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『遊びながらエコ』する環境ボランティア:NPO GoodDayのフィールドワーク

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『遊びながらエコ』する環境ボランティア:NPO GoodDayのフィールドワーク
『市民活動の活性化支援の調査研究:秩序問題的アプローチ』
平成 17∼19 年度 科学研究費補助金研究成果報告書(代表 籠谷和弘) 2008
「遊びながらエコ」する環境ボランティア
―NPO GoodDay のフィールドワーク―
武藤
正義
(東京工業大学・成蹊大学)
【要旨】
本稿の目的は、ある環境 NPO のフィールドワークを通して、今日の社会においてボランティ
ア・NPO 活動をしている若者たちのリアリティや意識を明らかにすることにある。具体的には、
“GoodDay”という環境 NPO による逗子海岸における清掃活動「逗子ビーチクリーン」と富士山麓
の産業廃棄物回収活動「フジヤマ☆スカベンジ大作戦」の報告を筆者自身の体験も交えておこな
う。この NPO の特徴は、ライブなどの多数のイベントをほかの NPO やライブハウス(独立系の
音楽イベント会社)などとコラボレーションしながらおこなっていることである。本研究により、
第 1 に NPO GoodDay とライブハウスが若者のネットワークによってほぼ同時に生まれたこと、
第 2 にインターネットが重要な役割を担っていること、第 3 にリピーター率が約 6, 7 割と非常に
高いことなどがわかった。これは IT 革命以降の 21 世紀の「新しい社会運動」の具体的な内容を
示唆するものといえよう。
キーワード:
ビーチクリーン、イベント、ロハス、若者、クラブ、音楽、インターネット、mixi
1.はじめに
1998 年の NPO 法の成立以降、市民活動やボランティアは NPO を通して活動することが多
くなってきた 1)。そのような市民活動・ボランティア活動のひとつとして本稿では、ある環
境 NPO の活動を報告する 2)。環境 NPO を研究の対象としたのはつぎの理由による。福祉 NPO
は被介護者といういわば顧客がいるために、介護保険などを用いて事業ベースの活動になる
ことが多い。しかし、環境 NPO の対象は自然や街や地球全体であるから顧客はいないため、
よりボランティア・ベースになる 3)。また基本的に、生身の人間が相手ではないことも活動
1)
内閣府によれば 2008 年 1 月末現在で NPO 法人として認証を受けた団体は 33,675 団体である。
ちなみに本稿が執筆された 2008 年は 1998 年からちょうど 10 年目にあたる。また「1968 年」か
らちょうど 40 年である。1968 年については酒井(2004)、道場(2004: 247)など参照。
2)
ボランティアは「自発性」
「無償性」
「公益性」によって特徴づけられるものとされる(岡本 2004:
2(文筆:早瀬昇)、ただし公益性はより広く「公共性」とも言い換えられるだろう)。また、L. M.
サラモン(Salamon 1997=1999)による NPO の代表的な定義はつぎをみたすものである。①公式
的な組織、②非政府、③非営利、④自立性、⑤公共性。これに⑥非宗教、⑦非政治が通常加えら
れる。④の自立性は、自律性と自発性ともいわれる。NPO の最大の特徴は、活動による利益を成
員に分配しないということである。
3)
そもそも福祉を NPO が担うことについては福祉国家の責任放棄という負の側面がある。
1
や行動の有効性感覚を弱め、活動をより困難にする 4)。それゆえなぜボランティアをするの
かが明確にできるのである。
本稿の目的は、ある環境 NPO のフィールドワークを通して、今日の社会においてボランテ
ィア・NPO 活動をしている若者たちのリアリティや意識を明らかにすることにある 5)。具体
的には、 “GoodDay”という環境 NPO による逗子海岸における清掃活動「逗子ビーチクリー
ン」と富士山麓の産業廃棄物回収活動「フジヤマ☆スカベンジ大作戦」の報告を筆者自身の
体験も交えておこなう。
筆者が NPO GoodDay に注目したのは、古典的な社会運動や NPO 活動のイメージを大幅に
変えるような活動を、この NPO が実践していたからである。具体的にいえば、ライブハウス
おと だま
「音 霊 Sea Studio」とコラボレーションしてさまざまなイベントを行いながら、ビーチクリ
ーンをしていたからである。
これまで環境社会学会編(1998)、鳥越(2000)、長谷川(2001)などにより、環境ボラン
ティア・NPO についてはそれなりの研究蓄積があるものの、IT 革命を経た今日の社会におけ
る都市部(東京周辺)の若者を担い手とする環境 NPO については、まだあまり研究されてい
ない。このままではすくなくとも環境や社会運動といったテーマにかんする社会学は都市部
で展開しつつある環境運動のアクチュアリティを捉え損ね、説得力のない時代遅れのものに
なってしまうだろう。
本稿の構成はつぎのとおり。第 2 節では環境 NPO GoodDay のあらましを述べる。第 3 節
では筆者自身によるボランティア参加体験を報告する。第 4 節では当事者である GoodDay 代
表の荒昌史氏にインタビュー形式で語ってもらう。第 5 節は結論である。
2.NPO GoodDay
NPO GoodDay は「遊びながらエコ」をキャッチフレーズにかかげる環境 NPO である。2005
年 1 月 1 日に荒昌史氏(当時 24 歳)を代表として設立された。20 代の若者たちによって設
立されて 3 年目を迎えた若い NPO である。しかしにもかかわらずかなり充実した活動内容と
若者の特権ともいえるセンスを兼ね揃えている。政党や宗教団体とのつながりはない。
2008 年 3 月現在 GoodDay は任意団体だが、2008 年度には NPO 法人化する予定である。ス
タッフは社会人 16 名と学生 4 名からなるが、イベントごとに多くのボランティアが参加する。
参加者は 20 代が多い。所在地は東京都中央区日本橋であるが、活動の現場は渋谷区恵比寿や
神奈川県逗子市などである。GoodDay はパンフレットでつぎのように自身を紹介している。
4)
長谷川公一はつぎのようにいう。
「福祉問題の場合には、寝たきり老人や重度の身障者など、切
実に福祉サービスを求めているクライアントが存在する。自己の利他的な貢献が、他者にとって
役立つという有効性感覚を生き生きと刻々感じることができる。・・・多くの場合、加害者的な
行為者は存在せず敵手は不在である。それゆえに、福祉ボランティアであることにともなう社会
的リスクは相対的に少ない。」(長谷川 2000: 186)
5)
1995 年の阪神淡路大震災では一説によるとのべ 140 万人がボランティアに参加したともいわれる
が、そのうちの約 70%が若者であったといわれている(鳥越 2004: 181)。
2
NPO GoodDay は、
楽しみながら気楽に参加できる活動を通して
環境問題について考え・行動するための
「きっかけづくり」をしています。
たくさんの人が自然環境を大切に想い生活している。
そんな未来を目指しています。
また、GoodDay のブログのタイトルには、この NPO の名にこめられた意味が簡潔に示さ
れている。
NPO GoodDay(グッディ)―ハッピィな社会貢献 “毎日が Good Day”
(GoodDay Blog 2008 年 2 月 26 日 http://junhouse.cocolog-nifty.com/goodday/)
加えて、GoodDay のホームページにはつぎのようにかかげている。
GoodDay は、たくさんの人が地球環境を大切にしながら暮らしている社会を目指すNPOです。
地球温暖化、資源枯渇、生態系の破壊、森林減少、酸性雨、ゴミ問題・・・。
いつのまにか、環境問題はわたしたちの生活を脅かすまでになり、
さらに、未来に悪影響を及ぼしています。
地球環境のために、何かしたい。
気持ちのよい自然を守りたい。
けれど、どうしたらよいのかわからないし、
はじめの一歩は、勇気がいる。
だから、わたしたちのやり方は、
「一緒に遊び、一緒に学ぶ。」
3
自分たちの暮らす地球環境を守るために集まって、
動いて、学んで、笑う。
地球環境への感謝の気持ちを行動にうつしてみると、
できることがたくさんあることに気づくのです。
そんな「気づきの種」を蒔くことが
わたしたち、GoodDay の役割です。
さあ、わたしたちと一緒に
「遊びながらエコ」、しませんか?
Have a Good Day !!
NPO GoodDay
(GoodDay Home Page 2008 年 2 月 18 日 http://www.goodday2u.org/ )
いずれの文章も相当に練れているのでつけ加えることはほとんどないが 6)、あえていえば、
環境やボランティアに興味があるけれども行動するまでにいたらない人びとに「きっかけ」
を提供することをミッションとしているといえる。今日の日本において成人の 3 割がこのよ
うな人びと(いわゆるロハス層)ともいわれており、時代の要請に応えているといえよう。
なにより「遊びながら」というイベント感覚でボランティアのハードルを下げ、気楽に参加
できるイメージをうまく作り出している。
つぎに GoodDay の具体的な活動をみていこう(年間のスケジュールは下表)。GoodDay は
主に 6 つの活動に取り組んでいる。以下の「活動紹介#0x」はパンフレットで活動紹介として
つけられている番号である。
GoodDay のメインとなる定期的な活動は、「逗子ビーチクリーン∼Beach Clean is a Party!∼」
(活動紹介#01)と「エビスカ∼行動から未来につなげよう∼」
(活動紹介#02)である 7)。前者は
6)
井上(2000: 145)は「日本の環境ボランティアはまだ信念や理念にしたがって自己主張するこ
とに慣れていない、またそうした信念や理念も社会的に明確になっていない」と述べているが、
ここ数年で急速に変わってきたのかもしれない。これは GoodDay だけでなく「greenbird」といっ
た東京ではよく知られた環境 NPO――渋谷、表参道、新宿歌舞伎町、吉祥寺、下北沢、駒沢、鎌
倉、それに福岡と長崎などで清掃活動をしている――や雑誌『ソトコト』、
「ap bank」などにもあ
てはまる。
7)
エビスカはエビス・スカベンジの略。スカベンジ(scavenge)とは清掃およびゴミの中から再利
4
神奈川県逗子市の海岸における清掃活動であり、後者は東京都渋谷区恵比寿周辺の清掃活動
である。逗子ビーチクリーンは 7 月・8 月の夏季、毎週土曜日に開催される(同季の平日も
行うこともある)。エビスカは基本的に毎月 1 回、1 年を通して開催される。
表 NPO GoodDay のイベント(2007 年度)
4月
8 日(日)『お花見スカベンジ』
21-22 日(土日)Tokyo Lohas Night with EarthDayTokyo 2007
5月
27 日(日)『エビスカ』∼ADEO Japan×NPO GoodDay
6月
23 日(土)『エビスカ×サステコ』
7月
7 日(土)Beach Clean Is a Party#01
21 日(土)Beach Clean Is a Party#02
28 日(日)『エビスカ』∼ハビタット・フォー・ヒューマニティ青山学院大×NPO
GoodDay
8月
29 日(日)Beach Clean Is a Party#03
feat. is! Festa 2007 Summer
4 日(土)Beach Clean Is a Party#04
ビーサン飛ばし大会開催!
