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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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心臓粘液腫におけるMRIの有用性の検討
河合, 千里
東京女子医科大学雑誌, 63(12):1487-1499, 1993
http://hdl.handle.net/10470/8882
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
43
〔東女医大誌 第63巻 第12号頁1487∼1499平成5年12月〕
原
著
心臓粘液腫におけるMRIの有用性の検討
東京女子医科大学 放射線医学教室(主任
重田帝子教授)
カ ワイ チ サト
河 合 千 里
(受付 平成5年8月20日)
The Usefu1韮ess of Magnetic Resonance Imaging(MRI)in Cardiac Myxoma
Chisato KAWAI
Department of Radiology(Director:Prof。 Akiko SHIGETA)
Tokyo Women’s Medical College
The characteristics of cardiac myxoma on magnetic.resonance imaging(MRI)were evaluated in
.20patients operated on from 1985 to 1991. MRI studies were performed with an O.5・T system in 5
patients and an O.15−T system in 15 patients using ECG gating. T1−weighted images(TlWI)were
obtained in all 20 patients, T2−weighted images(T2WI)were obtained in 16, and Gd−DTPA−enhanced
images were obtained in 9. MRI was able to correctly locate the myxoma and determine the site of
attachment. MRI also correctly determined the shape of 19/20 tumors。 The exception was an oval
myxoma with a smooth but fibrotic and calcified margin, in which MRI visualized the signal void due
to calcification as a villous surface. Myxomas showed an inhomogeneous intermediate intensity on
TIWI and an inhomogeneous high intensity on T2WI. These findings were thought to be related to
variations in the amount of cellular components, capillaries, and calcification within the myxoid
matrix. A relatively high intensity on TIWI and enhancement was observed at the base of the
myxomas, where less myxoid matrix and abundant vessels were seen histologically. A low intensity
band was noted on TIWI just next to the base of 3 myxomas, and bundles of collagen fibers werg
observed at the same site histologically. MRI provided information about the internal architecture of
these tumors, but the cause of the relatively high intensity area at the tumor base on TIWI remains
unproven. In conclusion, MRI was reliable for the diagnosis of cardiac myxoma, and should be
performed after cardiac ultrasonography.
緒 言
ないこと,任意の断面像を選択可能であること,
原発性心臓腫瘍は比較的稀な疾患であるが1),
軟部組織のコントラスト分解能が高いこと,組織
そのなかでは粘液腫の頻度が最も高い.以前は,
の水素密度や緩和時間を反映する画像の信号強度
僧帽弁狭窄症様の左心室流入障害や,血栓や塞栓
から病変部の構成成分の性状を推測可能であるこ
症などの症状を契機に発見されることが多かっ
と,心電図同期により心血管腔と心筋と腫瘍との
た2)3)が,最近では,心臓超音波断層法の普及によ
区別が容易であることなどから,MRIの心臓腫瘍
り,無症状で発見される例が増加しつつある4)∼6).
の診断に占める役割は増大している7).
心臓腫瘍の精査には従来,心臓超音波断層法や,
心血管造影,X線CT,核医学検査が用いられてい
本研究では,心臓粘液腫のMRI所見と手術所
見,病理所見とを対比し,MRIの心臓粘液腫診断
たが,さらに近年出現した磁気共鳴画像(mag−
における有用性とその役割について検討した.
netic resonance imaging, MRI)は, X線被曝が
一1487一
44
対象および方法
である.New York Heart Association(NYHA)
1.対象
における心機能程度はClass I 6例, Class II 10
1985年から1991年までの7年間に東京女子医科
例,Class III 4例であった.
大学でMRI検査を施行し,かつ外科的に摘出さ
2.方法
れ確認、された心臓粘液腫20例を対象とした.
