんか振っちゃって,髪の房を後へ投げ,微笑を肩越し
とめようとする。「愛が腐ってきたら,早く処分すること。
に奴らに送る」と。ハリエットも負けずに「あんたじゃあ
いつまでもじわじわと情熱が消え失せるのをじっと辛抱な
るまいし,そんな男たちから好感を得ようなんて思いませ
どできない」と決別する。
んよ。あんたこそ如才ない優しさを表情にあらわして,女
ベリンダが「少し仕打ちがひどすぎるわ」(頂.iL 113)
たちの気を引こうとする。女とすれ違うときのあのゆっく
と近いうちに自分が受けそうな扱いを恐れて言うが,中年
りした大げさなお辞儀はなに?こうやって。こんなふう
のラブイット夫人に対して,残酷すぎるほどの手厳しさだ。
に」とやり返す。
ここは年甲斐もなく,いつまでも若い男にもてると錯覚し,
ドリマントは,驚嘆するほどの好色家で「イングランド
分別を尖って嫉妬心を素直に示す。この時代の最も醜い代
の最も高名な弁護士のか・えている訴訟事件の数よりも多
表的な人間像を作り上げている。そしてCorgreveの
い恋人と係争中だ」(『i.135−6)という位,女性攻略の
Wishfort夫人に引きつがれていく。
手口を心得ている。機嫌をとり,あてこすりながら,相手
名誉,忠誠,節操,献身などに対する夫人の信仰は,放
の感情を害していく。ハリエット攻略の手口も露骨だ。
蕩のためなら手段を選ばないやり口のマキャベリストの信
ドリマントは本物の才人として細身の諸刃の長剣のよう
仰とは異なる、、ことを示す部分で,「自分たちの性向を抑
な鋭いことばを持ち十分鋭利な殺意を持ち合わせ,12ハリ
えることは出来ないし,好みは日に日に変っていく。今,
エットは第一作,第二作のヒロインに比べてはるかに中味
遊びがいいと思えば,次には女性を追いかける。これは人
のある機知を持ち合わせ,洞察力といい,確かな感覚とい
間の弱さっていう奴でどうしょうもない」(丑.ii.160−3)
い,すぐれた自制心といい,図抜けた人物に仕上げられて
というドリマントのことばはこの時代の時代精神である。
いる。ユ3彼等二人はSucklingの人物たちのように比喩を
一 132 一
G.エサレッジ(1634−i691)の喜劇 西 村
投げ合いながら親密になっていく。14
劇の主人公の特徴的な運命なのだが。根本的には二つの欲
その②(IV.i. 118−197)
望の葛藤,即ち,愛の欲望と支配と自制の欲(皿,iii.143−5,
二回目の対面でドリマントは「その会釈はふざけには悪
IV. i.164−6,174−5)16を指す。
くないけど,似合うなんて考えない方がいい」と仕掛ける
その③(V.ii.101−198)
と,ハリエットは「気取りは人の気を引くでしょう。あな
「音楽は心を和らげ,心の武装を解除し,矢は抵抗なく
たの大げさなお辞儀を真似ましたの」と冷やSかに彼を嘲
心に突き刺さる」とWallerの詩を共に口ずさみ,ハリエッ
けって,「生れつきの無調法をお許し下さい。当世,顔に
トは「私の情熱が血とともに上気して,この人を見ていら
出すのが流行の,あの優しさと恋焦れるような表情を修得
れない」と傍白するほど,二人の恋は成熟している。ドリ
していませんもので」とやり返す。そんなハリエットにド層
マントが「名高い美人画が恋人の愛の告白をた・“聞いてい
リマントがもし宮中の社交場なら酷評されると言い,いつ
るだけ?」と言えば,ハリエットは「恋に狂い死にして,
も微笑をた・えなさいと対応すると,ハリエットは「美し
その絵を完成させて」と答える。ビジーにドリマントは「ハ
さが宮中で危険に晒されるのは丁度,醜い人や間抜けたち
リエット様は死刑が宣告されていて,あなた様が優しく死
が自由に酷評出来る舞台で機知が危険にさらされるのに似
刑から救って下さらなければどうなりましょう」とせかさ
てますね」のことばで,ドリマントは「たまらなくこの女
れて,「この非常事態にあって,あなたのために精一杯努
が好きだ。しかし,感づかれないようにしょう。支配権を
力申しあげます」と言えば,ハリエットは「あんたは今ま
把られたら,これまで女たちにしてきたいたずらの仇を討
でだって女たちみんなの避難所だったんでしょ」と,言っ
たれるかも知れないから…この女から伝染病にか・り,ま
て月並みな決意には応じない。
すます体中に広がっていく」と傍白する。ドリマントは自
ドリマント 私はいつも困った人たちに手を差し伸べ
分の気持を抑えて,からかい気分で愛のプロポーズをする
てきました。しかし,誰も入れたことのないこの心
と,
を開き,あなたを迎え入れます。敢えて申し述べれ
ハリエット 私の聞くところでは,あなたは恋をなさ
ば私の心はあなたのことでいっぱいです。
らず,嘲笑なさるのでは?
