...

研究者から学生へのメッセージ∼ ∼研究者から学生へ

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

研究者から学生へのメッセージ∼ ∼研究者から学生へ
∼研究者から学生へのメッセージ∼
VOL.1
目 次
研究テーマ
研究者
情動の発達と、人とのあいだでの調整の不全
所属:都市教養学部 都市教養学科
人文・社会系 心理学・教育学コース
須田 治 教授
カテゴリー:心理学
1
所属:都市教養学部 都市教養学科
法学系法律学コース
憲法裁判の研究
宍戸 常寿 助教授
カテゴリー:法学
2
所属:都市教養学部 都市教養学科
経営学系経営学コース
イギリス社会史、都市史、企業者史
岩間 俊彦 准教授
カテゴリー:経済学・経営学
3
所属:都市教養学部 都市教養学科
理工学系 数理科学コース
微分方程式、変分問題
カテゴリー:数学
高桑 昇一郎 教授
高齢者・障害者の交通と道路や
移動しやすい交通環境の創出
所属:都市環境学部 都市環境学科
建築都市コース
カテゴリー:交通工学・国土計画
秋山 哲男 教授
スポーツ医学の画像診断
所属:健康福祉学部 放射線学科
カテゴリー:健康・スポーツ科学
新津 守 教授
発行にあたって
首都大学東京の多様な、
そして特色のある研究を、在学生を中心に本学への入学を希望している高校生などに向け
て、研究者からのメッセージとして紹介していきます。
その中で、皆様が普段講義を受けている先生方の「教育者」としての姿とは別の、
ロマンを追い求めて研究に打ちこ
む「研究者」としての姿をお伝えできればと思います。
初回は本学広報委員に執筆をお願いしました。
首都大学東京 広報委員会事務局
※先生方の寄稿をお待ちしておりますので、各部局の広報委員までお申し出下さい。
4
5
6
情動の発達と、人とのあいだでの調整の不全
研究テーマ カテゴリー:心理学
研究者名:須田 治(スダ オサム) 教授
所 属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 心理学・教育学コース
担当科目:発達心理学、発達心理学演習、発達心理学第三 など
研究概要
私は心理学研究室で、発達心理学、臨床発達心理学を専門に研究しています。大学の学部時代は、
フランス文学を専攻し、その頃は心理学の講義を聞いて、少なからず学問としてあやしいなと思って
いました。ふと気がつくと心理学を専門にしていますが、今でも発想のもとは、心理学そのものより
も広い思想(人間関係論)や脳科学研究などに通じる広領域にあると思っています。
心理学のなかでも、発達心理学に興味をもったのには、はっきりとした訳があります。論理的理由
ではなく直観的な理由ですが、発達心理学は、多様な生き方に私たちが晒されるときに、健康な発達
が何であるかを示し、ダイナミックに変化をしても変わらないものをとらえる可能性、すなわち変化
をとらえるための原点があるように思えるのです。その変化の健康と病理をとらえる視点は、「調整」
とか「調節」というはたらきであると思います。博士論文を書いてから20年以上になりますが、発
達という分野のなかで、この問いに関わってきてまだ興奮するおもしろさを感じています。
実は発達心理学に影響を及ぼした心理学の巨人をみてみますと、ピアジェにしろ、ヴィゴーツキー
にしろ、エリクソンにしろ、主体と環境とのあいだの「調整」とか「調節」というところに目を向け、
その機能についてのグランド・セオリーで、人間の適応の説明を進めてきました。今私は、乳幼児の
情動の発達の研究から一歩進んで、アスペルガー障害という人びとの発達障害に関心をもっています
が、この場合にも同じ関心が彼らの対人過程をとらえるのに役立っています。彼らは、他者とのあい
だにおいて情動的やりとりに困難を経験することが多いのですが、その問題も、彼らの情動と認知の
機能上の「調整」とか「調節」の不調、不全であると言えるのです。
心理学という分野のなかでも発達心理学は、心身に関心をもち、文化や脳神経系にも関心をもつか
人間の発達的変化を「より深く理解」するような仕掛けを用意しています。たとえばアスペルガー障
害という人びとの発達障害を研究していて関心がかき立てられるのは、私た
ちヒトが、どういうしくみ(機序)によって、他者とのあいだに、自分と同
じ情動があると気づき、共感を生むのか、についての問題です。探究心のあ
る人びとのこの領域への参加を待っています。
1
憲法裁判の研究
研究テーマ カテゴリー:法学
研究者名:宍戸 常寿(シシド ジョウジ) 助教授
所 属:都市教養学部 都市教養学科 法学系 法律学コース
担当科目:日本国憲法、憲法一部、憲法二部、情報法 など
