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フラクタル幾何学への誘い 一 複素力学系とその一般化

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フラクタル幾何学への誘い 一 複素力学系とその一般化
岡山大学算数 ・数学教育学 会誌
1
9
96
年 )8
9
頁∼9
2
貢
『パ ピルス』第 3号 (
フラクタル幾何 学 へ の誘 い
一 複 素 力学 系 とそ の一般 化
旦代
晃一
岡山大学教育学部数字教室
高橋教授か ら、今年の メイ ン ・テーマを数学教育におけるコ ンピュー
タの利用に したいので ,パ ピル スに関連 す る論文 をなにか重 くように と
のお話 しがあ った。突然の ことであ ったので ,その ときは し りごみ した
のたったが ,考 えた束 に,わた しが最近関心 を持 ってい る複素力学系の
拡 張について ご紹介 しようと決心 した。
2.複素力学系 とは何 だろ う
1.は じめに
視索力学系 とい うと難 しそ うだが、簡単
ます複素数 γを決めてお くO つ きに複素
な計算で定 まる複素数列が収束す るか , し
数列の初項 Z
oを勝 手に選 んでお くOその と
ないかを問題 にするだけの ことである。後
き複素数列 (zn)をつ きの漸化式 によって定
索数列の収束はその実部 と虚部か らなる 2
義す ることがで きる。
+γ
つの数列 の収束 と同一だか ら,実数列の収
zn.1- Zn2
(
1)
束 を知 っていれば理解 で きる。 それたi
jの
この漸化式の最初 の数項 は高校生 な ら容易
材料で薫 くべ き多様 な図形がコ ンビュ-夕
に計算で きる筈であ る。
の CRT上 に現 れる。生徒 たちには何 も説
おお まかに言 うと,この数列は γや z
oの
明の必要はあ るまい。只その図形 を見せ る
絶対値が大 きい と大抵発 散す る。いいか え
だけで十分 だろう。数学は社会 生活の中で
ると,それ らが原 点 0の近 くにあ るときの
直接 にはあ ま り役立 っていない と思 ってい
み収束の可能性 があ る。
日)の ように複素正則関数で表 され る漸化
る生徒 も数学の可能性 に日
良を見張 るに連 い
ない。 コ ンピュータに関心のあ る生徒 な ら
式の ことを捜索力学系 というo
自分で も色々な フラクタル図形 を画 面に笹
複素力学系の特徴 をみ るには ,つ きの よう
かせてみたい と思 うに違いない。
な集合 を図示 して眺めてみ るとよい。
一.
L
'
,
リー
(ア) z
oを0に固定 して
I
z
n lが∞ に発散
3.4次元へ の拡張
-4次元 図形 を平 面で切 る-
しないよ うな γの集合 をM とす るo
この集合 をマ ンデル プロ集合 という。
イ)つ きに γを固定 して
散 しないような初項
zIが∞ に発
z
oの集合 を KT
l n
と杏 き,充填 ジュ リア集合 とい う。
これ らの集合 を眺め ると, どの ような複
まず 4元数 を定義 す ることか ら始め よう。
実数体の上の
(
I
,
&
'
,
i,
A)を基底 とす る 4
次元線型空間 Hを考 えよう。すなわ ち,
Hはつ きの ような 4元数 とよばれ る数 の
全体 であ る。
r=rl+yl+zk+u)
k
系力学系であ るのか大体 わか るのであ る,
(
2
】
これ らの契合の概形 はパ ソコンで簡単に
ここに X,
y,
I.
u
)
は実数であ る. これ らを数
描 くことがで きるD た とえば , [1] には
と考えるために ,1 を単位元 と考え ,り ,
BAS‥Cによるプ ログラムが掲載 されて
kの間につ ぎのような乗法 を定義 す るO
いる。短 いプログラムなの7;,興味のあ る
一・
J=-).
L=k・
i
2=-1
,
方はぜひ γの値 をい ろいろ変えて多様 な充
J.
k=-k・
j-i
,
j2=-1,
k・L
=-i・k=j, k2=-1.