0.5tesla(T)の超電導MR装置(日立社製,日
年齢は28歳から73歳,平均57.5歳である.男性
8例,女性12例で,初発症状は,胸部苦悶感5例,
立G50)および0.15Tの常電導MR装置(日立社
製,日立G10)を用い,心電図同期法によるスピ
呼吸困難3例,不整脈3例,関節痛2例,脳梗塞
ンエコー(SE)法にて撮像した, T1強調SE像(Tl
易疲労感各1例で,症状なく発見されたもの5例
WI)は繰り返し時間(TR)がR−R(600∼1,085
表 症例の内訳
年
症例 齢 性 部位
1
TIWI
造影
瘍 全
体
T2WI
基
TIWI
病 理
造影
T2WI
M LA
+(一)
2+(一)
2+(一)
粘液腫様基質
石灰化,出血
±
2十
十
53
F
LA
+(一)
2+(一)
2+(一) 粘液腫様基質
十
2十
2十
2十
2十
2十
石灰化,血管新生
3
部
51
(図6)
2
腫
55
F LA
M LA
十
(図9)
十「2十
2十
粘液腫様基質
出血,血管新生
4
64
十
一
十
線維化
十
十
5
69
F LA
十
十
2十
粘液腫様基質
出血,血管新生
血栓,多核細胞
十
十
十
6
70
F
LA
十
十
十
73
F
LA
+(一)
+(一)
2+(一)
粘液腫様基質
石灰化,血管新生
十
2十
2十
血管壁より構成
管腔
十
病 理
TIW1
基
部
造影
T2WI
近 傍
血管が多い
病 理
膠原線維間に
血管分布
血管増生
脂肪細胞増加
±
±
±
帯状の膠原線維
(図1)
7
(図4)
72
F
RA
28
F
MV
十
10
41
F LA
十
11
45
F LA
十
8
(図7)
9
(図8)
2十
2十
渦巻き状の無信号域
十
2十
2十
帯状の膠原線維
出血
(幅が狭い)
血管増生
帯状の膠原線維
2十
前尖後尖共に
粘液腫様基質
ゼラチン様,出血
石灰化
2十
血管増生
粘液腫様基質増加
2十
線維毛細血管増
加
12
50
13
54
14
55
15
16
61
63
(図3)
M
M
M
M
M
LA
十
粘液腫様基質増加
石灰化
.LA
十
粘液腫様基質増加
出血,血管新生
LA
十
LA
LA
十
十
2十
粘液腫様基質増加
2十
粘液腫様基質増加
十
2十
2十
出血
十
血管増生.
±
帯状の膠原線維
血管増生
±
帯状の膠原線維
十
出血
石灰化,血管,
ムチン形成,
2十
血管増生
膠原線維
十
血管増生
帯状の膠原線維
血管増生
膠原線維が粗に
血管増生
膠原線維が
少ない
線維に取り囲まれ
69
F LA
十
2十
粘液腫様基質増加
出血の多い部分
18
73
F LA
2+(一)
2+(一)
粘液腫様基質増加
出血,石灰化
2十
19
45
F
血管,出血
コレステリン結晶
2十
20
58
M RA
17
(図5)
(図2)
RA
2十
十
2十
2十
分布
線維組織
ゼラチン様
出血,血管
LA:左心房, MV:僧帽弁, RA:右心房.
TIWI:一:無信号強度,±:低信号強度,+:心筋と等信号,2+:高信号強度.
造影;一:造影効果なし,+:中等度造影効果,2+:高度造影効果.
一1488一
45
msec),エコー時間(TE)が20∼32msec, T2強調
例,左心房前壁2例であり,僧帽弁粘液腫の1例
SE像(T2WI)はTRが2∼3[R−R(1,200∼2,280
は前尖後尖ともに侵されていたが,付着部位は,
msec)], TEが60∼80msec,平均積算回数は4回
全例MRIで診断可能であった.また,左心房前壁
である.横断像の他に必要に応じて矢状断像,冠
付着例では特に矢状断に近い斜断像が有用であっ
状断像,斜断像を追加した.日立G50で5例,日
た(図1).
立G10で15例の検査を施行し,うち9例には
2.腫瘍形態
gadolinium−diethylene−triaminepentaacetic acid
20例中14例がMRIでは楕円形や分葉状の辺縁
(Gd−DTPA)0.1∼0.2mmol/kgを経静脈性に注
明瞭で平滑な腫瘍として描出され,手術所見と一
入したのち5∼20分後の造影MRIを撮像した.
