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イギリスの在宅介護を担う児童

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イギリスの在宅介護を担う児童
SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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イギリスの在宅介護を担う児童
三富, 紀敬
静岡大学経済研究. 2(1), p. 1-65
1997-05-30
http://doi.org/10.14945/00000643
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イギ リスの在宅介護 を担 う児童
論
説
三
富
紀
敬
は じめに
コ ミュニ テ ィ
・ケアについて述 べ る とき、その主な関心 は、イギ リスではサー ビス を受 ける人 々
に対 して伝統的 に払 われて きた。 この関心 が、介護関係 の もう一 方 の 当事者 で あ る在宅介護者
(inforrrlal carer)に まで広 げ られ るのは、比較的最近 である。
在宅介護者 の問題 をはじめて公 にしたのは、MOウ ェブス ター (Mary Webster)女 史 で ある。
彼女 は、公衆派協会 の聖職者 としての職 を 1950年 代初頭 に辞 して、両親 の住 む家 に戻 らなければ
な らなかった。 それ とい うの も、彼女 の両親 が ともに病気 を患 い介護 を必要 にしたか らである。
彼女 は、介護 の体験 を通 して彼女 と同 じように介護 を担わ なければな らない女性 の境遇 に思 い を
はせ、両親 の死後 これ らの忘れ られた女性たち (forgotten women)に つい て深 く究明 しようと
心 に決 めるので ある。彼女 は、 ロン ドン大学 の講師 (BarOness sear)な どの援助 も得 なが ら介護
を担 う女性 の境遇 につ いての手記や論稿 を新聞 や雑誌 な どに寄 せてい る。その最初 の論稿 は
『フェ
・ニ ュース』誌 (Federatibn News、
デラ シオ ン
10巻 2号 、 1963年 5月 )に 掲載 の「忘れ られた
女性 たち」 で ある(1ヽ
手記や論稿 へ の反響 は大 き く、彼女 に寄 せ られた読者 の手紙 は、数百通 にのぼる。彼女 は、介
護 を担 う女性 の問題 に関心 をもつ人 々 を下院 (House of Commons)の 委員会室 に集 めて討論会
を開 いてい る。65年 11月 の ことである。この討論会 をへ て、独身女性 とその扶養者ナ シ ョナルカ
ウ ンシル (National Council for the Single Women and Her Dependants,NCSWHD)が
結成
され、 ここに在宅介護者 の運動 が始 まるのである (65年 )。
在宅介護者 の問題 は、 こうした経緯 をへ て よ うや く公 にされ専門研究者 による調査研究 の対象
-1-
経済研究 2巻 1号
として取 り組 まれはじめる。在宅介護者 は、す でに述 べ た経緯 か らもうかが えるように、当初女
性 や女性労働 とのかかわ りで もっぱ ら取 り上 げ られ、次 いで男女 の双 方 にかかわって論 じられ る。
さらに、少数民族 出身 の在宅介護者 との共通性 や差異 について論 じられ る。加 えて児童 の在宅介
護者 (Young carer)に ついて も論及 され る。
在宅介護者 がなぜ忘れ去 られて きたのか、 また、 なぜ どのように発見 され注 目を浴びるように
なったのであろうか。 これ らの問題 は独 自に取上 げて論ずるにふ さわ しい ことが らであ り、本稿
とは別個 に論 じてみた い と考 えてい る。
本稿 で は、在宅介護 を担 う児童 について取 り上 げ、 その規模 と構成、介護 の児童 にお よぼす影
響 とニ ーズ、援助策 につ いて検討 す る ことにしたい。
尚、本稿 に用 い る調査資料 の殆 どは、イギ リスの 自治体 や大 学 の関係者 よ りお送 りいただ いた
ものである。筆者 の文書 による照会 と依頼 に実 に心 よ く応 じて いただ いた。 これ らのお力添 えが
なければ、本稿 も日の 目を見 なかった と思われ る。 この ような事情 をあらか じめ記 して、関係者
に感謝 の心持 ちを示 してお きた い。
I
在宅介護 を担 う児童 の発見
在宅介護 を担 う児童 は、数世紀前 か ら存在す る。病気 を患 い あるい は障害 を抱 えた血 縁者 を家
族 で介護す る児童 は、 ご く最近 までほ とん ど知 られて こなかった し、 その特徴 や経緯、 ニ ーズや
貢献 について文書 に記録 され る こともなか った。 しか し、在宅介護 を担 う児童の像 を歴史の中 に
跡 づ け、その存在 を確 かめることはで きる。小説 に描 かれた像 を思 いお こしてみた い。不朽 の名
作 を数多 く残 した小説家 COデ ィケ ンズ (Charles Dickens,1812-70年
Ceデ ィケンズの円熟期 の作品 『 リ トル・
)の 作品 を例 に とろ う。
ドリッ ト』 (Little Dorrit,1857年 )を ひ もとくと、登
場人物 (エ イ ミー)が 、「小 さな母親」 (little mOther)の 役割 を負 い、非常 に幼 い頃 か ら彼女 の
家族 のためにか いがい し く働 いて い るさまを読 み取 る ことがで きる (第 9章 )。 リトル・ ドリッ ト
は、当時 13歳 、弟や妹 に とっては家政婦 で あ り母親 である②。父 は、当然 もって いて しか るべ き
父親 としての資格 をはじめか ら欠 いてい る。父 は、負債 で逮捕 され、マー シャルシー (Marshalsea)
債務者監獄 へ連れ て いかれ る。エ イ ミーは、不運 な家族 の年長児 として働 くので ある。作品 には、
彼女 の抱 いた不安 や つ らさが描 かれて い る。イギ リスの著名 な小説家 であ り詩人 で もあるT・ ハ ー
ディー (Thomas Hardy,1840-1928年 )の もっ ともす ぐれた作品『ダーバ ー ブィル家のテス』
(Tess of the D'Urber宙 1les,1891年 )か らも、在宅介護 を担 う児童 の姿 を知 る ことがで きる。
-2-
イギリスの在宅介護を担う児童
女主人公 のテスは、飲 んだ くれの父親 と子沢山の生活 に追われ る母親 の もとで育 つ。彼女 は、 10
代 で父 を失 う。彼女 は 7人 の子供 を育 て るのに苦心す る母親 の もとで、 いわば母親代わ りの役割
を担 うのである。L
小説 に描 かれた これ らの姿 は、児童 の歴史 に関す る研究成果 によって も確かめ られ る。児童 は、
ある女性研究者 による と両親 の一 方 もし くは双方 の死亡 とともに弟や妹たちの介護 を背負 う。 11
世紀初頭 の ことで ある。13世 紀 に至 って も、平均余命 は、30歳 ほ どである。幼少期 をす ぎた児童
は連れあい を失 って悲 しみに くれ過度 の負担 に悩 む母 親 を助 けて、家族構成員 の世話 を引 き受 け
る。 リンカー ンの ヒュー少年 (St.Hugh of Lincoln)の 事例 が、 この女性研究者 によって紹介 さ
「父の老齢化 とともにその
れて い る。 ヒュー少年 は、母 をはや くにな くしてい る。 ヒュー少年 は、
一身 を父の介護 にささげてい る。 ……父 の手 を引 いて一緒 に歩 き、衣服 の着脱 と入浴 の介助 も行
なってい る。ベ ッド・ メイクも手 が ける。父 が加齢 とともに一段 と弱 々 しくなった時、 ヒュー少
0。
年 は、父 の食事 をつ くるばか りか、食事 の介助 さえ手 が けて い る」
在宅介護 を担 う児童 の一端 は、 この ように著名 な文芸作品や児童史研究 をひ もとくことによっ
て確 かめる ことがで きる。 しか し、在宅介護 を担 う児童 を真正面 か ら取 り上 げ、 その影響や対策
について展望す る調査 や研究 は、 ご く最近 まで手 つかず のままである。
在宅介護 を担 う児童 とその問題 をはじめて独 自に取 り上 げた のは、新聞や大衆雑誌 である。筆
・スペー ス』誌 (Open Space)
者 の知 るか ぎ りで も、英国放送協会 (BBC)の 編集 になる『オープン
が、
「小さな金魚たち」 (Little Goldfish People)と 題 して取 り上げている (85年 7月 31日 号)。
同 じく『ザ・ リスナー』誌 (The Listener)が 「介護者 の為の介護 :ビ ク トリア時代 の 自助努力
は、福祉国家 にとって代わるのか」 (Caring for the carers:should Victorian`self―
help'replace
・エコー』紙 (The
・イブニ ング
the welfare state?)と 題 して (87年 5月 21日 号)、 『サウサーン
Southem Evening Echo)も 、論題 は不明であるものの (87年 12月 25日 )取 り上げている。『 リ
バ プール・エコー』誌 (Liverpool Echo)誌 も在宅介護 を担 う児童 とその問題を 90年 代 に入って
誌 (The lndependent)
前後 2回 にわたつて扱 つている(91年 2月 、同年 7月 )。『イ ンデペ ンデ ン ト』
も、「児童は障害 をもつ両親 の介護 に悩 む」 と題 して取 り上げている (92年 5月 8日 )。
在宅介護を担 う児童 とその問題 についての調査は、1988年 以降 に手がけられてい る。表 1は 、
88-96年 にか けて実施 された調査の名称 をはじめ実施主体、期間および対象者数 について一覧 し
たものである。調査 は、見 られるように 15を 数 える。
15の 調査のうちもっとも早 い時期 に手がけられた 3つ の調査、すなわち表 1の 上から順にサ ン
ドウェル調査、タームサイ ド調査 およびリーズ調査 Iは 、在宅介護 を担 う児童 の範囲 を確かめよ
-3-
経済研究 2巻 1号
表
1
在宅介護 を担 う児童 に関す る調査 (1988∼ 96年 )
の
査
名
称
調 査 の 主 体
中等学校の児童介護者数 に関
1
芋
2
寄藷暮
`三
奥調基
に関するタームサ イ ド首都 自治区役
4
症の親の児童介護者 に関するリー
堺竿翁暑
セフ トン市 の児童介護者調査
5
ノ ッチ ンガム市 の児童介護者調査
3
首都 自治 区教育部
1988年 6月
95人 +74人 ②
区役所政策研究 ユニ ッ ト
1988名 12月
564A (3)
市社会サ ー ビス部
1990年 11月
∼91年 2月
市役所介護児童研 究担 当者
ラー フボロー大学研究員
7
8
に関ヂΣ義基
9
ド州 の児童介護者計画 の評価
フイル
0
・
■
ド
自
治区の児童介
墨薯ど
豪書藷暮
の
児童
更牙ぎ′β
あ
外韮進晨た
禽子ぞ
晶な
2
・
関す を発聾
ム市 の児童介護者計画 の評価 に
345
・ ・・
ス タ 市 の 児 童 介 護 者 とそ の
ヱ 1%義 丞
グ ロス ター シ ャー州 の児童介護者調査
37都 市 の児童介護者調査
ハ ル トン市 の児童介護者調査
謄料]Sandwell
can電 fOr Ca滉
Child carers report,Februa
「
(1992年
5月 )(D
60A
ll人
19924「
15人
1992年
15人
1992年
28人
マ ンチ ェス ター大学教授他
1994年
281人
市教育部職員
1994年 9月
85人
オ ープン・ ユニバ ー シテー
1995年 1月
8人
ラー フボロー大学研究 員
1995年 12月
61人 (4)
チル ドレン・ ソサ エ テ ィ
(1995年 )(D
91人
州介護児童計画 管理委員会
ラー フボロー大学研究 員
市保健社会サ ー ビス部
(1995年 )(D
(1995年 )(D
1996年 6月
641人
35人
た
精
神障
害を
抱え
親の
児 市社会 サー ビス部職員
些
界
不
理
装
塞
薯
晶
る マ ンチ ェスター大学講 師
κ
藉
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圭
名
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墓
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ギ
町
兵
墓
プ
ヽ
譴
【
曇
雲
襲
曇
肇
運
6
の童
調
7∼ 10月
4∼ 8月
130人
覇盤瞑繁路∬ふ普∬Hl,¥鷺 rl釜 l麦薯路撃t票量
11描 1翼感
Tamesidc M.B.C.'s research on carers young carers,Policy Rese酪
│
こh unit Tameside M.Ё 。
こ 199':
Sandra BilsbOrrow,You grow up fast,as well...,young carers on Merseyside,Carers National
Association,May 1992,Alis6n Eniot,Hidden children,a study of ex― young carers of parents with
mental health problems in Lceds,Lceds City Council,Department of Social Services,October 1992,
Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the wOrld of young carers,Loughborough
University,Departinent Of SOcial Sciences, 1993,Jeni Webster, Split in twO; experiences of the
children of schizophrenic lnothers,BHtish JOuma1 0f Social WOrk,22(3),1992,Jo Ald五 dge and Saul
Becker,Punishing children for caring;the hidden cost Of young carers,Children and Society,7;4,
1993,City of Leeds,Department of SOcial Services, Young carers of parent with schizophenia,a
」
]踊 ∬臨鋸譜躍‰絆::Ъ 鵬翠L∬
≧肌趣I詳 ミ為 驚 露ど1』凛
perspective,Loughborough University,Department of
置t:P9ル
Social Sciences,1994,Penny Liddiard and Stanley′ rucker,MiltOn Keynes Young Carers Praect,A
Pilot study looking at the experiences of caring of eight young people in Milton Keynes,Schoo1 0f
m羮榊
靭鸞I離[蠍楡聯欄盤競響
r,Young carers,the facts,The Young Carers Research
GrOup at Loughborough University,1995,Sean Curran and Rick HOwell,Young carers in Cheshire,
[注
1996よ リイ
乍がれ
]日
認貸絡
習翼茎暦魂hfとで経羹言椛
史諄、
権モ
歌■讐2急 ゎれる
者
『首ピ
秀翁喜霞詞
│:1 奮
倉β
疹督層
βξ房↑層詈
χ勇暮対象は
r魔警
53人 で
ある
12月
。
表中では
(suspected carers) を示 す 。
の 数値 につ い て示 して い る。
-4-
イギリスの在宅介護を担う児童
うとした ものである。サ ン ドウェル調査 は、中等学校 に通 う 1万 9,000人 の児童 の 中か ら 95人 の
在宅介護児童 を確認 して い る。同 じ くタームサイ ド調査 は、お よそ 21万 8,500人 の住民 の 中か ら
564人 の在宅介護 を担 う児童、 リーズ調査 Iは 、60人 の在宅介護児童 をそれぞれ確 かめて い る。
これ らの 3つ の調査 は、 その後 に続 く同種の調査 の出発点 をなす とともに、在宅介護 を担 う児童
とその問題 についての世論 を大 い に喚起 してい る。
3つ の調査 は、共通す る調査 の方法 を用 いてい る。 それは、在宅介護 を担 う児童か ら直接 に情
報 を得 て い るわ けではな く、教育関係者や保健・ 社会 サー ビス分野 の担当者 か らの情報 をよりど
ころにす る ことである。 これ らの担 当者 は、 日常 の仕事 を通 して児童 やその家族 と接触す る立場
にある。被介護者 や在宅介護 を担 う児童 につい ての情報 を入手す る ことが で きる。在宅介護 を担
う児童の範囲 を確 かめる うえで は、妥当な情報源 で あるとい えよう。 しか し、 この方法 は、在宅
介護 を担 う児童の範囲 を確 かめる うえでは ともか く、児童 のニ ーズ を把握 して政策的 な対応 を見
通す うえでは、 はなはだ不十分 で ある。在宅介護 の もた らす児童 へ の影響 とニ ーズの一部 は、児
童 と日常的 に接触す る専門職者 を通 して把握 され る。 しか し、児童 が イ ンタ ビューや討論 な どを
通 して調査 の過程 に参加 す る こ とな しには、影響 や ニーズの把握 も十分 で はない。
3つ の調査 の うちタームサイ ド調査 を除 く2つ の調査 は、表 2に 示 され るように在宅介護 を担
う児童の範囲 に とどまらず、その影響や ニーズ、援助 の状況 をも調査の項 目に加 えて政策提言 の
よ りどころを得 ようとして い る。調査 の項 目はみ られ るように 10-10.5項 目にお よぶ。のちに行
われ る同種 の調 査 に較 べ て もさして見劣 りの しない数 である。 しか し、影響 やニ ー ズの把握 は、
専門職者 の知見だ けをよりどころにす る。在宅介護 を実際 に担 う児童 か らの情報 は、残念 なが ら
含 まれない。影響 や ニ ーズ は、当事者 自身 の感想 や意見 を抜 きに論 じられては、 い ささか片手落
ちであろう。
初期 に手 が けられた 3つ の調査 は、 この ように考 えると在宅介護 を担 う児童の範囲について先
鞭 をつ けた ものの、児童 へ の影響 や ニーズ をあます ところな く発見 して対応策 を練 る上では不十
分 である、 と評 さなければな らない。在宅介護 を担 う児童 は、 3つ の調査 によって十全 に発見 さ
れた:と はいいがた い。
3つ の調査 に続 くセ フ トン調査 は、教育職者 や社会 サー ビスの担当者 に加 えて在宅介護 を担 う
児童 か ら直接 にききとったはじめての例 である。調査 は、在宅介護 を担 う児童 を見 つ け出す こと
か ら始め られてい る。児童 の介護経験や ニーズについて、前出 の 3つ の調査 よ りはるか に多 くの
ことを明 らか にして い る。 セフ トン調査 が前出 の表 2に 示 され るように「介護 の作業内容」 を調
査の項 目 としてはじめて取 り上 げた ことか ら、 うかが うことがで きる。「介護 の作業内容」は、教
-5-
経済研究 2巻 1号
表2
在宅介護 を担 う児童調査 の主 な調査項 目等一 覧
=
1
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ △
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○
○
○
○
○
○
△ 〇
○
○
○
○
の疾病 の状況
介護 の作業 内容
ハル ト ン 調 査
1
サ
イ
査ド
7都 市 調 査
3
ジ
ン ミ 調 ノ ス ウ シグ
ル
ツ タ イ ヤロ
ズト
ン 査
1ン 1ス
ζ
調・
チ 調タ
調
ガ
ケ
査 イ Hム 査
査
○
○
○ ○ ○
○
○
○
1
ロンド ン ・エン
フ ィー ルド調査
ロンド ン ・ノー
スウ エスト調査
○
○
リ ーズ 調査 H
○
○
〃
○
○
被介護者 との血 縁関係
○
○
の家族 構成
○
○
〃
○
調マ
○
○
の民族別構成
ζ
ガ
○
〃
査
○
の年齢別構成
○
○ ○
〃
△
の性別構成
○
○
〃
○
○
の数
○
〃
調ノ
ツ
Iム
○ ○
○
児童介護者 の定義
セ フ ト ン調 査
査ル
リ ーズ 調 査 I
調査 の項 目等
調サ
ン
ド
ウ
タームサイド
調 査
調査名(D
△
○
介護 の開始年齢
○
△
介護 に費 やす時間
○
〇
介護 の期 間
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○
○
○
〇
○
○
○
△ △
○
○
○
○
○ ○
○
○
○
○
政策 の提言
○
○
〇
へ の公的な援助
〇
〃
○
○
〇
○
へ の私的 な援助
○
○
○ ○
〃
〇
○
○
○
児童介護者 のニ ーズ
○
○
○
○ ○
介護 の影響
○
○
○
調査項 目の数 側の
]表 1に 同じ。
[資 料
[注
]に)調 査の正式な名称 は表 1の
1∼ 15の 調査名である。
(2)表 中○印はあり、空欄はなし、△印はあるものの事例の一部 に限られるなど部分的にあることをそれ
ぞれに示す。
131 表中の○印は1点 、同じく△印は0.5点 としてその合計を集計 している。分母は調査項目の総数、分子
は当該する調査に盛 り込まれた調査項目の合計 をそれぞれに示している。
育職 に あ る人 々 は もとよ り社 会 サ ー ビス の担 当者 に よって も確認 しが た い こ とが らで あ る。在宅
介護 を実 際 に担 う児童 か ら直接 に きき とる こ とに よって 、 は じめて把握 され るので あ る。 セ フ ト
ン調 査 のの ち にお こなわれた 同種 の調査 は、 ハ ル トン調査 を除 い てす べ て児童 か らの きき と りを
踏 まえて い る。 セ フ トン調査 は、 そ うした調 査 方法 の先駆 けで あ る とい え よ う。
-6-
イギリスの在宅介護を担う児童
セ フ トン調査 に も限界 はある。 2つ の ことを指摘 してお きた い。第 1に 、調 査で取 り上 げられ
る地域 は限定 されてい る ことで ある。在宅介護 を担 う児童 の数 もおのず と少 ない。 セフ トン調査
につ いて い えば、前 出の表 1の ように 11人 の児童 で ある。これは、前出の 3つ の調査 は もとより
セフ トン調査 に続 く殆 どの調査 について も指摘 され る。 それぞれの地域 には、他 の地域 に共通す
る こととあわせて固有 の事情 もある。地域調査 か ら得 られた結論 を、その まま全国に共通す る特
徴 と見 なす ことは、 い ささか危険 で ある。第 2に 、在宅介護 を担 う児童 か らのききとりを踏 まえ
てい るとはい って も、個 々の事例 の紹介 や計 数 の集計 に終 わ るきらいが ある。 これ はセ フ トン調
査だけの限界ではない。 これに続 く調査 のい くつか も同 じ問題 を抱 えてい る。
これ らの限界 は、 S・ ベ ッカー (Saul Becker)を 責任者 として 92年 に発足 した専門 の研究 グ
ループ (The Young Carer Research Group at Loughborough University)の
一連 の調査 によっ
て取 り払われ る。 まず、特定 の地域 に限定 された調査 か らの脱皮 についてい えば、 S・ ベ ッカー
他 の手 になる『児童介護者調査』 (Young carers,the facts,1995)に よつて果 た され る。 この調
査 は、イギ リスの 37自 治体 で手 が けられ てい る。在宅介護 を担 う児童計画 (young carers proiect)
をよりどころに実施 された ものである。37自 治体 は、ス コ ッ トラ ン ドをはじめウ ェールズ、イ ン
グラ ン ド北西部、同 じ く北東部、南西部、南東部 の各地方 それにロ ン ドンにまたがる。調査 の対
象 は、前出 の表 1に 示 され るように もっ とも多 い 641人 で あ る。37自 治体 の在宅介護 を担 う児童
計画 にそって接触 の とれた児童 たちである。名実 ともに全国規模 の調査 とは、 いいが た いか もし
れない。 しか し、それ に近 い規模 の調査 である とい って よかろう。いまひ とつ の限界 も、 SOベ ッ
カー等 の調査 によって克服 され る。 ノ ッチ ンガム調査 Iお よびⅡが、 それである。 この うち ノ ッ
チ ンガム調査 Iは 、調査 の対象 とす る児童 こそ 15人 と少ない ものの、 つ ご う 16.5の 調査項 目を
用意 して在宅介護 を担 う児童 について調 べ あげて い る。報告書 もおのず と膨大 で あ る。 A4版 の
2分冊 でつ ご う 144ペ ー ジにお よぶ。 この調査 が「在宅介護 を担 う児童 の構成、介護 の作業内容、
児童 の生活 へ の影響 について多大 な知見 を加 えた」6)と 評 され るの も、 もっ ともである。続 くノ ッ
チ ンガム調査 Ⅱも同様 である。15の 調査項 目にそって計数 を整理 しなが ら、在宅介護 を担 う児童
の状態 とニ ーズ について包括的 な分析 を加 えて い る。
S・ ベ ッカー等 による 3つ の調 査 は、在宅介護 を担 う児童 についての包括的 な分析 をよりどこ
ろに、児童 の支援 にむけた政策 の提言 を体系的 にお こなっている。政策 の提言 自体 は、前出の表
2に 示 され るように同種 の他 の調査 も手が けてい る。しか し、S・ ベ ッカー等 による提言 は、もっ
とも体系的 である。 た とえばサ ン ドウェル調査 は、在宅介護 に追われて孤立 す る児童 へ の支援 を
含 めて 5項 目の提言 をお こなって い る。 これ に対 して、 ノ ッチ ンガム調査 Iは 、在宅介護 を担 う
-7-
経済研究 2巻 1号
児童 の権不Uに ついてだ けで も 16項 目の提言 をお こない、これを出発点 に教育職者や社会サ ー ビス
担当者向 けの多 くの提 言 をまとめて い る。 S・ ベ ッカー等 の提言 が、 自治体 の在宅介護 を担 う児
童計画 に関す 幕 書 にほぼその まま採用 されて行政 の指針 になってい るの も、 うなづ けるところ
。
ル
で ある。
)。
在宅介護 を担 う児童 に関す る独 自の調査 が数多 く実施 された背景 には、 どの ような事情 が ある
ので あろうか。調査 は、前出 の表 1に 示 した ように 自治体 の社会 サー ビス部 や その職員 によって
も手 が けられてい る。 してみる と、調査 はもっぱら知的な関心 に根 ざして い る とはいいがた い よ
うに思われ る。 3つ の事情 を指摘 してお きた い。
第 1に 、在宅介護 を担 う児童 とその影響 とが、教育機関や社会 サ ー ビスの窓 口で個 々 に伝 えら
れ始 めて いた こ とで ある。た とえば学校 を長期 に亘 って欠席す る児童 を訪 ねて調 べ てみると、実
は在宅介護 を担 って い るために学校 をやむをえず欠席 して い るな どの事例 で ある。似た ような事
例 は社会 サー ビスの窓 口にも伝 えられ る。 ホームヘ ルパ ーが被介護者 の 自宅 を訪れてサー ビスを
提供す る中で在宅介護者が じつ は児童 で あるとい う光景 に出 くわす ことな どで ある。
第 2に 、児童 に関す る 1989年 法 (the Children act 1989)な らびに、国民健康保健 とコ ミュニ
テ ィー ケアに関す る 1990年 法 (the NHS and Community care act 1990)が 、在宅介護 を担 う
児童 にあ る種 の可能性 を用意 した ことで ある。すべ ての 自治体 は、児童 に関す る 89年 法 の もとで
児童 の福祉 を守 り促進す る とともに、 その 目標 をな しとげるにふ さわ しい援助 を提供す る ことと
され るC71。 児童 が在宅介護 の担 い手 で ある時、その福祉 は、おお い に脅 かされ るように推測 され る。
自治体 は、在宅介護者 としての児童 をどの ように援助す るのか、法的な責任 を問われ るのである。
国民健康保健 とコ ミュニ テ ィケアに関す る 90年 法 は、児童 を含 む在宅介護者 のニーズを考慮す る
ように求 めて、 さきの児童 に関す る 89年 法 を補 うものである。
最後 に、介護者全国協議会
(CNA)が 、保健省 (DH)の 補助金 を受 けて在宅介護 を担 う児童
計画 を 1990年 に発足 させ、
在宅介護 を担 う児童 へ の支援 とこの問題 についての世論 の喚起 に乗 り
出 してい る こ とで ある。専門 に担当す る職員 を配置 しなが ら、相談 の窓 口を恒常的 に開 いて い る。