11 日(土)Beach Clean Is a Party#05
BBQ 開催!
14 日(土)Beach Clean Is a Party#06@一青窈カーボンオフセットライブ*@音霊
18 日(土)Beach Clean Is a Party#07
19 日(日)『エビスカ』∼ゴミとモリと温暖化
GooddDay の挑戦∼
25 日(土)Beach Clean Is a Party#08
26 日(土)フジヤマ☆スカベンジ大作戦 2007
9月
29 日(土)「残された時間」田中優(講演)
主催:CSP(サポート)
30 日(土)『エビスカ』∼ゴミとモリと温暖化∼Globe Project×NPO GoodDay∼
10 月
10 日(土)Beach Clean Is a Party#09
グッディ
27 日(日)『エビスカ』∼NPO GoodDay
12 月
逗子 Beach Clean 感謝祭!
2007 夏の活動報告会∼
2 日(日)はとライブ**×NPO GoodDay
9 日(日)NPO GoodDay インターン説明会
29 日(土)第 2 回インターン説明会
29 日(土)『エビスカ』
1月
27 日(日)『エビスカ』
2月
24 日(日)『エビスカ』
3月
1 日(土)GoodDay
∼恵比寿年末大掃除∼
グリーン フットサル
27 日(木)『エビスカ』∼エビスカ一周年特別企画『エビスカ感謝祭』∼
*このイベントで排出された二酸化炭素を自然エネルギーの導入・投資等で相殺する。
**「笑いは地球を救う!」を合言葉に、毎回のお笑いステージでの収益を社会貢献団体に寄付する、
というすっぽん大学主催のお笑いチャリティライブ。
用できるものを捜すことを意味する。
5
エビスカと逗子ビーチクリーンは定期的な「イベント」として位置づけられているが、こ
れに加えて年に 2 回、不定期の「ツアー」を開催している 8)。「フジヤマ☆スカベンジ大作戦」
(活動紹介#03)と「スタディ・ツアー∼カンバツ編∼」
(活動紹介#04)である。前者は富士山麓
の清掃活動であり、後者は間伐体験をおこなうエコツアーである 9)。
さらに、ほかの環境 NPO との共催で「Tokyo Lohas Night」(活動紹介#05)と「CSP『雪山
を守る/海を守る』プロジェクト」
(活動紹介#06)がある 10)。
「Tokyo Lohas Night」は「サポート」
として、
「CSP『雪山を守る/海を守る』プロジェクト」は「キャンペーン」として位置づけ
られている(CSP は Creator’s Social Possibility の略で、個人のもつ可能性を意味する)。
そのほか、上表にみるように ライブ、講演、お笑いライブ、フットサルなど様々なイベン
トを手がけながら、環境保護・環境啓発をしている(これらのイベンドでは参加者 1 人につ
き 1 本、木を植える)。
個々の活動について簡単にみておこう。以下は GoodDay のパンフレットおよびホームペー
ジを参考にしている。
「逗子ビーチクリーン∼Beach Clean is a Party!∼」は 2005 年からはじまり、2007 年で 3 年
目を迎えている。逗子海岸の夏季限定ライブハウス「音霊 Sea Studio」と提携し 11)、下表にみ
るようにカーボンオフセットライブや、ライブアーティストとのコラボレーションなど、様々
なイベントを催しながら、2007 年度は全 9 回のビーチクリーン(ゴミ拾い)を行っている。
合計約 250 名を超えるボランティアが参加した(2005 年、2006 年は 300 名を超えている)。
また、2007 年には参加記念とこの活動の紹介もかねて 32 頁からなるフォトブックを作成し
ている。これを見ると実際の活動の様子が生き生きと伝わってくる。
8)
2008 年度からは農業体験などのエコツアーを増やしていく予定とのこと(荒氏インタビュー)。
9)
日本の山林は植林されたものが多く、間伐しないと山が荒れてしまう。
10) 「Lohas」(ロハス)とは、Lifestyle Of Health And Sustainability の略であり、健康と持続可能性を
重視するライフスタイルのことをいう。自分自身の健康や地球環境に負荷をかけないような商品
やサービス、およびその選択を指していうことが多い。雑誌『ソトコト』がロハス的な情報の供
給源となっている。ロハスはもともとアメリカのマーケティング用語として誕生したが、このと
き参照された Ray and Anderson( 2000)の 15 年にわたる調査によると、信心深い保守層(Traditional
成人人口の約 25%, p.30)、民主主義と科学技術を信奉する近代主義者層(Modern 同約 48%, P.25)
に続く「第 3 の社会集団」として、文化的創造者層(Cultural Creatives 同約 26%, p.4)の存在が
確認された(EU では文化的創造者の率はそれ以上である)。この文化的創造者層がロハス層であ
る。具体的には次のような人びとである。「持続可能な地球環境や経済システムの実現を願い、
そのために行動する」「金銭的、物理的な豊かさを志向せず、社会的成功を最優先しない」「人間
関係を大切にし、自己実現に力を入れる」「なるべく薬に頼らず、健康的な食生活や代替医療に
よる予防医学に関心がある」など。なお Ray は社会学者、Anderson は心理学者である。
おとだま
11) 「音 霊 」は「海の家」のライブハウス/クラブである。Good Day とは独立にライブハウスやクラ
ブとして夏季(7 月と 8 月)に営業をしている。2005 年 6 月から営業を開始し、2007 年で 3 年目
になる。Good Day のスタッフの一部もその立ち上げにかかわっている。じつは Good Day のスタ
ッフには何人かの DJ とアーティスト(メジャーデビューも果たした「キマグレン」というバン
ドのボーカル)がいて、クラブカルチャーやポピュラー音楽の世界と非常に近い。逗子ビーチク
リーンの“Beach Clean is a Party!”というサブタイトルにその片鱗が伺える。
(音霊ホームページ http://www.otodama-beach.com/index.html)
6
「エビスカ∼行動から未来につなげよう∼」は 2 部構成である。第 1 部では恵比寿の街の
ゴミ拾いをする。第 2 部では毎回、他の様々な団体とコラボレーションしたワークショップ
を開催し、様々なテーマについて学習とディスカッションをおこなっている。運営するのは
主に学生スタッフであり、環境問題・社会問題について考え・行動するきっかけだけでなく、
学生たちのネットワーキングをも目的としている。2007 年 2 月からはじまった。
「フジヤマ☆スカベンジ大作戦」(通称フジ☆スカ)は既に 2007 年度で 7 年目、回数にし
て 8 回目を迎えている(これは以前に主催していた環境 NPO の活動を GoodDay が引き継い
だためである)。現地の NPO 法人「富士山クラブ」と提携し、2007 年度は富士山麓・静岡県
側の県道沿いの人工林で産業廃棄物などのゴミの回収をしている。参加者は毎年 40∼50 名ほ
どで、バスを一台貸し切って富士山麓を訪れ、不法投棄されたゴミを回収する。なぜゴミ拾
いという活動が必要なのかという「ゴミ拾いのその先」を考えるきっかけとして、毎年この
ツアーを開催しているとのことである。
「スタディ・ツアー∼カンバツ編∼」は間伐を体験するエコツアーである。2007 年 1 月に
初めて開催された。参加者は実際に山梨県の人工林の中に足を踏み入れ、のこぎりで木を伐
採している。また、間伐材を使った「My 箸」作りも体験している。34 名の参加者は急斜面
での間伐作業の大変さを痛感したとのことである。
「Tokyo Lohas Night」は「五感で感じる体験型ロハスイベント」である 12)(パンフレット)。
「NPO よつば」および「TINOR」という団体と共催しておこなわれる。「インナービューテ
ィ&インナーピース」というメッセージを発信し、アロママッサージやリフレクソロジー、
カラーセラピーなどの「ワンコイン体験ブース」と「オガーニックドリンク・フード」、ダン
スフロアでの音楽を充実させている。環境に配慮したイベントにするため、グリーン電力の
使用や街のクリーンアップも同時に実施している。2007 年の参加者は 200 名にのぼった。
「CSP『雪山を守る/海を守る』プロジェクト」は、
「ひとりひとりが雪山・海を守るため
のそれぞれ 8 つの『約束』と向き合い、自分なりの第一歩を踏み出すことを『選択』し、そ
れを行動で『表現する』する」というプロジェクトである。GoodDay はこの趣旨に賛同し、
この署名キャンペーンをバックアップしている 13)。
12) 「東京ロハスナイト(TLN)は、ロハスを五感で体験できる癒し系夜遊びイベントです。地球環
境も大事だけど自分環境はもっと大事、そんな一歩先行く地球人たちの遊び場、それが TLN な
のです」(NPO TLC[東京ロハスコミュニティ]
13)
http://npotlc.com/tln/)
説明のため、すこし長くなるが CSP を主催する bayside camp のサイトから引用しておこう。
CSP とは一人一人の力の可能性による社会変革
目の前の行動から新しい社会を創りだし、心の進化を志す。
CSP は、一人の行動が社会を変える可能性の場です。「ひとりひとりが創造的な表現者として
行動を起こし、社会を変える力となる」をコンセプトに、企業、組織の限界を超え、人と人との
関わりあいから発現する新しい価値観の創造と共時性をつなげ、意識の目覚めを拡げていくため
の新しい概念の形成をめざしています。企業が行う CSR(Corporate Social Responsibility:企業の
社会に対する責任)には、個人がその取り組みを家に持ち帰れないという限界があります。私た
7
まとめると、NPO GoodDay の活動内容は以下のようになる(GoodDay サイトから引用)。
①クリーンアップ・ボランティアの企画・運営・コンサルティング
(例:逗子ビーチクリーン)
②体験型エコツアーの企画・運営・コンサルティング(例:間伐ツアー、フジ☆スカ)
③環境啓発イベントの企画・運営・コサルティング(例:エビスカ、Tokyo Lohas Night)
④環境啓発キャンペーンの企画・運営・コンサルティング
⑤上記に付随する一切の事業
(2008 年 2 月 18 日 http://www.goodday2u.org/vision)
3.実際のボランティア活動を通じて
筆者は 2007 年の夏季に「逗子ビーチクリーン」と「フジ☆スカ」にボランティアとしてじ
っさいに参加した。この節ではこれらを簡単に報告しよう。逗子ビーチクリーンとフジ☆ス
カのより具体的な活動の姿やそのほかの写真は、本稿付録の筆者による日誌「NPO GoodDay
ボランティア体験日誌」や GoodDay のホームページやブログを参照されたい。
3.1
逗子ビーチクリーン
「逗子ビーチクリーン∼Beach Clean Is a Party∼」は、まずボランティアたちが逗子の駅前