填 ジュ リア集合の形態を味わ って欲 しいO
プ ログラム を入力 しておけば ,γの値 を
これ らの式 によって Hに 自群に結合法則 を
生徒で もいろいろ変 え られ るので ,簡単 に
みたす積が定 まるこ とが容易に確かめ られ
手作 りの充墳 ジュ リア集合が得 られ る点が
るo さ らに Hは零因子を持 たないO すなわ
興味 を呼ぶ と思 う。生徒たちの充填 ジュ リ
ち ,Hの零でない元は逆元 をもつ 。 この こ
ア集合のコンクールな ども楽 しいのではな
とはつ きの ように して確かめ られ る。上の
いだ ろうか。
よ うに表 された Eにたい して 4元数 Eをつ
なおカラ ー ・プ リンターを用いて ,多色
きの式で定義 し, ;の共役 4元数 とい う。
E=x1-yト zj-L
U
k.
の画像 を描 くのも審美的見地か ら興味が増
Eもの と思われる。美 しい充填 ジュ リア集
この とき
,
l
l
-=(
xl+y2+Z
2+L
U
2
)
1,
合の画像が掲載 されている字数重広氏の本
[2] も参考 になるだろうo
以下 に述べ る複素 力学系の拡 張について
となるか ら,この式 の平方韻 を
I
lIと定
め ると,革でない Eにたい して Eの逆元
[-I
なのだが計算量は非常に多 く,美 しい充填
E
/J
lJで与え られ ることがわか る。なお ,
7を 4元数 とす るとき,I
CT
日-I
ll
I
T
7I
E, 7
ジュ リア集合 を探索 しようとすれば相 当な
が成 立することを注意 してお こう。
も同様 なのだが ,プ ログラムは非常に簡単
は
さて ,複素力学系 と同様 に 4元数 力学系 を定
計算時間 を必要 とす る。なるべ くペ ンチア
P
Uを搭載 しているパ ソ
ムな どの高速 な C
義 することがで きる。すなわち ,4元数の定数
コンを使用 し,プログラ ミング言語につい
γ を決めた とき,漸化式
ASI
Cや,実行 ファイルが中間吾語
ても B
ln.I≡ ln
2+γ
川
AS
I
CC
O
XPI
L
E
Rの使用はなる
を使用する B
によって定 まる 4元数列 t
rn)を 4元数力学系 と
べ く避 け,機械語の実行 ファイル を生成 す
よぶ 。 4元数 力学系 と複素力学系の大 きい相 違
るコ ンパ イラの使用 が勧め られる。
のひ とつはつ きに述べ る対称性 の存在 であ る。
どう しても
B
AS
I
Cがよい という方 には ,
αを帯でない 4元数 とする とき,Hか らHへ の
U
B
ASI
C(E
]
本評論社 )の使用 をお勧 め して
写像
お く。
r"
)と、HJ に
する。 したがって , 刷 にお ける t
-9
0-
一 αrα 1は和 ,積お よび絶 対値 を保存
r ・一
1
0R
E
NH書目l
l
e
dJ
ul
i
as
e
t日暮
お け る γを αγ
α 1で置 き換 えた ときの (α
rn
α 1 ) とは ,上 に述べ た ことか ら収束 に
関 しては まった く同 じ挙動 をす ることがわか
2
0C
L
S3:
C
O
NS
D
L
E0
,25
,0
.I
:
s
cr
e
e
n3
.
0
3
0G
A
M
N
AX
:0
.4
3:
G
A
N
N
AY
=0
.3
6
2
) の右辺 の第 2項 以下 を Eの虚 部 とい
るO (
4
0D
=D
.