討論集会 を各地 で 開 いた り、各種 の啓発資材 を発行 して利用 に供 して もい る。介護者全国協議会
の この計画 は、在宅介護 を担 う児童の問題 を広 く知 らせ児童 を勇気 づ けるうえでかけがえのない
よ り所である(8)、 と評価 されてい る。
在宅介護 を担 う児童 とその問題 は、長 い問 その存在 さえ知 られて こなかった。 しか し、調査 の
進展 につれて各方面 の注 目を浴 びはじめて い る。 こうした変化 をい くつか の資料 をもとにあ とづ
けてみた い。
-8-
イギリスの在宅介護を担う児童
た とえば下院・社会 サ ー ビス委員会 (HCOSSC)の 報告書『コ ミュニ テ ィケアー ‐ 在宅介護者一一』
(90年 5月 9日 )は 、在宅介護者 とその問題 について多面的 に分析 し政策 について提言 して い
る0。 この報告書 は、90年
1-4月
にか けて行わ れた前後 9回 の公聴会 を踏 まえてまとめ られた
ものである。公聴会 には、
介護者全国協議会 の代表 も招かれて児童 を含 む在宅介護者 の状況 とニー
ズにつ いて発言 して い る。 しか し、社会 サ ー ビス委員会 の責任 で まとめられた報告書 に、在宅介
護 を担 う児童 について の文言 を見 る ことはで きない。 さらに、 D。 ロビンス (Diana Robbins)の
編集 にな る『コ ミュニ ティケアーー 保 健省 の助成 に よる 1988-92年 の研 究効 果 の要約 と紹介
一コ
10』
(93年 )は 、表題 に示 され るように保健省 の助成 による 5年 間 の調査研究 について手 ぎわ
よ く要約 して読者 の利用 に供 してい る。本書 には、100本 以上 の論稿 が収 められてい る。第 3章 は、
「在宅介護 と在宅介護者」で ある。 この章 には、「在宅介護者 に関す る 85年『国勢調査 』の分析」
に始 まってつ ごう 13本 の論文 が収 め られて い る。しか し、
在宅介護 を担 う児童 についての論文 は、
残念 なが らない。保健省 による研究助成 の対象 にな らなかった、 とい う ことで あ ろう。 しか し、
J・ ツ ィグ (Julia Twigg)の 編集 になる『在宅介護者一一調査研究 と実践一 JH」
(92年 )は 、
本書 の第 2章 は、
在宅介護 を担 う児童 につい て正 当 に取 り上 げて調査研究の成果 を紹介 してい る。
「在宅介護者間の相似 と差異」 と題 され る。 K・ ア トキ ン (Karl Atkin)の 執筆 で ある。 K・ ア
トキ ンは、在宅介護 を担 う児童 につ いて独 自の項 を起 こして論述 してい る(1の 。 その主な内容 は、
前出 の表 1お よび表 2で 示 したサ ン ドウェル調査 とタームサイ ド調査 にそった ものである。 2つ
の調査 が、在宅介護者 の専門研究者 によって正 当 に着 目され評価 された、 とい えよう。在宅介護
を担 う児童の調査 が、88年 か らの積 み重ね を通 して他 の分野 か らの注 目を浴びはじめた一例 で あ
る(13)。
さらに、保健省 0社 会 サ ー ビス監督官 (SSI)は 、在宅介護 を担 う児童 へ の関心 の高 ま りに応 え
て「在宅介護 を担 う児童問題啓発計画」 (YCDP)に 取組 みはじめてい る。95年 5月 か らの計画で
ある。計画 は、児童 の抱 える一連 の複雑 な問題 につ いて討論 を促す 目的 を掲 げてい る。討論会 が、
この計画 にそって ロ ン ドン (London)、 リーズ (Leeds)、
レスター (Leicester)そ れに レディン
グ (Reading)の 4カ 所 で開かれ、92の 自治体 か ら 350人 を超 す人 々が、 これ に参加 してい る。
また、『 コ ミュニ テ ィー ケア』 (Community Care)誌 の主催 になる討論会 F在 宅介護 を担 う児童
一― その支援 のために一一」 も 95年 11月 に開 かれ活発な討論 がなされてい る。
ところで、在宅介護 を担 う児童 の発見 は、 イギ リスに独 自で ある。他 の ヨーロ ッパ諸国 に見 る
ことはで きない。た とえばフラ ンスの在宅介護者調査 は、1980年 代半 ばか ら実施 されて い る。 し
か し、それ は、高齢者 を看 る成人 の在宅介護者 を対象 にす る。在宅介護者 の規模 を調 べ る試 みは、
-9-
経済研究 2巻 1号
地域 ベ ースでは ともか く全国ベ ース となるとこれ まで行われて こなかった。在宅介護者 の年齢構
成 に関す る調査結果 はある。 しか し、18歳 未満 の在宅介護者 に関す る調査結果 はない。在宅介護
を担 う児童が、独 自のニ ーズ を持 つ特別 の集団 として一般 に認 め られてい ないか らである。在宅
介護 を担 う児童 は、フランスの児童保護制度 にお いて独 自のカテ ゴ リー として承認 されて いない。
唯一 、フランス 0ア ル ツハ イマー関係問題協議会 (FAARP)が 、在宅介護 を担 う児童 の独 自のニ ー
ズについて公式 に認 めてい る程度 で ある。つ。事情 は、スウェー デ ンで も同 じで ある(10。 いかなる
調査 も在宅介護 を担 う児童 につ いて手 が けられてい ない。 いかな る全国ベ ースの計数 も被介護者
を 自宅 で看 る児童 の規模 につ いて存在 しない。 そのわ けは、 い とも簡単 で ある。 スウェー デ ンの
社会 サー ビス はす ぐれて包括的 であるか らである。児童 が被介護者 を自宅 で看 る必要 な ど、生 ま
れ よ うがない。イギ リスに似 た問題 が仮 りにあるとすれば、 それは、移民者 の家族 に限 られ る。
児童 の手伝 う姿 は、移民 の家族 の文化的な伝統であるか らである。 しか し、 こうした光景 は、 ス
ウ ェー デ ン人 の中 に見 る こ とはで きな い。 さらに、 ドイツ もフラ ンスやスウェー デ ンと似 た状況
にある(1つ 。 ドイツでは、家族内 の介護 に関す る数多 くの調査研究 が重ね られて い る。 しか し、介
護 へ の児童 の貢献 となる と、調査研究 のテーマ として取 り上 げられて いない。在宅介護者 が調査
研究 で扱 われはじめた時期 は、80年 代初頭 で ある。関心 は、被介護者 と在宅介護者 との直接 の関
係 に注 がれている。両者 の関係 は、 ドイツで は母親 と娘 とのそれである。計数 によって示す と介
護 を要す る 65歳 以上 の高齢者 のお よそ 68%は 、 自宅 でその娘 によって介護 されてい る (92年 )。
家族 にお よぼされ る他 の負担、殊 に娘 を除 く他 の家族構成員 へ の影響 は、調査研究 の対象 として
拾 い上 げられていない。
在宅介護 を担 う児童 は、 この ように見 るとイギ リス を除 く他 の ヨーロ ッパ 3カ 国で注 目され る
こともな く、 まして調査 の対象 として関心 を集 めることもなかったので ある。イギ リスにお ける
調査 の積 み重ね とこれによる在宅介護児童 の発見 は、 ヨーロ ッパ諸国 の中でユニー クな経験 で あ
る。
Ⅱ 在宅介護 を担 う児童の規模 と構成
1
在宅介護 を担 う児童 の規模
在宅 介護 を担 う児童 の規模 と構 成 を明 らか にす るた め に も、 まず は定 義 に つ い て確 か めてお き
た い。
-10-
イギリスの在宅介護 を担う児童
在宅介護 を担 う児童 の定義 は、調査研究 の進捗 につれて必ず しも一様 ではない。討論会 な どで
は、定着 した定義 のない ことか らしば しば混乱 した議論 に陥 る こともあると伝 えられ る(10。 定義
は、年齢 をはじめ介護 の責任 とその影響 お よび介護 の場所 の少 な くとも 4つ の要件 を備 えて い る
か どうかによって区々で ある。
「身体 な どの障害
ある専門研究者 は、92年 に次 によ うに定義 して い る。在宅介護 を担 う児童 は、
や精神 上 の疾患 をもつ近親者の健康 の為 に家 で世話 をす る就学年齢 にある児童 と若年者」(1り であ
る。 この定義 は、就学年齢 に触 れて年齢 を特定す るとともに、被介護者 との関係 や介護 の責任 お
よび場所 に も言及 して い る。 しか し、介護 の影響 には触 れて い ない。別 の専門研究者 によって翌
93年 になされた定義 は、介護 の影響 は もとよ り年齢 や介護 の場所 にさえ言及す る ことな く次 のよ
うな内容 で ある。
「 身体 な どの障害 や疾病 あるい は精神 上の疾患 を持 つ親 もし くは近親者 の健康 の
為 に世話 をす る児童 と若年者」の で ある。年齢 を特定 しない定義 は、別 の専門研究者 や介護者全国
協議会 によって も行われて きたK21、 この うち後者の介護者全国協議会 によるそれ は、かっての時
期 の ものである。最近 では、 のちにのべ るように年齢 を特定す る定義 に変 えて い る。
SOベ ッカーによる 93年 と 95年 の定義 は、 さきの 4つ の要件 の うち 3つ を備 えてい る。次 の
よ うである。在宅介護 を担 う児童 は
「疾病 や障害 を持 つ近親者 のために家 で主な介護 を行 う 18歳
。ので ある。 SOベ ツカー は、見 られ るように介護 の影響 にかかわ る文
以下 の児童 もし くは若年者」
・…・主な介護 を行 う……」とあるように
「・
「主 な介護」(primary
言 を定義 に入れて い ない。しか し、
care)と 「副次的な介護」 (secondary care)と を注意深 く区別 してい る。前者 を担 う児童だけを
在宅介護 の担 い手 で ある として い る。 SOベ ッカーは、介護 の児童 へ の影響 を考 えに入れて両者
を区別 した ように考 えられ る。
保健省 の主任監察 官 (CI)は 、「通常成人 によって担われ るかな りの介護作業」とい う文言 を定
義 の中 に入れ て、介護 の児童 へ の影響 について暗黙 の うち に示 してい る。95年 に行 われた定義 の
「通常成人 によって担われ るかな りの介護作業
全文 は、次 の通 りである。在宅介護 を担 う児童 は、
を行 ない、他 の人 に責任 を負 う 18歳 までの児童 あるい は若年者」の である。児童 が、通常成人 の
手 が ける作業 を担 うのであれば、その影響 は小 さ くない。保健省 の主任 監察 官 の定義 は、 このよ
うに考 えるとS・ ベ ッカー のそれ と同 じように介護 の影響 を暗黙の うちに示 して い る とい えよう。
介護者全国協議会 は、介護 の影響 をはっきりと示す定義 を試 みてい る。在宅介護 を担 う児童 は
「疾病 で障害 を持 ち、 あるい は精神的 な疾患 に陥 った人 の介護責任 を負 う ことか ら、 その生活 を
なん らかの形で制限 された 18歳 以下 の児童 と若年者」。のである。95年 の定義 である。介護 の影響
は、 はっき りとした文言 によって示 されてい る。 しか し、介護 の場所 は、残念 なが ら落 とされて
―-11-―
経済研究 2巻 1号
い る。
在宅介護 を担 う児童 は、 SOベ ッカー と介護者全国協議会 の定義 を参考 にしてい えば、次 のよ
うに特徴 づ ける ことがで きる。す なわち「疾病 や障害 を持 つ近親 者 のために家 で介護 を担 う こと
か ら、その生活 をなん らかの形 で制限 された 18歳 以下の児童 と若年者 」で ある。 この よ うに定義
すれば、年齢 をはじめ介護 の責任 とその影響 お よび介護 の場所 の 4つ の要件 をすべ て明示する こ
とがで きる。18歳 以下の者 は、イギ リスの法律 によって独 自の法的な地位 を与 えられてい る。身
体 の形成期 にあ り、保育 と教育期 に属 す る ことか ら、在宅介護 を担 う ことの影響 も、19歳 以上の
者 とはおおいに異 なる。介護 の影響 は、成人 の在宅介護者 と同 じ作業 を担 い類似の責任 を負 う場
合 で さえ、 18歳 以下 の者 についてはっ き りと大 きい。
在宅介護 を担 う児童 の規模 は、 い くつかの推計作業 を通 して明 らかにされてきた。最初 の推計
作業 は、 サ ン ドウ ェル調査やタームサイ ド調査 を手 が けたそれぞれの当局 によって行 なわれてい
る。両調査 は、すで に述 べ た よ うに児童 か ら直接 にきき取 つたわけではな く、教育職者や社会サ ー
ビス担当者 か らの情報 をよ りどころにす る。 それぞれの当局 は、 そうした調査 をベ ース に在宅介
護 を担 う児童の規模 について推計 を試 みてい る。推計 は、全国 で 1-2万 人 の児童 とい う結果で
ある。 この結果 は、調査方法の不備 を考 えるな らば信頼 に足 るものではない。 この推計 は、在宅
介護 を担 う児童の規模 を過小 に評価 してい るのではないか として、 その倍 にあた る 2-4万 人 と
い う計 数 を提示 す る専 門研究者 もい る。り。介護者全 国協 議会 も、95年 に発行 した冊 子 の 中 で
1.5-4万 人 とい う計数 を示 して い る。の。これ らの 2つ の推計 は、サ ン ドウェル とタームサ イ ドの
両当局 による作業 の批判 としては十分 に理解 され る。 タームサイ ド在宅介護者 セ ンター (TCC)
。つと述 べ てか
の発行す る冊子 『在宅介護 を担 う児童 』 は、「少 な くとも 4.8万 人の児童 を数 える」
つての推計結果 の過少 さを事実上認 めて い る。寄 せ られた批判 を受入れた とい えよう。 しか し、
2-4万 人や 1.5-4万 人 とい う計数 も、推計 の根拠 を明示 しての ことで はない。
最近 では、在宅介護 を担 う児童 は 21.2万 人 にのぼ るとい う推計 も行 なわれて い る。これ は、人
口統計調査局『85年 版国勢調査』をよ りどころにする作業 で ある。次のように推計 され る。16-35
歳層 の在宅介護者 は、 これ によると 125万 人 を数 える。 この年齢階層 の 17%に あたる在宅介護者
は、16歳 の誕生 日以前 に介護 を担 ってい る。 125万 人の 17%、 すなわち 21.2万 人 は、 15歳 以下
の在宅介護児童である。0。 これが、全国ベ ースの調査 をよ りどころにす る唯― の推計結果 で ある。
しか し、18歳 以下の在宅介護者 を包括す るわ けではない。残念なが ら 15歳 以下 に限 られ る。21.2
万人 は、当該す る年齢階層 の人 口 (1573.3万 人 -81年 )。 9)比 のおおそ 1.4%に あたる。 16歳 以上
の在宅介護者 は、人 口の 16%に あた る 680万 人 で ある。の(90年 )。 在宅介護 を担 う児童の比 率 は、
-12-
イギリスの在宅介護 を担う児童
これ に較 べ る と確 か に低 い。
在宅介護 を担 う児童 の計数把握 は、正直 な ところ特別 のむづか しさを伴 う。第 1に 、人 口統計
調査局『国勢調査 』を利用す る在宅介護者 の把握 は、 16歳 以上 の者 に限 られ る。第 2に 、介護者
手当 (ICA)の 受給者統計 が保健省 によって整備 されてい るので、 これ を手がか りに在宅介護者 の
規模 をおさえる ことがで きる。 しか し、介護者手当 の受給 は、16-64歳 層 に限 られ る。 このため
16-18歳 層 の児童 を把握 で きるだ けである。15歳 以下 の在宅介護者 は、この統計 か ら知 るわけに
いか ない。第 3に 、在宅介護 を担 う当の児童や その家族 は、介護責任 を負 う こと自体 を公 にした
が らない とい う事情 もある。在宅介護 を担 う児童 の役割 は、隠 され る (hidden)ゃ 秘密 (secret)
の二文字 を以 って しば しば形容 され る。 その意 味 は こうである。在宅介護 を担 う児童 は、介護 の
様子や ニ ーズが 当局 に知 られ るのをため らいが ちである。 当局 が介入 して施設 へ の被介護者 の収
容 な どを恐れ るか らである。児童 は児童 な りに被介護 者 へ の責任 を感 じ取 つているので ある。被
介護者 に して も、在宅介護 のさまを明 らか にす る こ とを好 まない。家族 の中の ご く私的 な ことが
らである と考 えて い る。最後 に、児童 と接触す る機会 の多 い教育職者 や社会 サー ビスの担当者 そ
れ に一般 開業医 (GP)に して も、在宅介護 を担 う児童 についてあまり知 らない。在宅介護 を担 う
児童 の役割 は忘れ られた (forgotten)の 文字 を以 って形容 され る こ ともある。専門的 な立場 にあ
る人々 は、 そ うした児童 の存在 にさえ気 づかず、 もし気 づいていて も児童のニ ーズ を無視 しがち
で ある。職 業上の盲 目 (prOfessional blindness)と で も称 され る ことである。
在宅介護 を担 う児童の規模 は、政府 による全国ベ ースの調査 が実施 されないか ぎ り把握 しがた
い。 か りに実施 された として も、 その結果 が どの程度現実 の姿 に近づ いて い るのか どうか、すで
に述 べ た事情 か ら疑問 も残 る。 これ までの作業 で は、21.2万 人 とい う結果 が もっ とも信頼 で きる
ように考 えられ る。
2
在宅介護 を担 う児童 の構成
成人 の在宅介護者 とジェンダー との関係 については、 これ まで多 くの ことが書 かれてきた。殆
どの論者 は、次 のよ うに述 べ て きた。 ジ ェンダー による分業 は、介護 の世界 に も厳 に存在す る。
女性 は、家事 と同 じように介護 を主 として担 うのである。介護 とジ ェンダー との こうした関係 は、
児童 の場合 に どのよ うで あ ろ うか。表 3は 、 これ を知 るために各種 の調査 か ら作成 した ものであ
る。在宅介護 を担 う児童の性別構成 は、表 中の 12の 調査 の うち 1つ を除 く 11の 調査すべ てで女
性 を主力 にす る結果 で ある。唯一 全国ベ ースの調査 に近 い 37都 市調査 は、在宅介護 を担 う児童の
-13-
経済研究 2巻 1号
61.0%が 女性 、他 の 39.0%が 男性 に よって 占 め られ る、 と伝 えて い る。 これ は、人 口統計調査局
『90年 版 国勢調査 』 にみ る成人 の在宅 介護者 の性別構 成 (60%が 女性 、 40%が 男性 )と ほぼ 同 じ
結果 で あ る。介護 とジェ ンダ ー との 関係 は、 そ うしてみ る と成人 にな って は じめて形成 され るわ
けで はな く、児童 の段 階 か ら形 づ くられ て成人 に受 け継 が れ る とい えそ うで あ る。
表3
在宅介護 を担 う児童の性別 構成
査
ζ
ガ
Ⅱム
スウ
タイ
シグ
ヤロ
│ン
lス
調チ
査エ
調タ
査
ハ ル ト ン調 査
調ノ
ツ
7
3 都 市 調 査
ロンド ン ・エン
フィー ルド調査
マージ ーサイド
調 査
リ ーズ 調 査 Ⅱ
比 率 ”
39.4
(A)
48.3
(B)
(C)
ンミ
ル
ズト
ン
調・
ケ
査イ
1
391
計0
実 数 人
難ω 姐0
査ル
セ フ ト ン調 査
調サ
ン
ド
ウ
リ ーズ調 査 I
調査名(D
27.3
33.3
72.7
100.0
100.0
100.0
219(4)
62(5)
42.5
25.8
57.5
74.2
100.0
641(7)
25.0
27.7
72.3
100.0
100.0
100.0
100.0
[資 料]Sandwell caring for carers proiectin cOttunction with Sandwell MBC Education Depanment,Op.cit。
,p.4,City
of Leeds IDeparment Of Social Services,Young carers of a parent with schizophrenia,a Lceds survey,cp.cit.,
p.13,Sandra Bilsborrow Young Carers Research Worker,Op.cit.,p.25,Alison Elliott,op.cit.,p.7,Ann Mahon
and Joan Higins,A Life of our own,young carers:an evaluation of three RHA funded proieCtS in Merseyside,
op.cit。 ,p.
17 and p.23,Rosemary Marsden,Young carers and education,opo cit.,p.1,Penny Liddiard and
Stanley`rucker,MiltOn Keynes Young Carers ProieCt,a pilot study looking at the exeriences of caring of eight
young people in Milton Keynes,op.cit.,p.12,Chris]Dearden and Saul Bccker,Young carers at the crossroads,
an evaluation of the Nottingham young carers proJect,op.cit.,p.14,Jenny Frank,Couldn't care mOre,op.cit.,
p.5,Gloucestershire Young Carers Proi∝ t,Annual report 1994/95,op.cit。 ,p.7,Chris Dearden and Saul Becker,
Young carers,the facts,op.cit。 ,p.13,Sean Curran and Rick Howen,Young carers in Cheshire,op.cit.,p.14
より作成。
[注
](1)調 査の正式な名称 は左か ら順 に次の通 りである。サ ン ドウエル中等学校 の児童介護者数 に関す る一次調査、精神
分裂症 の親 の児童介護者 に関す るリーズ市調査、セフ トン市 の児童介護者調査、リーズ市 における精神障害 を抱 え
た親 の児童介護経験者調査、 マー ジーサイ ド州の児童の介護計画の評価 に関する調査、 ロン ドン
・エ ンフ ィール ド
自治区の児童介護者 と教育調査、 ミル トン・ ケインズ市 における 8人 の児童 の介護経験 に関す るパ イ ロ ッ ト調査、
ノ ッチ ンガム市 の児童介護者計画の評価 に関す る調査、ウィンチ ェス ター市 の児童介護者 とそのニーズ調査、グ ロ
スターシャー州の児童介護者調査 、37都 市 の児童介護者調査、ハル トン市 の児童介護者調査。
(2)95人 の調査対象の うち 1人 は性別 が確認 されていないため94人 とした。
0)15人 の調査対象の うち 3人 は (注 )(2)と 同 じ理 由のため12人 とした。
(4)281人 の調査対 象の うち性別 の示 されていない者 がいるため219人 の内訳 について示 してい る。
(5)85人 の調査対象のうち23人 は性別 が確認 されなかった り示 されていない等 のために62人 の内訳 についてのみ示
してい る。
(6)65人 の調査対象の うち性別構成 の示 されていたのは表の通 り61人 である。
(7)675人 の児童介護者の うち34人 は19歳 以上であるため除外 して残 りの641人 についてのみ示 してい る。
―-14-
イギリスの在宅介護を担う児童
ジェンダーは、介護 に 2つ の レベル で作用す る。 まず、被介護者 のジ ェンダーにかかわ る。被
介護者 が母親 で ある とき、介護 を担 うのは、父親 よ りも子供 である。被介護者 が父親であるとき、
介護 の担 い手 は、母親 であ り子供 で ある。 さらに、在宅介護者 のジ ェンダーにかかわ る。在宅介
護 を担 う児童のジェンダー は、介護 を担 い うる複数 の児童―一少年 と少女 の双 方一一 が い る場合
に、重要 な意 味 をもつ。少女 たちは、ジェンダーに基 づ く世間 の常識 のゆえに介護 を引 き受 ける。
他方、少年 たちは同 じ考 えに安住 して介護 にうしろむきの態度 をとる。一例 を示 そう。
ク リスティーヌ (Christine)は 、20歳 である。 父母 それに弟 と暮 らしてい る。彼女 は父親 が′
い
臓発作 と脳卒 中 におそわれた時 か ら、介護 を引 き受 けて い る。 9歳 の時 か らである。母親 はフル
タイム の仕事 に就 いてい る。勤務 は、深夜 にお よぶ ことも少な くない。 ク リスティー ヌは、弟 と
の関係 につ いて次 の よ うにい う。
「弟 にはなんの障害 もあ りません。 しか し、女性 は主婦 であ り、
家族 の世話 をす る務 めを負 ってい ます。 これ は、私 の母 か ら受 け継 いで きた私 の家族 の しきた り
なのです。 ……私 は、弟 の衣服 を洗 ってアイ ロンをか けます。彼 の寝室 を整 えてベ ッ ドメイク も
や ります。身支度 も手伝 い、 お茶 も入れてや ります。 ……彼 が 自分 でで きないわ けは、なに もあ
01ヽ ク リス テ ー
りません。で も、弟 と分担 してい ませ ん。彼 は、まった くな に もや らないのです」
ィ
ヌは、 こうした考 えの もとに父の介護 を一 身 に担 ってい る。彼女 の弟 は、父 の介護 にけっ して力口
わ らない。
在宅介護 を担 う児童 の性別構成 は、 こうした事情 か らも女性 に傾斜す るのである。
全国ベ ースの調査 に近 い 37都 市調査 による と 12歳 で ある。
在宅介護 を担 う児童 の平均年齢 は、
他 の調査 もこれに類似す る結果 を描 いてい る。 11-12歳
歳
(マ
ー ジーサイ ド調査 )、 15歳
(ノ
ッチ ンガム調査
年齢 の分布 は、37都 市調 査 による と 5歳 未満 1%、
(ノ
I)な
ッチ ンガム調査 Ⅱ)、 13.5歳 -13.8
どで ある。2ゝ
5-10歳 27%、 11-15歳
51%、
16-18歳
20%で ある。 この うち 5-15歳 は、義務教育 の期間 に属す る。この年齢階層 で 78%を 占める計算
で ある。 これに 16-18歳 層 が続 く。 5歳 未満児 となるとご く限 られ る。他 の多 くの調査 も、表 4
に示 され るようにこれ に類似す る結果 で ある。 こうした年齢分布 は、特別 の意味 をもつ。す なわ
ち、教育 にお よぼす影響 の大 きさで ある。 これ までの調査 は、在宅介護 を担 う児童の問題 を教育
とのかかわ りで取 り上 げて い る。80%近 い児童 が義務教育年齢 にあるとすれば、在宅介護 を担 う
児童 と教育 の関係 を問 う姿勢 も的 を得 てい る とい えよう。
介護 の開始年齢 と介護の経験年数 は、前出 の表 2の ようにノッチ ンガム調査 Iお よびⅡによっ
て調 べ られて い る。 これ によると介護 を開始す る平均 年齢 は 8-9歳 (ノ ッチ ンガム調査
I)、
8
歳頃 (同 Ⅱ)で ある。つ。 また、介護 の経験年数別 の構成 は、 3年 以下 60%、 4年 以上 38%(ノ ッ
-15-
経済研究 2巻 1号
表4
在宅介護を担 う児童の年齢
ガ
Iム
:人 ,%
ンミ
ル
ズト
ン
課]・
ケ
査イ
調ノ
査多
ガ
IIム
スウ
タイ
7
3 都 市 調 査o
査多
ロンド ン ・エン
フィー ルド調査
調ノ
マージーサイド
調 査o
1
ム
サ
イ
査ド
セフト ン調査②
査ル
年齢
調タ
リ ーズ 調 査 I
調査簿
調サ
ン
ド
ウ
(階 層)別 構成
シグ
ヤロ
lン
lス
調チ
査エ
調 タ
査
1
』
;
15(8。
1(6.7)
4
4(4.8
17(11.7)
>
3
8.
︲
<
︲
︲
5
6
8
>
7
6.
<
4
7
9(10.6
26(43.0)
180(28.0)
324(57踊
>
3
8.
<
5
9
1(12.5)
14(15.4)
10
9(9.5)
12
15(15.8)
1(12.5)
13
22(23.2)
1(12.5)
14
37(38.9)
4(4.7)
>
7
︲
.
<
7
11
.
>
0
0.
︲
<
6
15
16
13(15.3)
1(6.7)
11(12.9)
1(12.5)
12(14.1)
1(12.5)
1(12.5)
1(6.7)
1(12.5)
3(20.0)
11(12.9)
1(12.5)
3(20.0)
10(11.8)
4(50.0)
1(12.5)
1(6.7)
1(1.2)
2(25.0)
197(70.0)
23(38.0)
321(50.0)
73(80.2)
1___
17
240(42.6)
14(23.3)
7(11.0
甑
。
情
12(12.6)
18
1(6.7)
19以 上
他
1(12.5)
4(7.0)
14(16.5)
281
85
(100.0)
(100.0)
61
91
130
(100.0)
(100.0)
(100.0)
4 0
6 0
︲
15
(100.0)
8 0
0
0
・
0
0
︲
8 0
0
4
6
5
0 .
0
[資 料 ]Sandwell
0 0.