ハリエット 私に信じさせたかったら,もうそれ以上
ドリマント 今まではそうでした。しかし打ち明けて
言わないで。あなたは嘘つきの評判が高いから,しゃ
申しますと…
べると真実が壊われます。
ドリマント それなら顔をそらさずに,こっちを見て
ハリエット そのようなたわいない話に入るのでした
ら,私は厳しい顔つきになり,顔をそむけ,黙りこ
想像して。
くり,瞼を下して半眼となり,一時間でも私の耳元
ハリエット 顔なんか見たって何の保証にもならな
でしゃべり続けても私は一言も返答しませんから。
いって言わなかった?近ごろの女は思うま・に感
さあ,おはじめなさい。
情をあやつることが出来るって。化粧や,つけぼく
ドリマント そんなことしたら私が何と熱っぽくあな
ろをするみたいに,顔色を変えたり,喜びと悲しみ
たを口説き,あなたは何と軽蔑的に受けとめている
と於けりと同情とを表わすことが出来るみたいに。
か,まわりの人たちに悟られてしまいます。
顔なんて偽作でしょうから。
ハリエット あなたの愛が他人に笑われても平気にな
ドリマント (中略) あなたのほほの真似の出来な
るほど強いものになったら,その口説きを聞いてさ
いその色(赤面)は私のため息同様,作りものでは
しあげますわ。そのときまでやめて下さいまし。
ない。
ハリエット 罪を重ねて鍛えられてきた男に,私たち
情熱を相手にいだき,情熱を相手から隠しながらの交戦
女には男のそんな殊勝な心がけを信じない理性が備
による愛の形(verbal fencing)の面白さは圧巻である。
わりました。
ハリエットは恋人も自分の感情も手玉に取るほどの自制心
(中 略)
を持ち,本物の才人となっている。そして彼女の感情が抑
ドリマント 友情や酒から得る一切の喜びを放棄し
えきれずこぼれ出すときは,一層の鋭い悪意に満ちた機知
て,他の女たちに抱く一切の関心をあなた一人に捧
を示す。
げます。
ここはビロードの手袋をした鉄の手でゴッンとくらわせ
ハリエット待って。献身的になってほしいけど,あ
たところだ。15一級の女たらしドリマントもハリエットの
まり狂信的になってほしくないわ。しばらく女たち
手にか・って,欲情と理性の板ばさみに苦しむ。これは喜
を捨て・田舎へ引っ込むことが出来る?
一 133 一
津山高専紀要 第24号 (1986)
ドリマント あなたと一緒なら,そこで生活だって出
合上のものなんだ」と言い,夫人を「つまらない女ではな
来ます。けっしてロンドンを恋しがりません。
かった」と思わせることで,ドリマントは夫人に半ばあきらめさ
ハリエット 何と言おうと,ハイドパークのむこうは
せる。ベリンダは「愛には残酷だけど名誉には寛大だ」と
砂漠しかなく,色事の機会もなくなるわよ。
胸をなでおろし,「男って約束を破るのね」と言えば,ド
ドリマント 色事は私の愛の最大の限界だったが,今
リマントは「恋愛のときは大げさに言うもんだ。その時に
では情熱に際限がなくなり,以前に比べてあなたに
約束したことを果たそうなんて思うこと自体,不条理なん
捧げたく思う情熱を測る尺度がないほどです。
だ」と言い,「あれはよかったよ,また会おうよ」と女の
ハリエット ハンプシャーへ行ってから.そうおっしゃ
自尊心を傷つけない。ベリンダに「もうおしまい」と言わ
るのを聞けば多少なりとも真実性があると思えばじ
せる。結局,ドリマントは自分の名誉と虚栄心に対して優
めるでしょう。
しいのである。
ドリマント これでいいでしょ。さあ,約束して。
ハリエット 約束はきらいです。約束って建て前で本
ラブイット夫人 この世の中に偽りと無礼しか存在し
音に欠けますもの。
ないのね。男はみんな悪党。そうでなければ間抜け
ドリマント 期待してはいけませんか。
だわ。私の不幸がいい例よ。ベリンダ,幸せになり
ハリエット それはあなた次第で私に関わりのないこ
たかったら神に一生捧げることね。
と。禁じたってはじまらないでしょ。…行儀作法に
ハリエット 長いことドリマントがあなたの全能の神
反するようなことをしたらこの人に嫌われますよう
だったけど,ここらで別口を考えたらどお?