研究概要
学部生の頃は、法律家になるためのお勉強にいそしんでいたのですが、いざ卒業が近づくと「法律
家にはいつでもなれるから」というモラトリアムで、大学に助手として残りました。数ある法学の諸
領域の中からなぜ憲法を選んだのかと問われると、ひとつには学部生時代に興味関心が絞りきれなか
った自分にとって、政治・思想とも関わりが深い憲法が好都合だったこと、もうひとつには、憲法を
教えてくれた4人の先生の講義・論文がいずれも個性的・魅力的だったため、「面白ければ何をやって
も良いのだろう」と高を括っていたという事情があります。
ところで憲法の講義や国家試験の中心は当時も現在も「憲法訴訟論」です。これは、日本国憲法が、
国会の法律や行政の処分が憲法に違反するかどうかを裁判所が判断するというしくみ―「違憲審査制」
―を採用しているため、裁判所が憲法を解釈する場合のルールや、裁判所による人権解釈のあり方を
主題とするものです。こうした研究のあり方は、アメリカの裁判実務・学説に影響を受けて1980年代
に確立しましたが、その後は憲法訴訟論が日本でうまく機能しない―裁判所が受け入れてくれない―
ことに挫折感が広がり、「そもそも憲法が保障する人権とは何か」「憲法が前提とする国家とは何か」
といった抽象的・原理論的方向が、学界の最先端をリードしてきました。私が学んだ先生は、いずれ
もこうした新たな方向を示し進めてきた方々であり、そうした自明の体系の土台を揺さぶる快刀乱麻
ぶりは、自分も研究者として斯くありたいと思わせるものでした。
しかしこうした最先端の研究は実は、既存の成果をただ「外側から」否定する浅薄な議論ではなく、
それを「内側から」批判し克服するものであり、そのために古典を精読するという、地味で手堅い作
業に裏打ちされたものであることが、私にも次第に分かって参りました。そこで考えたのは、現在の
学界の状況を規定した違憲審査制のあり方そのものを、もう一度検討してみたら何か得るものがある
のではないか、ということでした。日本の憲法(学)は、もともとドイツに強い影響を受けて成立したも
のですが、その土壌にアメリカ由来の違憲審査制を接ぎ木したためにうまく行かなくなっている、と
いう認識は、学界でも広く共有されているところです。しかし、そのドイツでは現在、議会で敗れた
野党の側が「まだカールスルーエ(憲法裁判所の所在地)がある」と言って、与党の作った法律の違憲判
断を裁判所に求めるなど、アメリカよりも強力とも言えるような
違憲審査制が定着しています。この日本とドイツの違いがどこに
由来するのかを明らかにして始めて、「憲法訴訟論」の狙いを復
活させることもできるように思った私は、縁あって母校から都立
大法学部に移籍した後の数年間、ドイツの憲法裁判制度の研究を
してきました。その一応の成果は、昨年末、『憲法裁判権の動態』
という単著として出版されています。興味をお持ちの方は、是非
ご覧下さい。
2
模擬法廷
イギリス社会史、都市史、企業者史
研究テーマ カテゴリー:経済学・経営学
研究者名:岩間 俊彦(イワマ トシヒコ) 准教授
所 属:都市教養学部 都市教養学科 経営学系 経営学コース
担当科目:都市経済史Ⅰ・Ⅱ、西洋経済史、欧州経済史、
企業者史特論 など
研究概要
イギリス社会史、都市史、企業者史、とりわけ、18世紀から19世紀のイギリス都市における中産階級につ
いて研究しています。言い換えれば、産業革命期の都市の人びとが、いかなる営みをし、どのような社会的
関係を結び、自己や他者や社会をどのように認識していたのか、ということが私の主たる関心です。
イギリスの歴史に興味を持ち始めたのは、大学に入学当初、一番勉強したかった東西世界の交流史の研究
が様々な点で困難であることがわかったため、次に興味を持っていた、「民主主義の先進国である」イギリ
スを勉強するようになったという不純な動機によっています。多くの日本人は、イギリスに対して好意的な
印象を持つことが多いのですが、私も、イギリスに対して、世界において「正義」を貫く国家というイメー
ジを持っていました。このようなイメージは、勉強が進むにつれて大幅に相対化されましたが…
歴史研究では、①新しい史料を発見し、整理し、解釈すること、②史実やデータを蓄積すること、③既存
の歴史理解を再考すること、④経済学や社会学をはじめとする既存の理論を歴史理解から再考すること、が
期待されています。著名な歴史家の見解によれば、歴史家は、未来を展望しながら、過去と現在の対象を常
に検討し、私たちの歴史理解を深めようとしています。私たちは、現在の状況を過去の事象から判断して、
未来に何らかの展望を持つことが、日常の様々な場面で求められています。このような姿勢をより洗練化す