6 0
5
9
計
い
4(26.7)
caring for carers proi∝ t in cOniunctiOn with Sandwell MBC Education Department,op.cit.,p.4,Tameside
Metropolitan Borough,Towards a strategy for carers,Tameside M.B.C.'s research on carers,young carers,op.cit.,p.5,City
of Leeds IDepartment of Social Services,op.cit.,p.13,Sandra Bilsborrow young carers Research Worker,You grow up fast
as wen.¨ young carers on Merseyside,op.cit.,pp.24-35,Jo Aldridge and Sad Becker,Children who care,inside the world
of young carers,cp.cit.,pp.8-9,Rosemary Marsden,Young carers and education,op.cit.,p.2,Penny Liddiard and Standley
Tucker,Milton Keynes Young Carers Prdect,A Pilot study looking at the experiences of caring of eight young people in
Milton Keynes,op.cit.,p.12,Chris Dearden and Saul Becker,Young carers at the crossrOad,an evaluatiOn of the Nottingham
Young Carers ProieCt,op.cit.,14,Jemy Frank,Couldn't care more,Op.cit.,p.5,Gloucestershire Young Carers PrOieCt,
Amual repOrt 1994/95,op.cit.,p.7,Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.13よ
り作 成
査 の 正 式 な 名 称 は左 か ら順 に 次 の 通 りで あ る。 サ ン ドウ ェル 中 等 学 校 の 児 童 介 護 者 数 に 関 す る一 次 調 査 、 介 護 者 に 関 す る
タ ー ム サ イ ド首 都 自治 区役 所 調 査 、精 神 分 裂 症 の 親 の児 童 介 護 者 に 関 す る リー ズ 市 調 査 、 セ フ トン市 の 児 童 介 護 者 調 査 、 ノ ッチ
ンガ ム 市 の 児 童 介 護 者 調 査 、 マ ー ジー サ イ ド州 の 児 童 介 護 者 計 画 の評 価 に 関 す る調 査 、 ロ ン ドン・ エ ン フ ィ ー ル ド自治 の 童
区 児
介 護 者 と教 育 調 査 、 ミル トン・ ケ イ ンズ 市 に お け る 8人 の 児 童 の 介 護 経 験 に 関 す るパ イ ロ ッ ト調 査 、 ノ ッチ ンガ ム 市 の 児 童 介 護
者 計 画 の評 価 に 関 す る調 査 、 ウ ィ ン チ ェス タ ー 市 の 児 童 介 護 者 とそ の ニ ー ズ 調 査 、 グ ロ ス タ ー シ ャー 州 の児 童 介 護 者 調 査 、37都
市 の児童 介護 者調 査.
(2)11人 の 調 査 対 象 の うち 3人 は 年 齢 が 不 明 な た め 8人 の 内訳 に つ い て の み 示 して い る。
(3)年 齢 分 布 の 実 数 と比 率 は示 され て い な い 。表 中 の比 率 は棒 グ ラ フか らお お よ そ の と こ ろ を読 み取 つ て示 した もの で あ る。平 均
年 齢 は 13.5歳 で あ る。Am Mahon and JOan Higgins,A Life of our own,yomg carers;an evaluation of three RHA fШ ded
[注 ](1)調
prdeCtS in Merseyside,op.cit.,p.17.
(4)641人 の 年 齢 分 布 は 、比 率 の み を もっ て示 され 、 しか も四捨 五 入 の た め 99%の 合 計 で あ る。 この 為 表 中 の 実 数 は1ヒ 率
と641人 と
を もっ て計 算 した。 Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.13.
ド
(5) 年 齢 の 限 は示 され て い な い 。City of Leeds Department of Social Sα Ч ces,op.cit.,p.13,Jemy Frank,op.cit.,p.5.
-16-
イギリスの在宅介護を担う児童
チ ンガム調 査 Ⅱ)で ある。う。
在宅介護 を担 う児童 の人種別構成 は、37都 市調査 による と自人 90%、 少数民族 に属 す る児童
10%弱 である。後者 の内訳 は、 カ リブ人 とアフ リカ人 5%、 パ キスタ ン人 とバ ングラデ ィシュ人
1%、 アジア人 1%、 その他
1%弱 である。5、
しか し、 この結果 には注意 を要する。調査 の対象
で あ る 37都 市 には、少数民族 の集 中 す る ロ ン ドンの一 部 は含 まれ る ものの、 マ ンチ ェス ター
(Manchestr)や バ ー ミンガム (Birmingham)は 含 まれてい ない。調査 に参加 した一人 は次 の よ
うに述 べ てい る。「最初 の試 み としては、人種 の構成 を比較的良 く反映 してい る と考 えてい ます。
.
00。 37都
しか し、正確 に映 し出 してはいない とい って よい と思 い ます」
市調査 は、在宅介護 を担 う
少数民族 の児童 を実際 よ りもやや過 少 に表示 し、 これ とは逆 に自人 の児童 をやや多 めに示 して い
るように考 えられ る。在宅介護 を担 う児童の人種別構成 は、 この他 にも各地 の調査の示す ところ
である。少数民族 に属す る児童 の比率 のみ を調査 の順 に示す と、31%(リ ーズ調査
I)、 26.7%(ノ
ッ
チ ンガム調査
I)、
27.3%(リ ーズ調査 Ⅱ)、 1.2%(マ ージーサイ ド調査 )、 0.0%(ミ ル トン・ケ
イ ンズ調査 )、
15。
0%(ノ ッチ ンガム調査 Ⅱ)、 2.0%(グ ロスターシャ調査 )な どである。つ。 これ
らの結果 が地域 の実情 を正確 に反映す るのか どうか、残念 なが ら定 かではない。調査 の担当者 も
。めと述 べ て い る。まして、全国ベ ー
「 これ らの計数 か らなん らかの結論 を出すのは、むづか しい」
スに近 い計数 を これ らの調査 を手掛か りに推 し測 るわ けにはいかない。37都 市調査 の結果 は、在
宅介護 を担 う少数民族 の児童 をやや過小 に評価 して い るので はないか、 とい う指摘 にとどめてお
かざるをえない。
在宅介護 を担 う児童 の家族構成 は、表 5に 示 され るように単親家族 を主流 にす る。中で も母親
だけの単親家族 が多 い。単親家族 の比率 は、37都 市調査 によると 60.0%で ある。その著 しい まで
の高 さは、すべ ての家族 に占 る単親家族 の比 率
11.0%00(90-91年 )に 較 べ る とはっきりす るで
あろう。単親家族 の比 率 は、在宅介護 を担 う児童 の場合 に全 国平均 の 6倍 に近 い。在宅介護 を担
う児童の被介護者 は、家族の構成 を反映 して母親 であることが多 い。 これ も、表 6に 見 るように
調査 の示す ところで ある。父や祖父母 あるい は兄弟姉妹 を介護 す る場合 もた しかにある。しか し、
主力 は、児童 による母親 の介護 で ある。
在宅介護 を担 う児童が単親家族 に暮 らす ことの意味 は、重要 である。一人 の親 が病気 になつた
とき、 これ を看 る者 は、児童 をお いて他 にい ない。介護 を担 うか どうかの選択 の余地 は、残 され
「私 が病気 をわず らっ
てい ない。被介護者 である母親 は、介護 を担 う娘 について次 のように言 う。
た とき、娘 が一切 をや って くれ ました。他 に誰 れ もい なかったのです。娘 が過大 な負担 を負 う こ
とに、心 が痛 み ます」。14歳 の在宅介護者 も次のようにい う。
「私 が もし母 を援助 しない とす る と
-17-
経済研究 2巻 1号
5
在宅介護 を担 う児童の親 等構成
(164,58.4)
(2, 25.0)
8(53.3)
96(34.2)
4(50.0)
6(66
祖父もしくは祖母
他
不
1(11
385(60.0)
26(43.0)
250(39.0)
61(100.0)
641(100.0)
2(13.3)
2(3.3)
60(100.0)
計
35(57.0)
4(1.4)
15(25.0)
明
市
型
3(37.5)
都
175(62.3)
:人 ,%)
7調
3
5(33.3)
(5, 33.3)
ノ ム
4(36.4)
(単 位
マ ー ジー サ ミル トン
・ケ
イ ド 調 査 イ ンズ調 査
ガo
ンⅡ
チ査
ツ調
22(36
ガー
親
ノム
2(22
う ち 母 親
両
ズo
7(63.6)
一査
り調
ン査
21(35
フ
セ調
ズー
親
一査
り調
単
”
譴
表
1(12.5)
11(100.0)
9 (100.0)
15(100.0)
281(100.0)
8(100.0)
6(1.0)
[資 料[] City Of Leeds Departinent Of SOcial Services,Young carers of a parent with schizOpttrenia,a Leeds
survey,op.cit。 ,p.14,Sandra BilsbOrrOw Young Carers Research WOrker,You grow up fast as well.…
性
‰躙常
器
Ⅷ蹄
躍
驚鸞靭搬醐i慕
p.13,p.25 and p.30,Penny Liddiard and Stanlc
study looking at the expe五 enes of caHng ofc
Dearden and Saul Backer,Young carers at t
Carers PrOJect,Op.cit。 ,p.17,Chris]Dearden″
よ り作成 。
査 の正 式 な名 称 は、左 か ら順 に次 の 通 りで あ る。精 神 分裂 症 の親 の児 童 介 護 者 に関 す る リー ズ 市 調
査 、セ フ トン市 の児 童 介護 者 調 査 、 リー ズ 市 にお け る精 神 障 害 を抱 えた親 の 児 童 介護経 験 者 調 査 、ノ ッ
チ ンガ ム 市 の児 童 介護 者 調 査 、 マ ー ジー サ イ ド州 の児 童 介護計 画 の評 価 に関 す る調 査 、 ミル トン
・ケイ
ンズ市 にお け る 8人 の児 童 の 介護 経験 に関 す るパ イ ロ ッ ト調 査 、ノ ッチ ンガ ム市 の 童
児 介護 者 計 画 の評
価 に関 す る調 査 、 37都 市 の 児 童 介護 者 調 査 。
9)児 童 介護 者 を除 く他 の 年 少者 等 につ い て は示 して い な い。
(3)15人 の調 査対 象 の うち親 等 の構 成 の示 され て い た の は表 の通 り 9人 で あ る。 AlisOn Elliott,Hidden
children,a study of ex‐ yOung carers of parents with lnental health problems in Leeds,op.cit.,p.
[注 ](1)調
10。
(4)65人 の 調 査対 象 の うち親 等 の構 成 の示 され て い た の は表 の通 り61人 で あ る。Chris Dearden and Saul
Backer,Young carers at the crossroads,an evaluation of the Nottingham Young Carers Project,
op.cit.,p.17.
(5)641人 の調 査対 象 につ い て比 率 で示 され て い た た め、 この比 率 と64人 とを元 に表 中 の実 数 につ い て 算
出 して い る。
母 は暮 らしてい けないで し ょう。……私 は、母 の状態 が よ くなってほ しい と思 ってい ます。」 の。
“
在宅介護 を担 う児童の うち両親 と一緒 に暮 らす場合 も、少 な くない。37都 市調査 によると、前
出の表 5に 見 るように 39.0%で ある。児童 は、 こうした家族 にあってなぜ介護 を引 き受 けるので
あ ろ うか。 これには、 い くつかの事情 が ある。第 1に 、健康 な親 が働 きに出ている場合 で ある。
これが もっ とも多 い。朝早 くに家 を出て夕方遅 くに戻 る ことも、時 にある。や っておか なければ
な らない介護 の作業 は、 日中の時間帯 に少 な くない。家族 に幼 い子供 のい る場合 に、年長児 が世
話 をす る こ とになる。あ る児童 は、次 の よ うに言 う。
「私 は、赤 ちゃんに朝食 を食 べ させ ます。そ
れか ら、お母 さんに赤 ち ゃんを看 て もらい ます」。在宅介護者 は、一人で被介護者 を看れない とき
もある。 そ こで子供 を介護 に加 えて作業 を進 めるので ある。成人 の在宅介護 者 は、次 の よ うにい
う。
「大人 とい え ども被介護者 を一人 では とて も動か した り運 んだ りで きません。近 くにい る誰れ
-18-
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
表
6
在 宅介護 を担 う児童 と被介護者 との血 縁 関係
8(53.3)
216(76.9)
20(30.3)
母 と兄弟姉妹
父
14(14.7)
63(22.4)
5(55,6)
4(6.1)
3(4.5)
父母のいずれか
3(4.5)
父 母 双 方
5(33.3)
兄 弟 姉 妹
1(6.7)
父
母
131(32.6)
1(6.7)
1(9.1)
従兄弟(従 姉妹
ガ
Hム
ヤロ
1ス
調 タ
査
1
5(62.5)
53(81.5)
391(61.0)
28(80.0)
1(12.5)
6(9.2)
109(17.0)
4(11.4)
108(17.0)
1(2,9)
)
179(60.8)
2(3.0)
30(10。 7)
17(25.8)
13(4.6)
3(4.5)
1(0.4)
1(1.5)
他
1(12.5)
6(9。 2)
51(39.2)
26(4.0)
1(12.5)
2(5。 7)
3(4.5)
不
13(2.0)
4(6.1)
明
計
[う
査多
シグ
6(9。 1)
父 と兄弟姉妹
祖
調ノ
ハ ル ト ン調 査
Iム
ンミ
ル
ズト
ン
調・
ケ
査イ
:人 ,%)
7
3 都 市 調 査o
ガ
ロンド ン ・エン
フイールド国 3
4(44.4)
査多
マージーサイド
調 査o
10(90。 9)
リ ーズ調査 Ⅱ②
50(52.6)
セ フ ト ン調 査
サ ン ド ウ ェ ル
母
調 査
き
調 ノ
ツ
(単 位
95(100.0)
11(100.0)
9(100.0)
15(100.0)
281(100.0)
66(100.0)
8(100.0)
65(100.0)
130(100.0)
641(100.0)
35(100.0)
寄滲キ
] Sandwell caring for carers prdect in cO珂 unction with Sandwell MBC Education Department,op.cit.,p.5,
Sandra Bilsborrow Young Carers Research Worker,You grow up fast as well...young carers on Merseyside,
op.cit.,p.23,Alison Elllott,Hidden children,a study of ex― yomg carers of parents wlth inental health problems
in Leeds,op.cit。 ,p.10,Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young Oarers,op.
cit.,pp.8-9,Ann ⅣIahon and Joan Higgins,A Life of our own,young carers;an evaluation ofthrё
e RHA funded
praects in Merseyside,op.cit.,p.19,p.25 and p.30,Rosemary Marsden,Young carers and education,op.cit.,p.
3,Pemy Liddieard and Stanley Tucker,Milton Keynes Young Carers ProieCt,a pilot study looking at the
experiences of caring of eight young people in Milton Keynes, op.cit.,p.12,Chris]Dearden and Saul Becker,
Young Carers Project, op. cit。 , p.23,
Young carers of the crossroads, an evaluation of the Nottinghan■
Gloucestershire Young Carers Praect,Anmual report 1994/95,p.7,Chris Dearden and Saul Becker,Young
リイ
乍成 。
調 査 の正式 な名称 は左 か ら順 に次 の通 りで あ る。 サ ン ドウ ェル 中等 学校 の児童介護者 数 に関 す る一 次調査 、 セ フ
トン市 の児童介護 者調査 、 リー ズ市 にお け る精 神 障害 を抱 えた親 の児 童 介護 経験者調 査 、 ノ ッチ ンガム市 の児童 介
護 者調 査 、 マ ー ジーサ イ ド州 の児童 介護 者計 画 の評価 に関 す る調 査 、 ロ ン ドン・ エ ンフ ィール ド自治 区 の児童 介護
者 と教育 調査 、 ミル トン・ ケイ ンズ市 にお ける 8人 の児童 の介護 経験 に関 す るパ イ ロ ッ ト調 査 、 ノ ッチ ンガ ム市 の
児童 介護 者計 画 の評価 に関 す る調 査 、 グ ロ ス ター シ ャー州 の児童介護 者調 査 、 37都 市 の児童介護 者調 査 、ハ ル トン
市 の 児童 介護者 調査 。
(2)15人 の調査対 象数 の うち 9人 の み表 中 の通 り明示 され て い る。Alison Elliott,op.cit.,p.10.
0)複 数 の者 を介護 す る場 合 が あ るので合計 は281人 を超 す。
(4)85人 の調査対 象 の うち被 介護 者 の確認 で きた66人 につ いて示 して あ る。
(5)641人 の調査対 象 につ い て比 率 で示 され て いた た め、 この比 率 と641人 とを元 に表 中 の 実 数 につ いて 算 出 して い
る。比 率 が100を 超 えて い たた め に合計 は641人 を超 す。
Carers,the facts,op.cit.,p.15,Sean Curran and Rick Howen,Young carers in Cheshire,op.cit.,p.14よ
[注 ](D
かの力 を借 りなけれ ばな りません」。
第 2に 、健康 な親 が しばしば長期 に亘 って家 を留守 にする こともある。13歳 の児童 は次の よう
にい う。
「私 の父 は、仕事 に出か けて い ません。そ こで私 が母 を看 るのです。父 はた まにしか家 に
帰 って来 ません。」
第 3に 、親 を一 時的 にしろ介護 か ら解放 して休暇 を取 って もらうため に、介護 を引 き受 ける児
「父 には休暇 が必要 です。そ こで私 が母 と一緒 に居 ま
童 もい る。15歳 の児童 は、次 の ようにい う。
-19-
経済研究 2巻 1号
す。父 は、数 日間介護 か ら解放 され ます」。14歳 の児童 もい う。
「私 は、父 を看 てい る母 に手 をさ
しのべ なければな りません。 そうすれば、母 は、 い っ ときで も体 を休 めることがで きます」。
最後 に、両親 が ともに介護 を要す る例 もある。 ご く稀 な例 で ある。児童 は、単親 の家族 で暮 ら
す場合 と全 く同 じよ うに介護 を引 き受 けなければな らない。
被介護者の疾病 や障害 の種類 と程度 は、介護 の作業内容 と時間 とを大 き く左右す る。被介護 者
の疾病や障害 は、 どの ような ものであろうか。37都 市調査 を含 む 5つ の調査 が、似通 った内容 を
伝 えて い る。 5つ の調査 とは、37都 市調査 の他 ノ ッチ ンガム調査 Iお よびⅡ、マー ジーサイ ド調
査 それにウ ィンチ ェスター調査 で ある。
37都 市調査 による と、 なん らかの硬化症 が被介護者の 11。 0%と もっとも多 い。次 いで関節炎
6.0%、 アル コール飲料 による中毒 5.0%、 脳卒中 4.0%、 てんかん 3.0%、 ぜん そ く2.0%な どな
どで ある。1ヽ それぞれの疾病や障害 の比 率 は低 いので、 4つ に類別 してみたい。第 1に 、身体的
な疾病 と障害 を含 む身体上の問題、第 2に 、 うつ病 をはじめ精神分裂症、アル コール の乱用 によ
る中毒症状 などを含 む精神衛生上 の問題、第 3に 、 ダウン症候群 と自閉症 な どを含 む知識上 の障
害、最後 に、視覚や聴覚 の障害 を含 む感覚上 の障害、 これ らで ある。被介護者 の疾病や障害 は、
これ らの順 に 60.0%、 29.0%、 6.0%、 4.0%の 内訳 である (そ の他 1.0%)。 身体上 の疾病や障害
が もっ とも多 い。次 いで精神衛生上 の問題 を抱 える被介護者 である。 これ らの結果 は、在宅介護
を担 う児童の構成 にそ くしてい うと次の ようにな る。すなわち、身体上の疾病 や障害 を持 つ人 々
の介護 に当た る児童 が もっ とも多 く、次 に、精神衛生上 の問題 に悩 む人々の介護 を担 う児童が多
い。
Ⅲ
介護 の作業内容 と影響
1
介護 の作業内容
次 に紹介す るのは、在宅介護 を担 うシ ャロン (Sharon)と ぃ う児童 の典型的な一 日である●2、
ボランテ ィアのブ リア ン (Brian)の 助 けを借 りて記述 された ものである。
午前 7時
起床。 私 に とっては一 日の うちで もっ とも大事 な時間 です。 それ とい うの も、 自分
自身 のために使 える唯一の時間 だか らです。
午前 7時 30分
母 を起 こして用便 と洗顔 それに衣服 の着脱 を手伝 い ます。私 は、この時 に判断
に迷 い ます。 まず は母 の世話 をす るべ きか、 それ とも私 の赤ちゃんを世話すべ きか ど
―…20-―
イギリスの在宅介護を担う児童
うか迷 うのです。
午前 8時 15分
朝食 と薬 の準備 をします。 これ は、私 に とって い まひ とつの懸念材料 です。私
が与薬 を拒 んだ らどうなるであろ うか。私 が もしもまちが って錠剤 を渡 した ら、彼女
になにが起 こるであろうか。責任 は、誰 れに帰す るであろうか。い ろい ろと迷 い ます。
午前 8時 45分
母 の用便 を介助 してか ら、私 の赤 ちゃんの食事 を与 えます。
午前 9時 15分
母 は、デ ィセ ンター に行 きます。赤 ちゃん との時間が始 まります。体 を洗 って
洋服 を替 え一緒 に遊 び ます。別 の気 懸 りが頭 をよぎります。母 は、時 々 いかにも自分
本位 の行動 を とるか らです。母 のや り方でデ ィセ ンターか ら外 に出 ます。気懸 りです。
午前 10時
家族 の衣服 を洗 い、掃除 に とりかか ります。 これ は、当然 やっておかなけれ ばな ら
ない仕事 です。 さもない と友達 や専門家一―家族の友人、 ホームヘ ルパ ーや ソーシ ャ
ル ワー カーーー か ら「 うま く処理 して い ますか」 とか「管理 で きるのですか」 とい つ
た類 の攻撃 を受 けます。
午後 1時
赤ちゃん に食事 を与 えてか ら、洗濯物 を干 します。
午後 1時 30分
買物 に出掛 けて勘 定 を支払 い ます。家計 の週 当 りの帳 じりをあわせ られ るか ど
うか、頭の いた い問題 です。
午後 3時
母 がデ ィセンターか ら帰宅す るのを待 ち ます。殆 どの子供 は、 この時間 に学校 か ら
帰宅 して友達 と一緒 に放課後 をどのように過 ごすか話 し合 い ます。私 の場合 には、 だ
れか母 を看 て くれ る人 の い ない限 り、近 くの店 にでか けることさえもで きません。
午後 3時 45分
母 におや つ を用意 します。この時間が母 と私 に とって とて も不満 の多 い ときに
なる こともあ ります。特 に母 が発作 を起 こして話 せ な くなると、そうなのです。
午後 4時
母 へ の与薬 の時間 です。赤 ちゃんに食事 を与 えてか ら、もう一度母 に薬 を与 えます。
午後 4時 45分
家族 の夕食 を準備 します。家族 の夕食 一切 を準備 しなければな りません。母 の
様子 に注意 を払 いなが ら準備 をします。
午後 6時
夕食 を取 ります。赤 ちゃん と一緒 にい る時間 です。入浴。私 が家族 の一員 であると
感ず る唯― の時間です。
午後 8時
赤 ちゃんに食事 を与 えてか ら、ベ ッ ドに連れ て行 きます。殆 どのお母 さんは、赤 ちゃ
んの就寝時 を心待 ちにしてい ます。一 日中赤 ちゃん と一緒 に居 るか らです。 しか し私
の場合 はそ うではあ りません。私 は、私 の赤 ちゃん と一緒 にす ば らしい時間 をす ごし
た い と思 い ます。
午後 8時 30分
母 の入浴 を介助 してか ら、ベ ッ ドに向か うのを手伝 い ます。母 か ら注意 をそ ら
-21-
経済研究 2巻 1号
すわけにい きません。私 の一切 の注意 は、母 に向 けられ ます。
午後 9時 30分
午後 11時
午前 0時
赤 ち ゃんの食事 を用意 します。洗濯 をします。
くつ ろ ぐ時間です。 しか し、私 は、翌 日の介護 を どのよ うにす るか考 えてい ます。
赤 ち ゃんに食事 を与 えて着替 えさせ ます。 それか ら、私 はベ ッ ドヘ 向かい ます。
在宅介護 を担 う児童 は、 シ ャロンの よ うに実 に様 々な 日常生活上 の援助 を手 が けてい る。作業
の内容 は、成人 の介護者の担 うそれ よ りも広 い範囲 にお よぶ。中央統計調査局『85年 版国勢調査』
には、成人 の在宅介護者 を念頭 において 8種類 の作業 が示 されている。 それは、(1)衣 服 の着脱や
入浴、用便 な ど身 な りにかかわ る介助、(2)ベ ッドか ら椅子 へ の移動 や階段 の上 り降 りな どにかか
わ る身体 の介護、(3)公 的 な手 当の受取 りや金 銭 の支払 いな どのペ ーパ ー ワーク、(4)買 物 や調理、
食事 の介助や清掃 な どか らなる家事 の援助、(5)被 介護者 と話 した リゲ ーム に興 じた りす る一緒 の
行動、(6)商 店 に出か ける被介護者 へ の同行や病院 に出む く時 の同行 な どか らなる外出、(7)処 方薬
の受取 りと与薬 な どか らなる医薬 の管理 、(8)被 介護者 と一緒 に居 なが らの注視、 これ らである。
児童 による介護 は、 これ らに とどまらない。すでに述 べ た作業 に加 えて、19)弟 や妹 に本 を読 み聞
かせ るな どの世話、αOl■ 介護者 は もとよ り他 の家族構成員 へ の情緒的 な支援、 な ども含 まれ る。
児童 は、主 に どの よ うな作業 を担 うのであろうか。上 に述 べ た 10の 作業 は、相互 に重 な りあう
内容 も含 まれ るので、児童 の介護作業 を念頭 に措 きなが ら 6つ の内容 に区分 した うえで、特徴 づ
けてみた い。 6つ の内容 とは、次 の よ うに整理 させ る。(1)調 理や清掃 な どの家事 の援助、(2)移 動
の介助や与 薬 な どの一般的な介護、(3)入 浴や用便 な どの身 な りにかかわ る援助、(4)情 緒的な支援、
3、
(5)弟 や妹 の世話、(6)金 銭 の管理や通 院 へ の同行 な どの作業、 これ らである●
児童 の引 き受 ける作 業 は、表 7に 示 され る通 りで ある。家事 の援助 が もっ とも多 い。次 いで移
動 の援助 な どを手 が ける一般的な介護である。身 な りを整 える ことの介助や弟、妹の世話 も相応
の比 率 を示 してい る。引 き受 ける作業 は、被介護者 の疾病や障害の種類 と程度 に左右 され る。 こ
れ も表 7に 示 され る。家事 や移動 な どの援助 は、身体障害の被介護者 を看 る児童 で もっ とも目立
つ。心理的な援助 は、知識障害や知覚 障害 の被介護者 にかかわ る児童 に 目立 つ。
(1)調 理や清掃 な どの家事 の援助
家事 は、在宅介護 を担 う児童 の もっ とも良 く手 が ける作業 である。多 くの児童 に とっては、毎
日の生活 の一部 で あ り恒常的 に手 が けてい る。他 の児童 は、あ る切羽 つ まった時 に手 が ける。児
童の声 を紹介 しよう。 (
)内 は、在宅介護 を担 う児童の年齢 である●4、 「私 は、椅子 に腰掛 けて
考 えます。 ……今晩 のメニ ュー はなににしよ うか。冷蔵庫 に どんな食材 が あっただ ろうか」 (14
歳 )。 「私 は料理 をず っ と一人で手が けてきました。で も、今 は、妹 がやって くれ ます」(13歳 )。
―-22-―
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
(⇒
表 フ 児 童 に よ る介 護 の 作 業 内 容
ンム Ⅱ
”
査
ノガ調
ンム ー
ノガ調
”
査
(単 位
37都
身体 障害
精神 障害
市
調
知識障害
:%,人
知覚障害
/Jヽ
言
汁
家 事 の援 助