あるいは逗子海岸に直接集まるところからはじまる。ボランティアたちはカジュアルで動き
やすいがきちんとした服装に身をつつみ、お洒落な人も多い。特に人数が少ないときは別だ
が、自己紹介することもあまりなく、スタッフからトングとビニール袋(可燃用と不燃用が
ある)を渡され、さっそくゴミ拾いがスタートする。GoodDay 専属のカメラマン(もちろん
ボランティア)が作業するボランティアたちの写真を撮る。荷物などは荷物番のスタッフが
いるので持ち歩かなくてすむ。身軽になって海岸を歩くのは爽快である。ただし、さえぎる
ものがなにもない砂浜である。直射日光の下での作業はそれなりにきついため、じっさいの
作業は長くても 40 分ほどである。倒れてしまう人が出るといろいろと大変であるから、それ
ほど長くは作業できないのである。しかし平均 30 人ほどで作業するので、目に見えるところ
ではほとんどゴミはなくなる。
ゴミは、海水浴客が吸うタバコの吸殻やペットボトル、海や川から流れてくるビンや缶や
ダンボールといったものが多い。また、波打ち際になぜかビニール袋などが打ち上げられて
いる。海の家の間にあるスペースや海の家の裏側にゴミはたまりやすい。
ちは、環境問題を企業や国の責任に押し付けるのではなく、一人の行動こそが今の時代に必要な
ものであると考え、2005 年より CSP(Creator's Social Possibility)として活動を始めました。
(bayside camp のブログより引用 http://blog.baysidecamp.com/?cid=29124)
bayside camp とは?ご来場の方に、素晴らしいアーティストによるライブとイベントでの取り組
みを通して環境保護への関心を持って頂く、きっかけとなる事を目指しているイベントです。
(bayside camp のブログより引用 http://blog.baysidecamp.com/?cid=39397)
8
(2007 年 7 月 http://www.otodama-beach.com/goodday/index.html)
ただし時間の制約もあるので、そのような場所にある目につきにくいゴミをすべて回収す
ることはなかなかできない。しかし目的がゴミ拾いであるだけに、ゴミが大量に拾えるとけ
っこう嬉しいものである(同時に怒りのような感情もあるのだが)。ときにはゴミの量を競う
ゲームをすることもある。
おと だま
ゴミ拾いのあとは、タイアップしている音 霊 から無料でビールやカクテルなどが振舞われ
ることも多い。作業のあと海を見ながら飲むビールは格別なので、これが目当てというボラ
ンティアもけっこういるかもしれない。作業中もはじめて会った人や常連のボランティアや
GoodDay のスタッフと話しながらなので楽しいが、昼からお酒を飲みながら喋るのはなお楽
しい。逗子ビーチクリーンに Beach Clean Is a Party!というサブタイトルがつくのも肯ける。
また、表にあるように、BBQ(バーベキュー)やライブなどさまざまなイベントが用意され
ている。特にイベントがないときでも、音霊は毎日ライブなりクラブイベントをおこなって
いるので、それらを割引価格で楽しむことができる。
しかしそうはいっても、東京や埼玉や千葉といった場所から電車で 1 時間以上かけて逗子
海岸まで週末にゴミを拾いにくるボランティアたちの姿が筆者にはとても不思議に思えた。
特に、同じボランティアであることに変わりはない GoodDay のスタッフたちは、ほとんど毎
週である。4 人の学生スタッフを除くと GoodDay のスタッフは、平日は会社などで働くごく
ふつうの 20 代の若者である。学生から社会人になってすこし経ち、金銭的にも時間的にもす
こしずつ余裕ができはじめ、最も遊びたいさかりといってもいい人たちである。彼らをボラ
ンティアに邁進させるものがなにかを見極めるためもあり、できるだけ筆者もビーチクリー
ンに参加した。
じっさいの作業は、夏の太陽の陽射しがきついということのほかに、それほど大変なわけ
ではない。落ちているゴミを拾うというだれでもできる作業である。しかし、時間を割いて
9
継続するのが難しい。ゴミ拾いをするより、もっとほかに楽しい週末の過ごし方はあるだろ
う。機会費用が高いのである 14)。おそらく GoodDay はこのことを十分わかっていて、各種の
イベントを企画する。そしてそれによってボランティアだけでなく自分たちも楽しめ、継続
が可能となってくるのである。
しかしもちろん、楽しむために集まっているわけではない(荒氏へのインタビュー)。それ
だけであれば仲間うちで集まれば済むことである。GoodDay はインターネットのホームペー
ジや mixi の「コミュ」を通じてつねに広く参加をよびかけている。当然かもしれないが、だ
れでも GoodDay のイベントに参加できるのである。したがってほとんど毎回新顔のボランテ
ィアが現れ、いわば外の目にさらされる。この意味でつねに緊張感がある 15)。しかしもちろ
ん、じっさいのイベントは和やかなものである。
3.2
フジ☆スカ
「フジ☆スカ」
(正式名称「フジヤマ☆スカベンジ大作戦」)は年に 1 回のイベントであり、
富士山の麓の森や林に捨てられた産業廃棄物などを回収するエコツアーである。2007 年度は
8 月 26 日に日帰りで開催され、48 名の参加があった。土曜日の朝に新宿をバス 1 台で出発し、
現地の富士山麓(静岡県側)にはお昼前についた。そこで弁当を食べてから現地の NPO 法人
「富士山クラブ」の M さんからインストラクションを受けた。たとえば蜂と遭遇したときの
対処法を教えてもらった。オレンジ色の「つなぎ」を着た M さんは 30 台前半の好青年で、
妻とともに富士山クラブの専属スタッフとして働いている。インストラクションを終えると、
いよいよ作業場所となる人工林に歩いて移動となった。
場所の選定は富士山クラブがやってくれている。予め、廃棄物が多そうな場所を調査して
ピックアップしているのである。また、安全な場所かどうかということも重要である。この
ようなイベントでは怪我人や病人が出ないように細心の注意が払われている。なお、富士山
麓をおとずれる NPO やボランティアは GoodDay だけではない。夏場は最もよくフジ☆スカ
のようなエコツアーがこの地を訪れるという。富士山クラブは多くの外からきた環境ボラン
ティアや NPO に廃棄物回収ポイントを提供し、ボランティアたちが回収した廃棄物を処理し
ているのである。
作業場所に移動しているとき、県道の脇にある 1.5 メートルくらいの深さの排水溝に、車
から投げ捨てられたと思われるペットボトルを多数散見した。しかし今回の目的は産業廃棄
物の回収であるから、それらを拾うことはできなかった。内心すこしばかりの矛盾を感じた。
しかし歩道もなく人がふだん歩くようなところでもないので車がかなりスピードを出し、交
通量もそれなりに多く、しかもカーブの多い県道において、50 人近い人がいっぺんにゴミ拾
いするのはあまりに危険すぎる。ツアー参加者たちは一列になってそのような危険地帯をそ
そくさと通り過ぎるほかなかった。
14)
「機会費用」とは、ある選択をしたために、それをしなかったら得たであろうものの価値のこ
とをいう。たとえば、大学院に行かず就職していれば稼ぐことができたであろう所得など。
15)
だれに対しても開かれている(open)ということは、公共性を意味する(斉藤 2000: ix)。それ
ゆえ公共性は緊張を要するのである。
10
(2007 年 8 月 27 日 GoodDay Photo! http://picasaweb.google.co.jp/npogoodday)
広い県道の脇から細い道に入っていき、ほどなく目的地の人工林に到着。ここは私有地な
のだが、不法投棄があとを絶たなかったのだろう。もっとも今回の場所には、一見すると冷
蔵庫のような大きい粗大ゴミはなかった。しかしじつはこの場所は 30 年近くも前からゴミが
捨てられていたため、土や草や木の根がゴミを覆い隠していたのである。じっさい、筆者な
ど参加者が道の脇の土手をスコップで掘り返すと、トタンやタイヤや絨毯といった大物、ほ
かにはガラスや見たこともない黒いゴム製のチューブといったものがざくざくと出てきた。
見たこともないのはかつて工場や病院などから出てきた産業廃棄物ゆえだろう。ゴミの層と
土の層が幾重にも重なり、しかもそれらに植物の根がからまっているので、スコップでゴミ
を取り出すのもなかなかしんどい。さらに出てきたゴミと土を分別しなければならない。
作業をしていると、どうしようもない徒労感に襲われてくる。数十年前のゴミを今さら掘
り返してもあまり意味がないのではないか。これからもっと長い年月をかけて、これらのゴ
ミも自然に還っていくのではないだろうか。しかしそうはいっても、ゴミにはときに電池や
蛍光灯のように放っておくと有害物質を撒き散らすようなものも含まれる。それが地下水に
染み出て飲み水として人間の側に還ってくることもありうる。そんなようなことを考えなが
ら、2 時間に及ぶ作業を終えた。
作業後、参加者一行は、予定通り近くにある入浴施設に立ち寄り汗を流した。この入浴施
設はゴミ処理で出た熱を再利用して水を沸かしている。浴場でもいろいろと参加者たちから
話が聞けた。その後、参加者一行はバスで新宿に戻ったが、行きは 2 時間で済んだのに、帰
りは渋滞のために 5 時間かかった。大部分の人は疲れて寝ていたが、元気に喋っているグル
ープもあったのが印象的だった。以上のように、じっさい廃棄物を回収する作業は 2 時間程
度なのだが、エコツアーは丸一日がかりになってしまうのである。その後、居酒屋で打ち上
げをしたのだが、そこで 2005 年の愛知博のときに環境 NPO が集まり、そのときにネットワ
11
ークができたという話が聞けた。また、作業の合間であったが、フジ☆スカにプライベート
で参加した目下ブレイク中の某タレントからもすこし話が聞けた。
今回、回収できた産業廃棄物は 260 kg だったが、富士山麓全体の廃棄物からみれば微々た
るものだろう。しかし多くの団体や個人のボランティアが回収を続けていくことで、すこし
ずつではあるが、富士山麓のゴミは少なくなっていく。しかしなにより、このような NPO や
ボランティアの取り組みが、不法投棄に反対する断固としたメッセージとなっていることは
確かである。マスコミでの報道も重要であるが、じっさいに行動でゴミを減らすということ、
またこのツアーを体験することで、それまでこのような実態がよくはわかっていなかった筆
者を含む人びとを体験的に啓蒙していくことはさらに重要だろう。このような草の根の、手
作りのイベントだからこそ訴えるものがあるのである。
3.3
小括:表現としてのボランティア
3.1 項の最後にすこし述べたように、逗子ビーチクリーンやフジ☆スカなどイベントがあ
るごとに、GoodDay はインターネットのホームページや mixi の「コミュ」を通じてつねに広
く参加をよびかけている。インターネットという手軽な今日の公共的メディアは GoodDay に