.に。…この結婚には堅意地張っても抵抗してやるか
ラブイット夫人 こんな女にからかわれるとは。家に
閉じこもって二度とこんな世間の顔を見るものか。
ら。
ハリエット 隠遁生活には尼寺が最も当.世風で,激し
とことん最後まで男に脆かせ,しゃれ者の最も嫌う田舎
い欲情の最後の破滅の場所だわ。
の踏み絵でドリマントの愛情を確かめる見事な機知に富ん
ラブイット (傍白)気を落さずに!家に着くまで!
だ女だ。ここは大詰めの結婚条件(proviso)の場である。
返答すればますますこの女に勝ち誇らせることにな
Wallerから引用してドリマントとハリエットは似合い
のカップルであることを示すやり方はCongreveの『世
間の習い』の第四幕でミラベルとミラマントが同じく
Wailerの詩を引用するのと同じだ。二人は永遠の関係と
なることが暗示されて,ラブイット王入とベリンダに対す
る。
ハリエットは母親からドリマントとの結婚を認めてもら
うために,母親に「母上の意志に逆らって彼と結婚したり
いたしません」(v.ii.377−8)と言う。「この子は私の心
るドリマントの扱いは心の伴わない愛であったこと・対称
を溶かす手口をちゃんと心得ている」(379)とつぶやき,
する。17
タウンレー夫人は承諾する。
ハリエットの機知は真心のこもった,偽りのない感情と
健全な判断力から湧き出るから魅力的である。18Dennis
が『当世紳士』について「対話は現代の人たちによって書
ハリエット 人影のないほどに閑散とした大邸宅の割
かれたもの・中で最も魅力的である。対話は純粋さと簡潔
りに家族が小さく,大きな客間で距離を隔てて椅子
さを持ち,技法と優美さがあり,力強さと快活さがあり,
に掛けて,母と年老いた足の悪い叔母と私が居るだ
最上の優雅さと繊細さをたたえる」と述べたとき,De−
け。大きな鳥かごの中の三,四羽の物思いに沈んだ
nnisの心の中にあったのは特にハリエットの言葉であっ
鳥のようにふさぎ込んで座っている。どお? 決意
たに違いない。1g
がぐらっかない?
その④(V.ii.310−346,429−443,469−483)(Proviso)
ドリマント 百々。あなたをはじめて見たとき,胸が
ハリエットからドリマントへのprovisoがあり,結婚
キュンと痛む恋の思いがしましたが,今日で心の自
を合意した次に,ドリマントはラブイット夫人を納得させ
由を放棄しました。
なければならない。「あなたの激しい気性が私の幸せを破
ハリエット それは田舎に住むよりもっと悲惨なこと
壊した」ためで「もし理性的な女ならば財産と愛の両方を
だわ。エミリア,そんな淋しいところへ行く私を哀
得て幸せになれた」かもしれないのに,あなたの思う通り
れんで。あのいやなミヤマガラスの鳴き声がもう聞
になるためには「財産をあきらめて愛だけに生きねばなら
える。カーカーカー。ロンドンのあの最悪な物売り
なかっただろう」「女房とは財産のほころびを修復する都
の声の方がまだまし。「ヒメウイキョウとキューリ
一 134 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 ・西村
れて,愛情抜きと倦怠の絵平様が作られている。ドリマン
のピクルスはいらんかね一」
トは典型的な好色家で自分の独自性を守り,快楽を追求す
Clifford Leechはハリエットを惚れ惚れするような女
と呼んだが,シェークスピアのロザリンド風のロマンチッ
ることに才覚を発揮する。情事とは男女間の互恵であると
クなヒロインではない。Summersがハリエットを口の悪
も双方の責任と考えるから,お互いに共有するものは存在
い,実に冷静な生意気な小娘と呼んだが,これに近い。彼
しない。25従ってそこには深い満足感がなく,愛の行為が
女は美しく,機知に富み,意地っ張りで,交際術にたけて
退屈しのぎにすぎないことを強調して,例えば,ト書きの
し,いずれの側にも義務を生じないと考える。人格も快楽
いて,母親さえ自分の願う方向へ向けてしまう。20「あの
「ハンディーはシーツを取りまとめている」(IV. ii)とは,
男の言葉は天使だって堕落させてしまう」(皿.iii.136−7)
ハンディーは汚れたシーツの洗濯に移ることを意味する。
ほどのhonest knavery(ドリマントのこと)21を手玉に取っ
そしてそのあと(IV. ii.73−8)のことばは二人の情事の味
気なさを象暫している。
た。
3 評価
ドリマントの恋人たちへの野獣性について議論があるが
この作品には遊戯喜劇(artificial cQmedy)の三つの代
批評家全員の一致している点はこの時代には女性は同情の
表的人物,それは放蕩者,めかし屋,告げ口屋が存在す
対象にはならなかった26ことである。この獣性とあか抜け
る。22即ち,ドリマントとサー・フォップリングとメドレー
した傑出した人物は王政復古文化の開花27を思わせる。ハ