81.8
92.0
70.0
62.0
39.0
59.0
65.0
移 動 な どの 援 助
63.6
26.0
71.0
48.0
63.0
59.0
61.0
21.0
43.0
14.0
33.0
25.0
26.0
29.0
9.0
14.0
15.0
23.0
31.0
12.0
10.0
8.0
4.0
11.0
心 理 的 な援 助
入 浴 な どの 援 助
45.5
弟 妹 の子 守
金 銭 な どの 管 理
7.言 十(2)
36.4
0.0
100.0
100.0
(11)
(61)
)
査 (0
10.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
(641)
[資 料 ] Jo Aldridge and Saul Becker,Children with care,illside the world of young carers,op,cit.,
pp.20-21,Chris]Dearden and Saul Becker,Young carers at the crossroads,an evaluation of
the Nottingham Young Carers ProieCt,Op,cit.,p■ 9,Chris Dearden and Saul Becker,Young
carers,the facts,op,cit.,p.17よ り作 が≧
[注 ](1)空
欄 は不 明 で あ る。
の数 値 は 、調 査 対 象者 の人 数 で あ る。 ノ ッチ ンガ ム 調 査 Iは こ こで は 11人 とな っ て
い るが 他 の 4人 に つ い て 不 明 で あ る。
(3)身 体 障 害 な ど とあ るの は、 被 介 護 者 の 障 害 形 態 別 状 況 で あ る。
(2)( )内
「私 は、 9歳 の時 か ら夕食 を一人 で作 って来 ました ……」(16歳 )。「私 は、家 に居 る父 を助 けるた
めにまるで ロボ ッ トの ように働 きます」(10歳 )。「私 は、清掃 をずっ と一人 でやって来 ました。で
も、今 は、手伝 って くれ る者 が居 るので、以前 の ようにや る必要 はあ りません。私 は、今 では台
所 の床 をそんなに頻 繁 に掃除 しな くて もいいのです」(14歳 )。「私 は、アイ ロンか けを全部や りま
す。 ……掃除 のや り方 も知 ってい ます。 ……私 たちは、学校 でぞんざい に調理 をします。私 は、
そんな風 にした くあ りません。……」(15歳 )。「私 は、クリスマ スの買物 を全部 や ります。母 がお
店 に出かけ られないか らです」(14歳 )。「私 は、起床 して衣服 を着 るとす ぐにお店 に行 って ミル ク
と新聞 を買 って来 ます。妹 を起 こして朝食 を食 べ させ ます。母がなにを欲 しがってい るか様子 を
見 ます。それか ら、学校 に行 きます。帰宅 してか ら……お茶 を入れて、母 が、他 になにを欲 しが っ
て い るか様子 を見 ます。妹 の子守 りを続 けます。 これは、私 の ご く普通 の一 日です」(21歳 、かつ
て介護者 であった)。 「母 は、調理 も清掃 もしてい ません。長 い時間 そんな風 にしてい られないの
です。 …… そ こで私 たちが調理 をします。母 に頼 るわ けにはいか ないのです。洗濯 な ども私 たち
でや ります」 (17歳 )。
児童 が家事 を手が ける比率 は、家族 に複数 の成人 が居 るとはっきりと減少す る。 その比 率 は、
両親 のそろった家族 で母親 が被介護者 である場合 に、 18.0%で ある。同 じ く両親 のそろった家族
―-23-―
経済研究 2巻 1号
で父親が被介護者である場合 に、8.0%に まで下落する。家事 を担 う児童の平均 65.0%に 較 べ る と
いかに もわずかな比 率 で ある。 いいかえれば単親家族の児童 は、他 に家事 を担 う成人 の いない こ
とか ら選択 の余地 な く家事 を引 き受 けざるをえない、ともい えよう。また、18.0%と 8.0%の 差 は、
「女性 の仕事 としての家事」 とい う通念 を映 し出 してい るよ うに考 えられ る。
(2)移 動 の介助や与薬 な どの一般的な介護
これ らを担 う児童 の比率 は、前出 の表 7に 示 され るよ うに家事 を引受 ける児童のそれに次 いで
高 い。 ここで も、児童 の声 を紹介 しよ う。
「 父 は、 かな り重度 の障害 をもって い ます。 ……父 は、階段 を昇 った り降 りた りす る こ とがで
きません。 とて もゆっ くりとしか歩 けません。 …… 自分 の食事 を作 ることも、 シャワー を浴 びる
こ ともで きません。父 は、父 にあわせて作 った衣服 な ら自分 で着 る こ とがで きます。 ……で も、
靴 をはいた り、 ボタ ンを掛 けた り、 フ ァスナー を締 めた りは、で きません。 まして、ネクタイを
締 めることもで きません。父 は、 つ えを持 ってい ます。家 の まわ りな ら杖 で大丈夫です。 ……買
物 な どの離 れた場所 へ の移動 になると、 いつ も車椅子 を使 った りして、誰 かが、 まひの残 る父 と
一緒 に出か けます」(20歳 、 9歳 か らの介護者 )。「弟 は、しっか りとした介助 を受 けない と歩 けま
せん。私 は、弟 を支 えて歩 くことが で きますが、母 にはで きません。弟 は、あ まりに重 いのです。
弟 が あ る方向 に歩 こ うとす る と……私 たちは重 さの あ ま りい まに も倒 れ そ うにな ります」 (17
歳 )。 「母 は、下着 を着 ることがで きます。ズボンをは くのを手伝 ってや ります」(12歳 )。「母が父
を持 ち上 げる時 に、私 は手伝わなければな りません。 ……母 は、一人 だけでは とて も出来 な いの
です」 (14歳 )。
児童 による介護 は、家族 に複数 の成人 がいるとい ないの とでは 目だってちがって くる。児童 に
よる介護 の比率 は、両親 のそろった家族 で母親が被介護者 で ある場 合 に、 17.0%で ある。 同 じ く
両親 のそろった家族 で父親が被介護者 で ある場 合 になると、9.0%で ある。
(3)入 浴や用便 な どの身な りにかかわ る援助
この種 の介護 は、表 7に 示 された よ うにお よそ 4分 の 1の 児童 によって担われてい る。児童 に
とって も被介護者 に とって ももっ ともむづか しい作業 で ある。双方 に当惑 が あるか らである。比
率 の低 さは、 その現れ で ある。以 下 に紹介す る児童 の声 か ら双 方 の当惑 を読 み取 る ことが で きよ
う。
「私 は、父 の入浴の介助 を 14-15歳 の頃 にやめてい ます。 で も、最近 になってまたや り始 めま
した。 もう これ以上 、入浴の介助 をした くあ りません。私 は、 こんな風 に考 えるのです。『私 には
プライバ シーが あ ります。父 もプライバ シー を守 ってほしい と思 っているで し ょう』。父 は、入浴
-24-
イギリスの在宅介護を担う児童
を私 に手伝 って もらうのをいやが って い ます。私 も好 きではあ りません。当惑 して しまい ます。
とて も時 間がかか ります。入浴 を始 めて終わ ったあ と着衣 までお よそ 1時 間 を要 します」(20歳 、
9歳 か らの介護者 )。 「私 は、母 の体 を洗 い、髪 も洗 い ます。私 の考 えでそうするわ けではあ りま
せん。……で も母 のためにや らなければな らない こともい くつか あ ります」(12歳 )。 「私 は、母 が
トイ レに行 くのを手伝 い ます。……母 は、一人で用便 を足 せ ないのです」(12歳 )。「私 は、母 が ト
イ ンに行 くのを手伝 い ます。母 は、時々生理用のナ プキンを必要 にしますので、母 にそれ を渡 し
てか ら トイ ンの ドアを閉 め ます」 (15歳 )。
息子 が母親 を介護す る時、娘 が父親 の介護 を担 うとき、上の発言 のよ うにしばしば困惑す る。
児童 に とって けっして容易 な作業 ではない。 自分 の親 に対 す る憤 りさえ感ず る。他方、親 として
は尊厳 を失 うこ とに通ず る。肉親 で あ り、 しか も我が子 による身 な りの援助であるだけに、当然
で あ ろ う。
この種 の作業 を担 う児童 の比 率 は、両親 のそろう家族 の場合 にはっき りと低下す る。
(4)情 緒的 な支援
情緒的 な支援 は、表 7に 見 るように 4分 の 1の 児童 の手 が ける作業 である。児童 の比 率 は、精
神障害 の ある被介護者 に対応する場合 に高 く、 これ とは反対 に、知識障害 を抱 える被介護者 に応
ず る場合 に低 い。 これ も、前出 の表 7に 示 され る。情緒的 な支援 のひ とつの特徴 は、被介護者 に
対す る在宅介護児童 の責任感 で ある。
「私 は、一般的な介護 を他 の人 がやってい る程 には手 が けてはい ない と思 い ます。 で も、情緒
的 な支援 を最初 か らずっ と担 って来 ました。…… だか らいつ も被介護者 の ことが頭 を離 れ ませ ん」
(年齢不詳 )。 「父の精神状態 は、色 々な段階 を通 ります。私 は、父 により快適 な状態 になってほ
しい とい ろい ろと試 み ます。父 は、あ まりに意気 消沈 して い るか らです。父 は、椅子 に腰 を下 ろ
して も、私 の話 してい るようには話 しません。……私 は、学校 に行 かな ければな らない時間 になっ
て困 って しまい ます。 ……」 (15歳 )。
(5)弟 や妹 の世話
11.0%に あたる児童 は、疾病 や障害 を持 つ人 々の介護 を担 い なが ら、あわせて弟 や妹 の世話 に
当たる。
「私 は、弟 の世話 をします。母 が、『頭痛 が す る』とい ってベ ッドに入 り、一 日そうしてい ます。
……私 が弟 を起 こす と、弟 は、不機嫌 にな ります」(12歳 )。「私 は、赤 ち ゃんに朝食 を食 べ させ ま
す。そのあ と、赤 ちゃんを母 に手渡 します。母 は、それか ら赤 ちゃんを着替 えさせ ます」 (年齢不
詳 )。
―-25-―
経済研究 2巻 1号
児童 が弟や妹 を看 る比率 は、両親 のそろ う家族でははっき りと低下する。 この比率 は、両親 の
そろ う家族で母親 が被介護者 で ある場 合 に、わず かに 4%で ある。 同 じ く、両親 のそろ う家族 で
父親が被介護者の場 合 には、皆無 で ある。単親家族 の児童 が、 この種 の介護 をもっ とも多 く手 が
けるのである。
(6)金 銭 の管理や通院 へ の同行 な どの作業
これ には、公的な手 当の受取 りや金銭 の支払 い な ども含 まれ る。
「私 は、税金 やガス代 を支払 い
ます。買物 に出か けた時の支払 い も私 です。 これ らは、 いつ も私 がや ります。私 は、家計 の管理
が好 きです。値段 について あれ これ考 える ことがで きます。 ……私 は、父 よりもうま くや りくり
をしてい ると思 い ます。私 の母 は、私 に買物 に行 くようにいつ も仕向けます」 (16歳 )。
在宅介護 を担 う児童 は、被介護者 の疾病や障害 について専門家 か らの説明 を受 ける機会 に乏 し
い。他 にこれ とい った情報 を得 る術 もない。唯一 あてになるのは、被介護者 で ある親 か らの情報
で ある。 しか し、児童 に説明す る親 は限 られ る●り。 い きお い疾病や障害 についての知識 もな しに
介護 に当た ることになる。情報 がないだ けに、生 じて くるのは見込 みのない期待 で ある。
「一番大
事 な ことは、私 の母 が快方 に向か って くれる ことです」 の(12歳 )。 介護 の技術 は、 日々の作業 を
“
通 して学 び取 るよ り他 にない。殆 ど試行錯誤 の連続 で ある。専門的 な訓練 を受 けるわけで もない。
2
介護 の影響
多 くの親 たちは、 その児童 が介護責任 につ いて誰 に も話 して いない と考 えて い る。 た とえ話す
機会 を与 えられて も、話 した くないで あろう、 と考 えてい る。誰 かに話 す ことこそ、児童 に とっ
て必要 で ある。 しか し、多 くの親 たちは、 この必要性 について感 じ取 ってい ない。介護 を担 うこ
とか ら生 ず る児童 の問題 や悩 みに も、全 く無頓着 で あるように見 える。介護 は、家族 の 自尊心 に
かかわ るとして、他 の人々 に話 さない ように仕向 けて もい る。特 に介護 を担 う児童の年齢 が若 け
れば若 い ほ ど、 そ うである。
児童 は、介護 の経験 や条件 につ いて確 かに話す ことをため らった り、話 せ なかった りす る。 こ
れは、介護 の影響 のひ とつで ある。児童が沈黙 を守 るのには、 それ相応 のわ けがある。児童 は、
誰 か他 の人 に知 ってほし くない と考 えてい る。 そ こで家族 の中 に留 めてお く。 あるい は、話 した
後 に どうなるのであろうか、 その後 の結末 について恐れるので ある。 しか し、介護 について これ
まで尋 ね られた り、話す ように促 された ことのある児童 は、 ご く限 られ る。児童 が沈黙 を守 ろ う
とす る自制 は、他 の人々の無関心 によって倍加 されてい る こ とも否定す るわけにはいかない。介
―-26-―
イギリスの在宅介護を担う児童
護 の経験 と児童 のニーズについて話 す ように励 ます ことが、重要 であろう。
児童 へ の介護 の影響 は、実 に多岐 にわたる。以下 で は、(1)家 族生活 における親子関係 の逆転、
(2)不 登校 な どの教育問題、Oll■ 会的 な孤立 に象徴 され る社会 生活 お よび友人関係、(4)低 所得
と貧
困 による経済生活、(5)人 格 の形成 と就職 問題、 これ らについて取 り上 げてみた い。 あわせて、少
数民族 に属 す る児童 へ の影響 につ いて最後 に扱 つてお きた い。
(1)親 子関係 の逆転
児童 は、親 によって養育 され保護 され る。児童 が疾病 にかか り障害 を抱 えた時、親 による介護
が期待 され る。 これが、通例 である。 しか し、両者 の関係 は、児童 が介護 を担 う ときに逆転す る。
多 くの児童 は、年齢 に不相応 なまでの責任 を負 い適応 を迫 られ ると介護責任 について あた か も成
人 で あるかのような態度 を示す。見 せか けの成熟 あるいは偽 りの生育 で ある。 この見 せかけの成
熟 は、在宅介護 を担 う児童 と被介護者 との関係 を変 えた り不安定化 させた りす る。児童 は、成長
の段階 に似 つかわ し くない までの介護責任 を負 うことか ら、情緒的 な拘束感 とあい まって通例 を
はるかに超す成熟 を見 せ る。家庭 で は、被介護者 としての親 か らの監督 も、その力 を失 う。被介
護者 は親 としての威信 を失 う ことか ら介護 を担 う児童 に過 大 な要求 を押 しつ けよう とす る。親 と
しての存在感 を示 そうとす るのである。要求 が度 を超す と、被介護者 と介護 を担 う児童 との間 に
つ。
あつれ きを生 じさせ る。「父 は、要求 ばか りです。 けつして『あ りが とう』 とは言 い ません」
“
「父 は、私 が家事 を始 めるまで待 ってい ます。私 が家事 にとりかかる となにか尋 ね ます。 ……尋
「母
ねる とい って もいつ もくだ らない ことなのです。父 は、繰 り返 し くりか え し尋 ねてきます」。
『飲 み物 がほ しい』
は、私 がなにか取 りかかるまで いつ もじっ と待 つてい ます。私 がや り始 める と、
とか 『あれ これや って くれ』 とか私 にむかって大声でさけびます。 ……私 は、 とて もい らい らし
ます」。
親 としての存在感 と児童 か らの信頼 は、 こうした場面 が続 くとしばしば失われ る。介護 を担 う
「私 は、夜 に外出 した いのです。……私 は、 どこかへ 出かけた い と母 に
児童 は、次 の ようにい う。
言 い ますも私 は、友達 と道路 で騒 ぎます。母 が この ことをもし知 った ら私 にやめるように言 うで
しょう」。被介護者 も述懐す る。「私 は、子供 に とって もう母親 で はあ りませ ん。親子 としての特
別 な関係 を永遠 に失 ったのです。 この事実 を受入れるのに時間がかか りま した。 ……で も今 は、
耐 えて暮 らす ことがで きます。で も、問題 も起 こ ります。親 としての威信 を示 せ な くて も、私 は、
すべ ての ことについて子供 と話 しあつてみた い と思 い ます」。
親子関係 の逆転 は、児童 の発達 に影響す る。後 に詳 し く述 べ るように成人 となって以降 に尾 を
引 くことになる。
―-27-―
経済研究 2巻 1号
(2)教 育 問題
通学は、児童の ご くあた りまえの生活 の,部 である。児童は、長 い時間を学校 です ごす。学校
での生活 は、児童にとって大 きな比重を占めるはずである。
在宅介護 を担 う児童 についての調査は、例外 な く学校教育にもたらされる負の結果 について明
らかにしている。学校への遅刻や欠席 についてはじめて示 したのは、サ ン ドウェル
調査である。
11人 中 1人 の児童が介護のために数年に亘って学校 を欠席 している事例 を明 らかにした
のは、セ
フ トン調査である。14人 中 10人 の児童による間欠的な欠席 について示 したのは ノ
、 ッチ ンガム調
査 Iで ある。在宅介護 を担 う児童 についてのその後 の調査 は、 リーズ調査 Ⅱを除 いて一 に
様 欠席
と介護 との因果関係を確かめ、関係する事例 について伝えている●0。 この うち 37都
市調査は、義
務教育年齢 にある児童の 4人 に 1人 が、欠席 していることを伝 えている り。 これらの児童は、
学
“
校 に通 うとい う基本的な権利を否認 されている。児童が欠席 を自発的 に選択 したわけではない
。
介護のために学校 に通 う時間を確保 できないのである。
「母 は、朝時々起 きれません。起 きた くな
いのです。母は、私達をけっして起 こそうとはしません。通学バ スに り
乗 遅れてしまい ます。 そ
うすると、もう学校 に行 く術 はありません。母 は、
バ ス代 を渡 して くれないのです……」
●0(14歳 )。
「私 は、学校 を時々休 みます。通学できるかどうかは、父の ぐあいにかかってい ます。私 は、父
の様子があまりに悪 い と学校 に行 けません。すると、父は『学校へ行 きなさい と い ま
』 言
す。で
も、私は行 きません。私は言い ます。『私 はここに居 ます』
」 (15歳 )。 「私は、学校 をさぼ ります。
母が居 るからです。私 は、母 のことが′
心配ですからそうするのです」(12歳 )。「私 は、いつ も母 に
言い ます。『明日、学校 に行 く』と。母 も『そうしなさい』と言い ます。でも、私はずっと学校 に
●1)(15歳 )。
行 ってい ません」
帰童が学校 に通 うことがで きるといっても介護の責任から完全 に解放 されたわけではない。学
校 での生活のはじまりは、通学前にや り終えた介護のいわば第一幕 にすぎない。昼食時 などに
家
に戻 らなければならないことも時 に起 きる。
「私 は、弟を起 こして、弟が制服 を着 るのを確かめ ま
す。……弟がちゃんとお金を持ったか も確かめます。それから私 は、家の中をきちんと整頓 して
6の
学校 に出か けます」
「私 は、朝の 7時 に起 きて洋服 を着替 えてから、母を起 こします。母 の衣
。
服の着脱 と洗顔 を手伝 って、母 の食事を介助 します。……母 は、問題が起 きると学校 に電話をか
けます。すると、私は家に戻 らなければなりません」
。
学校の欠席や中途下校を運よく免れても、
急いで家に帰らなければならないこともある「
。私は、
学校からすぐに帰宅して夕食を作ります。それから椅子に腰を下ろしてゆっくりできます。ほと
んど毎日がこんな風です」
「私は、家族を夕食のテーブルに集めます。家族が食べた後に、私も
。
-28-―
イギリスの在宅介護を担う児童
食 べ ます。母 は、私 と一緒 に台所 を片 づ けます。母 は、台所 を出て椅子 に腰 か けて休 みます。私
は、家事 も宿題 もや らなければな らない ことす べ てを手 が けます」。
在宅介護 を担 う児童 は、介護 に時間 を とられて宿題や予習 に時間 をさけない こともある。児童
は、介護 が こうした形で も影響す ることを教師 に感 じ取 ってほしい、 と思 ってい る。
「家 に帰 って
か ら、英語 の宿題 を始 めました。す る と、母 が宿題 をやめるように言 い ます。 その後 に、母 は、
『 トイ ンに行 きた い』 とか『お茶 を入れてほ しい』 とか言 い ます。私 は、 また宿題の手 を休 めな
ければな りません。母 の用事 をす ませてか ら、宿題 に取 りかか ります。 こんな ことが続 くと宿題
●め。
をや りそ こなって しまい ます」
学校 は、児童 に とってか けが えのない生活 の場 で ある。児童 としての生活の場 であ り発達の場
である。 しか し、児童 は、在宅介護 を担 うときその負担 に押 されて学校生活 の利益 を享受で きな
い。
(3)社 会生活 と友達
友人 と一緒 に遊 びに興 じた り趣味 に没頭 した りす ることは、成長期 の児童 に とってかけが えの
ない生活 の一部 である。
交友 の範囲 は、介護 を担 う児童の場合 に著 し く狭 い。住 んで い る家 の ご く近 くに限 られ る こ と
が多 い。介護 を担 う児童 は、 ノ ッチ ンガム調査 Iに よると交際 (Socialising)の 意味 を「 いつ も
近 くの友人の家 を訪れ る こと」 と理解 してい る。夜 に友人 とデ ィス コに出か けた り、絵画 の鑑賞
に友人 をさそった りす る こ ととは、受 け とめて い ない●0。 これ らの児童の生活 は、家族 の住 む家
とその近辺、すなわちわが家のある通 りに限 られ る。
介護 を担 うことか らくる時間的な拘 束 をはじめ児童 の外出 を望 まない被介護 者 の態度、被介護
者 と一緒 にい なければ と感ず る児童 の情緒的な圧迫感、それに介護 に対 する友人の無理解 は、在
宅介護 を担 う児童 を交友関係か ら遠 ざけ社会生活 を狭 くす る 4つ の要因 で ある。これ らの要因 は、
それぞれ独 自に働 くこともあ り、同時 に作用 す る こ ともあ る。
在宅介護 を担 う児童 は、在宅介護 のゆ えに友人 と遅 くまで居れない場合 も多 い。これが続 くと、
友人 は、在宅介護 を担 う児童 を遠 ざけはじめる。友人 は、「 あの子 は来 れない」とい う理 由をつ け
て遊 びに呼 ばな くなるのである。在宅介護 を担 う児童 も、遅 くまで家 をあけることに罪悪感 を覚
える。
「私 は、か つ て 2-3時 間外出 して いた ことが あ ります。いつ もよ り少 し遅 くまで外 に居 ま
した。家 に帰 ると、母 は、 自分 で食事 を食 べ て い ました。私 は、 しあわせな気分 にな り友人 と少
しお酒 を飲 み ました。 それか ら、ベ ッ ドを壊 し始 めました。 そんな風 にしてい るうちに、私 は、
罪悪感 を覚 えました。……私 は、そんなに長 く外出 してはい けない と心 に決 めました」(29歳 、15
-29-
経済研究 2巻 1号
歳 か ら 14年 間介護 に携 わ る)。
在宅介護 を担 う児童 は、外出 した ときで さえ、S・ ベ ッカー の形容 になる介護 の門限時刻 (caring
curfew)、 すなわちある時 間 までにはいつ も帰宅 しなけれ ば とい う自戒 の犠牲者 になることもあ
る。児童 は、被介護者 の要求 に従 ってで あれ、あ るい は、一人 で居 る被介護者 の様子 を案 じてで
あれ、早 い時間 に帰宅 しなければな らない。在宅介護 を担 う多 くの児童 は、社会 生活 に枠 をはめ
る ことに不満 で ある。しか し、児童 は、被介護者 の福祉 を優先 して時間 をや りくりす る。中 には、
そうした制限 に背 をむける児童 もい る。
「私 の友達 は、一人残 らず外 に出 てい ます。私 は、家 に居
てアイ ロンか けをしなければな りません。 そんな風 だ と、一切 の ことを投 げ出 した くな ります。
遊 びに行 きた い時 に出か けられないのです。 で も、私 は、母 の様子 か らして家 に居 なければな り
ません。私 は、 そんな ことを望 んで い ません」 (18歳 )。
友人 が、介護 に費 や さなければな らない時間 についてはっきりとは理 解 で きない ことも在宅介
護 を担 う児童の社会 生活 を狭 くす る要因 で ある。友人 に罪 はない。友人 には、介護 の経験 もな く
「学校 の幾人 か
理解で きないので ある。介護 を理解す るほ どの年齢 に至ってい ないか らで もある。
の友達 は、 まるで幼児 のようです。幼児 の ように長 い時間 をす ごします。 ……私 は、 もっ と多 く
の生活 を経験 して い ます」 (12歳 )。
在宅介護 を担 う児童 は、介護 のさまざまな負担 に応 じなが ら社会 生活の機会 を失 ってい くので
ある。
在宅介護 を担 う児童の親 たちの多 くは、我 が子 が「普通 の児童」 のようには外出で きない こと
を知 って い る。社会 生活 や交友の制限 は、介護 の結果 として不幸 ではあれやむを得 ない と考 えて
い る。
「我 が子 の社会活動 は、限 られて い ます。で も、外 に出て いかないわけで もあ りませ ん。子
供 は、 アイススケー トな どに行 きた くないのです。動 き回 る ことの一部 は、家 で充分 です。子供
達 は、今 では交代 で看 て くれ ます。一人 で看 て いた ら、確 かに良 くないで し ょう。私 は、子供 た
ちが短 くとも自由な時間 をす ごせ るように心 を配 ってい ます。子供 の 自由な時間 は、家 の周 りで
●り。
遊 ぶ ことです。遠 くまでは行 けません」
「私 は、 もっ と自由 にす ごす娘の姿 を見 た いのです。
すべ ての時間を私 の介護 にあてる姿 を見 た い とは思 ってい ませ ん。 で も、娘 が夜間 に外出 して、
私 がず っ とここに腰 か けて いなければな らない なんて、寂 しい限 りだ とは思 い ませんか」(い ずれ
も被介護者 )。
親 たちは、優先す るべ き活動 を子供 に強制す る こともある。親たちは、子供 の成長 に とって重
要 で ある事項 と、 これ とは逆 にさして大切 とは思 わない こととを区別す る。学校 の宿題 や予習 を
他 の行為 に優先す る事項 として位置 づ ける。 この決定 は、子供 の承 諾 や話 しあい をへ る ことな し
-30-
イギリスの在宅介護を担う児童
に下 され る。親 たちは、 こうす る ことによって子供 としての生活 と在宅介護者 としての生活 を支
配 しようとす る。一 方 では、児童 が親 の介護 を担 って 日々のす こやか さを見守 り、他方では、親
たちが児童 に影響 をお よぼす ことによってその生活 を支配 しようとす るのである。
被介護者 で ある親 たちは、「我 が子 は、 そんなに外 に出た い と欲 してい ません」と言 う。 この発
言 は、「我 が子 が家 に居 て介護 に当た る こ とをむ しろ望 んで い る」とい う意味 をそれ とな く含 んで
い る。家 に居 た い とい う児童 の願望 と介護 され る親 のニーズ とは、確 か に一致す る。 しか し、 こ
れは、児童 の希望 に名 を借 りた別 の形 の管理 でなか ろうか。
(4)経 済生活
被介護者 は、疾病や障害 を抱 える ことか らして就業 で きない ことが少 な くない。 なん とか働 い
て所得 を手 にした い と願 って も 10%を 前後す る失業率 (10.5%60、 93年 )の もとで思 うにまかせ
ない。被介護者 の有職率 は、 2つ の調査 に示 されて い る。 それによる と 50.0%(パ ー キ ンソン病
の親 を介護す る児童調査 )、
6.5%(マ ージーサイ ド調査 )の 結果 である。7、 この うち前者の結果
を見 ると、他 の 50.0%に あた る被介護者 は、パ ーキンソン病 を事 由 に仕事 を辞 めてい る。有職者
の半分 は、 フル タイムに就 いて い る。残 りの半分 は、パ ー トタイムで働 いて い る。パ ー キ ンソン
病 の被介護者 の半数 が仕事 を続 けて い る とはい って もかな りの熟慮 をへ て い る。病気 へ の不安 が
頭 をかすめるか らである。
親 を被介護者 に持 つ時、 そ こには低所得 と貧困 とが待 ち受 けてい る。殊 に単親 の家族 につ いて
そうである。収入 の低 さだ けで はない。疾病 や障害 を抱 え、介護 に伴 う出費 も計 算 に入れなけれ
ばな らない。
児童 は、在宅介護 を担 うとい って も 15歳 以下 で あるか ぎ り介護者手当の 申請資格 を持たない。
児童 は、低所得 を補 う術 を持たないのである。
低所得 と貧困 は、介護 を担 う児童 の生活 に陰 を落 とす。休 日に旅行 に出か けられなかった例や、
学校 で使 う本や備 品 を買 うお金 にさえ事欠 くとい った こと めが、伝 えられ る。
“
低所得 と貧困 は、親 の疾病 や障害 に端 を発す る問題 である。児童 が在宅介護 を担 う ことに直接
かかわ るわけではない。しか し、め ぐりめ ぐって児童 の教育や社会生活 に暗 い陰 を落 とす ことも、
確 かで ある。
(5)人 格 の形成 と就職問題
介護 の影響 は、身体 にかかわ る実際的 な ものに限 らない。児童 の情緒的安定 や将来 を設計す る
構想力 にも尾 を引 く。介護 に伴 う精神的な圧迫感 は、憂 うつや不安 を誘 発 す る。すべ ての児童 が、
驚 くほ どに元 気 を回復す る ことも確 かで ある。介護 を通 して被介護者 か ら愛 されてい る と感ず る
-31-
経済研究 2巻 1号
な ど、肯定的な側面 のあることも確 かである●0。 しか し、忘 れてな らないのは、介護 を担 う児童
による将来設計 の乏 しさで ある。