致した.4例ではMRIで辺縁が不明瞭に認めら
MR画像上の粘液腫の形態,付着部位,および
れ,摘出標本では,外観はぶどうの房状を呈して
内部構造を,手術所見および病理所見と対比検討
いた(図2).TIWI, T2WI共にMRIで,辺縁の
した.とくに内部構造に関しては腫瘍全体,腫瘍
一部が不明瞭に描出された1例では,切除標本の
基部(腫瘍の心房壁への付着部)についてTIWI,
表面は平滑であったが,全周性に著明な石灰化を
T2WI,および造影MRIの信号強度と病理所見を
伴っていた(図3).
対比検討し,一部の症例では基部近傍についても
3.信号強度
検討を加えた.
1)腫瘍の全体像
結 ・果
20例中18例でTIWIで不均一な心筋と同程度
症例のTIWI, T2WI,および造影MRIの信号
の信号強度を示し,残り2例は高信号強度を示し
強度と病理所見を表に示す.
た.T2WIを撮像した16例では,心筋に比べ,不
1.腫瘍の部位
均一かつ高信号強度を示したものが13例,等信号
粘液腫は16例が左心房,3例が右心房に,1例
強度が3例にみられた.造影MRIを施行した9
が僧帽弁に存在していた.付着部位は心房中隔17
例(左心房7例,右心房1例,僧帽弁1例)のう
酬
ボ .評
コ
図1 症例6,70歳,女性
a:0.5T. TIWI(SE 619/21)横断像。左心房前壁に接して,不均一な,心筋と等
信号強度の腫瘤が認められる.
b:造影MRI(SE 556/21)矢状断像に近い斜断像(Gd−DTPA,0.2mmol/kg静注
後20分で撮像)。左心房前壁に腫瘤が付着している.造影効果が認められる.
1489一
嵐.
46
図2 症例20,58歳,男性
a:0.15T. TIWI(SE 840/30)横断像.右心房に,辺縁不明瞭な,心筋と等信号強度の腫瘤が見
られる.
b:T2WI(SE 1,600/80)冠状断像.一部不均一な高信号強度を示す.
c:切除標本.壊れやすい,ぶどうの房状の腫瘤で,一部に出血を伴っていた.
図3 症例ユ6,63歳,男性
a:0.15T. TIWI(SE 830/30)横断像.左心房側心房中隔に接して,一部辺縁不明
瞭な楕円形の腫瘤があり,不均一な,心筋と等信号強度を示す.
b:切除標本軟線撮影像.卵殻状の著しい石灰沈着を認める.
c:切除標本.平滑な楕円形の腫瘤で,辺縁に石灰沈着を認める.
ち,不均一な造影効果が僧帽弁粘液腫を含む8例
においても粘液腫は不均一な信号強度を呈する傾
にみられた(高度5例,中等度3例)(図4).1
向を示した.
例は造影効果がみられなかった.いずれの撮像法
切除標本では,腫瘍内に粘液腫様基質と粘液腫
一1490
47
:難.
図4 症例7,74歳,女性
a:0.15T, TIWI(SE 600/30)横断像.左心房に,心筋と等信号強度を示す腫瘤を
認め,心房中隔はlipomatous hypertrophyによる高信号強度を示し,Fその中心に,
心筋と等信号強度の基部(矢印)を認める.
b:造影MRI(SE 600/30)横断像.(Gd・DPTA,0.1mmol/kg静注後12分で撮像).
腫瘤は不均一な造影効果を認め,基部(矢印)も造影される.
c:T2WI(SE 1,800/80)横断像.不均一な高信号強度が腫瘤全体に見られ,基部
(矢印)も高信号強度を示す.
d:切除標本.粘液腫様基質内に出血(*),血管増生が見られる.
細胞,新旧の出血像およびヘモジデリン沈着,血
TIWIで雛尖後尖共に厚く,心筋と等信号強度を
管,脂肪細胞,コレステリン結晶,膠原線維,弾
示し,T2WIで高信号強度を示し,中等度の造影
性線維,石灰沈着などが様々の割合で不均一に認
効果が認められた(図8).
められた(図5).