おいても重要な役割を担っており、ホームページとブログには逗子ビーチクリーンを中心に、
文字情報だけでなく、活動の多数の写真が公開されている。GoodDay には前述の専属カメラ
マンを中心とした「メディア・チーム」がいて、彼らがインターネット上で情報発信してい
るのである。
上述のフジ☆スカに参加した某タレントも、インターネット(mixi)経由で参加したよう
だ。じつは彼女は逗子ビーチクリーンにも 1 回参加している。彼女も NPO スタッフと同じ世
代であり、また出身地が横須賀なので場所的に近いということもあるが、なんのコネクショ
ンもなく GoodDay のホームページを見てやってきたそうだ。売れっ子の芸能人が多忙ななか
参加したくなるほどに、GoodDay の活動は魅力的なのである。そしてなにより彼女のような
TV メディアで活躍する人びとが GoodDay のような若い草の根の環境 NPO に参加してくれる
ことは彼らの自信につながるだけでなく、より大きな環境運動の「広がりが期待できる」
(荒
氏へのインタビュー)のである。
じつは筆者が NPO GoodDay を発見したのもインターネット経由である。具体的には音霊
のホームページからだった。音霊は海の家のライブハウス/クラブという新しい試みとして
雑誌や TV などのメディアにも登場していて、筆者は当初、音霊に興味をもった(もちろん
本稿を執筆している時点でも興味は保持しているが)。その音霊のホームページに GoodDay
と音霊がコラボレーションして逗子ビーチクリーンをする旨のバナーが貼ってあった。海の
家のライブハウスとボランティアという組み合わせに筆者は驚いた。
坂本龍一(音楽家)、桜井和寿(Mr. Children)、小林武史(プロデューサー)らが立ち上げ
た環境系の NPO や事業などに融資する ap bank は、よく知られている。野外でおこなわれる
「夏フェス」において出る大量のゴミを片付けるボランティアの存在も、よく知られている。
このように音楽と環境ボランティアという組み合わせは意外とよい。環境というテーマは
Love and Peace という 1960 年代を彷彿とさせるロックの魂を受け継いでいるのである。
12
しかし GoodDay のように、じっさいにいわば草の根レベルで音楽と環境のリンクが継続的
に目に見える形になっているということは、すくなくとも筆者にとってはきわめて新鮮だっ
た 16)。坂本龍一らビッグアーティストや著名人による活動は昔からよくあるチャリティとし
て受け取られかねないが、草の根の、しかも若い社会人たちによる活動はそれじたいインパ
クトがある。それだけでなく、ホームページ・ブログ・mixi・Picasa17)といったインターネッ
ト・メディアを駆使した活動は、たとえ彼らが意図せずとも、それじたい公共的な表現活動
として支配的な文化的コードへの挑戦であり、象徴的なコードを書き換えていくことなので
ある。これは「表現としてのボランティア」といえよう。しかもこれはフィールドワークを
していくうちにわかったことだが、ライブハウス/クラブの音霊と GoodDay のスタッフは部
分的に重複していて、ほぼ同時期に立ち上がっている。以上のことはトゥレーヌが提唱した
「新しい社会運動 18)」やカステルの「プロジェクト・アイデンティティ 19)」やメルッチの強
調した「メッセージとしての運動 20)」のまさに今日的な形態なのではないかと考えた。
GoodDay は直接、水俣病のような公害に対する反対闘争をしているわけではない。伝統的
に、環境 NPO や市民団体は、水俣やかつての逗子における米軍住宅反対運動(森 1996)な
どのように地域の問題から生まれてくることが多い。しかし GoodDay は地球環境問題という
もっとグローバルな文脈から生まれてきた 21)。GoodDay には翼はあるけれども、根がないと
いう状態からはじまったのだろう。それゆえ、前述のインターネット上での表現(活動記録)
は、GoodDay にある種の根を与えるものだったのかもしれない。しかし設立して 3 年経ち、
逗子ビーチクリーンも音霊とともに 3 年目を迎え、すこしずつではあるが地元の人びとに知
られつつあり、逗子や恵比寿といったじっさいの場所に根づきはじめている。たとえば 2007
年 10 月の感謝祭をかねた逗子ビーチクリーンでは、地元の男性 2 人が飛び入り参加している。
また、2008 年 2 月に GoodDay は渋谷区から「H19 年度渋谷区きれいな街づくり協力者」と
して表彰された。
ボランティアによるゴミ拾いによって、物理的にもゴミはなくなるのだが、それ以上に、
ゴミ拾いというものが象徴的な意味あいをもっている(表現としてのボランティア)。じっさ
いに行動しそれを継続することで、マスメディアによる環境キャンペーンなどよりはるかに
それを知った人の心を打ち、社会に訴える力がある。しかも GoodDay のような若くてセンス
のいい人びとがやればなおらさらである。そしてイベントに参加するボランティアのリピー
16)
高知県大方町における砂浜での T シャツアート展(菊池 2000)のように、環境は通常は同じア
ートでも美術や建築に近い。
17)
Picasa は、Google が提供するオンラインアルバム(インターネット上の写真集)である。
18)
Touraine(1978=1983)、矢澤(2003)も参照のこと。
19)
Castells(1983)、長谷川啓介(2006)も参照のこと。
20)
Melucci(1989)は「文化的コードへの挑戦」
「集合的アイデンティティ」など、今日の情報社会
における社会運動にとって重要な概念を提出している。文献の充実した川北(2004)や西尾(2001)
も参照のこと。
21) これは GoodDay のスタッフの住居は東京、神奈川、埼玉など分散しているということも影響して
いるかもしれない。
13
ター率は 6∼7 割と非常に高い 22)(荒氏へのインタビュー)。それだけ GoodDay は愛されてい
るのである。
4.NPO GoodDay のこれまでとこれから
この節では以上のような NPO GoodDay の代表をつとめている荒昌史氏への筆者によるイ
ンタビューをもとに GoodDay 設立と経緯と今後の展開についてみていきたい。
GoodDay は荒氏の個人的なネットワークと、GoodDay スタッフとなるオオクボジュン氏ら
が立ち上げた就職活動のためのインターネット上のサイトで出会った就職活動仲間のネット
ワークから生まれた 23)。このサイトは就職活動の情報交換用のためのものだったが、彼らは
就職活動を終えたときにクラブイベントを開催した。オオクボ氏など GoodDay のスタッフに
DJ が多いのはこのためである 24)。その後、荒氏は社会人になってから、勉強のためにいろい
ろな NPO にボランテ ィアとして 参加したの だが、その ときにでき た友人など を誘い 、
GoodDay のスタッフが揃っていったとのことである 25)。
では以下では荒氏へのインタビューからポイントをピックアップしてみたい。荒氏は 1980
年生まれの現在 27 歳、某不動産デベロッパーに勤務している 26)。最近、社内コンペで提出し
た「新規事業提案」が最優秀賞を受賞し、グループ 4500 人の CSR 担当になった 27)。
22) ボランティアの参加率の高さは環境 NPO などの社会運動の成功を測る尺度として有用だろう。
たとえば、ダムやスーパー堤防の建設や基地の誘致に対する反対運動であれば、その反対が実現
できれば成功と考えることができるだろう。また、ゴミ減量運動などであればじっさいにゴミが
減れば運動の成功といえよう。しかし、地球温暖化の阻止などのあまり運動の成果が直接実感し
にくい地球規模の目標をもつ運動の場合、ボランティアの参加率といったものが成功の指標とし
てさしあたり有効だろう。
23)
当初の筆者の予想としては、代表が大学で同世代の友人などとともにはじめた環境問題研究サ
ークルのようなものが発展したものと考えていた(仮説 1)。しかしこの仮説は裏切られた。就職
活動仲間とともにはじめたということは全く念頭になかったのでそれを知ったのは驚きだった。
しかもそれには自分たちで立ち上げたインターネットのサイトという時代を象徴するような事
柄がかかわっている。当時は今ほど大手の就職活動サイトが一般的ではなかったようだ。
24)
クラブカルチャーにかんする日本の社会学的研究はまだはじまったばかりであるが、遠藤
(2005)などがある。
25)
就職活動という私的な目的のためのネットワークが、環境 NPO という公共的な役割を担う組織
への変貌したわけである。これは社会関係資本(social capital)の可能性および私的な性質と公共
的な性質をよく示しているといえよう(Putnam 2000=2006: 16)。金光(2003: 9 章)も参照。
26)
筆者の予想としては、地方公務員など比較的時間にゆとりのある職場の人びとがスタッフに多
いと考えていた(仮説 2)。しかしこの仮説も裏切られた。代表・副代表を含め、スタッフの多く
は民間企業のようである(もっともこれは就職活動と場からはじまったことが大きいのかもしれ
ない)。忙しいなか、時間を縫って連絡をとりあったり、集まったりしているのである。全体ミ
ーティングは月に 1 回とのことだが、週に 2, 3 回ほど少人数で打ち合わせすることもあるという。
27)
100 案のなかから 3 度の役員面接を経て 5 案のみが最優秀賞として選ばれ、そのうち 2 案だけが
事業化された。そのうちの 1 つが荒氏の CSR 事業である。CSR とは Corporate Social Responsibility
の略で「企業の社会的責任」と訳される。
14
なお、以下の文章での傍点は筆者による強調である。
4.1
筆者
荒
活動をはじめるきっかけ
活動をはじめるきっかけはなんだったのですか。大学時代から考えていたのですか。
子供の頃から社会にいいことというか、社会づくりに興味があったんですね。ただ、就
職を考えたときに、行政や国際協力機関といったものにあまり魅力を感じなくて。どちらか
というともうちょっと個人を鍛えたいというか、ビジネスの世界でも活躍できるようになり
たいという気持ちもあったので。それを優先させてというか優先させたんですけど、もとも
とやりたいことが忘れられずにいたので、仲間たちと立ち上げたのが GoodDay ですね。
筆者
荒
子供の頃というといつぐらいからですか。
そうですね、いつからというと難しいですね。高校ぐらいかもしれないですね。
筆者
荒
小学校のときはどうでしたか。
野球選手とか、サッカー選手とか(笑)。
筆者
荒
自然に興味はありましたか。
自然は小さい頃に熊本に住んでいて、そこでの原風景が残っている気がしますが、興味
関心は貧困や戦争といったものが高かったですね 28)。
筆者
荒
なるほど。それで環境へは…
大学時代に国際協力と貧困と戦争の勉強をしていて、やはり一市民が戦争を止めるとか
貧困を止めるというのはかなり難しいなと思ってしまって。もちろん諦めているわけではな
....