介護 は、児童 の思考 の範囲を狭 くす る。在宅介護 を担 う児童 は、今 日や明 日の こ とを考 えて も、
それ よ り先 の ことになると乏 しい考 えをめ ぐらせ るだ けである。将来 の夢や計画 は、介護 に狭 く
限 られ る。介護 を担 うどの児童 も、 自分 の将来 に亘 る計画 について誰一人 として 日配 りして話 し
はしない。将来 にかかわ るテーマ について尋 ね られて も、児童 の答 えは、被介護者 の福祉 にかか
わ ることばか りで ある。「私 は、母 が急 に起 きあがって階段 を降 りてい く姿 を思 い描 いて い ます。
で も、 そんな ことは もうない と判 って い ます。私 の母 は、 もう二度 と歩 けないであろう、 と言わ
れてい ます」●0(16歳 )。
こうした私心 のない見通 しは、介護 によって枠 をはめ られた生活 の様式 をはじめ家 の近辺 に狭
め られた行動 の範囲や将来 を希望 を もって見 る機会 の乏 しさな どの中で培われ て い る。
児童 自身 の職業上 の野心 は、介護 の責任 と勉学機会 の制限 とによって枠 をはめ られてい る。後
者 は、前述 の ように欠席 な どで ある。 これは これで介護 の負担 に端 を発す る。在宅介護 を担 う児
童 が看護婦 にな りた い と言 った り、 高齢者 や障害者 を助 ける ことので きる仕事 に就 きた い とい う
のは、根拠 の あるはな しである。 いずれ も、職業 としての介護や看護である。児童 は報酬 の善 し
悪 しを考 えるか らで はない。介護 が、児童 の知 っていなければな らないすべ てで あるか らであ る。
介護 とい う仕事 は、時間 と労力 とをか けるに値 する唯一 の職業 で あると思 うか らで もある。
交友関係 の乏 しさは、成長期 に属す るだけに成人 して以 降 に も尾 を引 く問題 であ る。在宅介護
を担 う児童 は、社会 に出てか ら交友 を結 ぶ ことのむづか しさを味 わ うであろう。児童 が抱 えた教
育問題 も、 のちに続 く。学校 を出てか らの就職 とキャリアの形成 に影響 しない とは、言 い切れな
いであろ う。殊 に単親 の母親 を介護す る児童 は、低所得の問題 と相 まって就職 の問題 を避 けて通
るわ けにいかない。
6)少 数民族 に属す る児童 の場合
少数民族 に属 す る児童 は、在宅介護 を担 う白人 の児童 よ りも加重 な負担 を強 い られて い る とい
われ る。 た とえば介護者全 国協議会 の主催 になる討論会 (93年 10月 12日 )の 第 3報 告 は、少数
民族 に属す る児童 が、同一 年齢 階層 の 自人 に較 べ て追加的な問題 を抱 えなが ら介護 に当た ってい
る、 とい う考 えを示 してい る。1ヽ カロ
重 な負担 の要 因 は、 3つ あげ られ るように思われ る。
第 1に 、少数民族 に属す る児童 は、通訳 の役割 を担 うことが多 い。 これは、介護 を引 き受 けて
い るか どうかにかかわ らず ご くあ りふれた光景である。児童 の親たちは、英語 を第一 言語 にしな
い こ とが少 な くない。児童 は、イギ リスに生 まれ この国 の学校 に通 う。 その読 み書 きの能力 は、
―-32-―
イギリスの在宅介護を担う児童
児童 の親 たちの比で はない。 そ こで通訳 の役 目を引 き受 けるのである。通訳の機会 は、被介護者
を抱 える家族 で増 えざるをえない。公的 な手 当やサ ー ビスの給付 にかかわって、関係者 や機関 と
の接触 を避 けて通れないか らである。被介護者 である親 の問題 が、 その子供 を介 してや りと りさ
れ る ことの是非 は、当然 に問われ るであろう。少数民族 の児童 が、被介護者 の疾病 や障害 につい
て正確 に知 った うえで第 二者 に伝 えうるのか どうか、 これ も疑 間 の残 る所 であろう。 いずれ も通
訳 をスムーズには進行 させない ことになろう。 これは これで児童の肩に重 くの しかか る。 ともあ
れ通訳 は、 自人 では考 える ことので きない少数民族 の児童 に独 自の負担 で ある。
第 2に 、少数民族 に属す る児童 の うち少女 は、高齢者 や障害者 ばか りでな く家族 のすべ ての構
成員 の介護や世話 をあてにされ る。幼。 その責任 は、同世代 の少女 よ りも広 く重 い。 これ も在宅介
護 を担 う児童 とい って も、 自人 の少女 とは明 らか に異 なる。
最後 に、各種 のサー ビスやその給付 を担 う職員 は、少数民族 に属す る被介護者 や在宅介護者 に
対す る理解 に乏 し く、総 じて 白人 に給付 され るサ ー ビスや職員 の対応 に較 べ てはっきりと見劣 り
す る。少数民族 に対 しては、人種差別主義 (racism)を 根 にもつ偏見 が強 い。偏見 とはなにか。
少数民族、殊 に黒人 の住 む地域 では、多世代家族 が支配的 である。在宅介護 を担 う黒人の児童 も、
この中で援助 を受 けるにちがいない。つ。 ざっ とこの ような偏見 で ある。在宅介護 を担 う児童 へ の
サ ー ビス は、 こうした偏見 をもとに設計 されて も期待薄 の内容 になるで あろう。
在宅介護 を担 う児童 の ニーズ と援助
Ⅳ
1
在 宅介護 を担 う児童 の ニーズ
介護者全国協議会 は、介護 を担 う児童 のニ ーズについて 4項 目を列 記 して い る。す なわち、(1)
実際的 で専門的 な援助、
(2)被 介護者 の状態 とサ ー ビスお よびサー ビス利用 の方法 についての情報、
(3)耳
を傾 けて くれ信頼 に足 る人 との会話、(4)在 宅介護者 としての役割 の正 式 な承認、 これ らであ
る。つ。以下 では、 この定式化 を手 がか りに在宅介護 を担 う児童 のニ ーズについて考 えてみた い。
在宅介護者 の多 くは、児童 で あれ成人 であれ、被介護者 むけの援助 をすで に知 りつつ ある。介
護者 は、 そ うした経験 を通 して援助 の限界 につ いて感 じ取 つて い る。介護 を担 う児童 は、援助 が
一 日 24時 間ず つ と行われ るわ けでない こと、あ るい は、もっ とも必要 な夜間 に提供 され るわけで
ない ことも知 ってい る。援助 は、被介護者 を対象 にこそすれ在宅介護者 に向 けた ものではない。
その後、在宅介護者 の介護 (care for informal carers)が 叫 ばれて、政策 の対象 に組 み入れ られ
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経済研究 2巻 1号
る。 これ も、あ くまで成人 の在宅介護者 に限 られる。児童 は、同 じ介護 を担 うとい って も 1992年
に至 るまで、援助 の対象 ではない。児童 は、 このために これ とい った援助 もな しに被介護者 と向
きあわなければな らない。
孤立状態 の ままで介護 に当た り、 なに もか も一人でや り終 える術 を身 に付 けなければならない
ので ある。
実際的で専門的な援助 のニーズ は、個 々の事例 と被介護者 の状態 に大 き く左右 され る。 このた
め、介護 を担 う児童の声 は、被介護者 のニ ーズ に的 をあてがちで ある。援助 が、被介護者 のニ ー
ズに焦点 をあわせて設計 され提供 され るな らば、被介護者 の生活 の質 も改善 される。 これは これ
で、介護者の生活 に有益 な効果 を もた らす こ とも確 かで ある。 い くつか の例 をあげよう。 ある児
童 は、家族 のために新 しい住宅 を望 んで い る。り。母 は、新 しい住宅 なら一人で用便 をたす ことも
で き、母 に専用 の寝室 もあてが う こともで きる。介護 を担 う児童 は、 そうすれば長 い問手 が けて
来 た用便 の介助 か ら解放 され る。母 の体 を支 える際 の腰 と膝 へ の負担 とも、 おさらばで ある。 い
まひ とつの例 も、被介護者 へ の援助 を求 めて い る。
「私 の父 にフルタイム の看護 サー ビス を行 って
くれ るな らば、母 も休息 を取 れ る と思 い ます」●0(年 齢不詳 )。 さらに、別 の例 も被介護者 の事情
に端 を発す る。ある児童の父 は、公的 な手当を受 け取 っている。 しか し、受給 の手続 きに期間 を
要 した こ とか ら、そ うこうするうちに家計 のや りくりに窮す ることになる。
「父が脳腫瘍 と診断 さ
れてか ら介護手当
(AA)を 受 け取 るまで に、数 ヶ月を要 しました。 この間、救 い を求 めな けれ
ばな らない ことも時 々 あ りました。手 当をはや く支給 してほしいのです。 お金 を手 にするまでに
5カ 月半 もかか るなんて、 ひ どす ぎます。 それではあまりに遅す ぎます し、 その間 になにが起 こ
。つ (16歳 )。
るかわか りません」
実際的で専門的な援助 のニ ーズには、金銭的な保証 も含 まれ る。介護 を担 う児童 は、他 の多 く
の在宅介護者 と同 じよ うに無償 の仕事 を手が ける。 そればか りか児童 は、他 の児童 がパ ー トタイ
ム就労 を通 して手 にす る報酬 を断念 しなけれ ばな らない。介護 を担 う児童 は、 その負担 か らして
・…・仕事 に就 くのはまず無理 です。14歳 くらいで 自分 の食
労働 市場 にかかわれないか らである。
「・
べ る分 を稼 ぐなんて、 とて もで きません。介護 を担 う者 として金銭的にしっか りと援助 されない
なんて、 おか しい と思 い ます。在宅介護者 は、 もし手当 とかそれ相応 の ものがあれば抱 える悩 み
ともうま くつ きあ って生活で きると思 い ます。手 当 の支給 は、 おそ ら く最 も大事 な こ とです」 0
“
(14歳 )。
ソー シャル ワーカー な どの専門職者 に関す るニ ーズ は、 あまり聞 かれない。それは、 ソー シ ャ
ル ワーカー な どを 日頃の体験 か ら信用 して いないか らで ある。 また、専門職者 を児童 の生活 に招
―-34-―
イギリスの在宅介護を担う児童
き入れたのちの結果 について不安 を抱 いてい るか らで もある。その一端 は、次 の声 に象徴 され る。
「私 は、 ソー シャル ワー カー を必要 にしません。 ソーシ ャル ワーカーは、あ まりに役人風 です。
あなた は、 ソーシ ャル ワーカーが あなたの母親 の所 へ行 くことなんて考 えてみた こ とあ ります
か 0」 (29歳 、 15歳 か ら介護 をして 14年 )。
“
児童 に対す る専門的 な援助 は、 こうした実情 に照 らす時、次 のような考 え方 にそって設計 され
なければな らない。 そ うして こそ介護 を担 う児童 のニーズ に応 え、効果 をあげる ことで あろう。
第 1に 、介護 を担 う児童 自身 のニーズに基 づ くこと、第 2に 、 プライバ シー を守 って児童 の信頼
を得 る こ と、第 3に 、児童 の介護体験 を理解 しそれ を拠 りどころにす る こと、 これ らである。
情報 は、被介護者 は もとよ り在宅介護者 に とって も重要である と、最近 では広 く認 め られて い
る。
情報 は、在宅介護 を担 う児童 と成人 の双方 の重 要 なニ ーズで あ る。在宅介護者 は、興味深 い こ
とに 自分 自身 のニーズ にかかわ る情報 を欲 つす るわ けではない。 む しろ、被介護者 の状態 にかか
わって介護 へ の助言や医学上 の情報 を求 める。介護 を担 う児童 は、被介護者 の病状 とその見通 し
について助言 し、 あわせて効果的 で満足 のい く介護技術 について教授 して くれる ことを望んで い
る。
被介護者 の疾病 や障害 に関す る情報 の乏 しさと理解 の不足 とは、在宅介護者 の担 う責任 の広 さ
と重 さを考 える とき大 きな問題 である。 た とえば多発 性硬化症 (MS)は 、被介護者 の多 くに共通
する疾病 のひ とつで ある。介護 を担 う児童 は、 この症状 について殆 ど知 らない。被介護者 として
の親 たちが、この疾病 について子供たち と話 し合 うこ ともない。
「私 は、母 の病気 が多発 性硬化症
で ある と話 して くれた人 を思 い出せ ません。多発性硬化症 が どうい う病気 なのか、今 もわか りま
・
・」 (29歳 、15歳 か ら 14年 間介護 を担 う)。 児童 は、多発性硬化症 の医学的 な複雑 さを充
せん。の。
分 な手 ほ どきな しに理解す る ことな ど、期待 で きない。 しか し、児童 は、 わか りやす い医学 の知
識 を身 につけることで、 日々の介護 を担 い なが ら長期 に亘 る介護 にむけた心 の準備 をす る ことが
で きよう。
児童 は、被介護者 の疾病や障害 につ いての情報 を被介護者 か ら受 けるで あ ろう、 と期待す るわ
けにいかない。 そ うした想定 は、 いか にも愚 かで ある。在宅介護者 と被介護者 は、医療上の問題
についてお互 い に話 し合 お う としない。それ は、血 縁 の ある間柄 で あるだけに特別 の苦悩 を伴 う。
話 し合 い をため らう態度 は、被介護者 と在宅介護者 とが疾病 や障害 につ いて良 く理解 で きて い な
いこ とか ら起 る場合 もある。
情報、殊 に医療 の情報 は、介護 を担 う児童のため らい を考慮 して提供 されなければな らない。
―-35-―
経済研究 2巻 1号
介護 を担 う児童 は、年齢 が若 い ほ ど自分 の親 で ある被介護者 の病状 について多 くを知 ろうとしな
い。多 くを知 った後 の結果 を恐れ るか らである。 したが って、情報 を提供す る者 は、介護 を担 う
児童 についてよ く知 り、時間 にゆ と りをもった専門家 で ある ことが望 まれ る。児童 のニ ーズ を理
解す ることはもとよ り、その恐れ を時間 をかけて じら くりと和 らげる こ とがで きるか らである。
一般開業医は、時 間的 な拘束 な どか ら介護 を担 う児童 へ の情報 の提供者 としてふ さわ しい立場 に
あるか どうか、 はなはだ疑間 である。一般開業医 は、 その仕事柄 か らして介護 を担 う児童 とその
ニーズについて見 きわめてい ない。
情報 を理解す る力 は、在宅介護者 の加齢 とともにはっき りと増 して くる。
公的手 当やサ ー ビス に関す る情報 は、被介護者 むけであれ在宅介護者 のためで あれ、 ご くわず
かで ある。介護 を担 う児童 についてい えば、 この年齢階層 を特 にね らった手当やサー ビス さえそ
もそ もなかった。児童 にむ けた情報 の整備 が急 がれる。児童 に情報 を効果的に届 けるため には、
独 自のニ ーズを もつ介護者 として まず承認す る ことで ある。
在宅介護者 は、年齢 の いかんにかかわ りな く多様 な情報 の用意 されたネ ッ トワー クを利用す る
技術 を持 ちたい ものである。
情報 は、 どのよ うにして助言 を得 るのか、誰 れの所 に出向 いて相談 や助 言 を受 けるかにつ いて
も伝 え られなけれ ばなるまい。 この種 のニ ーズ は「誰れか と話 した い」 とい うもっ とも基本的 な
ニーズ さえ充足 されない児童 に こそ妥当す る。介護 を担 う児童 は、在宅介護者 であるがためにし
ばしば孤立 した状態 にある。家族や親 しい友人 は、介護 を担 う児童の「 ぐちを こぼす相手」 で あ
るはず で ある。 しか し、児童 の情緒的 な安定 に協力的で ある とは思われない。児童 は、前 の章 に
述 べ た ように介護 について第二者 に話す のをしばしばため らう。 しか し、児童 は、気配 りの ある
共感 した態度 で促 が され るな らば、誰れか と話 してみた い とい う意思 を示す。児童 による発言 の
例 を紹介 してお こう。
「私 は、私 たちの言語 で
「私 は、父 の介護 にかかわ らない人 と話 した いの 」。
話 せ る人 と話 した い。私 を通訳 の ように使 ってほし くない」。「社会サー ビス な どの機関 に職 を得
て笑 う こともない人 とは、
話 した くない。そうで はない人 と話 してみた いJ(年 齢 はいずれ も不明)。
「私 は、カウンセ ラー と話 した い と思 い ます。話す と救われ ます0」 (13歳 )。 「あなたは、私 が介
護 につ いて どの ように感 じてい るか につ いて尋 ねて くれた最初 の人 にあた ります」 (15歳 )。 「私
は、友達 の母親 と少 し話 した ことが あ ります。で も、他 には誰れ とも話 して い ません。研究者 で
あるあなたが、私 と話 した い とおっしゃってい ると聞 いて、 にわかには信 じられ ませんで した。
私 は、 あなた とす ぐにで も話 した い と思 い ます」 (15歳 )。
最近 で は、介護 を担 う児童のための接触場所 が用意 された り、介護 を担 う児童のネ ッ トワー ク
-36-
イギリスの在宅介護を担う児童
が組織 され はじめてい る。 いずれ も、「誰れか と話 した い」とい う基本的なニーズに応 えなが ら児
童の社会 生活 を豊か にす る試 みのひ とつで ある。介護者全国協議会 の在宅介護 を担 う児童計画 は、
その代表的 な例 で ある。児童 は、 こうした試 みの示す ところによる と訓練 され理解 のゆきとどい
た人 との一対 ―の出会 い を選 ぶ。児童 は言 う。「 もし一対 一でや るな ら、す ば らしい と思 い ます。
で も、多勢 の人 数 でや るな ら私 はいやです。め」 (16歳 )。
児童 の発す るニ ーズ と被介護者 で ある親 たちの示すそれを較 べ る と、興味深 い事実 を明 らかに
する ことがで きる。児童 は、親 のニ ーズ をすでに述 べ て きた よ うにはっき りと明 らかにす る。 し
か し親 は、 自分 のニ ーズ について述 べ る ことはあって も、介護 を担 うわが子 のそれ につ いて話す
こ とはない。児童 と親 の述 べ るニーズ は、必ず しも一 致するわ けでない。 た とえば、親 たちは、
情報 についてのニ ーズ を表明 しない ば りでな く信頼 す るに足 る専門職者 に相談 し助言 を得 るニ ー
ズについて も述 べ ない。親 たちは、被介護者 としての 自分 と介護 を担 うわが子 のための医学情報
のニ ーズ につ いて も、気 づいてい ない ようである。親 たちが、両 の手 にあふれ るほ どの情報 をす
でに持 つか らで はない。認識 の程度 は、公 的手当や援助サー ビス あるい は情報 の入手場所 につい
て も驚 くほ ど貧弱 で ある。成人 むけサー ビス につ いての情報 は、 その場 か ぎ りに入手 して い るよ
うに見 える。 よ く知 られた公 的 な情報源 とい うよ りも口づたいで手 に入れてい るようである。被
介護者 は、次 のように言 う。
「私 は、全 く覚 えて い ません。デ ィセンターについて私 に教 えて くれ
た人 を思 い出せ ないのです。 ……社会 サー ビス省 です って ?。 それは、社会 サ ー ビスではないで
・…・
・」。「そ うです。 口込 みなんです。前の夫の後妻 さんが、移動手当 (MA)に ついて私 に
すか。→
教 えて くれ たのです」 (い ずれ も年齢 は不明)。
親 たちの認識 は、 自分 の疾病 や障害 について も驚 くほど乏 しい。 た とえば多発性硬化症 は、時
に数年 にわた って症状 を呈 し、 い く度 もの検 査 と診察 の対象 で ある。 しか し、被介護者 は、 その
症状 の合意 につ いて あ まり自覚 してい ない よ うに見 える。医療上 の助言や援助 を求 め るか とい え
ば、 お しなべ て消極的 な姿勢 で ある。親 たちが、医療上 の助言 に後向 きで あってみれば、 その児
童が、医療 に関す る事項 にうとい こともさして不思議 ではない。介護 を担 う児童 は、親 を介 して
医療情報 を手 にす るか らである。
親 たちの情報 の うとさは、医療、公的手 当 それ にサー ビスの いかんを問わず はっきりとした要
因 に根 ざす ように思われ る。第 1に 、被介護者 としての親 自身 のニ ーズは、 しばしば多岐 に亘 る
ことか らえて して通 リー遍 な情報 に過大 な期待 を抱 かない。 む しろ、 日の前 の適当な支援 の利用
を望みがちである。第 2に 、時 として専断的 な内容 の情報 に接 した経験 を持 つ ことか ら、情報 に
これ とい った期待感 を抱 かないので ある。
―-37-―
経済研究 2巻 1号
親 たちは、介護 を担 うわが子のニー ズに えて して無関心 で ある。た とえば
「誰 れか と話 した い」
とい うニ ーズ は、児童 の中で はっき りと確 かめ られ る。 しか し、 これ は、児童 のか けが えのない
ニ ーズ として親 たちによって受 け止 め られてい ない。被介護者 としての親 は、次 のように認 める。
「私 は、子供 がなにを考 えてい るか について何 も思 い浮 びません。私 は、少 しも知 りません。子
供 がなに を欲 してい るのか、言 って くれ ません ものの 」 (年齢 は不明)。
親 による認識 の不足 は、 この発言 のように親 自身 の責任 ではないか もしれない。親 たちが、介
護 を担 うわが子 にその心配や恐れ を尋ね よ う としないの も、あ るい は尋ね る ことに後 向 きになる
の も、無理か らぬ ことで ある。殊 に心配や不安 が介護 に直接 かかわ るとすれば、 なおの ことで あ
る。被介護者 としての親 は、 こうした ことか ら在宅介護 を担 う児童のニーズ を把握 しそれに応 え
るうえで は著 し く不適当 な立場 にある。児童 のニ ーズ は、第 二者 による広 く社会的 な対応 を以 っ
て こそ効果的で ある。
2
在宅介護 を担 う児童 の権利
介護 を担 う児童 の権利 について どの ように理解す るか、イギ リスでは、 おお よそ 3つ の流れが
あるように思われ る。
第 1に 、在宅介護者 としての児童 に もっぱら着 目 してその支援 について論ず る傾向である。0。
児童 としての基本 的 な権利 は、殆 どあるい は全 く論 じられない。初期 の調査研究 に見 られた傾向
で ある。第 2に 、児童 としての基本的な権利 を重視す る考 えであ り、児童 の介護 か らの解放 につ
いて論ず る流れ で ある。「児童 の教育機会 を妨 げない」 ことこそ肝要 で ある。「 障害 を持 つ親 にふ
さわ しい援助」こそ「児童の諸権利 を保障す るに もっ とも適切 な方法 で ある0」 。児童 は、介護 を
担 う ことに よって教育 や社会活動 に参加す る機会 を大 な り少 な り制限 され る。 これ は、程度 のい
かんを問わず人 間 としての成長期 にある児童 に とってけっして望 ましい姿 ではない。 そ こで、障
害 や疾病 をもつ親 たちに手厚 い援助 を用意する ことによって、児童 を介護 か ら解放 しなければな
らない。介護 を担 う児童 について の調査研究 が、蓄積 され はじめた 90年 代中葉 のひ とつ の傾向で
ある。第 3に 、在宅介護 を担 う児童 を二重 の視角、す なわち児童 と介護者 の双方か ら位置 づ ける
考 え方である。 しか も、 まず第一 に児童 であ り、次 いで介護者 であるとい う考 え方である。め。児
童 は、 これ による と「介護 を選ぶ権利」 すなわち介護 しない権利 と介護 を主体的 に担 う権利の い
ずれかを選択す る ことがで きる。多数 の事例調査 と丹念 な分析 の中か ら 90年 代 中葉 に示 された考
え方である。 ちなみに最後 の考 えは、介護者全国協議会 の提 示す るところである。
―-38-―
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
筆者 は、第 3の 考 え方 に共鳴す る。第 1の それ は、児童 を在宅介護者 として固定化す る恐れを
もつ。児童 の人間 としての成長 をないが しろにしかねない。第 2の それは、親子 が その関係 の中
で介護 した りされた りする ことを好 ましく思 って い る とい う実際 の状況 を、無視 あるい は軽視す
るように思われる。 もとよ り介護 は、親子 の関係 の中で行 われて も双方の犠牲 の上 に成 り立 って
はな らない。両者 の 自発的 な選択 に委 ね られなければな らない。特 に在宅介護者 としての児童 は、
その年齢階層 か らして一人前の人 間 としての形成期 にある。形成期 を損 なう ことな く、 む しろ形
成 を育 くむ ものであ りた い。
介護 を担 う児童 は、 まず第 1に 児童 として次 いで在宅介護者 として理解す るな らば、 どの よう
な権利 を持 つで あろうか。 SOベ ッカーの提起 (70を 参考 にすれば、次のように要約 され よう。(1)
児童 である、 もし くは介護者 である、 あるい は介護 を担 う児童である ことを選択 し自己 を決定す
る権利、(2)被 介護者 とは別個 の存在 として承認 され所遇 され る権利、(3)話 しに耳 を傾 け信頼 して
もらう権利、(4)プ ライバ シー と尊重 の権利、(5)遊 びや レク リエ ーシ ョンに興 じ、余暇 を享受す る
権利、(6)教 育 を受 ける権利、(7)介 護 を担 う児童 に特有 の保健 お よび社会 サー ビス を享受す る権利、
(8)一 時休息 を含む実際的な援助 を受 ける権利、(9)肉 体的 お よび精神的 な損傷 か ら保護 され る権利
(被 介護者 を抱 える ことに由来す る損傷 か らの保護 の権利 な どを含 む)、 00介護 を担 う児童 とその
家族 に影響 をおよぼす政策上の決定 に当 って訪間 を受 け議論 に十分 に参加 する権利、0介 護 を担
う児童 とその家族 にかかわ る事項 の情報 と助言 を得 る権利 (公 的 な手当 とサ ー ビス、医療情報 な
どを含 む)、 0適 切 な専門的技術 と信頼 とに裏 づ けられて情報 や助 言 を発す る ことので きる個人 も
しくは機関 に近 づいて利用す る権利、l131介 護 を担 う児童 のニ ーズについて調 べ る権利、これ には、
民族的、文化的 お よび宗教的 なニ ーズ の完全 な認識 も含 まれ る、こり裁判 に訴 えた り不満 を述 べ た
りす る権利、CD担 って い る介護 を中断す る権利。
これ らの権利 は、イギ リスの国内法 に裏 づ けられ る。 それは、「児童の福祉 の保護 と促進」とを
「すべ ての 自治体 の義務 である」 とした うえで、「困窮す る児童 とその家族 へ のサー ビス00」 のあ
り方 について定 めてい る。 ここにい う「 困窮す る児童」 (children in need)と は、 3つ の こ とを
意味す る。第 1に 、 自治体 か らのなん らかの援助 なしには、健康 な生活 を維持 で きない
(た
とえ
ば食 べ た り運動 した りす るに十分 な食糧 に欠 ける)、 あるい は、人間 として成長 で きない (た とえ
ば新 しい経験 を積 んだ り、通学 した りす る上での支障 を抱 える)児 童 で ある。第 2に 、 自治体 の
援助 なしには、 その健康 と発達 とを損 うおそれのある児童 である。第 3に 、障害 をもつ児童 であ
る。89年 法 は、 さらに「困窮す る児童」にふ さわ しい と判断 され るサー ビスの提供 をすべ ての 自
治体 に求 めて い る。例 示 され るサ ー ビス は、 6項 目にお よぶ01ヽ まず、助言 と案内お よび相談 で
―-39-―
経済研究 2巻 1号
ある。次 に、社会的・ 文化的な活動 のためのサー ビスで ある。 また、洗濯 を含 むホームヘルプの
サ ー ビスで ある。 さらにこれ らのサー ビス を利用す るための交通手段 の確保 で ある。最後 に、児
童 とその家族 が休 日を享受す るための援助 で ある。
児童 に関する 89年 法 が介護 を担 う児童 に も適 用 され、権利保障 の拠 りどころになることは、社
会サ ー ビス監督官 の認 めるところで ある。監督官 は、介護 を担 う児童 を「 困窮する児童」 に属す
る とい う理 解 を 95年 に示 してい る。しか し、過半 を超 す自治体 は、弁護 士の L・ ク レメ ンツ (Luke
Clements,介 護者全国協議会 の法律顧間)に よると監督官 の見解 を知 らない よ うである。幼。他 の
過半 を少 し下 まわ る程 の 自治体 は、監督官 の見解 にそ う理解 を示 し、住民 むけのパ ンフレ ッ トに
もその 旨を明示 して啓発 に努 めて い る。3ゝ
国民健康保健 とコ ミュニ テ ィケアに関す る 1990年 法 も、介護 を担 う児童の権利保障 の拠 り所 で
ある。90年 法 は、被介護者 と在宅介護者 に関 す るそれぞれ独 自の調査 の実施 や関係す る部局間 の
協同の促進 につ いて強調 して い る。
さらに、広 く国際的 に見 ると、子供 の権利 に関す る国際連合 の条約 (89年 11月 採択、90年 9
月発効 )は 、介護 を担 う児童の権利保障の法的な拠 り所 である。条約 は、 つ ご う 54条 か らなる。
この うち介護 を担 う児童 にかかわ っては、性・ 民族・ 障害 な どを事 由 にす る差別 の禁止 (第 2条 )
をはじめ、 プライバ シー の権利 (第 16条 )、 情報 を入手す る権利 (第 17条 )、 両親 に対 するふ さ
わ しい援助 の提供 (第 18条 )、 児童 の高 い健康水準 に関す る権利 (第 24条 )、 身体的・ 精神的・
道徳 的 お よび社会的 な発達 に関す る権利 (第 27条 )、 教育 を受 けて能力 を開花 させ る権利 (第
28-29条 )、 休憩 し余暇 を享受す る権利
(第
30条 )な どの条項 が、権利保障 の上で重要 で ある。
もとより問題 のないわ けではない。法的 には、次 の問題 を抱 えて い る。児童 に関す る 89年 法 は、
公法 (public law)に 定 めるサ ー ビスの利用 を認 めたので あって、サー ビスの請求 を承認 して いな
い。このた め権利 を侵害 された として裁判 で争 うわ けにはいかない。い まひ とつの法的 な問題 は、