である。しかし際立った人物はtrue witのドリマントと
リエットは明晰だが,シェークスピアのロマンチックなヒ
ハリエット,false witのサー・フォップリングとラブイッ
ロインたちのような惚れ惚れするような女に比べると.少々
ト夫人に尽きよう。
意地が張りすぎている。28という意見もあるが,これがこ
ドリマントは「近ごろは色恋ざたも静まり返って,三日
の時代のヒロインの特徴だ。主人公からの攻撃に抵抗し,
澗は会ってやらないなんて言って女を怒らせて,女が扇子
あくまで結婚を要求するだけの才覚と自制心を持ち合わ
を折る楽しみを味わってない」(1.i.218−221)という放
せ,ドリマントの世界の放蕩主義又はマキャベリズムの思
蕩者で,結婚相手に求める女性の美徳は美人か(1.i.50),
想に引き込まれないようにして,自分の美点を守り抜く。
資産家か(1.i.138−9),機知に富んでいるか(1.i.156)
そして,逆に彼を名誉の世界2g即ち,安定と秩序と名誉30
である。ハリエットはオレンジ売りのことば,「この桃を
の世界へ引き寄せる。
食べてごらんよ。実が種からポロッともげて,どのニュー
王政復古期のロンドンの社交界が鋭いタッチで描かれ,
イングトンの桃よりもうまいから」(1.i.54−5)に象徴さ
この感覚は今日でも通用しそうである。もしもJonsonの
れる絶世の美人である。結婚には何やら彼女なりの基準が
『錬金術師』が悪党たちの権謀術策と常套手段の論文だと
あって「結婚に伴う義務というものがあって,サウルの娘
すれば,『当世紳士』はかっこいいロンドン生活の手引書
のメラブのように,私だって一歩も引けない気分があって,
である。31ロンドン社交界を鋭く,陽気に,生き生きと,
いやなものはいやなのよ」(1聾.i. 55−7)という激しい気性
細部に到るまで描ききったカタログであり,行為の描写集
を備えている。ラブイット夫人は激しい恋が好きで嫉妬心
であり,冗談事である。ここがエサレッジの特徴であり,
が強く,ヒステリー(afit o’the mother)(1.i.226>を
値打ちのあるところだ。32喜劇の二つの目的,即ち,娯楽
よく起し,「苦しむためにわざわざドリマントを選び,す
性と教訓性に応え,対話は同時代人.の誰よりも魅力にあふ
でに10本の扇子を折り,10枚のレースのハン.カチを切り裂
れている。33イギリス喜劇の中の傑作の一つと評され,ド
き,数限りなく頭町やリボンを今わしている」(H,i,141−5)
リマントとハリエットは王政復古期の理想的肖像画と言え
ドリマントにとって最悪なpis aller(1.i.188)である。
よう。
この作品では気取りは軽蔑の対象であり,その最たる入
】V Conclusion (結 論)
が,サー・フオップリングで,この概念に肉づけされて,
その化身になっている。彼には内面の人格というものがな
エサレッジの喜劇では人物たちをtrue witとfalse wit
く,外観だけで,身なり,所持.品,それに形式だけであ
に描き分け,風習喜劇という新しい分野をはっきりと確立
る。23
したと言えよう。(false witについてはAddisonが6回
この作品もtrue witとfalse witの対比の面白さであ
にわたってThe SPectator(1711)の58−63号で解明している)
る。そして,最大の放蕩者のドリマントと最大のめかし屋
ここではtrue wit,とりわけ主人公と女主人公を扱う。
のサー・フォップリングを対比させ,魅力あふれるドリマ
普通は男が女をみそめ,女性に接近し,愛を告白し,女
ントによって女たちが種別されていく。ハリエットとの
性の気持を男の方へなびかせ,女も男の情熱に動かされて,
wit combat 24とは対照的に,他の女たちとの情事が描か
相思相愛となるが,エサレッジの作品では女は内心では男
一 135 一
津1山高専紀要 第24号 (1986)
にひかれているが,男にひざまっかせ,愛の証をたてさせ
ちゃんとこの世の中.を心得ている。「今まで女が男に許し
るまでは意志表示をしない。一時の情熱に動かされて愛の
てきた一切の権限を取り上げてやる」(1,ii.180−1)と決
「宣誓,祈誓,宣言」(oath, vow, protestation)(Man
意している。「結婚にはそれに伴う義務が存在する。至聖
of Mode fi.ii.224−5)をたてても,「将来の保証にはなら
な女サウルの長女のように,親の決めた結婚にはかたくな
ない」(Man of Mode n.ii.231)ことを知っている。こ
に抵抗する」(Man of Mode, IH.i.55−7)と言い,「自分の
の宣誓が法的に効力を持つようになったのは1888年以降で
義務に従う」(V.ii.307−8)と決意している。「男が約束
ある。宣誓法(Oath Act)は宣誓の必要なすべての場合に,
通りに果たすと期待するのは無分別というもの」(v.ii.