いんですけど、なにができるかわからないというなかで、貧困とか戦争って根本は人を救い
..
..
たい ってことじゃないですか。環境問題って、環境が悪化すると 65 億人全員 に被害があるし、
......
特に貧しい人たち から亡くなってしまうので。
筆者
荒
いわゆる環境弱者…
そうそう。貧困とか戦争を止めたいという気持ちをもちながら環境問題に向かえるので、
なにかそういうのがとても好きですね。好きというかなんとかしたいですね。
でもやっぱり根本は、社会づくりというか社会変革というか、それがもしかしたら僕の夢
かもしれない。自然を守ることを通じて、そういうことをやっていければいいかなと。
4.2
筆者
荒
28)
仕事との両立
いろいろなボランティアに参加したのは社会人になってからですか。忙しいなか?
ハハハ(笑)。
筆者の予想としては、環境 NPO の代表なのだから社会より自然 に対する思いのほうが大きい
のだろうと考えていた(仮説 3)。しかしこの予想も裏切られた(もっとももちろんだからといっ
てすべての環境 NPO が自然よりも社会に重きをおくというわけではないが)。荒氏のいうように、
多くの環境 NPO には「自然を守ることを通して社会変革をしていくこと」が理念としてあるの
かもしれない。真木悠介がいうように、「殺風景な社会はかならず自己の周囲に殺風景な自然を
生み出す。・・・人間と人間との関係のみでなく、人間と自然との関係が根本から変わらなけれ
ばならないだろう」(真木 1977: 14)。
15
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
基本的に社会人になってから GoodDay を立ち上げたんですよね。
そうです。
それはほんとすごいですね。
1 年目の秋か冬くらい。
それはものすごい忙しいのではないですか。
あ、でも土日は休みですし。忙しいですけど。ま、成績だけちゃんと残してれば、その
やり方までは言われないので。
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
なるほど、結果さえ出せば時間はなんとか…でもそれは優秀だからできるのでは?
いや、求められた成績以上出さないかもしれない(笑)。当時はね、当時は(笑)。
今はどうですか。
今は営業ではないので、そういう必要はないです。
CSR ですよね。
すべて(自分で)目標設定するんですよ。
CSR、企業の社会的責任って具体的にはどういうことをやるのですか。
具体的には、企業の活動そのものを環境と社会に対してよいものに変えていくというこ
とが仕事です。経営戦略から商品戦略まで、1 人 1 人の行動まで、すべてにおいて環境と社
会という価値観を植えつけるというのが僕の仕事です。
筆者
荒
大きい企業でしかできませんか。
企業の社会的責任っていうのは小さくても大きくてもあるもので、そのやり方と規模が
違うだけで…日本の場合だとじつは中小企業がけっこうたくさんあるので大事だったりする
んですよ。そのへんも、わからないですけど、GoodDay 通じて広げていけたらなぁと思いま
す。
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
筆者
仕事とボランティアとリンクしている感じでいいですね。
非常にいいですよ。ライフワークです。
今、社会人何年目ですか。
もう 4 年目です。
二十…
27 です。そろそろ 5 年目ですからちょっとがんばんないといけないですね。
ふつうだったらやはりこう遊びたいさかりだと思うのですが。
ハハハ(笑)。
20 代後半で、そこそこお金もあって、時間もあって…
荒
ね。そういう人も多いですよね(笑)。
4.3
音楽と環境
筆者
おと だま
つぎは音楽と環境についてです。具体的には音 霊 なのですが、音楽と環境っていう組
み合わせが不思議に思ったんですよ。
荒
筆者
相性はいいですよね。
どういうところですか。
16
..
音楽も一体 になるじゃないですか。自分と自然って切り離されてるっていう感覚が自然
..
破壊をまねくとしたら、音楽って違う、そうじゃない。なにかいろんなまわりとの関係 とい
荒
ったものを気づかせてくれるから。
筆者
荒
それおもしろいですね。
そういうのもあります。気持ちいいじゃないですか、音霊でも海でビール飲みながら音
楽聴いて(笑)。まわりと一体化してるような感覚になるじゃないですか。あれが本来だと思
うんですよ。
筆者
荒
筆者
荒
うんうん、波の音と…
...
...
波の音と。そう、自分のリズム とまわりのリズム が合うっていう。
あーそれが共振して…
ふだんの仕事したり、ふだんの生活の中だとそういうのってなかなかないじゃないです
か。本当は昔みたいに、人間って動物だから、地球のリズムに合わせて生きていかなきゃい
けないはずなんですよ。生きていかなきゃいけないっていうか、生きていけない。
4.4
筆者
手ごたえ
軌道に乗るっていうのは変ないい方ですけど、新しいことやっていくなかで、なんと
なくやっていけるかな、と思ったのは NPO をやりはじめてどれくらいですか。
荒
去年くらいからですかね。
(つまり)3 年目途中くらいから、なにかちょっと手ごたえが
出てきたという感じで。
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
筆者
去年のビーチクリーン…
とか。
(タレントの)H さんも来てくれたし…
そうそう(笑)。
あの人、藤原さんとつながっていますよね。
らしいですね(笑)。
藤原紀香は、活動家ですし。
荒
フフフフ(笑)。ききますよ。ぜひ来てほしいな。
4.5
活動の楽しさ・やりがい
筆者
やはり楽しい部分があるから活動されていると思うのですけど、特にこれが楽しいと
いうかやりがいというものはなんでしょうか。
.......
荒 やはり人とのかかわり ではないですかね 29)。環境系というか、そういう「社会に貢献す
る」って思っている人って、人間的にすばらしい人が多いので。
筆者
荒
うんうん、それはそうですよね、荒さんを筆頭として。
いやいや(笑)。そういった意味でいうと、いつもすごい素敵な出会いがありますからね。
29) 金子(1992: 150)がいうように、ボランティアの「報酬」は、「誰か他の人の力によって与えら
れたものだと感じるとき、その『与えられた価値あるもの』」なのだろう。普段の生活のなかで
は出会うことのない他者とのかかわりは生活をリフレッシュさせるだろう。
17
. .....
ほんと良質なコ ミュニティ 、できてると思いますよ。
筆者
そうですよね。僕もそれはすごい感じます(笑)。なかなか社会で、社会人やっててい
ろいろ出会いもあると思いますが、やっぱり仕事ができて人格的にもよくて、ていうとなか
なかないですよね。
荒
筆者
そうですね。
さらに方向性もあって、というとますます…そこらへんがなんていうか調和がとれて
るというか、すごいですよね。
荒
ほんとに。あと、最近はスタッフに若い子も増えたので。彼らの成長が刺激になってい
ます(笑)。自分自身ももっとがんばりたいなと思わせてくれます。
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
若い人はかなり意識高いですか。
そうですね。僕らのころと比べたら今の大学生のほうが全然やはり物事知っていますよ。
物事ですか(笑)。
知識ありますよ。圧倒的に知識あるし、危機感も強いんじゃないですか。
なぜそんなに知識があるのですか。
やはり教育も変わっているんじゃないですか。メディアの扱いも変わっているだろうし。
全然育っている環境が違うと思いますよ。
4.6
筆者
活動の大変さ・難しさ
楽しいこともあるように逆に、継続していくと当然大変なこともいろいろあると思う
のですが、そういうことを教えていただけますか。
荒
筆者
荒
筆者
荒
うーん、GoodDay でいうと…なんでしょうね。今ですか。
昔でも今でも。
かつては、やはりまわりのモチベーションじゃないでしょうか。
自分が誘った人でもあんまりやる気になってくれない?
いや、たぶんやる気はあったのでしょうけど、逆に僕が空回っていた部分もあるだろう
し。そういうふうな感じで、その、仕事と違うのは、月に 2、3 回しか会わないんですよ。で
基本的にメールとか電話のやりとりになるので。そのなかでお互いの相互理解を通じて、一
方的にならないようにというか。あれやってね、これやってね、にならない状況をつくるの
が難しかったですね。当時はやはり僕も空回っていたから、想いだけがあったので。そうや
ってみるとすこしみんなをうまくちゃんとまとめるという、まとめるというか、どんどんひ
とつになっていっているかもしれないですね。ま、組織行動学ですね。
筆者
荒
行動学…
リーダーがリーダーじゃなかったんじゃないですか(笑)。今もリーダーかどうかわかん
ないですけど。
筆者
荒
いやいや(笑)。
...