法律 の対象 にす る年齢 とかかわ る。す なわち、児童 に関す る 89年 法 は、18歳 以下 を対象 にす る。
他方、国民健康保健 とコ ミュニ ティケアに関す る 1990年 法 は、19歳 以上 を対象 にす る。前者 は介
護 を担 う児童 に適用 されて も、後者 は、同 じ在宅介護 を担 うとはい って も 18歳 以下の介護者 には
適用 されない恐れが ある。経済的 な問題 として危惧 され るのは、自治体 の厳 しい財政状況 で ある。
自治体 は、折 りか らの財政状況 の もとで児童 へ のサ ー ビス に消極的 な態度 をとるのではないか、
と考 えられ る。自治体 に勤務す る専門職者 は、次 のよ うな見通 しを述 べ てい る。
「介護 を担 う児童
につ いての調査 は、 …… お金 の制約 の中で優先課題 の最後尾 によ うや く位置 づ けられ ます00」 。
「児童保護 の仕事 は、 いつ も優先 されて きました。 …… しか し、介護 を担 う児童 の問題 は、 もっ
-40-
イギリスの在宅介護 を担う児童
とも緊急度 の低 い 中 で もさ らに低 い部類 に属 す る と見 られ て い ます 」。
介護 を担 う児童 へ の需要 は、今後、増加 こそすれ減少す る ことはないで あ ろう。高齢化 の進展
が あ り、単親家族 の増加 も確実 に予想 され るか らである。介護 を担 う児童 についての最初 の 自治
体調査 は、1988年 で ある。介護者全国協議会 が専任 の担当者 を置 いて本格的 に取 り組 み出 したの
は、さらに 2年 後 の 90年 か らである。これ らの経緯 は、この種 の問題 が いかに も新 しい問題 で あ
る ことを物語 る。介護 を担 う児童の問題 が 自治体 の行政 で しか るべ き位置 を占めるまでに至 って
い ない背景 で もある。 しか し、介護 を担 う児童 へ の需要 は増 えると予想 され るだけに、児童 の権
利保障 にむけた取 り組 みが求 め られ るところである。
3
ヽ
在宅介護 を担 う児童へ の援助
介護 の主な責任 は、同 じ屋根 の下 に手伝 う ことので きる他 の家族構成員 の居 る場合 で さえ、一
人の児童 にの しかか りがちで ある。 この児童 は、被介護者 となった肉親 に深 くかかわって来 た こ
とか らその福祉 に責任 を感 じた り、 また、被介護者 にはっ き りとした忠義心 を抱 いていた り、 あ
るい は、本人 の意思 にかかわ りな く他 の家族構成員 か ら「選抜」 された りして、主 な責任 を引 き
受 ける。最後 に述 べ た「選抜」 は、被介護者 の配偶者 によって概 してけしかけられ る。被介護者
の夫 は、同 じ屋根 あるい はす ぐ近 くに住 んで いて も手伝 お う とはしない。成人女性 は、同 じ家 に
住 む時介護 を拒 みはしない。介護 を担 う児童 の父 は、同 じ屋根 に住 んでなにが しかの介護責任 を
引 き受 ける こともある。 しか し、 ある種 の作業 は拒絶す る。 た とえば家族 のための食事 を調理す
る ことはあって も、
食事や入浴 あるい は用便 の介助 な どの身体 にかかわる主な介護責任 になると、
引 き受 けない。 これ は、児童 の責任 で ある。介護 を担 う少女 は、家族構成員、殊 に父親 か らの支
援 のない ことをとがめるわ けで はない。父が フル タイムの仕事 に就 いて い る、 として父 の態度 に
理解 さえも示 す。
介護 の主 な責任 は、前述 の ように一人 の児童 によって担われ る。 これは、 同 じ家根 の下 もしく
は近所 に住 む兄弟姉妹 の数 に左右 されない。介護 は、家族 に少女 がお り、被介護 者 が女性 である
とき、 きまって娘 の一人 によって担われ る。 これ は、女 の仕事 としての介護 とい う通念 をその ま
ま現わ してい る。介護 を担 う少女 は、介護 の技量 について一緒 に住 む兄 か ら手 きび し く批判 され
る こともある。介護 に参加 しない兄 か らの批判 で ある。兄の態度 は、女 の仕事 としての介護 とい
う通念 を もとに妹の責任 をな じった ものである。介護 を担 う少女 は、家族、殊 に兄弟姉妹 か らの
援助 のなさについて驚 くほ ど寛容 で ある。
「私 の弟 は、睡眠時間が長 いので手伝 えないのです。私
―-41-―
経済研究 2巻 1号
の兄 も、夜 に働 いて い ますか らだめなのです∞ 」(15歳 )。 しか し、援助 のなさは、時 に家族構成
員 の仲 たが い に火 をつ ける こともある。援助 のなさは、 この ような場合 に家族構成員の無 関心 や
背信 のあか しとして受 け止め られ る。
祖父母 による援助 の例 は、 ないわ けではない。近 くに住む祖父母 が、被介護者 と介護 を担 う児
童 に手 をさしのべ る とい って も例 に乏 しい。次 の発言 は、祖父母 な どによる援助 のない例 で ある。
「私たちは、祖父母 のす ぐ近 くに暮 らしてい ます。近 くには、母 の兄弟 の一人 も住んで い ます。
……祖父母 たちは、 こんなに近 くに住 んで い るわ けですか ら沢山 の こ とをやれ ると思 い ます。私
たちの家 に来 て母 に会 うことも、電話 をか ける こともで きます。 で も、 そうしないのです。母 の
方 か ら出か けて行かないか ぎ り、母 は誰 れにも会 えません。私 は、今 も祖父母 を腹立た し く思 い
ます。祖父母 の所 へ 出向 くことな ど、 もうしません00」 (年齢 は不明)。
友人 と隣人 による援助 は、被介護者 にだけ向け られ る。 しか も、重大 な事態 や苦境 に直面 した
時あるい は時 に偶然 に行われ る。 た とえば被介護者 が倒 れて、介護 を担 う児童 もどのように対処
して よいか途方 に くれ てい る時 に来 て くれ る。介護 を担 う児童 は、友人や隣人 に急 いで助 けを求
めなけれ ばな らない。友人 や隣人 が これ に応ず るのである。友人 や隣人 による援助 は、恒常的 で
はない。地域 の支援ネ ッ トワー ク と称 され るほ どあてにしうるもので もない。援助 とい って も、
介護 を担 う児童 が 出か けてい る間、被介護者 を見守 った リー緒 に居 た りす る類 のそれで ある。 こ
れ以上 の介護責任 を負 う友人や隣人 は、残念 なが ら居 ない。
地域 にお ける援助 の乏 しさは、 どのように説明 で きるであろうか。住民 の居住期間 の短か さや
コ ミュニ テ ィー の分断化 な どによって説明 で きる。 しか し、次 の こ とも確 かで ある。地域 の人 々
は、拘束 の期間や程度 さえ定 かでない ことか ら、援助 を要す る家族 とのかかわ りに消極的 な態度
を示す。 しか も、疾病 や障害 をどの よ うに扱 えばよいのか、 これ とい った技量 もない ことか ら不
安 が先 に立つので ある。
イギ リスには、在宅介護者 のグループが数多 くあ り、 自主的 な援助 を行 って い る。介護 を担 う
児童 の支援 グループ もある。 これか らの援助 の より所 のひ とつ として期待 され る。 しか し、 この
グループ は、介護 を担 う児童 か ら好意的 に受 け止 め られてい ない面 もある。児童 の多 くは、介護
の役割 についてかつて話 した こ ともな く、他 の人々の面前 で体験 を語 る ことに消極的 で ある。あ
る児童 は、グループ による援助 が用意 された場合 でさえ、 グループの会合 に出 るつ もりはない と
して次 の ように述 べ る。
「私 ですか、だめです。私、15人 もの人 とひ とつ部屋 に腰 か けて誰れかれ
とぺ ちゃ くちゃ話 した くはあ りません。 そんな こと全然や りた くあ りません。つ」(16歳 )。 児童 の
消極的 な姿勢 は、介護 の状態 が注 目の的になる ことへ の不安や 自分の生活 に第 二者 を結果 として
―-42-―
イギリスの在宅介護を担う児童
招 き入れ ることになるので はないか とい う恐れ に由来す る。 自分 と家族 の 自尊心 を傷 つ けられ た
くない こ とも、児童 の姿勢 を消極的 にす る。
教 区牧師 や宗教指導者 による援助 は、 自主的 な援助 のひ とつで ある。イギ リスで古 くか ら根 を
下 した活動 で ある。 その援助 は、 こ と介護 に関す るかぎ り被介護者 むけに設計 されて い る。介護
を担 う児童 の援助 をね らった ものではない。
「選
介護 を担 う児童 へ の援助 の乏 しさ、あ るい は、今少 し正確 にい えば児童 を在宅介護者 として
抜」 した うえでの援助 の乏 しさは、被介護者 を含 む親 たちの発言 か らも裏 づ けられる。
父親 の多 くは、特定 の児童 を介護者 として「選抜」す る。 これには、 い くつかの方法 が ある。
彼 の配偶者 が診断 を受 ける時 における父親 の突然 の不在、住宅 での介護 のはっきりとした拒否 な
どで ある。児童 は、 こうした下で袋小路 に追 い込 まれ介護 を担わ ざるをえない。他 にも、実 に巧
「お まえが母親 の世話
妙な方法 が父親 によって とられ る。父親 は、娘 にむかって次 の ようにい う。
をす るな らば、私 がお まえの面倒 をみ る」。あ るい は、入浴 や用便 な どの介助 は、娘 だけにしかで
きない と言 い くるめて、 自分 の配偶者 で あ り娘 の母 で もある被介護者 の世話 を娘 に委 ね るのであ
る。 ここに紹介 した 4つ の方法 の うちあ との 2つ には、
「女性 の仕事 としての介護」とい う通念 が
色濃 く込 め られて い る。
被介護者 を含 む親 たちの多 くは、
介護 のために隣人 や友人 を家 に引 き込む ことに消極的 で ある。
隣人 や友人 が訪 れた として も、雑談 をす る程度 で ある。介護 の作業 を実際 に担 うわけではない。
「子供 は、他 の誰れ よ りも介護 をう
頼 りにされ るのは結局 の ところ児童 で ある。被介護者 はい う。
ま くこな します。隣人 と友人 は、時 々尋 ねて来 ます。 で も介護 をす るわ けではあ りません。私 が
元気 か どうか、様子 を見 に くるのです●0」 。「私 の娘 に代 って別 の介護者 を必要 にす る時、お願 い
す るのは、友人 ではあ りません。 プ ロの介護者 です。 もし友人 に介護 をお願 い しようものな ら、
親交 をだ い な しにして しまうで し ょう。友人や隣人 に頼 むのは、便利 の よ うでそ うではあ りませ
ん」 (年齢 はいずれ も不 明)。
介護 は、 こうして児童 によって担われ る。家族 を とりまく地域 の人 々 によって解決 され るわ け
ではない。
介護 を担 う児童 の い る家族 の 5軒 に 4軒 は、専門家 によるサ ー ビス を受 ける。受 けない家族 は、
5軒 に 1軒 で ある。37都 市調査 の結果 で ある。9。 これ らのサー ビスは、具体的 には被介護者 むけ
のサー ビスである。介護 を担 う児童 の状況 や ニーズ に焦点 をあてた ものではない。児童 に的 をあ
てたサー ビス は、 ご くわずかである。児童 は、専門的なサ ー ビス を大 い に歓迎 してい る。例 えば
次 のよ うにで ある。
私 たち姉妹 が介護 を一手 に引 き受 けなければな らない とは思 い ません。
「 私 は、
―-43-―
経済研究 2巻 1号
……社会 サー ビスが ある程度提供 されて、援助 して くれないのか と思 い ます00。 …」(14歳 )。 児
童 に焦点 をあわせ たサー ビス は、児童 の期待 に反 して殆 ど提供 されない。以下 では、個 々のサー
ビスや担 い手 としての専門職者 に即 して検討 してみたい。
ソーシ ャル ワーカー と介護 を担 う児童 との関係 は、殆 どの場合 に満足 のい くものではない。前
者 の対応 は、後者 か らす る と無関心や回避 あるい は拒絶 として映 る。
「私 の父の所 に来 るソーシ ャ
ル ワーカーについて話 します。彼女 は、私 の弟 が父の介護 につ いて どの ように感 じて い るのか、
また、私 たちが どのよ うな介護 を行 って い るのか について少 しも尋ね て くれ ません01」 (年 齢 は不
『週 に一度 は、物理療法家 か誰 れかをよ こし
明)。 「 ソーシ ャル ワーカーは、私 たちに言 い ました。
まし ょう』。彼女 のや って くれ る ことは、なんてすば らしい と思 い ました。で も、結局来 て くれた
のは、週 に一度買物 に同行す る人 だ けです。私 たちは、 その後、 自分 たちの財布 をはた いて清掃
婦 を雇 い ました。私一人 では、 とて もこなせ ないか らです。幼」(年齢 は不明)。 「学校 のソーシ ャル
ワーカーは私 の所 に来 て言 い ました。
『あなたは、い じめ られてい ない。この学校 の中で起 きたわ
けで はないのですか ら』。それか ら、彼女 は、私 たちの住 んで い る所 にや って来 て次 の よ うに言 い
ました。『 ごめんなさいね。 そんなに良 くない状態 だ とは思われ ません』。彼女 は、 それか ら弁解
するようにな り、先生 の所 に何度 も行 って話 した と言 い始 めました。 ……私 たちは、 ソーシャル
ワーカー と何 か一緒 にやった ことはあ りません。 ……私 は、 ソーシャル ワーカーの態度 が気 に入
りません。私 と私 の弟 に非常 に意地悪 い態度 で臨 んで来 ます00」 (17歳 )。
介護 を担 う児童 は、ソーシ ャル ワーカー をなぜ この ように見 るのであろ うか。世間 は、ソーシャ
ル ワーカーに対 して近 年厳 しい評価 を下 して い る。 それ は、 マ スメディアを通 してある程度作 ら
れ強 め られてい る。介護 を担 う児童 が この評価 に影響 され ることは、おおいにあ りうる。しか し、
ソーシ ャル ワーカーヘ の嫌悪感 がはっき りとした根拠 をもたない とは、いいがたい。H・ メ ンディ
ス (Meredith)は 、嫌悪感 も生 まれ るべ くして うまれた として次 のように指摘す る。「 ソーシ ャル
ワーカーの対応 といった ら、児童 を介護 に引 き込 まず におかない。人 々 は、 このよ うに恐 れてい
る。介護 の処 方 は、残念 な こ とにあま りに も拙速 に行われ ます00」 。
ホームヘ ルプ
(HH)は 、今 日では コ ミュニ テ ィケア助手 (CCAs)と
して知 られ る。 この助手
は、被介護者 の入浴 の介助 か ら部 屋の整理整頓 までさまざまな作業 を手 が ける。成人 の在宅介護
者 の居 る家族 は、助手 による専門的 な援助 を少 な くとも一度 は受 けてい る。利用 の機会 も増 えて
い る。しか し、介護 を担 う児童の家族 となると、援助 ははっきりと少 ない。児童 は、コ ミュニ テ ィ
ケア助手 と殆 どあるい は全 く接触 のない ことか ら、助手 をかすかな存在 として受 け止 めてい る。
他方、助手 か らの援助 を受 けた ことの ある児童 は、 その印象 について次 の ように述 べ て い る。 コ
―-44-―
イギリスの在宅介護を担う児童
ミュニ テ ィケア助 手 は、児童 が 介護 を引 き受 け るにふ さわ しい年齢 で あ る と判 断 され るや 、援助
か ら手 を引 く。
「私 の母 は、お尻 に発疹 を抱 えて い ます。痛 む よ うです。薬 を塗 って 、お尻 にや わ
らか い もの を当てて い ます 。 そ して 、母 は、 シ ャ ワー の介助 を して くれ な い ものか ど うか助 手 に
尋ね ます。す ると、助手 は『あなたには介助 ので きる二人 の娘 が居 るで はあ りませんか。 やって
くれ るように指示 しないのですか』と言 い ます。 また、 こうも言 い ます。『私 たち助手 は、私 たち
の援助 を必要 にす る人々の所 だ け出向 くのです』」 (15歳 )。
当局 は、 こうしたや り方 をとって い ない としてはっき りと否定す る。 い うところの「 ふ さわ し
い年齢」 は、事例 によって一律 ではない。一定 の年齢階層 と言 うべ き間 の ある年齢である。 しか
し、コ ミュニ テ ィケア助手 は、個 々の事例 を詳 しく検討す ると児童 が 12-16歳 に至 った時点 で被
介護者 へ の援助 か ら手 を引 いて い る。 また、 そ うしたや り方は、確か に当局 の公式の立場 ではな
い けれ ども、助手 の担 当区域 が著 し く広 いこ とか ら現場 の判断 として実際 に行われ て も、少 しも
不 自然 ではない。
一般開業医 は、在宅介護者 の立場 とニ ーズ とをもっ ともよ く理解 で きる地位 にある。 それ は、
医師 として もっ とも多 くの人々に接す るか らである。 これは、在宅介護者 について多 くの成果 を
世 に問 うてい る J・ ツ ゥイグ (Julia Twigg)の 指摘 で ある。 J・ ツ ゥイグは、あわせ て次 の よ う
に言 う こ とを忘れ てい ない。在宅介護者 は、 そのニーズに注意 を向けさせ るようにはっき りと自
己主張 をしなければな らない。り。
しか し、一般開業医 は、介護 を担 う児童 のニ ーズ を認識 してい るとは思われない。 そ もそ も認
識 しようとす る姿勢 を持 つ とも考 え られない。 また、児童 は、 そのニ ーズを受 け止 めて もらお う
と一般開業医 に心 を開 いてい るわ けで も、開 こうとしてい るわ けで もない。 これ には、 それな り
のわ けがある。 まず、一般開業医の多忙 さで ある。一般開業医 は、介護 を担 う児童 と話すだ けの
時間 の余裕 をもたない。
「私 は、医師 とほんの 10分 程会 い ました。10分 では、私 の話 した い こと
は到底話 せ ませ ん。…… どの医師 も同 じなのです。0」 (22歳 、 5歳 か ら 17年 の介護 )。 介護 を担 う
児童 は、 これでは話す意欲 をなえさせて しまう。 さらに、一般開業医 は、主張 よりも症状 に関心
をあて よ うとす る。「私 は、医師 の所 へ 出 むいて『私 は疲れ てい ます』と話 しました。 さらに、話
し続 けようとしました。で も、医師 は、私 を信 じて くれないのです。……医師 は、とて もい らだっ
てい ます。 … … そんなわ けで私 は、話す機会 を失 って しまい ました。つ」 (年齢 は不明)。 介護 を担
う児童 は、一般開業医 を援助 者 として見 なそ う とはしない。
教師 は、介護 を担 う児童 の存在 さえも知 らない こ とが多 い。存在 を知 った時 には、 なにが しか
の援助 を差 しのべ て くれ る教師 もある。
「私 は、 4年 後 に先生 に話す のを止 めました。先生 の一人
-45-
経済研究 2巻 1号
は、私 の置 かれた状況 を知 って少 し理解 を示 して くれ ます。め」(15歳 )。「私 の学級 の先生 は知 って
い ます。学年 のはじめに……先生 は、次 の よ うに言 つて くれ ました。
『私 にもしもこまった こ とが
で きた ら、先生 の部屋 に来 なさい』と」 (14歳 )。 「私 の先生 は、わ かって くれてい ます。他 の先生
か らも情報 を集 めて、私 の母 を訪 ねて くれ ました。"」 (14歳 )。 しか し、 これ らが全てではない。
介護 を担 う児童の存在 を知 って も、これ とい った援助 は もとより関心 さえも払 わない教師 もい る。
「私 は、二 年間教わ った前 の教師 に話 しました。私 は、家 での状況 について繰 り返 し彼女 に話 し
ました。家 では介護 にあた り、学校 ではAレ ベ ル の学習 に取 り組 んで い る ことについて話 しまし
『あなた は、私 が これ まで出会 った 中で
た。……す ると彼女 は、そ こに腰 か けて私 に言 い ました。
最 も勇敢 で、 もっ とも愛すべ き人である』と。私 は、 これ を聞 いて思 い ました。『なんて馬鹿 げた
ことを。先生 は何 を聞 いてたの。私 は、私 の父が死 に瀕 して い る ことを先生 に話 していたのに。
私 が父 を愛 し父の介護 に当 って い る ことを、先 生 はどんな風 に感 じたので しょう
(1°
0」
(20歳 、 9
歳 か ら介護 に当 る)。 この少女 は、 Aレ ベ ル の課程 を修了す る ことなしに学校 をあ とにして い る。
学校 は、児童 と教師 とが 日々接触 す る場所 で ある。 しか し、介護 を担 う児童 は、教師 の視野 に
入 らない こ とが多 い。教師 はその存在 を知 り得 て も、すでに見た ように一様 に好意的な対応 をとっ
て手 を差 しのべ るわけで はない。
専門職者 によるサー ビス は、介護 を担 う児童 の声 を手掛 りにす る と、次 の ように特徴 づ ける こ
とがで きる。第 1に 、サー ビス は被介護者 に焦点 をあてて い る こと、第 2に 、介護 を巡 る対話 は、
サー ビスの担 い手 と児童 とで いか にも乏 しい こと、第 3に 、サー ビス は、児童 が 12-16歳 に達す
ると介護 を担 うにふ さわ しい と判断 されて提供 されな くなる こと、 これ らである。
3つ の特徴 は、前 に述 べ た ように介護 を担 う児童 の声 を拠所 にす る。特徴 は、被介護者 である
親 たちの声 か らも読 み取 れ るであろうか。
被介護者 は、専門的 なサ ー ビス について次 の ように感 じとって い る。す なわち、介護 を担 う児
童 は、介護 の責任 や児童 自身 のニ ーズ についての対話 に参加 して い ない し、介護 につ いての情報
「医師は、子供 に話 しか けませ
や まして助 言 を受 ける こともない。被介護者 は、次 のように言 う。
ん。私 の娘 に話 しか ける こともあ りません
(1°
1」
(年齢 は不 明)。「医師 は、介護 について少女 にけっ
して話 しか けません。看護婦 は、 た まに出向 いて来 ます。彼女 と保健訪問員 は、私 の娘 による介
護 について良 く知 って い ます。で も、彼女 たちは、娘 による介護 について何 も言 い ません」 (年齢
は不明)。
被介護者 の幾人 か は、児童 が介護 を担 うに充分 な年齢 に至 った ことを理由に コ ミュニ テ ィー ケ
ア助手 の引 き上 げに直面す ると、驚 きや怒 りをあ らわにす る。 しか し、被介護者 の多 くは、その
―-46-―
イギリスの在宅介護を担う児童
決定 を受 け入れ る。決定 に疑間 をさしはさむ ことはない。社会 サ ー ビス部 か ら別 の援助 を求 める
こともしない。「私たちよ りも困 ってい る人 は多 い」 として、理解 を示す ことさえある。
介護 を担 う児童 へ の援助 は、 サ ー ビスの供給主体 の いかんにかかわ りな く一様 に乏 しいので あ
る。
少数民族 に属す る児童 へ の援助 となる と、問題 は、 さらに厳 しい。 これ らの児童 のニ ーズ にふ
さわ しいサー ビス は、数 えるほどで ある。サー ビス は、手 に入れ る ことが で きて も民族 のちがい
に鈍感である。 サ ー ビス を担 う専門職者 は、少数民族 の家族 に直接話 せ る ことも特有 なニ ーズ に
あうようにサ ー ビス を仕立 てることもな い。援助 につ いての情報 は、英語 を第 一 言語 にしない人 々
にとって近付 きがた い。 これは、各種 の手 当や社会 サ ー ビス に疎 い人 々 をつ くり出す。専門職者
は、介護 を担 う少数民族 の児童 のニ ーズ を殆 ど知 らない。しかるべ き措置 が とられて も、それは、
学校 へ の遅刻や欠席 な どの素行 にかかわ る問題 を扱 うだけで、裏 に潜 む原因 にまで逆 のぼるわ け
ではない。専門職者の一部 は、折 りか らの厳 しい財政事情 の もとで児童 のニ ーズに合 う措 置 に消
極的 で ある。
V
介護 を担 う児童 のための計画
1
計画 の全体的 な動向
介護 を担 う児童計画
(YCP)は 、 マー ジーサイ ド州 (Merseyside)の 3つ の都市、 すなわちセ
フ トン市 (Sefton)と セ ン トヘ レン市 (St Helens)お よびノーズ リー市 (Knowsley)で 最初 に
着手 されてい る。前 の 2つ の都市 は 1992年 、後 の 1都 市 は翌 93年 の開始 で ある。 その 目的 は、
介護 を担 う児童 に助言 と支援 とを用意す るとともに、あわせて児童 に対す る世間の認識 を高 めて
人 々の態度の変更 を促 そ うとするもので ある。 この計画 は、多様 なサー ビス を 目的 にそって提供
してい る。第 1に 、介護 を担 う児童 と話 し耳 を傾 ける人々 を用意す る こと、第 2に 、児童 の関心
を代弁す る人々 を揃 える こ と、第 3に 、情報 と実際的な援助 に道 を開 くこ と、第 4に 、児童 が友
人 をつ くれ るように環境 を整 えること、最後 に、児童 がお互 い に援助 した リー緒 に活動 した りす
る機会 をつ くり広 げる こ と、 これ らである。財源 は、国民健康保健 ノース ウエ ス ト管理部 (前 身
はマー ジー地方保健管理部
(MRHA)か ら当初 の 2年 間 について確保 されてい る。 その後、国民
健康保健 ノースウエ ス ト管理部 は、 もっ とも早 く発足 した 3つ を含 むつ ごう 7つ の計画 に資金 を
提供 して い る。
―-47-―
経済研 究 2巻 1号
介護 を担 う児童のための計画 は、 こうした経緯 をへ て着実 な
広 が りを見 せている。表 8に 示 され る通 りである。計画の発足
は、93年
表8 尭青劣 場
事書 臭遅睾胃
(92年 1月 ∼ 95年 7月 )
1-7月 期 に 2つ で あった ものが、続 く94年 1-7月
期 には 6つ 、さらに翌 95年 同期 には 9つ 、と年 を追 って速度 を
発足 数
1992`■
1月
3月
はやめてい る。計画 は、介護者全国協議会 による とその後 も広
93年 2月
が りをみせ、全国でお よそ 60を 数 える(10a(96年 7月 )。 これに
7月
は、計画 に対す る保健省 の積極的 な評価 の表明 0(95年 4月
(1°
94盗
l}2
l}2
Fl月
)
2月
も影響 して い るように思われ る。
3月
7月
8月
計画 は、地域別 に見 る とノースウエ ス ト地方の都市で もっ と
も多 く立案 され発足 して い る。 これ は、特 に驚 く程 の結果 では
9月
12月
ない。 ノースウエ ス ト地方 は、最初 の 3つ の計画 が発足 をみた
95生
地域 である。 また、国民健康保健 ノースウエ ス ト管理部 の積極
「
1月
2月
3月
6月
的 な貢献 をあてにで きる地域で もある。
60に 近 い数 の計画 は、それぞれ別 々に発足 し、特有 の 目的 を
7月
掲 げて い る。 しか し、 それ らの 目的 の多 くは似 て い る。 もっ と
も共通す る 目的 は、介護 を担 う児童の問題 についての啓発 と児
童 のニーズにあ うサ ー ビスの提供 である。 この うち前者の啓発
は、専門職者 とサ ー ビスの担 い手 の意識 を高 めるための活動 を
含 む。計画 の存在 それ 自体 を知 らせ る活動 も含 まれ る。啓発 は、
計画 の発足当初 に特 に重要 である。計画 を担当す る職員 は、地
[資 料 ]Chris
Dearden and
Saul Becker, The
National directory of
young carers projects
and initiatives,
Young Carers
Research Group,
Loughborough Unl‐
versity in association
域 のブループや 団体 を訪 れて介護 を担 う児童 についての情報 を
流 した りす る。後者 のサー ビス は、多岐 に亘 る。第 1に 、 ご く
with CNA, 1995,
pp.17-53よ り作 成 。
ち 1つ は 95年 秋
[注 ](1)う
に 発 足 して い る。
基本的 な情報 の提供 である。介護 を担 う児童 は、 これ を手がか
りに実際 の援助 について知 る ことがで きる。第 2に 、助言 や相
談 あるい は対話 の機会 の保障 で ある。 これは、資格 を持 ち経験 も豊富 な専門職者 によって行われ
た り、あるい は、介護 を担 う児童 の話 し相手 になる人 を用 いた りす るな ど、一様 ではない。第 3
に、年齢 にあった余暇活動 で ある。 これ は、児童 に楽 しく愉快 な時間 を提供す る ことで ある。介
護 を担 う児童 は、 自分 自身 の時間 をつ くり出 しづ らい。計画 は、 ここに注 目 して余暇活動 を用意
するので ある。児童 に とっては、限 られた時間であるにしろか けがえのない休憩 の機会 である。
「介護 を担 う他
計画 は、殆 どの児童 か ら積極的 な評価 を受 けて い る。その声 を紹介 してお こう。
-48-
イギリスの在宅介護を担う児童
の児童 と出会 えて、 とて も嬉 し く思 い ます。一人 で居 る時 には とて も知 り得 なかった ことで、私
に とって大切 な こ とです
(1°
0」
(13歳 )。 「計画 の担当者 は言 い ます。『あなたは、 ここに来 て抱 えて
い る問題 を話す ことがで きるよ』。担当者 は、椅子 に腰 かけて耳 を傾 けて くれ ます り」(15歳 )。
(1°
「話 し相手 になって くれ る人が居 ます。 いつで もやって来 て腰 をお ろし、担当者 に話 しか ける こ
とがで きます」(12歳 )。 「 あなたが ここにや って来 て、誰 れか他 に居 るとした ら、あなた は、決 し
て一 人 で はない と実感す るで し ょう。 あなた は、『私 は一人 ぼっち、他 に誰れ も居 ない』といつ も
考 えて いたで しょう」(20歳 、9歳 か ら介護 )。「スポーツの催 し物 に出か けて参加 してみなさい よ。
私 は、 自分 の母 を自分 で看 るとい う考 えに賛成 です。 で も、あなた にはあなたの為 の時間が必要
です。計画 はその時間 を私 たちに用意 して くれて い ます」(12歳 )。「 もし誰れかが、介護 を担 う児