2)腫瘍基部
造影効果の認められなかった症例(症例4)は,
T/WIで心筋に比べ高信号強度を示す例が7
切除標本上,腫瘍基部を除き,ほぼ線維化してお
例にみられ,等信号強度7例,低信号強度1例,
り,著しい石灰沈着が認められた.TIWI, T2WI
判定不能5例であった(図9).T2WIでは心筋に
共に小さい無信号域のみられた4例では,同部に
比べ高信号強度を示すものが4例,等信号強度を
切除標本上で石灰沈着が確認された(図6).Tl
WI, T2WI共に渦巻状,楕円形を示す無信号域が
示すもの3例,判定不能が9例であった.造影
MRIでは9例中基部を判定し得た7例に造影効
みられ,造影MRIでも無信号域がみられた1例
果がみられた(高度5例,中等度2例).
では,切除標本で太さ3cmにおよぶ渦巻状の空胞
切除標本の組織像では,腫瘍の基部には腫瘍基
がみられた(図7).切除標本の組織像では,この
質が少なく,血管密度が高い像を示し,出血や石
空胞の壁は血管壁よりなっていた.僧帽弁症例は,
灰沈着は乏しい傾向が見られた。.
一1491一
48
図5 症例17,69歳,女性
a:0.15T. TIWI(SE 700/30)横断像.左心房側の心房中隔に付着する不均一な,
心筋と等信号強度の腫瘤が認められる.腫瘤内部に楕円形の低信号域(矢頭)を認
める.
b:切除標本.粘液腫様基質に富む腫瘍で,基部(矢印)近くに出血巣(矢頭)を認
める.長い矢印:基部近傍.
c:組織像.腫瘍基部(矢印)に血管増生があり,基部近傍(長い矢印)に帯状の膠
原線維増殖を見る.腫瘤には粘液腫様基質に富み,出血巣(矢頭)を見る.
Hematoxylin−eosin染色,撮影倍率,2倍.
3)基部近傍
形成された血栓による塞栓症が重大な転帰をきた
TIWIで低信号強度が3例にみられたが17例は
しうる.そのため,粘液腫の早期診断および切除
判定不能であった(図9).T2WIでは低信号強度
が,致命的な合併症の防止・患者の予後に重大な
が1例に見られ,残りの15例は判定不能であった.
意味を持つ.この他に粘液腫では,constitutional
造影MRIでは,造影効果の認められないものが
1例にみられ,僧帽弁症例を除く他の7例は腫瘍
signと呼ばれる発熱,関節痛,発疹,レイノー現
の他の部分との判別は不能であった.切除標本の
その原因として腫瘍が産生するinterleukin 69)10)
組織像では基部近傍は膠原線維が密に分布してい
などが関与していると考えられている.今回検討
た.この層の比較的厚い症例では,T2WIでも低
した症例では,心症状が初発症状と考えられたの
信号強度を呈した(症例3).
は,胸部苦悶感の5例,呼吸困難の3例の計8例
象免疫グロブリンの増加などの異常がみられ,
考 察
であった.塞栓症としては脳梗塞1例が認められ
原発性心臓腫瘍は剖検例の0.00ユ7%から0.28%
た.関節痛2例,易疲労感1例はconstitutional
にみられるにすぎない1).そのなかでは,粘液腫の
signが主症状の症例と考えられた.また,他疾患
頻度が最も高い.心臓粘液腫は,腫瘍自体による
の超音波による精査中,偶発的に本疾患を診断さ
心内腔閉塞に基づく急死,腫瘍またはその表面に
れた症例が5例認められている.
一1492
49
図6 症例1,51歳,男性
a:0.5T. TIWI(SE 600/20)横断像.左心房側心房中隔に付着する楕円形の表面
平滑な腫瘤を認め,内部は不均一な,心筋と等信号強度を示す.一部に小さい無信
号域(矢印)を認める.
b:造影MRI(SE 600/20)横断像.(Gd・DTPA,0.1mmol/kg静注後15分で撮像).
小さな無信号域(矢印)を除き,中等度ないし高度の造影効果を認める.
c:T2WI(SE 1,800/80)横断像.小さい無信号域(矢印)を含む,不均一な高信
号強度を示す.
d:標本軟線撮影像.粗大な石灰沈着の散在を見る.
e:切除標本.出血,基質に富む部位および石灰沈着(*)の混在を認める.