冊5
0
8に よる と,上 に述べ
うが , [5]の命題 1
5
0F
O
RU
=
12T
O2S
T
EPD
(一一 ala-1 4元数 の虚 部の上 に 3
6
0f
O
RV
=
-2T
D2S
T
EPD
た対応
うD したが って ,γを上 に述べ た対称性 を用
7
0X
=l
U
V
)
/2こ
Y
=(
U
十
V
l
/2:
Z
=
X:
W=
Y
8
DN
=
0
いて γ
=al+bi (b≧0) の形 と思 って よい
9
0Xl
=
X
暮
X
I
Y
暮
Y
-Z
I
Z
W州 I
G
A
H
M
AX
ことがわか る.マ ンデル プロ集合 の定 点 を思
1
0
0Yl
=
X
暮Y暮2
†
G
A
N
N
AY
い出せ ば ,4元数 力学 系のマ ンデル プロ集合
1
1
0Zl
=
X
*
Z
暮
2:
Wl
=X
+W
+2
は事実上複 素力学系 のマ ンデル プロ集合 を知
1
2
0N
O
M=
Xl
f
XHYl
暮
Yl
I
ll
暮
Il
+
Wl
州1
れば ,判 った も同然 で ,あ ま り独 自の興 味 を
fⅣ
O
R
N
)4GO
T
01
7
0
1
301
引 く存在 ではない こ とがわ か る。
1
4
0X
=
Xl:
Y
=
yl
.
・
l
=
ll:
W
二Wl
:
N
=
N
H
次元 の回転 のなす群 と して作 用 して い る とい
1
5
0I
FN
く
31G
D
T
Og
O
したが って ,以下 の話は充墳 ジュ リア集 合
書V†
2
0
0
)
1
6
0P
S
E
T1
1
5
8
*U
l
3
0
0
,-1
5
0
1
7
0N
E
X
TV
に限 るこ とに しよ う。
4元数 力学 系の充填 ジ ュ リア集 合 は 4次元
空 間 Hの部分集合 なの で ,パ ソコ ンの CRT
1
80N
E
X
TU
上で観察 す るには 2次元 平面で切 った切 り口
l
ワ
oEN
D
この プログラムは
を眺め るのか常識的な考 え方だ ろう。つ きの
γ-0.
4
31+0.
3
6
i
節 でサ ンプル ・プログラムを示 してお くので
興味 をお持 ちの方はそれ を土台 に色 々な方向
につ いて の充填 ジュ リア盤台 を xyz
w 空間
へ と発展 させ て欲 しい と思 う。
の 中の 2次元平 面 r-I,
y-L
L
lで切 った図
形 を与 えてい るoB
AS
I
Cは [1] に準 じた
4.サ ンプル ・プ ログラム
以下 に 4元数 力学系の充填 ジュ リア集合 を
文法 で書 いてあ るので ,必要 に応 じて カラ
2次元平面で切 った切 り口の画像 を描 くプ ロ
して頂 きたい。 さ らに ,この プ ログラムは
グラムの実例 を 1つ示 してお く。前 にも述べ
まった くのサ ンプル であ って ,美 しい画像
た よ うにプ ログラムは非 常 に短 く単純 なので
を 目的 と した数値 を与 えて あ る訳では ない。
B
AS
I
Cを ご存 じの方 な ら,容易 に内容 を解読
他 の平面で の切 り口を見 た い人のために
で きる と思 う。 また ,2節 ,3節 をお読 み に
若 干の プ ログラムにつ いて の コメ ン トを与
な って いない方で も この プ ログラム をコ ン ピュ
えてお こう。上 の プ ログラムの70行 にお け
ータに入 力 されれば ,充填 ジュ リア集合 とは
,Y
,i
,W)の 川,VJ によ る
る位 置ベ ク トル (X
どの よ うな ものか を視 覚 的 に捉 え るこ とがで
1次式 の表示 の係数 ベ ク トル は共 に単位 ベ
きるだ ろ う。
ク トル であ って互 いに直交 して い る。 その
フル な美 しい画像 が得 られ るよ うに手 直 し
また ,ここに与 え るプ ログラムは切 る 2次元
よ うに ,2つの互 いに直交 す る単位 ベ ク ト
平 面を簡単 なものに して プ ログ ラム を見 やす く
ル を遇 ぶ ご とに . 1つの平 面に よ る切 り口
な るよ うに書 いてあ り,画像 の美 しきを狙 った
が得 られ る。 も ちろん ,小さい定数項 を加
ものではな い 。
えて よい。 ご研 究 を期 待 した い。
-
9 1
-
5.