童 のグループヘ の出席 の機会 を私 に 4-5年 前 に与 えて くれたな らば、私 は喜 こんで その機会 を
利用 して参加 したで しょう。 もし誰 れかが、私 の ことをもっ と早 く介護 を担 う児童 で ある と確 か
めて くれて いた ら、私 の生活 ももっ とちがって いた ことで しょう。 ……計画 は、介護 を担 う児童
の生活 を多面 に亘 って支 えて くれ ます。介護 を担 う児童 で ある と確 かめ られ ると、児童 は、援助
を受 けます。 しか し、 もっ と重要 な ことは、同 じ境遇 の人達 と出会 える ことです」(18歳 )。「在宅
介護 を担 う私 たち児童 のクラブは、 とて も愉快 な所 です。私 は、家 の ことを忘れて しば らく楽 し
む こ とがで きます ……」(年 齢 は不明)。「私 は、在宅介護者 を担 う若者 のクラブに来 て い る と私 の
母 の ことを忘れて しまうほ どです」 (年齢 は不明)。
計画 は期待 はずれであるとい う声 も、 ご く一部 に見 うけ られ る。 ある児童 は、教育上 の援助 を
受 けた い と考 えて計画 に参加 したに もかかわ らず、計画 の初期 の段階 にあった為 にこれ とい った
援助 を受 けられなか った、 とい った例 である。計画 は、児童 のニ ーズ を適確 につかんで敏速 に対
応 しなけれ ばな らない ことを、失敗 か ら学 び取 れ よう。 また、計画 の資金 をどのように確保す る
のか も、大 きな問題 で ある。資金 は、 自治体 の社会 サ ー ビス部 や保健機関 の他 に、 ボランテ ィア
団体、教会、会社 や個人 な ど多岐 にわたって調達 され る。社会 サ ー ビスや保健機関 な どの公 的 な
資金 のみによる計画 は、表 9に 示す ようにお よそ 60%で ある。他 の 40%余 りは、ボランテ ィア団
体 な どの資金 をあてにす る。 さらに、資金 は、未来永劫 に亘 って確保 されて い るわ けではない。
90%近 くの計画 は、95年 7月 か らせいぜい 98年 6月 までの資金 を確保す るにす ぎない。その内訳
は、表 10に 見 る通 りである。その後 にお ける資金確保 の見通 しは、
「あてがある」22計 画 59.5%、
0。
確 たる見通 しは、
「不確 かで ある」14計 画 37.8%、 「不明」1計 画 2.7%と い った状況 にある。°
お よそ 60%の 計画 で立 て られて い るにす ぎない。他 の 40%近 くの計画で は、資金 の安定的 な確保
を焦眉 の課題 にせ ざるを得 ない。
―-49-―
経済研究 2巻 1号
表
9
在 宅介護 を担 う児童 の ための計画 の 資金源
表 10 在 宅介護 を担 う児童の ための計画 の
資金確保期 間
計画 の数
(比 率
資金源
:%)
1.社 会 サ ー ビス機 関
`
資金 の
確保期 間
計 画 の数
(比 率
1995年 7月 まで
12月 まで
2.保 健 機 関
3.旗
22(59.5)
8月 まで
9月 まで
ア団
体(教 会を
含
ぶ
Fィ
12月 まで
97年 1月 まで
社 会 サ ー ビス 機 関 とボ ラ
含
ぶFlI界 彗経證念を
2月 まで
3月 まで
13(35.1)
すワ募
襟
禽落Iド 桑
季9
団体 (教 会 を含 む
4月 まで
7.保 健 機 関 とボ ラ ンテ ィア
9月 まで
)
会社組織
10. 計
[資 料 ]表
17(45.9)
8月 まで
団体 (教 会 を含 む )
9。
9(24.3)
10月 まで
4.社 会 サ ー ビス機 関 とボ ラ
を含 む )
l}枷
96年 3月 まで
ス
サービ
機関と
保健
禽
8.ボ ラ ン テ ィア 団体
:%)
98年 3月 まで
(教 会
和
‖
37 (100.0)
4月 まで
6月 まで
2000年 3月 まで
1
(2.7)
2002年 4月 まで
1
(2.7)
2
(5.4)
1
(2.7)
無
期
限
8に 同 じ、 pp.17-53よ り作 成 。
翻注
37(100.0)
表
8に 同 じ、 pp.17-53よ り作 成 。
(1)資 金 の 確 保 期 間 は調 査 (95年
春 )の 時 点 に 示 され た もの で あ
る。
計画 を担 う職員 の週 給 は、資金 の源泉や調達 の不安定 さとも相 まって概 して低 い。一例 をあげ
よ う。 グ ロス ター シ ャー州 の計画 を担 う職員の週給 は、210ポ ン ド(10。 (93年 4月
-94年 3月 )で
ある。 これ は、州 の肉体労働者 (男 性 )の 平均週給 250.4ポ ン ド(100(93年 4月 )の 83.9%に 当 る
-50-
イギリスの在宅介護を担う児童
額 である。220ポ ン ド以下 の週給 を受 け取 る肉体労働者 は、州全体 で 42.3%で ある。計画 を担 う
職員 は、 この もっとも低 い賃金 の階層 に属す る計算 で ある。
以下 で は、介護 を担 う児童 のための計画 について立ち入 って検討 す るために、 マー ジーサイ ド
州 とノ ッチ ンガム市 の計画 を取 り上 げてみた い。
2
マージーサイ ド州 の計画
マー ジーサ イ ド州 の 3都 市 による計画 は、 よ り詳 し く述 べ る と 4つ の 目的 を もって発足 して い
る。第 1に 、介護 を担 う児童のニ ーズに対す る関心 を、家族、保健 や社会 サ ー ビスの関係者、教
育機 関、 自主的 な団体、地域 お よび児童 の友人 と共 に高 める こと、第 2に 、介護 を担 う児童 へ の
態度 を改 めること、第 3に 、児童 が介護 の作業 をゆった りとした態度 で行 えるようにす る こと、
最後 に、 ご くあた りまえの社会生活 と教育 へ の参加 お よび情緒 の安 定 を児童 に保証す る こと、 こ
れ らである。計画 は、 これ らの 目的 を達成す るために介護 を担 う児童 の発見 に始 まって、 ニー ズ
の調査、介護 サー ビス給付 の点検 とニ ーズ の再調 査 を順 に手 が けてい る。
介護 を担 う児童 は、家族 や専門職者 それに 自主的 な団体 な どによる関心 の高 ま りに支 えられて
発見 され る。意識 の啓発 には、 ポスターや リー フン ッ ト、討論会、新聞やラジオ、 テ レビ、授業
や訓練 の機会 な どが利用 されてい る。介護 を担 う児童 は、地域 における関心 の高 まりに支 えられ
て 281人 (92年 3月
-94年 9月 )発見 され確認 されて い る。°
"。
計画 は、児童 のニ ーズ調査 とサ ー
ビスの立 案 をへ てサー ビスの給付 へ と進 む。実際 に給付 されたサー ビス は、個別的 で実際的 な 日
常生活 の援助、相談、定期的 な ピクニ ック、友人 づ くりの計画、週 に一度 の訪 間、ニ ュー ズ ンター
(a Young Carers Newsletter)の 発行
族 のための 日常生活援助
(セ
(セ
フ トン市 )、 公的手当の案内や助言、相談、児童 と家
ン トヘ レン市 )で ある。 ノーズ リ市 によるサー ビス も、他市のそれ
に似 た 内容 である。計画 を裏 づ ける資金の確保 には、 3都 市 の担 当者 ともに頭 を悩 ませてい る。
97年 1月 までの資金 は、セフ トン とセ ン トヘ レンの両市 に関す るか ぎり確保 され る予定 である。
しか し、ノー ズ リ市 で は、95年 11月 までの資金 を確保 してい るだけである。その先 の 目途 は立 っ
ていない (94年 8月 現在 )。 また、 3市 とも自治体 の厳 しい財政事情 を反映 して、 1年 きざみの計
画 の積 み上 げである。複数年 に亘 る計画 の立案 をむつか しくして い る。 さらに、新 しい職員 を雇
入れ て計画 を拡充す る ことも、折 りか らの 自治体財政 の厳 しさの もとで不可能 で ある(110。
3都 市 で介護 を担 う殆 どの児童 は、計画 の発足す る以 前 に援助 はおろか介護 につ いて話す機会
さえ提供 されて こなかった。計画 による主なサ ー ビス は、一対 一の相談 をはじめ年齢 にあった余
ニー51-―
経済研究 2巻 1号
暇活動、手 当 についての助言、 日常生活 へ の援助 あるい は情報 の伝達な どの形 をとって、介護 を
担 う児童 とその家族 に対 して給付 されてい る。児童 とその家族 は、 この種 のサー ビス をかつ て一
度 も体験 して こなかった こ とか ら、 しば ら くの間 とまどい も見 せてい る。 しか し、 その後 は、 お
おむね好意的な評価 に変 ってい る。児童 と家族 の声 を紹介 してお こう。
「計画 は、とて もすば らし
い こ とだ と思 い ます。娘 の よ うに介護 を手 が ける若 年者 は、正 直 に申 します とこれ まで忘れ られ
た世代 で、なんの援助 も受 けて来 ませんで した(111」 (被 介護 者、年齢 は不明)。「旅行 な どの休 日の
催 しは、 とて も良 い と思 い ます。休 日に出か ける こ となんて これ までにあ りませんで したか ら。
ええ、一度 もなかったのです」(14歳 )。「計画 は、いい ものだ と思 い ます。誰れか と話 した い と思 っ
た時、 とて も頼 りにな ります」 (年 齢 は不明)。「 一 時休憩 が、息子 のアン ドリュー に与 えられ るな
んて良 い ことだ と思 い ます。いつ も弟 のマー クの世話 をしてい なければな りませんで した。で も、
ア ン ドリューは、計画 によって 日課 である世話 か ら解放 され ます」 (母 親、年齢 は不明)。
介護 を担 う児童 の援助計画は、保健や社会 サ ー ビスを担 う専 門職者 にもか な りの影響 をおよぼ
してい る。 これ らの人 々 は、計画 の発足す る以前 には介護 を担 う児童の こ とを問題 として認識 し
てい なかった。 これ らの人 々 は、計画 の具体化 とともに、児童 の抱 える問題 の大 きさ と児童 の規
模 について多 くの こ とを学 び取 っている。計画 によって関心 を呼 びお こされた とい えよう。 しか
し、すべ ての専門職者 の関心 を高 めたか とい えば、残念 なが らそうではない。一般開業医 に対す
る啓発 は、介護 を担 う児童 の問題 に関す るか ぎ りうまく進 んでいない。学校 の関係者 による認識
も乏 しい。児童 が介護 を担 ってい る ことさえ も知 らない場合 が ある。 まして、児童の直面する間
題や ニーズ について も理 解 のお よぶ ところではない。
マー ジーサ イ ド州 の 3都 市 による計画 は、以上 を要約す ると評価 に値す る側面 とあわせて今後
に克服 す るべ き課題 を抱 えてい る。すなわち、計画 は、介護 を担 う児童 についての関心 を広 げ児
童のニ ーズ に応 えた ことで ある。同時 に、計画 は、児童のニ ーズが完全 に承認 されてサー ビスが
社会 サニ ビス部 の主要な施策のひ とつ として位置 づ けられ るまで、期間 の短 い施策の積 み重ね と
して繰 り返 され、投入 され る資金 もおのず と限 られ ることになろ う。
3
ノ ッチ ンガム市 の計画
この計画 は、94年 8月 にクロス ロー ド (CrossrOads)に よって立案 され実施 に移 された もので
ある。ク ロス ロー ドは、在宅介護者 に一 時休憩 を提供するイギ リスの主要な自主 的団体 (11幼 のひ と
つ としてその名 を良 く知 られ る。
-52-
イギリスの在宅介護 を担う児童
計 画 の主 な 目的 は、介護 を担 う児童 へ のサ ー ビス の提 供 、地域 にお ける関心 の高揚 、他 の地域
グ ルー プな ど との連 携 を要 す る こ とにな るで あ ろ う地域 的 な ニ ー ズの確認 、これ らの 3つ で あ る。
これ らの主 な 目的 は、 それ ぞれ に小 目的 とで も称 す るべ き こ とか ら構 成 され る。主 な 目的 と小 日
的 とを ご く要約 的 に示 してお くな らば、表 11の 通 りで あ る。
表 11 ノ ッチ ンガ ム市 にお ける計画 の 目的
主 な 目的
(1)介 護 を担 う児 童 の 確 認
υ)経 験 を語 る児 童 へ の 安 全 な環 境 の 提 供
1.サ ー ビス の 提 供
(3)適 切 な情 報 と助 言 の 提 供
(4)個 々 の 児 童 の ニ ー ズ の確 認
(5)他 の サ ー ビス 提 供 者 との連 携
(6)手 数 料 基 金 の利 用
(1)専 門職 者 の力 能 の 形 成
2.関 心 の 高揚
12)学 校 へ の援 助
(3)児 童 の 自己認 識 の 援 助
(4)多 様 な教 育 機 会 の 追 求 と促 進
3.地 域 的 ニ ー ズ の確 認
)料 │]
[≠罫
(1)介 護 者 諸 組 織 との 連 携
(2)問 題 の 確 認 と整 理
Chris Dearden and Saul Backer,Young carers at the crossroads,
an evaluation of the Nottingham Young Carars Prdect,op.cit。
p.26よ
り作成。
,
計 画 は、最初 の 6カ 月 (94年 8月 -95年 1月 )に 61人 の介護 を担 う児 童 を確認 し、援助 の手
を差 しの べ て い る。61人 の 中 には、少数民族 に属 す る児童 も含 まれ る。 その比 率 はノ ッチ ンガム
州 の人 口 に 占 め る少数民族 の比 率 よ りもやや 高 い。事務 所 の あ るプ リンセ ス・ ロー ヤ ル トラ ス ト
在宅 介護 者 セ ン タ ー
(PRTCC)は 、児童 に よるつ どい や会 合 には不似 合 い で あ る。介護 を担 う児
童 は、 そ うで あ る もかか わ らず個 々 にセ ンタ ー に 出向 い て来 る。様 々 な活動 は、他 の場 所 でや っ
て い る。計 画 に参加 す るす べ ての児 童 は、『コ ン タ ク ト』 (Contacts)と 題 す る案 内便 覧 (110を 受 け
取 る。 この便 覧 は、 ノ ッチ ンガム シ ャー 州全域 に 目を配 って編 集 され て い る。 ノ ッチ ンガム市 を
除 く州 内 の市 町村 に居住 の児童 に も送 られ る。計 画 を担 う職 員 は、他 の組織 や 団体 とも連 携 を と
りなが ら児 童 の相 談 にの り助 言 を与 えて い る。計 画 は、児童 を第 一 に位 置 づ ける。児童 の ニ ー ズ
―-53-
経済研究 2巻 1号
は、優先的 に扱 われ る。 もとよ り家族 の幅広 いニ ーズ も配慮 され る。他 のグルー プや機関 との有
益 な連携 が計 られ る。児童 のニーズ の充足 を優先すれ ばこそで ある。クロス ロー ドによる週 13時
間 の一 時休息計画 との連携 をはじめ教 師 の関心 を高 めるための学校 との提携 な どで ある。手数料
の徴収 による基金 は、設置 で きなかった ものの、個人 や地元企業 の寄付金や助成金 な どを獲保 し
て計画 を支 える資金 の一部 に組 み入れ られてい る。
関心 の高揚 は、計画 の主な目的のひ とつで ある。専 門職者 が、 その仕事 を通 して介護 を担 う児
童 を発見 し援助 で きるようにす る ことで ある。計画 を担当す る職員 は、46人 の個人 もし くは 4人
以 下 のグループお よび 37の 大 きなグループ と会 ってい る (94年 8月 -95年 10月 )。 人数 にす る
と、前者 で 74人 、後者 で 560人 、つ ご う 634人 と会 い介護 を担 う児童 と計画 について話 した こと
になる。学校 にお ける啓発 は、教師 と教育福祉サー ビス
(EWS)の 担 当者 に対 してなされ る。児
童 が 自 らを在宅介護者 として認識 で きるよ うにす ることも、関心 の高揚 に含 まれる。介護 は、 日
常生活の一部 で ある。 それだ けに成人 の在宅介護者 でさえ 自分 を介護者 で あると認識 して いない
場合 も少 な くない。児童 は、 なおの ことで あろう。他 のグループや機関 との連携 は、児童 のニー
ズに対 す る多面的 な接近 を可能 にす る。
地域 的 なニ ーズ の確認 は、既存 の在宅介護者 グループ との連携 を欠かすわけにはいかない。介
護者全国協議会 の地域組織 な どとの連携 が進 め られてい る。地域 での討論会 な どに出席 して介護
を担 う児童 の問題 を投 げか け、地域的 なニー ズの確認 を試 みてい る。
計画 は、介護 を担 う児童 は もとよ り家族や専門職者 によって どの ように評価 されてい るであろ
うか。
児童 は、計画 を高 く評価 してい る。児童 の親 たち も、一人 を除 いて児童 の計画へ の参加 を肯定
的 に認 めて い る。児童 と親 たちは、計画 について知 った 当初 の感想 を次の ように述 べ てい る。
「友
達 のお母 さんが私 に リー フ レ ッ トを見 せ て くれ ました。私 た ちは、計画 を担 当す るB・ ヘ レン
(BIne Helen)に 電話 をか けました。彼女 が来 て くれて計画 についてか いつ まんで話 して くれ
ました。 それか らB・ ヘ レン とマ ク ドナル ドヘ行 き、 その後 セ ンター にある事務所 に行 きました。
彼女 は リーフレ ッ トを渡 して くれ ました。 リー フ レ ッ トにはやってみた い と思 っていた こ とが生
きい きと描 かれてい ました(110」 (14歳 )。 「私 は、計画 について担当の B・ ヘ レン と話 しをしてい
ます。 ……私 が事務所 に電話 をす る とB・ ヘ ンンが 出 て、家 に来 て くれ ました。息子 の ミシェル
(Michael)の ことで つ なが りがで きたのですが、彼女 は、今 では家族 の子供全員 の相手 をして く
れ ます。 ……私 は、 とて もいい考 えの計画 であると思 って い ます」 (被 介護者、年齢 は不 明)。
介護 を担 う児童の殆 どは、計画 にそった旅行 とピクニ ックに参加 して、愉快 に楽 しんで い る。
-54-
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
旅行 は、幾人 かの児童 に とっては計画 の 中で も最 も重要な催 しである。多 くの児童 は、計画 に参
・私 の母 は、
「・…・
加す ることな しには旅行 もピクニ ック も体験 しなかったであろう、と思 ってい る。
そんなにお金 を持 って い ません。学校 で企 画す る旅行 は、60ポ ン ドもかか ります。大 きなお金で
す。 アイススケー トな どに出か ける ことな ら構 わない と思 い ます。 で も、週末 に旅行 に出かける
ほ どのお金 を用意で きません。私 は、おそ らく参加 で きない と思 い ます。計画 による旅行 は、週
末 に行 われ ましたが、 お金 もそんなにかか りませんで した(11り 」(13歳 )。 「私たちは、前 にアイス
スケー トに行 った ことが あ ります。私たちは、ダー ビーシ ャー州 (Derbyshire)に 行 きました。
とて もいい旅行 で した」 (14歳 )。 これ らの旅行 は、前 もって良 く計画 された ことか ら、児童 の参
加 と介護 の代替 も容易 に進 んで い る。参加費 が割安 であった ことも、 さきの発言 か らうかが える
ように児童 の参加 を促 した要因 で ある。
児童 の多 くは、誰 れか と話 して心配や恐れ を分かちあう機会 を高 く評価す る。幾人 かの親 たち
も、我 が子たち には家族以外 の誰れ か を必要 にす ると感 じ取 つてい る。計画 の用意す る機会 は、
「家 にむづか しい ことが あった時 に、誰 れか と話 します。そうす るより他 には、私 の
好評 で ある。
ことを理解 して くれないのです(110」 (19歳 )。 「誰 れか と話す のはヾ とて もいい ことです。私 は、
B・ ヘ レン と話 します。彼女 は、私 に とって とて も大切です。
」 (11歳 )。 「娘 は、何 か話 した い こ
とがあるとB・ ヘ レンに話 します。母親 である私 や家族 に話すわ けにいかない問題 や欲求不満 に
ついて、 B・ ヘ レンに聞 いて もらうのだ と思 い ます」 (被 介護者、年齢 は不明)。 「 BOヘ レンが、
息子 自身 の ことについて息子 と話す ためにマ ク ドナル ドヘ誘 ったのだ と思 い ます。 とて もいい事
だ と思 い ます」 (被 介護者、年齢 は不明)。
介護 を担 う他の児童 との接触 は、同 じ経験 をわかち合 う ことに よって一人 ではない ことを実感
させて くれ る。幾人 かの親 たち も、似通 った経験 をしてい る児童 たち との交流 を肯定的 に評価 し
てい る。
「私 は、同 じことを手 が ける人 たち と話 し合 い ます。学校 で私 の友 だち と話す の とは、ち
が い ます。級友 は、私 が家 でやって い る ことをわかって くれ ませ ん。介護 を担 う児童 は、 よ く理
解 して くれ ます(11つ 」(14歳 )。 「介護 を担 う他 の児童 との接触 は、様 々 な障害 につ いて理解す るの
を助 けて くれ ます。 ……私 は、私 よりも厳 しい境遇 にある人々の ことについて今 まで考 えて もみ
ませんで した。障害 を持 つ両親 を抱 えた友人 に会 った時、私 は、私 よりもっ と切 ない状況 にある
同世代 の人 たちの こ とについてはじめて想 い をめ ぐらせ ました。 これ らの人たちは、私 とは比 べ
ようもない程 むづか しい状況 にあ ります。 ……接触 の機会 に参加す る ことがで きて感謝 して い ま
す」(13歳 )。「 あなた は、他 の人 か ら名前 を呼 ばれて も不愉快 ではないで し ょう。あなた は、あな
た と同 じ類 の問題 に直面す る人々 と一緒 に居 るのです」(14歳 )。「息子 は、わ かつて くれ ると思 い
―-55-―
経済研究 2巻 1号
ます。 てんかんにかかってい るのは、 自分 の母 だけでない こ とを。社会サー ビス は、 てんかんや
様 々 な疾病 の親 を看 るわが子 ジ ャック (Jack)の よ うな児童 に手 をさしのべ てい ません。援助 は、
介護 を担 う児童のための計画 の ような慈善 を通 して行 われ るのです」 (被 介護者、年齢 は不明)。
計画 は、介護 を担 う児童 を第 一 に位置 づ けるとともに被介護者 を含 む家族全体 へ の配慮 も忘れ
て いない。計画 は、被介護者 を含 む家族 に どの よ うな効果 を もた らしてい るであろ うか。被介護
者 自身 に聞 いてみ よ う。
「私 は、計画 についてすっか り満足 してい ます。……私 の力 で解決 で きな
い問題 に出 くわ した時、 ち ゅうち ょす る ことな くB・ ヘ レンに連絡 します。す ると、彼女 は、息
・…・計画 は、私 では子
子 のジ ャックと一緒 に私 を助 けて くれ ます。10」 (被 介護者、年齢 は不明)。「・
供 に してやれない こ とをや って くれ ます。 ですか ら、私 は、す ば らしい計画だ と思 ってい ます。
すべ てB・ ヘ レンのお陰 です。 それだ けではあ りません。彼女 は週 末 にわが家 にやって来 て介護
に当 る人 を私 のために手配 して くれて い ます」 (被 介護者、年齢 は不明)。
介護 を担 う児童 と被介護者 は、計画 を積極的 に評価す るだ けに、
「計画がなかった場合 を想定す
る とどの よ うな感想 を持 ちますか」 と尋ね られ ると、「 こまって しま う」「 とて も不安 になる」 な
どの回答 を寄 せ る。
「計画 がない状態 ですか。とて もこまります。子供だけでな く私 もこまります。
息子 のジ ャックは、休 日を取れな くな ります。介護 を担 う児童のための旅行 も企画 されない とす
ると、彼 は、旅行 に も行 けませ ん」 (被 介護者、年齢 は不明)。 「私 は、計画 がない となるととて も
不安 です。子供 は、接触 の機会 を失 い ます。一人 ぼっちになって孤独感 にさい な まれ ます。 B・
ヘ レンが対応 して うま くい っていた問題 が、また、頭 をもたげるで し ょう。援助 を要す る児童 は、
次 の年 には今 の倍、いや 3倍 に も増 えるで し ょう。……」 (被 介護者、年齢 は不 明)。 「計画がな く
なると、私 は外出で きな くなると思 い ます。私 は、母 のかげんが良 くない 日で も計画 によって旅
行 に出か けた りす る ことがで きます。 ポール (Paul)が 代わ りに家 に居 て くれ るか らです。私 は、
計画がない と家 に居 なければな りませ ん。介護 を担 う児童 は、 いつ も家 に居 なければな りません
か ら精神的 にまいって しまってイライラした状態 に陥入 ります」(14歳 )。「計画 がない と寂 し くな
ります。私 は、外 に出 られな くな ります。介護 につ いての不満 を聞 いて もらえな くな ります」 (13
歳 )。
計画 には、 ソーシ ャル ワーカーや看護婦な どの専門職者 も参加 して い る。専門職者 は、 どの よ
うにして計画 を知 り、 どの ように計画 を評価 してい るであろ うか。
専門職者 は、同 じ機関 の同僚や他 の組織 に勤 める仲間 な どか らの 回込 み を含 む様 々な方法 に
よつて計画 について学 び取 って い る。 た とえばソーシャル ワーカーや保健訪問員 は、勤務先 の集
い に参カロして、 B・ ヘ レンの話 しを聞 き計画 につ いて学 んで い る。あ るい は、教師 は、小冊子 を
―-56-
イギリスの在宅介護を担う児童
読 む ことによって計画 について知 った うえで介護 を担 う児童 をB・ ヘ レンな どの計画 の担当者 た
ちに紹介 して い る。 3人 の児童 を紹介 した ソー シ ャル ワーカーは、児童 が相 当の介護 を担 って孤
独感 にさい なまれて い ることか ら、他 の児童 との接触 の機会 を設 けなければな らない、 と述 べ て
い る。同 じ く3人 の児童 を紹介 した学校看護婦 は、介護 を担 う児童 には継続的 な支援 を要す る、
と述 べ てい る。 5人 の児童 を紹介 した保健訪問員 は、児童 が母 の介護 に当 ってい ることか ら学校
を欠席 して い る、 と述 べ て い る。専門職者 は、 こうした経験 を通 して計画へ の積極的 な評価 を抱
くようになる。「私 が期待 していた以上 の ことが行われ て い ます。幅広 い援助 が行 われ るなんて
思って もみ ませ んで した。一 回限 りのお しゃべ り会 で はな い ので す。 はるか に協 力 的 なので
す(110」 。
「計画 は実 に効果的で、非 常 に良 い ものです。……状況 は、計画 な しには悪 くなるように
思 い ます。私 は、援助 の中味 の濃 さに驚 きました。 そんなにも中味 のある計画 とは、予想 もしま
せんで した。 B・ ヘ レンは、実 に活動的 です」。専門職者 は、計画 を積極的 に評価す るだけに、介
護 を担 う児童 を今後 とも紹介す る と、好意 ある姿勢 を示 してい る。
ノ ッチ ンガム市 における計画 は、介護 を担 う児童 は もとよ り被介護者 と家族 お よび専門職者 か
らも歓迎 されてい る。 しか し、計画 は、限 られた資金 で発足 してい る。 ク ロス ロー ドと計画の担
い手 によって払 われた時間やエ ネル ギー にもかかわ らず、安定的で長期 に亘 る資金 の裏 づ けを残
念 なが ら持 ちあわせない。資金 は、計画 へ の期待感 の広 が りとは裏腹 に減少 してい る。利子率 の
低下 もマ イナスの材料 で ある。資金 は、96年 8月 以降 について 目途 の立たない状態 にある(96年
4月 現在 )。 計画 は、この ままで進 むな らば終息 もやむを得 な い状態 にある。計画が多方面 か ら好
評 を得 てい るにもかかわ らず、冷厳 な事実 である。
おわ りに
本稿 で は、家族介護 あるい は家族介護者 とい う用語 を用 い る こ とな く、在宅介護 もしくは在宅
介護者 とい う表現 を とって きた。 その意図 は、イギ リスの実情 に即 してい えば 2つ ある。 まず、
家族介護者 とい う と、家族 が男女 の別 な く一様 に介護 を担 うと解 され るであろ う。 これは、本稿
で扱 った児童 をとって も事実 とことなる。主 として少女 が担 ってい る。 さらに、 かな りの在宅介
護者 は、被介護者 とともに家族 を構成 して同 じ屋根 の下 に住 むわ けではない。被介護者 と同 じ家
に住 む介護者 は、雇用均等委員会 の 78年 調査(12oに よるとわず かに 28.0%で ある。他 の 72.0%の
介護者 は、被介護者 とは別 の住居 に住 む全 く別 の家族 で ある。家族介護者 とい うと、 こうした現
状 を無視 してかか る ことになる。本稿 では、 こうした事情 を考 えに入れて家族介護者 といわず に
―-57-―
経済研究 2巻 1号
在宅 介護 者 と表現 して きた ところで あ る。
イギ リスの在宅 介護者 として ま とま りの あ る仕事 に進 むた め に は、 これ まで の論稿 に加 えて、
(1)被 介護 者研 究 か
ら在宅 介護 者研 究 へ の進 展 、(2)少 数民族 に属 す る介護 者 とサ ー ビス 、(3)在 宅 介
護者 に関 す る 1995年 法、(4)在 宅 介護者 に よる被 介護 者 の虐待 、(5)在 宅 介護者 の 国際比較 とイギ リ
ス 的 な特徴 、(6)在 宅 介護者 へ のサ ー ビス の 国際比較 とイギ リス的 な特徴 な どに つ い ての検 討 を必
要 にす る。 この うち(1)に 述 べ た作業 の一 部 は、本誌
(1巻 304合 併 号 )に 掲載 の別稿 にお い て
手 が けて い る。他 につ い て も引 き続 く作 業 として進 めて い きた い と考 えて い る。
(1)CNA,The achievellnents of the carers'movement 1963‐ 93,a stronger voice,CNA,p.4.