昔は特に…今は、最近変わったなと思うのは、やっぱり一体感 があるので、よく自分も
みんなのおかげで勉強できたんだろうなと思います。
筆者
あのー他にはなにか難しいことはないですか。
18
.....
荒 「集客」です(笑)。客ってわけじゃないけど、輪を広げる っていうこと。武藤さんの奥
にもどんどん広げていきたい(笑)。
筆者
荒
すいません(笑)、がんばります。それで、他にはないですか?
やっぱり本質的なのは、一番その自分たちが達成したい環境とか社会に変えていくのが
難しいですね。
筆者
社会変革は難しい…
荒
うん難しいです。人の価値観変えるのも大変ですし。そう簡単には変わらないです。
4.7
上の世代との関係
筆者
どうしても上の世代というか前からやっていた人には頭が上がらないというところが
あると思うのですが、どうでしょうか。
荒
筆者
荒
どうなんでしょうね。あんまりないですよ。そういうのはないですね。
あんまりいやな人はいないですか。
ああ、いるのかもしれないけど、会ったことはないです。別にね、社会のためにやって
ることだから。あんまりとやかく言われる必要ないし(笑)。ないと思います。逆にレスペク
トもしていますし。
筆者
レスペクトしてるっていいですよね。
荒
彼らだけでも変えられないから僕らもやらないといけないし。だれがやればいいってわ
...
けじゃなくて、全員で やらなきゃいけないことだと思う。
筆者
荒
筆者
荒
上の世代と自分たちの世代で何かここは違うな、ていうところはないですか。
... ......
情報量 とネットワーク じゃないですか。
ネットワーク…
僕らウェブでね、つながっていればいろいろとアクセスできるし。メディアの情報もこ
んなに増えてるし 30)。
筆者
上の世代よりネットワークがあるってことですか。
......
荒 と思いますよ、あ、あるというか作るのがうまいんじゃないですか。要はネットワーキ
..
ング を作る能力は長けていると思いますよ。でもわからないですよね。上っていうのがどの
くらい上なのかもよくわからないし。あまり関係ない気もしますよ。
筆者
荒
筆者
30)
あんまり関係ない…
あまり関係ないです。
田中優さんとかはすごくネットワークありそうですよね 31)。
荒氏が選んでくれたインタビュー会場のカフェには環境系の雑誌が数多くおいてあり、自由に
閲覧できるようになっていた。
31)
田中(2005, 2007)などがある。「未来バンク」理事長、「ap bank」顧問、「日本国際ボランティ
アセンター」理事、「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」(足温ネット)理事、福
井県立大学非常勤講師、和光大学非常勤講師、立教大学大学院非常勤講師など肩書き多数。日本
のアル・ゴアとよばれる。ちなみに田中(2005)の帯は桜井和寿、田中(2007)の帯は坂本龍一
が書いている。また、荒氏は 2007 年 9 月に田中氏の講演で司会をつとめた。
19
荒
ネットワーキングというか、田中さんは、すばらしいですからね。
(中略)
荒
あまり世代間のあれはない気がしますね。ただ逆にいえば、上の人たちが市民権がない
なかでいろいろやってきてくれたことが今、実を結んでいるものがたくさんあると思うので、
感謝と尊敬をしています。そして、僕らも続いていきたいなと思っています。だから同じで
.....
すよ。目的が同じ はずだから。いっしょにやっていけばいいと思いますよ。
4.8
筆者
集合的アイデンティティ
活動を続けていくなかで、やっぱりコミュニティとして、なにかこう信頼関係みたい
なものを育てていくと思うんですけど、そのなかでなんていうのかな、思想っていうと大げ
さですけど、なにかそういうお互いの共通の考え方みたいなものは生まれてくるのですか。
荒
筆者
荒
筆者
うん、生まれてくると思いますよ。
たとえば、こういうところのメッセージとか作るのに 32)、出てくるのかなと。
そうそう。まさにその通りだと思いますよ。
荒さんが、代表が、考えている、こういうふうな共通の考えみたいなのができつつあ
るんではないか、ということはありますか。
荒
筆者
GoodDay 内に。
ええ GoodDay 内に。
荒
僕ひとりで考えているわけではないですけど、いくつかありますよ。やっぱりこう「楽
...
しくやろうよ」というのもあるし。
「よりより、いい社会を作るためにやってるから、人を傷
.......
つけないやり方 でやる」とか。あと、「否定はしない」とか、「批判はしない」とか、なるべ
く。あとは「自分の成長を目指していく」とか。
筆者
荒
それらは言葉にしなくても、共通感覚みたいな感じですか。それとも言葉にまで?
言葉にしてますね。みんなが自分で言い出してますから。僕ひとりで考えたわけじゃな
いところがありますし。
・・・ほんとスタッフは、いいスタッフ揃ってますよね。恵まれてる
と思いますね。人柄もすばらしいし。
4.9
筆者
荒
否定と批判の矛先
否定とか批判は、みんな気まずくなりますしね。
でも、僕も原子力発電所とか、イラク戦争とか大反対ですし、アメリカ政府とかどうか
と思いますけど 33)(笑)。そういう気持ちを、なんというのかな、その矛先を違うところに向
32)
本稿第 2 節にみたような Good Day のキャッチフレーズの「遊びながらエコ」、
「環境問題につい
て考え・行動するための『きっかけづくり』」など。
33)
ボランティアとネオリベラリズムとの共振が問題にされているが(仁平 2005)、環境ボランティ
アにはこれはあてはまらないかもしれない。なぜなら、ネオリベラリズムは市場モデルに依拠し
て、民営化、強い個人、自己責任などを強調し、その結果増大する社会格差と社会不安に対して
はセキュリティの強化で応える一方、環境というテーマは、市場の失敗あるいはその負の外部性
としての公害や地球温暖化にかかわっているからである(もっとも排出権取引にみるように市場
20
けてね、社会をよくしていくということが、自分たちもしんどくないので。
筆者
荒
筆者
なるほど。
.........
そのなかでより効果的なアプローチ を探していくっていう方向ですよね。
イラク戦争に反対するときに、いくつか日本でも運動というかデモがあったと思うの
ですけど、そういうのには特に参加はしませんでしたか。
荒
参加してないですねぇ。デモとかはいいと思いますけどね、いいというか悪くないと思
いますけど。個人的にはあんまり参加しないですね。ま、時間がないっていうか(笑)、それ
だけなんですけど。
筆者
こっちの環境のほうで…
荒
仕事も NPO もありますので。ただ、仲間とはよく話しますけどね。どうしたら止められ
.........
るかとか。よく起ってしまってからというよりは、起らないようにする ためには、とかね。
筆者
荒
なるほど。
あと選挙で。選挙があったら戦争はしないって言っている議員に投票するということは
しています。
4.10
ボランティアになる人
筆者
急に話が飛ぶのですけど、ボランティアになる人ってだいたい友達周辺なのですか。
. . .. ...
荒 いや、そうですね、友達の友達とか、紹介が多いですけどね。
(でも)2, 3 割は 初めて で、
......
音霊にいらっしゃった方とか、ホームページ とか mixi 見ましたって方とかですよ。
筆者
いわゆる外部から。
荒
うん、ひょろっと。
筆者
なるほど。定着というか、リピーターにはなりますか。
. . ........
リピーター多いです。6 割 7 割はリピーター になります、GoodDay の。
荒
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
筆者
荒
4.11
筆者
外部からくる人もリピーターになりますか。
なります。もちろん、ならない人もいますけど。6 割 7 割はなります。
では内部というか友達のコネのあるなしにかかわらずということですね。
そうそう。
それはすごいですよね。
リピーターの多さは GoodDay のよいところだと思います。
センスがいいんですよね。
ありがとうございます。リピーターは嬉しいですよ。
環境・オシャレ・楽しさ
昔は、社会運動というとまじめ路線というか、そういう感じだったのですけど、最近
ちょっとオシャレになってきて、学生などをみていると「環境はオシャレだ」という感じが
します。ロハスもそうなのですが、イメージ戦略というか、イメージで社会を変えていこう
は完全な敵というわけではない)。
21
というか。
荒
そうですね。
筆者
GoodDay もそうだと思うんですが、そういうのは荒さんから出てきたんですか。
........... .....
ジュンとかね。みんなで考えました。オシャレで楽しくないと 、つまらない なっていう
荒
だけですよ。
筆者
荒
オシャレで楽しくないと…
ま、そうですね。もっとオシャレというか、もっとカッコよくしたいですね、エッジの
効いた…これからやっていきますよ。
筆者
荒
逆にオシャレで楽しいだけだと大学のサークルみたいになってしまって…
そうそう。
筆者
集まる意義みたいなのに、活動していくモチベーションみたいなものに、社会貢献が
入ってきて…
........
......
荒 まさに。じっさいに社会を変えていく っていうことは強くもっています。楽しいってい
.........
うのは目的ではない ですよね。それを通して楽しく感じるっていう、付随してくるものです
よね。楽しいだけじゃだめなんですよ。
4.12
環境・社会・倫理
筆者
最後に、最初の問題、活動をはじめるきっかけに戻りますね。繰り返しになるかもし
れないですが、荒さんは社会的なことに関心があったと言われていましたが、平和や福祉(障
害者自立支援法など)や労働(フリーター・ひきこもり)や政治といったいろいろな社会問
題があるなかで、なぜ環境をテーマに活動することを選択されたのでしょうか。
......
......
荒 なぜ、環境かというと、環境問題は「誰もが被害者 であり、誰もが加害者 だから 34)」で
す。すべての人にとって、関わりがあることなんですね。前向きな表現をすると、僕らの活
.............
..
動を通じて、世界中のあらゆる人々とあらゆる生物 のために貢献 できる可能性があるからで
す。
最近のお気に入りの造語があります。
..