お わ りに
りみ て ,あ ま りに も披 らか ら学ぶ こ とが
本稿 の 主題 は 「フラクタル 鞄何字 へ の誘
が 少 なか った こ とに思 い を致 し, 自分 の
怠惰 を強 く悔 い て い る ところで あ る。
い」 だ った筈 で あ るが , フラクタル の定 義
す ら示 さなか った のは 羊頭 狗 肉の誹 りを免
大 自然 の 中に は ,少 な くとも図形 的 に
れ な いか も知 れな い。 しか し, フラ クタル
み れ ば ,滑 らか な関数 よ りも , フ ラク タ
] の よ うな 1冊の
の 入 門は ,た とえば [1
ル とみ る方が受 け入れ や す い事 象 で満 ち
雷 物 に委 ね られ るべ きであ ろ う。 本紙 では
満 ちて い る。 そ して不 思 議 な こ とに その
ASI
Cの プ ロ
よ り実戦 的 に ,前節 で与 えた 8
両 者 が地 下 の 目に見 え に くい とこ ろで 手
グ ラム を主軸 に据 え ,それ をパ ソ コ ンへ打
をつ な い で い る ら しい。理 論 は ともか く
ち こんで 頂 くこ とに よ って ,視 覚的 に フラ
パ ソコ ンで図形 をい ろい ろ描 かせ て い る
ク タル の理 解 を 目指 したの であ る。
うちに その秘 密 が 見 えて こな いだ ろ うか
上 にお いて狗 肉 に擬せ られ た 4元数 力学
と,本稿 の執 筆 を思 い立 ったの だ が ,は
系 は本誌上 に世界 初 公開 され たので は な い
た して どうだ った ろうか 。読 者諸 氏 の ご
感想 を寄せ て頂 きたい と思 う.
か と思 うの で ,γの値 を変 えた り,U,V
の 係数 ベ ク トル とな る互 い に直交す る 2つ
の 単位 ベ ク トル を変 えた りして世界 でお そ
参 考文献
]石 村 貞 夫 ・石 村 園 子 『フ ラ クタル
[1
ら くは始 め て描 か れ る充填 ジュ リア集 合 の
描 像 を十 分 に楽 しんで頂 きた い。
数字』 東京 図書
[2]字 数重広
最後 に文献 表 につ いて- 善 しよ う。 [1]
1
9
9
0
.
『フラク タル の世 界
入門
9
8
7
.
・複 素 力学 系』 日本 評 論社 ,1
は 上 記 の よ うに フ ラクタル の入門雷 で あ り,
[3] 山 口昌哉 ・畑政 義 ・木上 淳 『フ ラク
で きれば本稿 と併 読 して 頂 きたい と思 う。
[2] は複素 力 学系 の 入 門番で あ り,図
タル の数理 』 岩 波講座
応 用数 学
1
9
93
[4]上 田哲生 ・谷 口雅 彦 ・諸 沢俊 介 『複
版 が多 く楽 しめ る本 で は な いか と思 う。
[3]は 力学 系 につ いて は触 れて いな い
素 力学 系序 説
培風館
が , フラク タル の数 学 的理 論 の入 門 番 であ
フ ラクタル と複 素角
牢析 』
1
9
9
5
.
[5]横 田一郎 『群 と位 相』 革 華 房
る。 [1] を読 んで さ らに数字 的 な理 論 を
1
9
71
学 び たい人 に手 頃 だ と思 う。
最 近刊行 された 〔4] は校 素力学 系 につ
いての本 格 的 な数 学宙 で あ る。 この本 を読
(
平成 8年 3月 1日受 理 )
む には ,複 素解 析 の索道 が必要 で あ るO本
稿 で帝 人 した 4元 数 力学 系 につ いて も [4]
と同様 な数 字的理 論 の建 設 が強 く期 待 され
る ところで あ る。 その こ とは ともか く,2
節 では 2次式 につ いて のみ 述べ た捜索 力学
系 が ,一般 の解析 関数 に拡 張 され ,深 く論
じられ る様 をみ る こ とがで きる。
私 が 1年 前 まで在 職 した数 字教 室 で は宇
敷 亙広 ,畑 政 も ,木 上 停 ,上 田哲生 らの こ
の分 野 の俊 英 と席 を同 じ く して いた。 か え
-
9 2
-
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