心臓粘液腫のスクリーニングにはcost perfo−
からの超音波検査法に比べて,広い視野が得られ,
manceの点で超音波断層法が優れている.とくに
診断能が向上する11).しかし,超音波検査法では良
経食道超音波断層法を併用することにより,体表
好に観察できる症例は限定され,またその診断能
一1493一
50
図7 症例8,72歳,女性
a:0.15T. TIWI(SE 1,000/30)横断像.右心房に辺縁平滑な楕円形の,心筋と等
信号強度の腫瘤があり,その内部に渦巻状の無信号域を認める,
b:造影MRI(SE 1,000/30)横断f象(Gd−DPTA,02mmol/kg静注後15分で撮
像).渦巻状の無信号域を除き,高度の造影効果を認める.
c:切除標本.腫瘤内部に太い血管腔(2.5×4.5×3.5cm,3.5×3.0×3.5cm)が渦
巻状に見られた.
は術者の熟練度に依存する.
瘍と周囲の心・大血管との位置関係を明瞭に描出
X線CTの利点は超音波断層法に比較して,よ
可能である.更に横断像に限らず,任意の断層面
り観察視野が広い点にある.しかし,X線吸収値
を撮像可能なことが利点である15).
が心筋と血流でほぼ等しく,精度を上げるために
今回の検討において,粘液腫の存在部位は全例,
は,ヨード造影剤の使用は不可欠である.石灰化
手術所見と一致をみた.特に,左心房前壁に付着
が著しい症例ではアーチファクトが生じ,腫瘍の
する例では矢状断に近い斜断像が有用であり,付
形,動きや,石灰化以外のX線吸収値の判定が困
着部位特定のためには,横断像のみでなく,適宜,
難となる.高速シネCTは電子ビームスキャン方
適切な断層面の撮像を追加することが必要と思わ
式で,ミリセカンド単位のスキャンが可能なため,
れた.
心電図同期を用いずに腫瘍と正常構造との関係を
腫瘍形態に関しても,MRIは20例中19例におい
描出できる12》∼14).しかし,機械が高額で,装置の
て手術所見との一致を得た.MRIで辺縁不明瞭な
設置に広い空間を必要とするために,現時点では
症例は摘出標本でぶどうの房状の形態を示す傾向
一般には普及していない.
が認められた.しかし,TIWI, T2WI共に,一部
MRIはX線CTと同様に観察視野が広く,腫
辺縁が不明瞭にみられた1例は,摘出標本で腫瘍
一1494
51
轍
噸
轡
舞
1蔚
b
図8 症例9,28歳,女性
a:0.15T. TIWI(SE 1,085/25)横断像.腫瘍の存在する僧帽弁前前後尖ともに心
筋と等信号強度がみられる.
b:T2WI(SE 2,277/80)横断像,僧帽弁前尖後尖ともに高信号強度を示す.
c:切除標本.粘液腫は僧帽弁前尖後園から腱索に進展しており,前尖の一部のみが
正常の弁構造を有している.
辺縁に著しい石灰沈着を伴う線維化が認められ,
び形態の診断に関して,今回の結果と同様に正確
同部位が無信号域を呈したためと考えられた.
な診断が可能とされている.腫瘍の信号強度に関
今回の症例では,腫瘍上に肉眼的に明らかな血
しては,TIWIで心筋と比べ等信号強度を示した
栓付着は認められなかったが,顕微鏡的な大きさ
と報告されている7).
の血栓付着はいくつかの症例に認められた.重篤
今回の検討においては,粘液腫全体像としては,
な合併症である塞栓症は,腫瘍本体が塞栓となる
12例にTIWIで心筋と等信号強度, T2WIで高信
ことも,腫瘍に付着した血栓が塞栓となることも,
号強度を示し,中等度ないし高度の造影効果がみ
知られている16).ぶどうの房状でゼラチン様基質
られた.TIWI, T2WIともに心筋と同程度の信号
に富む症例は,腫瘍が分離剥離し,塞栓源となり
強度を示した3例のうち2例には,線維化が見ら
得るであろうし,腫瘍表面が線維性で一部粗であ
れた.TIWI, T2WIいずれの撮像方法においても
る例では,限局的に血栓形成をきたすといわれて
腫瘍は不均一な信号強度を示した.MRIによる信
いる.そのため,現時点では粘液腫においては腫
号強度は主に腫瘍基質の水分含有量に由来する.