る上で、歴史研究は重要な意味を持ちます。
歴史研究は、また、データや歴史像の提示といった点でも大きな役割を果たしています。例えば、過去数
十年間に進歩した人口や家族に関するヨーロッパでの研究は、過去の家族=大家族・早婚といった単純なイ
メージが成り立たないことを明らかにしました。市場のような制度と経済発展の関係は、過去の歴史的過程
のあり方に大きく依存している、という見解も大きな支持を獲得しています。個人的な体験として、私が持
っていた好意的なイギリス像は、18世において、消費税をはじめとする
効率的な税金のシステムを持ち、なおかつ、強力な軍隊を用いて戦争を
繰り広げていたイギリスという国家像によって、大きく変化しました。
しかし、何と言っても、歴史研究の醍醐味は、自分の収集した史料を
注意深く整理・解釈し、新たな歴史像を模索することです。私自身は、
産業革命期のイギリス都市で発行されていた新聞を読み込み、残存する
様々な記録をコンピュータデータベース化し、当時の人びとの社会的関
係や政治的、経済的活動について研究を進めてきました。その作業の過
程で、私の夢に、同時代の人びとが会話をしたりする場面が、頻繁に出てきました。試行錯誤の上にたどり
着いた、私の産業革命期のイギリスの都市像とは、中産階級の活躍と、彼らを中心に運営された様々な自発
的結社活動の重要性です。後者は、現在、私たちがNPOとかNGOと呼ぶものの起源ともいえます。このよ
うな結社活動は、多様な価値観の共生と様々な社会的関係の醸成に大きく貢献しました。近年、コミュニテ
ィにおける人びとの共生意識や関係の構築について多くの関心が集まってきていますが、このような活動は、
歴史的な理解を通じて、より一層深まると言えないでしょうか。歴史研究は、その行為自体が興味深いだけ
でなく、現在の私たちを理解するうえでも重要な参照系となっているといえそうです。
3
微分方程式、変分問題
研究テーマ カテゴリー:数学
研究者名:高桑 昇一郎(タカクワ ショウイチロウ) 教授
所 属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系 数理科学コース
担当科目:微分積分Ⅰ・Ⅱ、基礎ゼミナール、応用数理情報概論、
情報システム論応用、情報数理科学1 など
研究概要
大学院の頃から今に至るまで微分方程式と変分問題について研究しています。17世紀にニュート
ンとライプニッツにより生み出された微分積分は物事の変化を記述する非常に有効な方法をもたらし
ました。ニュートンは自身の発見した運動の法則において、微分積分を用いて物体の運動を記述する
「ニュートンの運動方程式」を導き出しました。微分方程式と力学はここから生まれました。それ以後
の物理学の発展においても微分方程式は現象を記述するための手段として重要な役割を果たしてきま
した。例としては、電磁気学におけるマックスウェルの方程式、量子力学におけるシュレーディンガ
ーの方程式やディラックの方程式、相対性理論におけるアインシュタインの重力場の方程式がありま
す。現在では、微分方程式は物理学、化学、生命科学、工学の研究においても重要なものであるだけ
でなく、経済や金融の分野においても有用であることが知られています。
上に挙げた例をはじめとして多くの微分方程式は美しい構造を持っています。それは「自然は常に
最適な道を選ぶ」という原理に従って導かれるものだからです。この原理のことを「変分原理」また
は「最小作用の原理」と呼びます。たとえば、光は所要時間を最小にするような経路を進むことが知
られています。変分原理に従って起きる現象を解明する問題を変分問題といいます。変分問題は微分
方程式が生まれたのと同じ頃に誕生しました。それ以来、変分問題は微分方程式と密接な関係を持ち
ながら発展してきました。変分問題は「限られた条件の中で最大の効果が得られるものは何か?」、
「限られた条件のなかでコストを最小にするものは何か?」という社会や産業で重要な問題も扱ってい
ます。
「直線とは何かという?」という答えの1つが「2点を結
ぶ最短線」というものです。これは、「長さという量を最小
にするものはなにか?」という変分問題の答えが直線であ
ることを意味しています。直線を一般化した概念を「調和
写像」といい、大学院の博士論文から現在までの私の主要
な研究対象の1つです。これに関する変分問題と微分方程
式を数学の立場から研究してきましたが、その特別な場合
にあたるのが「液晶の分子の配置を定める」問題であるこ
とが何年か前からわかってきて、現在、ますます興味を惹
かれています。
図は熱の伝導を記述する微分方程式の解の視覚化
4
高齢者・障害者の交通と道路や移動しやすい交通環境の創出