「私たちは、疑いようもなく、全員 が地球人である。」
自分という資源を最大に活用して、世界のためになりたいと思っています。
ちなみに、環境の次は、貧困と戦争をどうにかしたいですね。これだけ愚かな行為を続け
るのをやめさせたいです。たぶんそのうち動きます。
34)
「だれもが被害者であり、だれもが加害者」という構図はまさに「社会的ジレンマ」
( Dawes 1980,)
の特徴である。研究のサーヴェイとして山岸(1989)、入門として山岸(1990, 2000), 社会学的
研究として海野(1991)がある。また、社会的ジレンマは「共有地の悲劇」(Hardin 1968)が典
型的である。共有地の悲劇の説明として、鳥越(2004: 7 章)は自然言語で易しく、長谷川計二(1991)
が易しい数学を使い、Gibbons(1992=1995: 26-28)はやや数学が難しいかもしれないが最もリア
ルである。社会的ジレンマのヴァリエーションにかんする数学的構造については武藤(2005a,
2005b)がある。なお、環境問題としての社会的ジレンマについては海野(1993)や船橋(1989, 1995)
があり、それへの批判をふまえたうえでのまとめとして海野(2001)がある。
22
筆者
誰もが被害者であり誰もが加害者、世界中のすべての人や生物に貢献できること、力
強い言葉ですね。私はじつは利己主義/利他主義ということをずっと数学なども使って考え
てきたのですが 35)、利他主義というものを貫徹するならば、特定の他者ではなくて世界中の
他者にプラスになるべきなのですね。そういう意味で、環境問題は、倫理的に生きようとす
る人が必然的にかかわらざるをえない問題なのだと思います。
荒
その通りだと思います。あとは、よく言っていることなのですが、
「気づくか気づかない
...
.....
か」、「やるかやらないか」の「選択」になります。その気づき を与え、一緒にやる ことに導
くのが、GoodDay の役割というわけです。
5. 結論
本稿をまとめよう。第 2 節では環境 NPO GoodDay のあらましを紹介し、第 3 節では筆者
によるボランティア参加体験をまとめ、第 4 節では当事者である GoodDay 代表の荒昌史氏に
GoodDay のこれまでとこれからをインタビューという形で語ってもらった。これらにより
GoodDay という新しいタイプの NPO の全体がおぼろげながら明らかになってきただろう。
以上の議論からすくなくともつぎのようなことがいえるだろう。第 1 に NPO GoodDay と
ライブハウスが若者のネットワークによってほぼ同時に生まれたこと、第 2 にインターネッ
トが重要な役割を担っていること、第 3 にボランティアのリピーター率が約 6, 7 割と非常に
高いこと。これらは、今後詳細な検討が必要ではあるが、IT 革命以降の 21 世紀の「新しい
社会運動」の具体的な内容を示唆するものといえよう。特に、抽象的なメルッチ(Melucci
1989=1997)の議論を具体化したものとして位置づけられるだろう 36)。
ただし環境 NPO の紹介を旨とした本稿は、市民活動研究の一番入り口にすぎない。環境
NPO の位置づけや比較研究など、引き続きさまざまな視角から検討する必要がある 37)。たと
えば環境 NPO と社会とのかかわりである。NPO GoodDay のスタッフたちは民間企業に勤務
する者が多く、当然ながら仕事との両立でハードスケジュールになっており、継続的に活動
を続けていくためにも、企業や社会の側で彼らをサポートするような制度を作っていくべき
だろう 38)。じっさい、仕事が忙し過ぎて活動できないスタッフもいるという(荒氏へのイン
タビュー)。最もよいのは、社会が全体として労働時間を短縮することだが(井上 2000: 145)、
NPO スタッフなど継続的に公共的な活動をする人びとだけでも有給休暇を多くとれるよう
35)
武藤(2002, 2005c, 2006, 2007)など。利己性と利他性の整理は今田(2001: 264)参照。
36) 彼らは Hardt and Negri(2001=2003)がいうようなマルチチュードともいえるかもしれない。
37) 環境社会学の代表的な理論には、①被害構造論、②受益圏・受苦圏論、③生活環境主義、④社会
的ジレンマ論がある(海野 2001)。最近の研究のレビューとして関(2005)などがある。環境社
会学会の機関誌『環境社会学研究』も参考になる。また、環境 NPO については鳥越(2000)、高
田(2001)、鳥越(2004: 13 章)などを参照。環境と社会を総合的に扱ったものとして今田(2003)、
最近の調査研究としては海野(2007)などがある。また、学際領域としての環境問題研究のハン
ドブックとして佐和(2006)がある。
38)
広井(2001, 2008)にみるように、社会構想とじっさいの社会づくりに向けて、環境と福祉の統
合的な議論が、近年の日本においてもなされはじめている(ここで福祉は労働を含む)。
23
にしたり、そもそもの正規雇用においても労働時間をオランダやドイツのように労働者の自
由になるようにするといったことが必要だろう(長坂 2000: 14-62, 大沢 2006: 156, 斉藤 2005)。
最後にひと言だけ述べておきたい。荒昌史氏やオオクボジュン氏といった GoodDay のスタ
ッフたちに筆者は日本社会のこれからを見たような気がした。彼らは間違いなく、彼らより
さらに若い世代にとっていくつかのあるべき姿を示しているように思う。実力のある若者た
ちがネットワークを作って協力し、補完しあいながら、自分たちの力をさらに磨き、新しい
ものを生み出しつつある。たとえ彼らがそれを意図せずとも、彼らは目指されるべきライフ
スタイルを、言葉や映像といったメディアと、そしてなにより行動によって表現しているの
である。
付録:NPO GoodDay ボランティア体験日誌
筆者は 2007 年 7 月から 8 月を中心に、NPO GoodDay にボランティアとして参加した。こ
のとき SNS(mixi)上で日誌をつけていたのだが、臨場感を残すためにここではあえてほと
んど編集せずに記載したい(一ボランティアとして綴ったものなので文章が拙いことは許さ
れたい)。全ての写真は GoodDay のホームページやブログにおいて公開されているものを利
用している。逗子ビーチクリーン Beach Clean Is a Party の番号#0x は前述の表のものである。
なお、この体験日誌は「遊びながらエコ」をかかげる NPO GoodDay におけるものであり、
当然であるが環境ボランティア一般に敷衍できるものではない。今日のボランティアの一例
として考えられたい。
◆7月7日 逗子ビーチクリーン Beach Clean Is a Party #01
気分転換もかねて、海のゴミ拾いに行ってきました。先週の土日に行った言霊とコラボしている
GoodDay という NPO にボランティアとして参加させていただきました。
今日は曇りだったので涼しかったし、ゴミもまだそんなに落ちてないので作業じたいはわりと早く終
わりました。けっこうタバコが多かったです。ビニールの手袋にびっしりとコケだか海草だかが張り付
いていたのが印象的でした。
その後、NPO スタッフのオオクボジュンさんという方と音楽や社会学のことなどをサシで話したん
ですが、これもすごく楽しかったです。
24
◆7月29日 逗子ビーチクリーン Beach Clean Is a Party #03+PEACE!!
朝 10 時から逗子の海でビーチクリーン。2 回目ともなると馴染み感もあり。最近はこれが楽しみ。
今日は午後のアーティストさんたちもボランティアとしてゴミ拾い。
午後は調子にのってふつうの軍パンで海にはいってしまった。ビーチバレーをやっていた人たちと
話すうちに、高円寺にある indian summer(http://happyassist.com/)というカフェ・バーのスタッフ&
お客さんとのことで、今 日はそこの店長さんのお誕生日パーティも兼ねて音霊でパーティ(名称
PEACE!! )なのだという。バスを借り切って来たとのこと。ここは社会学者の嗅覚からして見逃せな
いし、なんだかおもしろそうなので NPO GoodDay の人たちが帰ったあとも引き続き海岸に滞在。音
霊で PEACE!! のライブを聴くも、出てくるアーティストのクオリティに圧倒された。何人かのアーティス
トさんとも話せたし、indian summer の店長 H さんともすこしお話できたし、一日何人の人と話したか
よくわからない。やたら濃い日だった。
◆8月4日 逗子ビーチクリーン Beach Clean Is a Party #04+ビーサン飛ばし大会
3 時から最近土日の日課の逗子ビーチクリーン by GoodDay。海岸は左の写真のようにタバコのポ
イ捨てが多いです。そのあとでこの日はビーサン飛ばし大会。私は 2 回ともファール。やっぱ「ダメな
男子」のひとりでした w* しかしこの日は風が強かった。
その後、GoodDay の人たちと VAHANAS BAR に。じつははじめて入った。1 階より 2 階のほうがみ
んなでワイワイやるにはいいようだ。一青窈とつながって音霊に彼女のライブを連れてきた人物もき
た。
すこし喋った K 大 S の Y さんは大学からお金もらってツバルで調査するそうでやはり K 大は違うと
いうか、最近の学生さんはすごいなぁと思う。やる気と能力があれば学生時代からでもなんでもでき
そうだ。
* 文末の「w」は皮肉な笑いを意味する。
25
◆8月11日 逗子ビーチクリーン Beach Clean Is a Party #05+BBQ
今日も GoodDay & その近傍のみなさまにお世話になりました。毎回とても楽しませていただいて
おります。
今日は酷暑でそのなかやるのはきついかなと思ったのですが、案外とちゃんと帽子かぶって白い
シャツとか着て日射対策してったら、そんなでもなかったです。砂浜の道路側は暑いですが、水の近
くは風もあり、わりと涼しい。ただ、ビニール袋等ゴミはてんこもりでした。
ビーチクリーン終わったあとは BBQ(&某 WW で二次会)。なぜかレースクィーンやってた人とか来
てるし、編集者とか、某 S 商社マンとか、VJ*やってる学生の I 君とか、携帯電話の会社の人とか、ま
ぁ来ている人はなかなかふだんは会えないような人ばかりなんで、異業種交流会的なノリもあります
ね。けっこう名刺交換しまくりでした。個人的には VJ やってた彼と音楽の趣味があったり(indigo jam
unit とか)、編集者の S さんと見田宗介や柄谷行人の話ができたのが嬉しかった。環境系研究所の
方と面識をもてたのもよかったです。あと音霊の人とも話せましたし。そのうちキマグレンの K さんと I
さんとも話したいなぁ。
*VJ とは Visual Jockey の略で、クラブなどで DJ(Disc Jockey)の選ぶ音楽に合わせて、スクリーンに映す映像
を変えていく。
◆8月18日 逗子ビーチクリーン Beach Clean Is a Party #07
今日ははじめて会う方も多く、フレッシュな感じでした。J さん提案のチーム対抗ゴミ拾い競争はな
かなか愉しくて、チーム内の会話も弾みました。
しかしそれにしてもビーチクリーンのあとに砂浜で鳥かご(サッカー)してたら死にそうに疲れまし
た。だいたい飲んだあとやるからなんだが、他の人もそうなので、年齢を感じてしまった。頭がぜんぜ
ん回らなくて会話続かないしw おまけにまわりが若いと話題についていけないw まぁ年齢のせい
にできるのでいいんですけどね。
26
◆8月26(日) フジヤマ☆スカベンジ大作戦 2007!