瘍形態に関係なく早期に摘出することが常識とさ
粘液腫基質は水分が多く,TIWIで低信号強度,
れている.
T2WIで高信号強度を示す.また,粘液腫基質間
心臓粘液腫のMRIに関する報告はいくつか散
には紡錘形細胞,膠原線維,弾性線維,血管,新
見される17}∼20).MRIによる腫瘍の付着部位およ
旧の出血およびヘモジデリン,脂肪,石灰化など
一1495一
52
「『7認
.一一
毘』_
懸漏闘暇黙闘瞬羅爆弾岬町膿糊
。
図9 症例3,55歳,女性
a:0.15T. TIWI(SE 1,000/30)横断像.左心房側心房中隔に付着する,辺縁平滑
楕円形の腫瘤を認め,内部は不均一な,心筋と等信号強度を示す.腫瘍基部(白矢
印)は高信号,基部近傍(矢印)には帯状の低信号域が見られる.
b:造影MRI(SE 1,000/30)横断像.(Gd・DPTA,0.14mmol/kg静注後30分で撮
像).腫瘤全体に中等度の造影効果が認められる.基部近傍(矢印)は低信号強度を
示す.
c:切除標本.腫瘤の殆どの部分は暗褐色を示し,出血を認める.黄白色部は基質に
富む部分である.腫瘍基部(矢印)に血管が豊富に見られる.白矢印:基部近傍
d:組織像.腫瘍基部(白矢印)には血管が豊富に見られ,基部近傍(矢印)は帯状
の膠原線維性の結合織増生を見る.石灰沈着(*).Hematoxylin−eosin染色,ルー
ペ像.
が不均一に分布している.比較的新鮮な出血は
石灰化が低信号強度を,出血が高信号強度を示す
TIWI, T2WI共に高信号強度を,陳旧性出血やヘ
と報告し,またFunariら23)は転移性カルチノイ
モジデリンはTIWI, T2WI共に比較的低信号強
ド腫瘍,左房粘液腫で,造影MRIにより高度ない
度を呈する.石灰化はTIWI, T2WI共に無信号
し中等度の造影効果がみられたと報告している.
を,脂肪はTIWI, T2WI共に高信号強度を示す.
Gd−DTPAは血管内腔から血管外に拡散して細
粘液腫にはこれらが種々の割合で存在しているた
胞外間隙に分布し,間質の水緩和を促進させる造
め,MRIで不均一な信号強度を示したと考えられ
影剤である4)25).水の多い間質の組織ほどGd−
る,
内藤ら21)は,粘液腫のMRIは腫瘍内部の多胞
DTPAがより多く分布し,造影MRIで高信号強
度を示す.心筋はGd−DTPAにより造影される
状の不均一性とT2WIでの強い信号強度が特徴
が,粘液腫より軽度であり,心筋と粘液腫の造影
的で,更に石灰化と出血の存在がその所見を修飾
効果の違いは,心筋と腫瘍基質との差や,毛細血
するとしており,de Roosら22)は,心臓粘液腫の
管分布を含めた血管構築の違いなどによるものと
一1496
53
考えられた.また粘液腫では,出血,石灰化,脂
ただし,膠原線維の層が比較的厚い症例(症例3)
肪などを伴うため,更に信号強度が修飾される23)
ではT2WIでも帯状の低信号強度を呈した.
ものと考えられる.
TIWIで心筋と等信号, T2WIで低信号,造影
今回の検討で,T2WIの画像がTIWIに比べ形
態が不鮮明に見られたのはTRが2∼3(RR)と
MRIで造影効果の見られなかった症例(症例10)’
心拍数に依存するため一定でないことや,撮像時
では,腫瘍細胞も粘液腫基質も殆ど残存しておら
間が長く,呼吸や体動によるアーチファクトが強
ず,粘液腫全体が線維化した稀な症例と考えられ
いことにより,S/N比が良好でないためと考えら
た.