それに代って確約(affirmation)をなしうるものとしてい
337)を心得て,結婚には「教会の保証なしに男に自分を
る。1そして,エサレッジの場合は主人公たちよりも,む
ものにさせない」(IV. iii. 209−210),即ち,名誉と道義を
しろ,女主人公の方が先に惚れている。女には理性がない
重んじる世界へ男を引き入れなければ,男を掌中におさめ
と言われるfalse witたちとは異なり,彼女たちは理性的
ることは出来ないことを知っている。喜劇作品の中と同様
に思慮分別を働かせて,情熱を押し殺して,色男を気取る
に,この時代の社会でも明らかに,結婚前に性交渉に応じ
しゃれ者を屈服させて夫に迎え入れている。
る女は恋人としてはどんなに望ましい女であろうと思慮分
主人公の特徴は「女なんてペテンだ」(Comical Revenge,
別をわきまえた男にふさわしい花嫁とはみなされなかっ
Lii.199)「悪徳にたけた女は美徳を気取るのもうまい」
た。3
(V.v,132−3)と言う女性蔑視者。「恋の一本道なんて筋
結婚条件(proviso)では女の立場の弱さと将来への不
が一つしかない芝居同様退屈」(She Would皿,i.114−6)
安を少しでも軽減するために四苦八苦するが,『出来れば
と言う放蕩者で,「イギリスの著名な弁護士のかかえる係
やるさ2では,男たちを求婚者と認めた上で,なお,一ヶ
争中の事件の数より多い恋人」(Man of Mode, ll.i.134−6)
月間の素行を観察し,その上で「信義を重んじる紳士」(man
を持ち,順次片つけるのに大わらわ。「理解力があり」(I
of honour)であるかどうか検討し,「その先へ進められる
i.468),sardonic pleasure(n.i.202−231)を好み,「口
だけの勇気」(courage enough to engage further)がある
が悪く」(foul 一 mouthed rogue)(1.i.179)「天使だって
かどうか判断して,結論を出すと言い渡す。『当世紳士』
二度までも堕落させる」(皿、ii重.136−7)ほどの「手練手
では,虚栄心の強いめかし屋を屈服させるために,最後ま
管にたけ」(v,i.128)「立派なお辞儀」(皿.iii.197)のい
で来てもなお,「他人の目に触れて他人に笑われても平気
んぎんさを心得た,「虚栄心」(v.i.272)の張った「高慢
なほどに愛が強くなったら,口説きをきいてあげる」と突
な気性の男」(皿.iii.228)たちだ。思想感情は自由思想
き放し,「あんたは嘘つきの評判が高いから,しゃべると
(libertine)に基づき,「紳士の望む幸せとは気ままに生
真実が壊われます」と言っ.て,彼の武器の弁舌のさわやか
さを抑え,「男の殊勝な心がけなんて信じない理性が備わ
きることで,結婚を余儀なくするのは借金を埋め合わせ」
(She Woπ堀V, i. 494−6)るときで,「財産と結婚する」
りましたわ」といなす。男に「友情も酒も,一切の喜びを
(Man of Mode, IV. ii.213)という当世風の紳士たちであ
放棄して,他の女たちへの関心をすべてあなた一人に捧げ
る。ドりマントは女を物色するときの基準に三つの条件が
ます」とまで言わせて,ヒロインでさえいやな田舎に住ま
ある。「美人か」「財産家か」「機知に富んでいるか」(1,i.