フジ☆スカ行ってきました。フジ☆スカとは、「フジヤマ☆スカベンジ大作戦 2007!」の略で、富士の
樹海のゴミを拾うエコツーリズム。いろいろ刺激的でした!
6 時起きで久々の早起き。朝 8 時に新宿西口に集合。バスで 2 時間弱にて現地に到着。現地では
「富士山クラブ」の M さんがオレンジ色のつなぎを着て登場。
昼飯の弁当食ってから、M さんから蜂に出会ったときの対処法などを伝授(目を手で覆ってしゃが
む)。そして樹海の中へ。もっとも厳密には樹海ではなくて清掃したのは林業用に造林されたところ。
今回は静岡側とのこと。
【ゴミのミルフィーユ】目立った粗大ゴミはなかったが、それはゴミの上に土がかぶさっているからだっ
た。こんもりとした直径 5m くらいの山の上にゴミを発見したのだが、掘っても掘ってもゴミばかり。お
そらく、軽トラックで一気にゴミを流したあと土でもかぶせたんだろう。あるいは、何回もここが事実上
のゴミ捨て場になっていたのかもしれない。古いゴミのうえに土があって、その上にまたゴミがきてま
た土がきて、というミルフィーユ状になっているのだ。しかも植物の根がゴミとからまってしまってなか
なかゴミだけを拾えない。
【ベルトコンベア】ひとりでは到底太刀打ちできないので、4 人がかりで分業体制になった。トタン版
(これもゴミだった)をゴミ山の斜面において、うえの 2 人がスコップでゴミを掘り出し、下に流す。流れ
てきたゴミを下の 2 人が仕分けする。まるで工場労働のようだ。いつもの逗子でのビーチクリーンより
数段大変である(もっとも他の人は知らないが)。作業じたいも 2 時間近く続いた。
【産廃】ゴミの内容は見たこともないゴムの管とか、フトンみたいな綿とか、あと多かったのがガラス
の破片。電池もあった(危険)。それから女性もののサンダル(出てこなかったけど死体が近くにあ
る?)。基本的に産業廃棄物。この産廃のほうが圧倒的にゴミ全体に占める割合は多いのだとい
う。
【不法投棄】大量のゴム管や大量のガラス片にはかなりショックだった。はじめて見る謎なものが大
量に出てくるのだが、それは工場だか病院だかわからないが、企業が不法投棄しているのである。
けっこう悲しかったし、僕らが一生懸命作業していることからも憤りを感じた。
27
【潜在機能】不法投棄のような公共悪に対してそれを打ち消すべく NPO やボランティアが活動しなく
てはいけない。社会には悪人もいれば善人もいてよくできている(もちろん同一人物が社員として廃
棄して一般人としてボランティアになるかもしれないが)。こういう問題が「潜在機能」として NPO やボ
ランティアたちのネットワークや交流を作りだしていることはよいことなのだが、だからといって不法投
棄が正当化されるわけではさらさらない。
【焼け石に水?】たしかに樹海のゴミは外からはあんまりわからないし、わりと迷惑がかかる人は少
ないのかもしれない(この林の持ち主には迷惑はかかるが)。しかしゴミには危険物質もあるわけ
で、いろいろなゴミが相互作用して化学反応を起こして生態系に悪い影響を与える。それは結局、食
物や水の連鎖によってわれわれに還ってくる。
今回のゴミ拾いはきわめて狭い範囲だけである。しかも東京から 2 時間、そして帰りは渋滞で 5 時
間かかっており、時間的にもあまりできないのだ。かなり焼け石に水の感がある。一種の徒労感であ
る。しかし今回のフジ☆スカのような企画はいろいろな団体によって企画され沢山あるので、塵も少
しずつ除去していけば山のようなゴミもなくなるかもしれない。もっとも不法投棄は後をたたないので
イタチゴッコともいわれる。しかしゴミは拾うことで確実に減っていく。
【世界遺産?】僕は富士山が世界遺産になってほしいと思っていた。でもゴミが少なくなって世界遺
産になっても、そのことで観光客が今より増えればゴミはまた増えてしまう。環境や景観は悪化す
る。世界遺産になるのも考えものなのだ。こういうことを M さんに教わった(まぁビデオだが)。しかし
観光客が増えるのは基本的によいことであるし、観光客がマナーを守りさえすればよいのである(し
かしそれだけでなく現地の観光業や NPO などもなにか仕組みを考えるべきなのだろう)。やはり富士
山は日本のシンボルなのにそれが世界遺産になっていないのは恥ずかしい話だと思う。観光と環境
のコンフリクトについて考えさせられた。
【そのほか】もちろん、今回の企画も Party 的な要素はあって(でないとやってられない)、温泉ではな
いけれど露天風呂もあるスーパー銭湯に行った(^^) ゴミを焼く熱で水を温めているとのこと。あんま
り湯に浸かってのぼせたので水を飲んだら冷たくて美味かった。富士山の水はいいのかもしれな
い。
その後、渋滞で 5 時間かけて新宿に帰ってきて懇親会。いろんな人とまた名刺交換したり、情報い
ただけたり。なんでも 2005 年の愛知博のときにいろんな環境 NPO が協働作業(オープニングでのプ
レゼンなど)したときにネットワークができたそうで、そういう大きなイベントは NPO にとっていろんな
効果があるのだなぁと関心した。
あと、最後になってしまったが、タレントの某 H さんがフジ☆スカに参加してくれて GoodDay 的にも
私的にも非常に Happy でした。歩きながらすこしだけ 2 人でお話できたし、Y 市出身なのでローカル
ネタで、中学のこととか。なんでも逗子マリーナの hitomi のライブでスカウトされたのだとか。藤原紀
香をレスペクトしているだけあってすごくしっかりした人でした。
産廃も体験できたし、H さんとも喋れたし、スーパー銭湯にも行ったし、飲んでいろいろな人とも知り
合いになれたし、すごくおもしろかったです。それにしてもこの夏は GoodDay さまさまです m(_ _)m
28
【主催】フジ☆スカの主催はいつも逗子のビーチクリーンでお世話になっている環境 NPO GoodDay
とほか 2 団体(Green Vote http://green-vote.org/とスカベンジャー)。あと現地の富士山クラブ
(http://www.fujisan.or.jp/)の M さんに大変お世話になりました(富士山クラブはアルピニストの野口
健さんも理事をやっている)。
(参考)GoodDay フジ☆スカ レポート
http://junhouse.cocolog-nifty.com/goodday/2007/08/0826_2007_923b.html
◆10月20日 逗子ビーチクリーン感謝祭@逗子 VAHANAS BAR
逗子 VAHANAS BAR で GoodDay のみなさんが感謝祭を開いてくれました(むしろこちらが感謝し
なきゃいけないと思うんですが)。逗子ビーチクリーンを夏にはじめたことは僕にとってけっこうこの
先、大きな転機になるかもしれません。5、6 回行ったので今年の VIP になりました。いろいろいただき
ましたが、特にフォトブックがすばらしかったです。そして大切な友人ができたことがなによりの財産
です。
GoodDay のみなさんありがとうございます。そして今後ともよろしくおねがいします。
【謝辞】
本稿の執筆にあたって、インタビューに応じてくれた荒昌史氏、いろいろな話を聞かせてくれたオ
オクボジュン氏、そして GoodDay スタッフのみなさんに、記して感謝いたします。
【文献】
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Gibbons, Robert. 1992. Game Theory for Applied Economists. Princeton University Press. (=1995. 福岡 正
夫・須田 伸一訳『経済学のためのゲーム理論入門』創文社.)
29
GoodDay Blog. http://junhouse.cocolog-nifty.com/goodday/
GoodDay Home Page. http://www.goodday2u.org/
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憲・酒井隆史・浜邦彦・吉田俊実訳『〈帝国〉』以文社.)
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ついて」新原道信ほか編『地球情報社会と社会運動:同時代のリフレクシブ・ソシオロジー』
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境社会学の視点』有斐閣: 155-186.
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矢澤修次郎. 2003. 「社会運動と社会学」矢澤修次郎編『講座社会学 15 社会運動』東京大学出版会:
57-102.
31
Environmental Volunteers while Playing:
A Fieldwork on NPO GoodDay
Masayoshi MUTO
Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering
Tokyo Institute of Technology
2−12−1 Oookayama, Meguro, Tokyo 152−8552, JAPAN
The purpose of this paper is to clarify reality and consciousness of young people who participate
in volunteer activity or manage nonprofit organizations in present society through author’s fieldwork on
an environmental nonprofit organization called “NPO GoodDay”. Concretely speaking, this paper reports
two events held by NPO GoodDay. One is “Zushi Beach Clean: Beach Clean Is a Party” that is scavenge
at Zushi Beach. The other is “Fujiyama Scavenge Operation” often called “Fuji-Sca” that is scavenge at
base of Mt. Fuji. The feature of NPO GoodDay is holding many events collaborating with other NPOs and
live-houses (small independent music event companies).
Findings are the following. (1) NPO GoodDay and a live-house were born at almost the same time
through young people network. (2) Internet plays very important role for NPO GoodDay’s activity and its
origin. (3) The repeaters’ rate is about 60%-70% that is very high rate.
The above will give a concrete consist to 21 century’s “new social movements” after IT
revolution.
Key words:
beach clean,
events,
Lohas,
youth,
32
club,
music,
internet,
mixi
Fly UP