れる.TIWIで撮像する造影MRIは腫瘍の組織
腫瘍基部はTIWIで判定し得た15例中7例で
像を反映するので,T2WIは省略可能と考えられ,
は心筋に比し高信号強度,7例は心筋と二信号強
検査時間の短縮化ができると期待される.
度を示した.洞口ら26)は,T2WIでは,腫瘍の中隔
現在普及しつつある超電導MR装置はシネ
付着部付近で高信号強度を呈したと報告してい
MRIが可能であり,スピンエコー法で起きる血流
る.我々の検討では,T2WIでは判定し得た腫瘍
基部の7例中4例が高信号強度を示し,3例は心
筋と等信号強度を示した.造影の行われた9例中
腫瘍基部を判定し得た7例に中等度ないし高度の
本邦は,諸外国に比し検診レベルにおける高度
造影効果が認められた.腫瘍の基部は組織学的に
診療機器の普及のため,心臓腫瘍,特に粘液腫の
粘液腫基質が少なく27),水分含有量も少ないこと
発見される頻度は高く,粘液腫の適確な診断と速
が,これらの所見に関与していると考えられた.
やかな治療方針の決定が重要と思われる.MRIは
また,今回検討した症例の組織像では,陳旧性出
今回の検討を考慮すると,心臓粘液腫を疑う場合,
血や石灰沈着は見られず,TIWIで低信号をきた
心臓超音波断層法に引ぎ続き行われるべき検査法
す因子がさらに少ないことにも関係していると思
して,相対的な造影効果が認められたものと考え
として位置付けられる.MRIの検査手順として
は,まずTIWIで横断像を撮像し,必要に応じて
他断面を追加し,次いで造影MRIを行い,さらに
シネMRIを撮像する. MRIで辺縁不明瞭な症例
られたが,腫瘍基部の信号強度の成因に関しては
に関しては,ぶどうの房状の形態と腫瘍の辺縁の
今後さらに症例を重ね,検討を加える必要がある
石灰化との鑑別にはCTスキャンが有用と思われ
われる.造影MRIでは基部組織像で血管密度が
高く,」血流が比較的豊富であるという構造を反映
と思われる.
によるアーチファクトが少ない.さらにシネMRI
では腫瘍の動きが観察でき,より精度の高い検査
が施行可能である14)と考えられた.
る.
今回経験した20例には心室に付着した症例はな
以上述べたように心臓粘液腫は,心臓超音波断
かったが,MRIで腫瘍基部が同定できれぽ腫瘍の
層像やMRIで殆どが診断可能であるが,鑑別を
心筋壁への進達度が診断可能で,手術手技の決定
要する疾患として血栓が挙げられる.両者の鑑別
に有用であると推測される.
点は,血栓が左房後壁や,側壁,左心耳に付着す
基部近傍に関しては,TIWIで帯状の低信号域
が3・例にみられた.造影MRIで造影効果を判定
る傾向が強いのに対し,左房粘液腫の多くが心房
中隔卵円窩縁より発生する点にある.また,心房
できた1例では造影効果が殆どみとめられなかっ
血栓は,表層に新鮮血栓が付着し,年輪状の器質
た.腫瘍全体に対し,腫瘍基部の信号強度が高い
化により,層状に増大する傾向があるため,MRI
例(症例3,12,14)で,基部近傍を検出し得た
で辺縁が高信号強度の層状の構造を示し,造影
が,腫瘍全体と基部の信号強度が等しい例では,
MRIでは殆ど造影されない.これに対し,粘液腫
基部近傍の判定が困難であった.基部近傍は組織
の多くはTIWIで心筋と等信号強度を示し,造影
像で膠原線維が薄い帯状に分布しており,MRI,
MRIで造影効果が認められることが多い.ただ
特にT2WIでの描出は困難であると考えられた.
し,球状の器質化血栓では,形態上でも,信号強
一1497一
54
度の点においても,完全に線維化した粘液腫との
鑑別が困難であると考えられる.