ねばならないことのために,田舎(Hampshire)へ引っ込
50,139,156)である。風習喜劇のζロインの貴重な三大
むことが出来るかどうか,「Hyde−Parkのむこうは砂漠
属性とは,機知,美貌,財産である。この三つがこの社会
しかない」ことも覚悟させねばならない。「心の自由を放
から要求される美徳である。この機知とは単に機知に富ん
棄します」とまで誓うと,「それは田舎に住むよりもっと
でいるというだけでなく,知的洞察力とか,機略縦横の才
悲惨なことよ」と釘をさす。
覚も含まれている。2
どの作品をとってみてもヒロインが観客を魅了する。そ
女主人公はみな「野性味があって,機知に富み,なまめ
して女性が栄冠を勝ち取る。男が夢中になるまで獲物をじ
かしくて,美しくて,若く」(Man of Mode』,iii.381−2)
らし,男に愛を告白させるが,簡単には応じない。
「誰にも劣らぬ意地悪さ」(1.i. 158)を持つ。「あばずれ
シェークスピアは『から騒ぎ』の中のべネディックとビー
娘と尻軽娘」(Sly−girl and Mad−cap)と呼ばれ,「おて
トリスで,Drydenは『秘かな恋』で, Congreveは『世
んば娘」(skittish fillies)(She Would, ll.iii.140)の側
間の習い』のミラベルとミラマントで,Shawは『人と超
面を持つが才覚に富み,「慣習が女より男の方が上だとい
人』の中で,喜劇の一つの公式を樹立している。この公式
う特権があるから,男を手玉に取っても男にはかなわない。
を彼の喜劇論(鉄則)と思わせるほどに徹底して使ったと
男はどこででも女あさりが出来て,バカな女たちは男が立
ころはエサレッジの非凡なところだ。4男と女とが相手に
派だなんて思ったりして」(She WouZd I.ii.163−8)と,
対して対等な立場に立つというのがこの時代の要求であ
一 136 一
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇 西 回
w三t),即ち,粗野な間抜けと,とるに足らぬ人(coarse
り,喜劇の前提条件であった。5
この時代の喜劇の人物の典型は人をだしぬく策略をやっ
fools and triflers)とを対比させている。12当世風の紳士
てのける若い恋人,圧制的な父親,めかし屋,間抜け,か
たちが執拗に遊戯的優雅さをむねとする社会規範をエサ
ら威張り屋,無知蒙昧な田舎者,不運なフランス人,女房
レッジは舞台にのせた。そして,その薪しい社会様式が崇
を寝取られる亭主,若い女房を持つ年のいった亭主,好色
高なものになる時,それだけ芝居の活動全体が活発となっ
な年配の男,宗教的偽善者,詐欺師,若い浪費家,機知に
て〉、る。13
富んだ若い娘,機知才覚はあるが金のない若者,女郎と女
郎斡旋屋,辛抱強かったり,間抜けだったり,策略にたけ
NOTE
ている召使いたち,不運な商人たちである。6王政復古喜
Foreword
劇の初期の作品と比べればBeaumontとFletcherの喜劇
の方が,調刺的で悪ずれしていて,機知に富み,わいせつ
1. The SPectator, No, 62, ed. by D. F, Bond, Oxford
Univ. Press, 1963.
である。筋立てもうまく作られ,人物も洗練されていて,
2 . J. powell; Restoration Theatre production, Routledge &
技法も効果的だ。7しかし,第二作以後にはtrue witと
Kegan Paul, 1984, pp. 34−5.
false witを描き分けながら風習喜劇を確立する。エサレッ
ジの当世風の紳士たちは執拗にその遊戯的優雅さを旨とす
3. C. Brook & R. Heilman; Understading Drama, New
Yorl, Holt, 1948. p. 442.
る社会規範を舞台にのせた。OldysはSir George Etherege,
Biog7raPhia Britannica,皿.(1842)でエサレッジの作家と
4. N.N. Holland;The Firstハ4c)漉rη(】omedies, Harvard
Univ. Press, 1959. p. 36.
しての特徴を次のようにまとめている。エサレッジの喜劇
作品の顕著な特徴はしゃれ者と彼の恋人との間に交される
5. L. Kronenberger; The Thread of Laughter, Hill &
Wang, 1970. p. 42.
からかいの応酬と,条件をつける場面での機知に富んだ対
話や慣習道徳を無視しても気分のおもむくままに肯定しよ
6. J. Palmer; The Comedy of Manners, Russell & Rus−
sell, 1962. pp. 81−2.
うとする人間観や写実的な卓抜な技量,これらがエサレッ
ジの作家としての秀でている点だ。8
7. B. Dobree; Restoration Comedy, Clarendon Press,
1924. p.58.
Gosseはエサレッジのことを,バラ色と薄いグレーの
8 . J. Palmer; The Comedy of Manners, p. 36.
微妙な対照を愛し,優雅と動きと心地よい配合を楽しむデ
9 . lbid., p 32.
リケートな画家,と評した。もしSteeleはこの輝かしい
10. T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit,
作品が上品さと良識と世間並みの正直とは真反対の作品だ
Barnes & Noble, 1952. p. 79.
と言うならば,我々はこのような作品こそ感傷喜劇の菓子
11. lbid., p. 84.
屋の良識には合わないものであることを確認しておく必要
12. B. Dobree; Restoration Comedy p. 60.
がある。9
13. J. Palmer; The Comedy of Manners. p. 66.
この種の喜劇は外見上は写実で時代の表皮を忠実に描写
14. lbid., p. 30.
しているが,実はその実体をはるかに超えたところに幻想
15. D. H, Miles; The lnfluence of Moliere on Restoration
の世界を作り出している。10そして,本物の才人(true wit)
Comedy, Octagon Books, 1971. p. 36.
こそ価値があり,それは優美,知的識別力,思考の明晰さ,
1 The Comical Revenge
わざとらしい形式の排除,名誉からの解放,それにこの世
1. J. Palmer; The Comedy of Manners. pp. 71−2. 一
の生活を優雅に素直に享受する態度などを特徴としてい
2. lbid., p. 67.