研究テーマ カテゴリー:交通工学・国土計画
研究者名:秋山 哲男(アキヤマ テツオ) 教授
所 属:都市環境学部 都市環境学科 建築都市コース
担当科目:都市空間と人間、都市空間システム概論、
都市交通計画論など
研究概要
出身は土木工学で、交通計画を専門としています。具体的には、バリアフリーデザイン、ユニバー
サルデザインの研究と公共交通を利用して高齢者・障害者が移動しやすいような交通環境を創り出す
ための研究をしています。
この研究を始めたのは1980年(26年前)です。当時、この分野は人気がなく研究対象とする人がい
ませんでしたが、私の最初に手がけた研究は、障害者専用の交通手段である「Special Transport
Service(STサービス)」と「道路・交通のバリアフリーデザイン」でした。その目標は、これらの研究
成果を体系的にとりまとめて博士論文として仕上げることや本を書くことでした。1988年には「高齢
者の社会参加とまちづくり」の本を書き、1991年には「都市における身体障害者のモビリティ確保に
関する研究」で東京大学に博士論文(都市工学)を提出し、当初の目標を何とか全部クリアしました。
その後の具体的な目標は、「リフト付バス」、「ノンステップバス」、「ノンステップタクシー」を走ら
せることでした。残念ながら「ノンステップタクシー」だけはまだ走っていませんので、すべての目
標をクリアするには至っていません。その他、国内の学会を作ることや国際会議を開催することが目
標でしたが、大勢の研究仲間と「日本福祉のまちづくり学会(会員800人)」をつくり、2004年実行委
員長として「高齢者・障害者の交通とモビリティに関する国際会議」を開くことがとできました。
2003年以降に研究活動の一環で海外のクリチバ、シエナ、ポートランド、ソウルなどの都市を訪れ
る機会があり、広場の空間、公共交通を優先する土地利用を目の当たりにして衝撃と感動を受けまし
た。
今思うに、5∼10年先の目標を持ち、実現する楽しさは満足度の大きいものでした。
私は1年前から、「観光まちづくり」を新たなテーマとして始めましたが、今後はさらに未知の分野を
研究し、開拓していく楽しみも加わりました。
シエナのカンポ広場(感動的な空間)
バス路線沿道は高密度(公共交通を優先する土地利用)
5
スポーツ医学の画像診断
研究テーマ カテゴリー:健康・スポーツ科学
研究者名:新津 守(ニイツ マモル) 教授
所 属:健康福祉学部 放射線学科
担当科目:医療と画像、診療画像医学、画像解剖学 など
研究概要
「スポーツ医学」って何だろう?
すごくカッコイイ言葉に聞こえるし、有名選手にもたくさん会える?
「スポーツ医学」の実態は、プロ選手、オリンピック選手などの超一流アスリートから、我々のよ
うな一般市民まで、幅広い対象を扱います。更には病気からの回復過程や障害の克服方法についても
応用されますので、一般の臨床医学の一部とも言えます。日本人の平均寿命が世界トップになった今、
がんや脳血管障害、心臓病など、命にかかわる病気の治療は格段に進歩しました。「健康な人はより快
適に、そうでない人も少しでも健康的に」と、その人のQOL(quality of life)をいかに高めるかが、21世
紀の医療保健の大きな課題となっています。決してエリートアスリートだけの分野ではないのです。
私の行っている「スポーツ医学の画像診断」は主に、関節や筋肉などの疾患を画像を用いて早期発
見しようというものです。具体的にはMRIという磁石を使って全身を検査できる装置を、国内外のメ
ーカーやエンジニアの方々のご協力を得て、更にパワーアップします。すると今まで見えなかったよ
うな非常に小さな病変(膝などの軟骨や半月板など)が画像で詳細に見えるようになります。このよ
うな高分解能画像が得られれば治療による効果判定やその後の競技復帰やリハビリなどの指標になり
ます。また特殊な方法を用いて、筋肉の「質」(疲れやすい筋肉なのか、回復が早い筋肉なのか)を調
べることも可能になってきました。
このように「スポーツ医学の画像診断」はエリートアスリートから一般人までの、障害の早期診断
から治療、健康増進までの、すべての過程を「画像」を通してサポ
ートするものです。私自身は「放射線科医」であり、病院ではCTや
MRI、超音波などを用いて病気の診断を行っています。ですから、私
が「スポーツ医学」で分担するのはその「画像」の部分です。当然、
整形外科の先生方や体育科学の専門家、リハビリテーションや栄養
学、スポーツ心理学など、多種多様の専門家集団が「スポーツ医学」
を支えているのです。
マイクロスコピーコイルを用いた膝の高分解能画像
6
Fly UP