結 論
New York(1990)
4)徳永裕之,星野修一,田鎖 治ほか:無症状の右
房粘液腫の1治験例.胸部外科 44:787−789,
1991
1.MRIでは,心臓粘液腫20例全例に腫瘍の存
5)藤巻わかえ,竹村尚子,田原佳子ほか:学童心臓
在部位,付着部を診断することが可能であった.
病検診で発見された右心室粘液腫の1例.心臓
2.心臓粘液腫の形態に関しては,20例中19例は
18:1473−1477, 1986
MRIで診断可能であったが,腫瘍辺縁の線維化お
よび石灰化を示した1回転,MRIでは辺縁が不明
瞭にみられ,ぶどうの房状と辺縁平滑な腫瘍との
鑑別が困難であった.
3.1)粘液腫全体としては,20例中18例にTl
WIで不均一な心筋と等信号強度,16例中13例に
T2WIで高信号強度を示した..
2)腫瘍基部はTIWI 20例中7例は心筋に比べ』
高信号強度を,7例は等信号強度を,1例が低信
号強度を呈した.造影MRIの9例のうち腫瘍基
部を判定し得た7例に造影効果が認められた.
6)酒井吉朗,中川真澄,石塚尚子ほか:心臓腫瘍。
臨床医 13:1834−1840,1987
7)松山正也,渡部恒也,栗林幸夫ほか:後天性心疾
患.画像診断 8:265−271,1988
8)池田成昭,野口幹雄,金沢知博ほか:心臓粘液腫.
現代医療 21:155−159,1989
9)高原秀典,森 渥視,田畑良宏ほか:左房粘液腫
のインターロイキン6産生に関する臨床的研究.
日闇闇会誌 40:156−159,1992
10)日向正明:心臓粘液腫の病理形態学的ならびに免
疫組織化学的研究一その本態と組織発生に関する
考察一.聖マリアンナ医大誌 19:709−720,1991
11)小川裕二,大島贈品,川島栄司ほか:右房粘液腫
の1例一経食道心エコーの有用性一.呼と循
39 :283−286, 1991
3)腫瘍基部近傍は薄層であるが,3例でTIWI
で帯状に低信号強度を示した.この部位が厚い1
例ではT2WIで低信号強度を示した.
4.MRIは心臓粘液腫め診断に有用で心臓超音
12)Seifert P, Chomka EV, Stagl R et al;Appli−
cation of the cine computed tomographic scan
for precise loca1三zation of the origin of an
atrial myxoma:Surgical implicatlons. Ann
Thorac Surg 42:469−470,1986
波断層法に引き続いて行われるべき検査法と考え
13)Bateman TM, Sethna D耳, Whiting JS et al:
られる.
Comprehensive noninvasive evaluation of left
artial myxomas using cardiac cine−computed
tQmography. J Am Coll Cardio19:1180−1183,
稿を終えるにあたり,ご指導,ご校閲を賜りました
1987
重田帝子教授に心から感謝いたします.貴重な症例の
14)西村恒彦:心大血管.Medicina 29:1082−1087,
検索をご許可いただいた循環器外科小柳仁教授,同内
1992
科堀江俊伸講師,病院病理科河上牧夫教授に厚く御礼
申し上げるとともに,終始ご助言.くださった成松明子
15)西村恒彦:心疾患におけるMRIの有用性.画像
診断 6:1236−1244,1986
16)Becker AE:Cardiac myxoma. Eur J Cardiol
講師,本研究にご協力いただいた河野敦助教授,診断
1 :119−122, 1973
部の同僚と放射線技師の各位に深く感謝致します.
17)Freedberg RS, Kronzon I, Rumancik WM et
本論文の要旨は,第52回日.本医学放射線学会総会
al:The contribution of magnetic resonance
imaging to the evaluation of intracardi翁。
(1993年)において発表した.
tumors diagnosed by echocardiography. Circu・
文 献
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18)Polanco GA, Alam M, Haggar AM et al:
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myxomas. Henry Ford Hosp Med J 37二63−65,
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19)Lund JT, Ehman RL, Julsrud PR et al:
2)迫田 悟,木之下正彦:心臓腫瘍.臨床検査
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一1499
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