る。11
3 . B. Dobree; Restoration Comedy p, 61,
Wycherleyのあと, Shadwellの『美術通』(1676)で
4. D.Underwood;Etherege and the Seven彪enth. Century
本当の意味での風習喜劇をとりもどす。二人のしゃれ者,
Comedy of Manners, Archon Books, 1969, p. 46.
ロングウィルとブルLスが機知を駆使して陽気な男たらし
5 . J. Palmer; The Comedy of Manners. pp. 69−70.
のクラリンダとミランダに求愛する。求愛シーンは技巧を
6 . N. N, Holland; The First Modern Comedies. p, 21.
こらした対話であり,比喩合戦がくりひろげられる。愛の
7 . K. M. Lynch; The Social Mode of Restoration Comedy,
テーマを金貸しにたとえ(第二幕),愛を狩にたとえ(第
Biblo and Tannen, 1965. p, 144,
三幕)最後の四回目は愛を音楽にたとえて典型的なプレシ.
8. B. Dobree; Restoration Comedy, p. 62,
ウスのやりとり (第四幕)である。この作品を通して,本
9. D. Underwood; Etherege and the Seventeenth−Century
物の機知才覚,即ち,優雅な気取りと偽りの機知才覚(false
Comedy of Manners. p. 45.
一 137 一
津山高専紀要第24号(1986)
T, H. Fujimura; The Resteration Comedy of wrt. p, 94,
110
L. Kronenberger; The Thread of Laughter. p. 44.
12.
K. ML Lynch; The Social Mode of Restoration Comedy
7.
T. H, Fujimura; The RestOration Comedy of Wit. p. 99,
Ibid., p. 102.
p. 143.
K.M. Lynch;The So(加Z 1吻誘げRestoration(romedy.
13.
B. Dobree; Restoration Comedy pp. 61−2,
14.
Ibid., p. 62,
15.
J. Palmer; The .Comedyof Manners. p. 72.
11.
16.
Ibid,, p. 74,
12.
17.
18.
pp.’
D. Underwood; Etherege and the Seventeenth−Centtity
Comedy of Manners, pp. 53−4.
13.
J, Powell; George Etherege and the Form’of a ’Comedy,
14.
15.
D. Underwood; Etherege 4nd the Seventeenth−Century・
18.
091
臼2
Comedy of Manners, p. 54.
Ibid., p. 56,
B. Dobree; Restoratio’ n Comedy p. 61i
091
自2
2
0δ
ウ臼2
19.
p, .152.・
J. H, Wilson;The lnflecence of Beaumont and Fletcher
B. Dobree; Restoration Comedy p. 66.
K, M, Lynch; The Socal Mode of Restoration Comedy.
p, 154.
D. H, Miles; The lnfluence of Moliere on Restoration
22.
32
4
2
Henry T, E. Perry; The Comic SPirit in Restoration
J. Palrner; The Comedy of Manners. p, 76,
K, M. Lynch; The Social Mode of Restoration・ Comedy
K, M. Lynch; The Social Mode of Restoration Comedy.
p. 154.
7
89
29
25.
ロ D. .Underwobd; Etherege and the Seventeenth−Centur y
26.
J. Powell; George Etherege and the Form ・of a Comedy.
27.
Hユ
p. 69.
.28.
She 恥口1ゴif She(Jould
K.M,Lynch; The Social Mode of Restoration Comedy.
J. Palmer; The Comedy of Manners, p. 68.
Ibid., p, 79,
30.
L. Kronenberger; The Thread of Laughter. p. 45.
R. D. Hume; The Londoh Theatre Wbrld 1660−1800,
D, H. Miles; The lnfluence of Moliere on Restoration
Comedy pp, 179−180.
32.
K. M. lynch; The Socia! Mode of Restofation Comedy
3
4
3り
0り5
0
K. Muir; The Comedy of Manneis, Hutchinson Univ,
Ibid., p. 96.
29.
31.
p, 154.
N. N. Holland; The First Modern Coinedies. p. 25.
Library, 1970, pp. 31−2.
T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit. p.
Ibid., p. 29,
J. Powell; George Etherege and the Form of a Comedy.
101.
D. H. Miles; The lnfluence of Moliere on Restoration’
Comedy p. 67,
6.
T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit.’ p.
104,・
Southern lllinois Ufiiv. Press, 1980. p, 258,
5.
J, H.’ Wilson; ’The lnfluence of・Beaormont and Fletcher
on Restoration’ crama. p. 112.
L. Kronenberger; ’The Thread・of Laughter, p, 43.
pp. 148−9.
4.
T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit. p.
104.
Comedy of Manners, p. 43.
3.
K, M. Lynch;The Social Mode of Restoratio”n Comedy
88−9.
p. 144.
2.
’D. Underwood; Etherege’ and the Sevbnteenth−Centurbe
.Comedy of’Manners. P. 60,
Drama, Russell & Russell, 1962. p. 14.
.
L. Kronenberger; The Thread of Laughten pp. 47−9, ’
B.・Dobree; Restoration’Comedy. pp; 63−4.
Comedy pp. 162−3,
29.
K. M. Lynch; The .Social Mode of Restoration Comedy.
K...Muir;The.()omedyげManners. p.32.
p. 71.
ロ
L. Krone.nberger; The Thread of Laughter. p, 46.
17.
on Restoration Drama, Ohio State Univ. Press, 1928.
26.
T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit. p.
16.
T.耳.Fujimura;The Restoration Comedy.げWit. PP.
25.
J.Palme.r;The Comedyげハ4anners. p.81.
p. 150.
Prentice−Hall, lnc., 1966. p. 67.
24.
P50−1.
101.
iti a Collection of Critical Essays, ed ,by E. Miner,
19.
K. M, Lynch;. The Social IL(ode of Restoration Comedy
p. 149.
ゾ
0
8Q
一
10.
pp. 70−1.
.36.
皿
T.H. Fujimura;The Restoration Co〃364ソげWit. p.
D. Underwood; Etherege and the Seventeenth−Ce’
Comedy of Manners.. pp. 61−2. ’
The Man of Mode
100.
一 138 一
獅狽浮窒
G.エサレッジ(1634−1691)の喜劇
西 村
1 . N. N. Holland; The First Modern Comedies. P. 86.
31. L. Kronenberger; The Thread of Laughter. pp. 49−50,
2. J, Palmer; The Comedy bf Manners, p. 81.
32. lbid., p. 54,
3. K. Muir; The Comedy of Manners. p. 40.
33. K. Muir; The Comedy of Manners, p. 35.
4. B. Dobree; Restoration Comedy p. 72.
Conclusion
1.高柳.末延編『英米法辞典』有斐閣..1952年,p.
5. J, Palmer; The Comedy of Manners, p, 86.
6. B, Dobree; Restoration Comedy p. 74.
330.
7 . 」, W.Krutch; Comedy and Conscience after the Restora−
2. D. Underwood; Etherege and the Seventeenth−Century
34
tion, Columbia Univ. Press, 1961. p, 18,
Comedy of Manners. p. 54,
K. Muir; The Comedy of Maniters. p. 34.
8. J, Palmer; The Comedy of Manners. p. 86,
,
’9. Henry T. E. Perry; The Comic Spirit in Restoration
HeRry T. E, Perry; The Comic SPirit in Restoration
Drama. p. 18.
Drama. p. 31.
5£U
10. lbid,, p. 30.
11. D. Underwood; ,E)therege and the Seventeenth−Century
Comedy of manners. p. 77.
J. Palmer; The Comedy of Manners. p. 77.
R. D. Hume; The Development of English Drama in the
Late Sewenteenth Century. p. 71.
12. T. H, Fujimura; The Restoration Comedy tt Wit. p.
7.
107.
J. H. Wilson; The Jnfluence of. Beaumont and Fletcher
on Restoration Drama. p. 79.
13. lbid., p. IIO.
8.
T.H. Fulimura;The Restoration ComedyげW鉱p.86.
14. K. M. Lynch; The Social Mode of Restoration Comedy.
9.
B. Dobree; Restoration Contedy. p. 76.
p. 179.
10.
15.J. Powell;(]eo「9E∼Etゐe「ege and the Fo「mげaComecあ1’
IL
p. 81.
T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit. p.
116.
16, D. Underwood; Etherege and the Seventeenth−Centary
12.
Comedy of Manriers, p. 79.
K.M. Lynch;The 5b磁Z ModeげRestorat加(romedy.
pp. 176−7.
17. K. Muir; The Comedy of Manners. p, 34,
13.
18. T. H. Fujimura; The Restoration Comedy of Wit. p.
112.
19. lbid., p. 113.
20.R. D. Hume;The DeweloPmentげEnglishエ)rama加the
Late Seventeenth Century Clarendon Press, Oxford,
1976. p. 89.
21.J. P almer;The Comedyげハ4伽π6”. P.90.
22.L. Kronenberger;The Thread of五aughter. p.51.
23. N. N, Holland; The ,F’irst Modern Comedies. p. 87.
24. Henry T. E. Perry; The Comic Spirit in Restoration
Dram. a, p, .26.
25..
Ibid., pp. 76−7.
h.工、.Pφ画d!;..ρ69響恥乃σ郷.4nc! the..Fg r m of a Comedy.
pl 79.’
26. R. D. Hume; The Dewelopment of English Drama in the
Late Seventeenth Century. p. 88.
27. K. M, Lynch; The Social Mode of Restoration Comedy.
p. 177.
28. R. D. Htime; The Development of English’Drama in the
Late Seventeenth Century. p. 94.
29.D. Underwood;五励erege and the Seventeenth−Centurblρプ
Manners. pp. 79−80.
30. lbid., p, 80.
一 139 一
Ibid., p. 149.
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