(2) Charles Dickens,Little Domt,1857,re‐ printed 1985,Penguin,11l and l12.
描 かれている ことは、 フ ィク シ ョンで はな い。作者 の実体験 に裏 うちされて い る。 これ は、諸家 の指摘す る
ところで ある。 ア ンガス・ウ ィル ソン著 /松 村 昌家訳『デ ィケ ンズの世界』、英宝社、 1979年 、 44-45ペ ージ。
小池滋 『デ ィケ ンズ とともに』、 昌文社、 1983年 、51‐ 52ペ ー ジ。
(3)ハ ー デ ィ著/井 上宗次・石 田英二訳 『テ ス』、岩波書店、上、 1960年 、36ペ ー ジ、58-59ペ ー ジ、下、1960
年、 206-207ペ ー ジ、212-214ペ ー ジな ど。
女 の主人公 テスの モ デル は、作者 の父親 の母 、 メア リー・ ヘ ッ ドである。鮎沢乗光 『 トマ ス・ ハ ー デ ィの小
説 の世界』、開文社 出版、 1984年 、236ペ ー ジ。
介護 を担 う児童 の姿 は、 日本 の民 話 な どか らもうかが う ことがで きる。 た とえば平野直 C再 話 /太 田大八・
画『や まな しもぎ』は、次 のはな しか ら始 まる。「 むか し、 ある ところに、 おか あさん と二 人 の き ょうだ いがす
んで い ました。おか あさんは、か らだの ぐあ いが わ る くてねて い ましたが、あるひ き ょうだ い をよんで、
『お く
や まのや まな しがた べ た い な』といい ました。 それ をき くと、一 ばんめのた ろうが 、『か あちゃ、 お らがや まな
しもぎにい って くるせ 』とい って、 でか けて い きました」。 同書、福音館書店、 77年 。 ここに出 て くる家族 は、
み られ るように「おかあさん と二 人 の き ょうだ い」である。母子家庭 の児童 による介護 の姿 を示 して いて、今
日で も興 味深 い。
(4)Mary Martin,McLaughlin,Surv市 ors and surrogates;children and parents from the ninth to the
thilteenth centu五 es,Lloyd de Mause,lrhe History of childhood,The Psychohistory Press,1974,p.128.
(5)Arm Mahon and Joan Higgins,A Life of our own,young carers;an evaluation of three RHA funded
prOieCtS in Merseyside,op.cit.,p.2.
(6)た
とえば次 の資料 に うかが う ことがで きる。 London Borough of Newham,Social Service Committee,
Implications of the Carers(Recognition and Services)Act 1995 incorporating services to children and
people providing support/personal assistance to fanlily lnembers‐ policy and procedures,28th November
1995,Croydon Young Carers Support Proiect'Pack,etc。
S・
ベ ッカー は、「在宅介護 を担 う児童」 と題 す る報告 を介護者全国協議会主催 の討論会 (93年 10月 12日 、
於 ロン ドン)の 冒頭 にお こなって い る。 この報告 は、一連 の調査 を もとに構成 されている。Dr Saul Becker,
―-58-―
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
Children who care,CNA,Strategies and structures,working with young carers,CNA,pp。
5‐
14.
(7)Judith Masson,The Children act 1989,text and colrunentary,Sweet and Maxwell,1990,p.41.
(8) Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care, inside the world of young carers, Loughborough
University,1993,pp.3‐
4.
(9)House of Commons,Social Services CorFmittee,Commllnity care;carers,session 1989‐
90,HMSO,1990,
pp.1‐ xxxvlll.
92,HMSO,
(10)Diana Robbins,Commllnity care,findings from Department of Health fmded research 1988‐
1993,pp.1‐ 390 and pp.1‐ xx五 i.
(11)Julia Twigg,Carers,research and practice,HMSO,1992,pp.1‐
153.
(12)Karl Atkin,simila五 ties and differences between inforlnal carers,Julia Twigg,op.cit.,pp.39‐
(13)介 護者全国協議会 の代表 は、93年 10月
40。
に開催 の討論会 において「 この討論会 が 5年 前 に もたれ る こ とはな
か ったで あろう」とあ い さつの 冒頭 に述 べ 、在宅介護 を担 う児童 の問題 へ の関心 の広 が りと児童 に関す る 89年
法 の意義 につい て触 れて い る。 CNA,Strategies and structures,working with young carers,op.cit。
,p.3.
(14)DH,SSI,Young carers,something to think about,report of four SSI workshops,May‐ July 1995,
Department Of Health,1996,p.1.
(15) Saul Becker and als,Young carers in Europe,an exploratory cross‐
national study in Britain,France,
Sweeden and Gerrnany,Loughborough University,1995,pp.32‐ 33,pp.40‐44 and p.81.
(16) Ibid.,pp.49‐ 50,p.61 and p.82.
(17) Ibid.,pp.65‐ 66 and p.82.
(18)DH,SSI,Young carers,something to think about,report of four SSI workshops,May‐
July 1995,op.cit。
,
p.1.
(19)Am Mahon and Joan Higgins,A Life of our own,young carers;an evaluation of three RHA funded
prOieCtS in Merseyside,op.cit.,p.2.
(20) Ibid.,p.2.
(21)Sandra Bilsborrow,You grow up fast as well,young carers on Merseyside,op.cit。
Teachers,young carers need you,p.1,Alison Elliott, Hidden children,a study of ex‐
,p.1,CNA,
young carers of
parents with mental health problems in Leeds,op.cit。 ,p.1.
(22) Jo Ald五 dge and saul Becker,Children vrho care,inside the world of young carer,op.cit。 ,p.v五 ,Saul
Becker and als,Young carers in Europe,an exploratory cross‐ national study in]B五 tain,France,Sweeden
and Gemany,op.cit。 ,p.v五 i.
(23) DH,SSI,Young carers,something to think about,report offour SSI workshops,May‐
July 1995,op.cit.,
p.1.
(24)CNA,About young carers,CNA,1995,p.1.
(25) Ann Mahon and Joan Higgins,JA Life of our Own,young carers;an evaluatlon of three RIIA funded
prOieCtS in Merseyside,op.cit。 ,p.2 and p.97.
(26)CNA,AbOut young carers,opo cit.,p.1.
―-59-
経済研究 2巻 1号
(27)Tameside carers Centre,Young carers,leaflet 2,the natiOnal picture of young carers,p.1.
(28) Saul Becker and als,Young carers in Europe,an exploratory cross‐
national study in Britain,France,
Sweeden and Gemany,opo cit.,p.2 and p.81.
(29)CSO,Amual Abstract Of Statistics 1991,HMSO,p.8.
(30) Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit。
,p.2.
(31) Ibid.,p.23.
(32) Chris]Dearden and Saul Becker,Young carers at the crossroads,an evaluation of the Nottingham
Young Carers Praect,Op・ cit.,p.14,Ann Mahon and Joan Higgins,A Life of our own,young carers;an
evaluation of three RIIA funded prOjects in Merseyside,op.cit.,p.17 and p.23,Jo Aldridge and Saul
Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit.,p.10。
(33) Jo Ald五 dge and Saul Becker,Chidren whO care,inside the world Of young carers,opo cit。 ,p.10,Ch五 s
Dearden and Saul Becker,Young carers at the crossroads,an evaluation of the Nottingham Young
Carers ProieCt,op.cit.,p.14.
(34) Ch五 s]Dearden and Saul Becker,Young carers at the crossroads,an evaluation of the Nottingham
Young Carers ProJect,Op.cit。
,p.14.
ノ ッチ ンガム調査 Iは 、15ケ ースの 3分 の 1に あた る 5ケ ースについ て経験年数別 の計数 を示 して い な い。
このため本文 で は、同名 の調査 Hの 結果 のみを紹介 してお きた い。
(35) Chris]Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.13.
(36) Ibid.,p.13.
(37) City of Leeds,]DSS,Young carers of a parent with shcizophrenia,a Leeds survey,op.cit.,p.13,Jo
Ald五 dge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit,,pp.8‐
9,Alison
Elliott,Hidden children,a study of ex‐ young carers of parents with rnental health problems in Leeds,op.
cit。
,p.7,Am Mahon and Joan I[iggins,A Life of Our own,young carers;an evaluation of three RI[A
funded proieCtS in Merseysidel op.cit.,p.1,Penny Liddiard and Stanly Tucker,Milton]Keynes Young
Carers ProieCt,a pilot study looking at the experiences of caring of eight young people in]VIilton Keynes,
op.cit., p.12, Chris Dearden and Saul Becker, Young carers at the crossroads, an evaluation Of the
Nottingham Young Carers Praect,op・ cit.,p.16,Gloucestershire Young Carers ProieCt,Attual report
1994/95,op.cit.,p.7.
(38) Chris Dearden and Saul Becker, Young carers at the crossroads,an evaluation of the Nottingham
Young Carers ProieCt,op.cit。
,p.16.
慎重 な姿 勢 は、他 の調査 に もあては まる。 City of Leeds,DSS,Young carers of a parent with schizophre‐
nia,opo cit。 ,p.19.
(39) CSO,Social trends 22,1992 edition,HMSO,p.41.
(40) Jenny Frank,Couldn't care more,a study of young carers and their needs,op.cit.,p.25。
る発言 は、特 に ことわ りのな いか ぎ りこの調査 による。Ibid.,pp.25‐ 26.
(41) Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the faCts,op.cit。
―-60-―
,p.15.
以下 │こ 紹介す
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
(42) Sharon,A Day in the life of a young carer,Chris Dearden,Saul Becker and Jo Aldridge,Partners in
caring,a briefing for prOfessionals about young carers,LoughborOugh University,1994,p.11.
(43)介 護者全国協議会 は、家事、身体 、家族責任、与薬 、情緒 の 5つ に区分 してい る。金銭 の管理 を独立 させず
に家族責任 の中 に一 括 す る。 しか し、家族責任 と情緒 とをそれぞれ独 自に区分 して、児童 の介護作業 の独 自性
に配慮 してい る。 この考 え方 に関す るか ぎ り、本文 の 6つ の 区分 とも共通 す る。 CNA,About young carers,
op.cit.,p.2.
(44)以 下 は、特 に ことわ りのないか ざ り次 の文献 に記載 の声 の紹介 である。 Sandra Bilsborrow,You grow up
fast as well,young carers on Merseyside,op.cit.,pp.26‐ 32,Jo Ald五 dge and Saul Becker,Children whO
care,inside the wOrld of young carers,op.cit.,pp。
young carers and their needs, op.cit., pp.38‐
18‐
29,Jenny Frank,Couldn't care more,a study of
45, CNA, Strategie and structures, working with young
carers,CNA,p.6,Chris]Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,pp.17‐ 20。
(45) Roger GHrnshaw,Children of parents wlth parkinsOn's disease,a research report for the Parkinson's
Disease Society,National Children's Bureau,1991,p.31 and p.49。
(46) Sandra Bilsborrow,You grow up fast as well,young carers on 1/1erseyside,op.cit。
,p.27.
(47)児 童 等 の発言 は、特 にことわ りのないか ぎ り次 の文献 による。在宅介護 を担 う児童 の年齢 は、残念 なが ら不
明 てヽ
ある。Jenny Frank,Couldn't care more,op.cit.,p.47.
(48)リ ーズ調査 Ⅱは、宿題 へ の介護 の影響 についての事例 を紹介 してい る。AlisOn Elliott,Hiddcn children,a
study of ex‐ yOung carers of parents with mental health problems in Leeds,op.cit.,p.16.
(49) Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p。
23.
(50)opo cit。 ,p.24.児 童 の発言 は、特 に ことわ りのな い か ぎ りこの調査 による。
(51) Sandra BilsbOrrow,You grow up fast as well,young carers on Merseyside,op.cit.,p.32.
(52) Pemey Liddiard,Millon Keynes Young Carers ProieCt,a pilot study looking at the expe五 ences Of
Oaring of eight young people in Milton Keynes,op.cit.,p.14.児
童 の発言 は、特 に ことわ りのな いか ぎ り
この調査 による。
(53)Sandra BilsbOrrow,You grow up fast as well,young carers on Merseyside,opo cit.,p.33.
(54)Jo Aldldge and saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit。
,p.46。
児童
の発言 は、特 に ことわ りのな いか ぎ りこの調査 による。
(55) Jo Aldndge and Saul Becker,Myこ
hild,Iny carer,the parents perspective,Loughborough University,
1994,p.13.
(56)CSO,Amual Abstract of Statistics 1994,HMSO,p.105.
(57) Roger GHmshaw,Children of parents with parkinsOn's disease,a research report fOr the Parkinson's
Disease Society, op.cit., p.30,Ann Mahon and John Higgins, A Life of Our Own, young carers; an
evaluation of three RHA funded prOieCtS in Merseyside,op.cit.,pp.66‐
70.
(58) Ann Mahon and Joan Higgins,A Life of ollr own,young carers;a evaluation of three RHA funded
prOiects in Merseyside,opo cit.,pp.68‐ 69,CNA,Strategies and stnlctures,working with young carers,op.
cit.,p.25。
―-61-―
経済研究 2巻 1号
(59)Jellny Frank,Couldn't care more,op.cit"p.54.
(60) Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit.,p.53.
(61)CNA,Strategies and stnlctures,working with yomg carers,op.cit。 ,p.23.
(62) Ibid.,p.23.
(63)CNA,Young carers in brack and mino五 ty ethnic commllnities,workshop day(15 November 1991)
report,CNA,1992,p.8.
(64)CNA,About young carers,op.cit.,p.2.
この 4項 目は、保健省・ 社会 サー ビス監督官主催 の討論会 で も最近 の研究成果 のひ とつ として紹介 されて い
る。DH,SSI,Young carers,something to think about,report of four SSI workshops,May‐
July 1995,op.
cit.,p.14.
(65) Jo Ald五 dge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit.,p.61.
(66) Perlny Liddiard,NIilton Keynes Young Carers ProieCt,a pilot study looking at the expenences of
ca五 ng of eight young people in Milton Keynes,op.cit。
,p.16.
(67) Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit。
,p.62.
(68) Pemy Liddiard,L[ilton Keynes Young Carers ProieCt,a pilot study looking at the expenences of
ca五 ng of eight young people in Milton Keynes,op.cit.,p.16.
(69)CNA,Strategies and structures,working with young carers,opo cit。
,p.10.
(70) Jo Aldndge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit.,p.64.
(71) Alison Elliott,Hidden children,a study of ex‐
young carers of parents with lnental health problems in
Leeds,opo cit.,p.22.
(72) Jenny Frank,Couldn't care more,op.cit。
,p.44.
(73) Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the、
vorld of young carers,op.cit。 ,p.68.
(74) Jo Ald五 dge and Saul Becker,My child,Iny carer,the parents'perespective,op.cit.,p.26.
(75) Ibid.,p.27.
(76)次 の調査 は、本文 に述 べ た流れの一部 で ある。City
of Leeds,DSS,Young carers of a parent with shizo‐
phrenia,a Leeds survey,opo cit。 ,pp.21‐ 22,Sandra Bilsborrow,You grow up fast as well,young carers on
Merseyside,op.cit.,pp.42‐ 43.
(77) Lois Keith and Jenny Morrls,Easy targets;a disability】
ights perspective on the children as carers
debate,Critical Social Policy,vol.44‐ 45,Autunl 1995,p.42 and p.56.
(78)CNA,Strategies and structures,working young carers,op.cit。
(80) Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit。
,p.29.
,p.34.
(81) Judith Masson,The Children act 1989,text and collrlmentary,op.cit.,pp.41‐
36‐
41‐ 37.
(81) Ibid.,p.41‐ 186.
(82)CNA,Young carers back them up,report of a multi‐ disciplinary conference supported by BMA,CNA,
19961p.11.
(83)自 治体 の発行 になる次 のベ ンフレ ッ トには、社会 サー ビス監督官 と同 じ見解 が示 されてい る。 自治体 が、啓
―-62-―
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
発 と援助 とを行 な う際の法的 な拠 り所 としての見解 で ある。 Tameside Carers Centre,Young carers,Leanet
7,who will help usP,Newharn Council,SSD,Services to children and young people providing support/
personal assistance to fanlily members;policy and procedures, Croydon SSD, Young carers support
praect,Leeds City Council,Leeds children as carers working group infomation pack,1996,Cheshire
County Council,Young carers in carers in Cheshire,a progress report by the Young Carers ProieCtS at
Halton and Macclesfield.
(84) CNA,Young carers back them up,report of a rnulti‐ disciplinary conference supported by the BA/1A,op.
cit.,p.12.
(85) Jo Aldridge and Saul Becker,Children who care,inside the world of young carers,op.cit.,p.33.
(86) Pemy Liddiard and Stanley Tucker,MiltOn Keynes Young Carers ProieCt,a pilot study looking at the
expe五 ences of ca五 ng of eight young people in ⅣIilton Keynes,op.cit。 ,p.15。
(87) Jo AldHdge and Saul Becker,Children who care,inside world of young carers,op.cit.,p.36.
(88) Jo Ald亘 dge and saul Becker,My child,my carer,the parents'perspective,opo cit.,p.3.
(89) Ch」 s Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.27.
サ ー ビス を受 けた家族 は、ノ ッチ ンガム調査 Ⅱによる と 75.4%、
4軒 に 3軒 で ある。残 りの 24.6%、 お よそ
4軒 に 1軒 は、サ ー ビス を受 けてい ない。Ch亘 s Dearden and Saul Becker,Young carers at the crossroads,
an evaluation of the Nottingham Young Carers ProieCt,opo cit.,p.23.
(90) ChHs Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.27.
(91) Perlny Liddiard and Stanley Tucker,MiltOn Keynes Young Carers Pr●
ect,a pilot study looking at the
expeHences of ca五 ng of eight young people in]VIilton Keynes,op.cit.,p.15.
(92) Jenny Frank,Couldn't care more,a study of young carers and their needs,opo cit.,p.33.
(93) Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.28.
(94) H Meredith,Developing support for yOung carers,The Carer,1991 January,p.9.
(95)Julia Twigg,Carers,research and practice,HMSO,1992,pp.70‐
72.
(96) Jo Ald五 dge and Saul Becker,Children who care,inside the wOrld of young carers,op.cit.,p.42.
(97) Jenny Frank,Couldn't care more,a study of young carers and their needs,op.cit.,p.34.
(98) Chris]Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,opo cit.,p.28.
(99) Jenny Frank,Couldn't care more,a study of young carers and their needs,op.cit.:p.32.
(100) ChHs Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit.,p.28.
(101) Jo Aldridge and Saul Becker,My child,rny carer,the parents'perspective,op.cit.,pp.4‐
5.
(102)CNA,Young carers rolmdup,The Carer,July 1996,p.9.
(103) SSI,PrOgress through change,the fifuh annual reporL of the chief inspector social services inspector・
ate 1995/96,HMSO,1996,pp.31‐
32.
(104)Gloucestershire Young Carers Proiё
Ct,Annual report 1994/95,op.cit。
(105) Chris Dearden and Saul Becker,Young carers,the facts,op.cit。
The Facts,p.19.
―-63-―
,p.16.
,p.30,South CumbHa Young Carers,
経済研究 2巻 1号
(106)次 の資料 を もとに筆者が算 出 した。Chris
Dearden and Saul Becker,The National directory of young
carers proieCtS and initiatives,op.cit.,pp.17‐ 53.
(107)職 員 の年間賃 金 1万 900ポ
ン ドを 52週 で 除 して 算 出 した。Gloucestershire Young Carers ProieCt,
Annual report 1994/95,op.cit.,p.13.
(108)Department of Employment,New Earnings Survey 1993,HMSO,E108.2.
(109) Ann Mahon and Joan Higgins,A Life of our own,young carers,an evaluation of three RHA funded
prOieCtS in Merseyside,op.cit。 ,p.17,p.23 and p.30.
(110) Ibid.,pp.53‐ 56.
(111) Ibid。
,p。
73,pp.76‐ 77,p.82 and p.84.
(112)ク ロスロー ドによる介護者 のた めの介護計画 は、イ ングラ ン ドをはじめウエールズお よび北 アイル ラン ド
・ス コ ッ トラ ン ド(Cross‐
で 241に のぼ る。ス コ ッ トラ ン ドで は、ク ロスロー ドと姉妹関係 にあるク ロス ロー ド
roads Scotland)に よって手 が け られて い る。計画 によるサー ビス は、平 日、夜間、週末、休 日を問わず に行
われて い る。ク ロス ロー ドは、これ らの計画 とは別 に介護 を担 う児童計画 を 5つ 手 が けて い る。ク ロスロー ド
は、この団体 の文 書 による と、在宅介護者 と被介護者 の為 に水準 の高 いサ ー ビス を企画 し提供 す る ことを 目的
にす る。介護 の分野 における指導的 な役割 を担 い、介護水準 の改善 とサー ビス の拡大 を心が けて い る、ともい
われ る。CrossrOads, CrossrOads caring for carers, Crossroads schemes, p.1, Crossroads, CrossrOads
Πlission statement,p.1.
(113)こ の便 覧 は、日本 の システム手帳 をやや小 さ くした大 きさである。介護 を担 う児童 とその家族 お よび被介護
者 に とって有益 な連絡先 を綱羅 して い る。医療 をは じめ相談、ホームヘ ルプ な どの援助、一 時休息、助言、余
暇 な どの活動、教育 と訓練 の つ ご う 7つ の分野 を包括 し、利用 しやす い ように各分野 ご とに色分 けをほ どこし
た上 で紹介 して い る。便覧 の利用方法 をあ らか じめ示す ことは もとよ り、使 い方 がわか らなけれ ば電話な どで
尋 ねて下 さい として、 4人 の氏 名 と電話番号 も示 されて い る。便覧 は、連絡先 の名称 と住所 を紹介す る ととも
に、連絡 の際 の留意点 な ども手際 よ く示 して い る。 ロー フボ ロ大学 (Loughborough University)社 会科学部
の介護 を担 う児童研究 グループ
(YCRG)の 作成 である。Chris Dearden and Saul Becker,Contacts;a
resource and inforlnation pack for young carers,Loughborough University,1994.
(114)Ch五 s Dearden and Saul B∝ ker,Yolmg carers at the crossroads,an valuation of the Nottingham
Young Carers ProieCt,Op.cit。
,p.38.
(115) Ibid.,p.40.
(116) Ibid.,p.41.
(117) Ibid.,p.42.
(118) Ibid.,pp.43‐ 44.
(119) Ibid.,p.47.
(120) EOC,The expeHence of ca五 ng for elderly and handicapped dependants,EOC,1980,p.5。
―-64-―
イギ リスの在宅介護 を担 う児童
追記
本稿 は、96年 9月 に脱稿 した ものである。その後、次 の文献 を入手 した。また、80を 超 す 自治体 か らコ ミュニ テ ィ
ケアプランな どの提供 を受 けた。介護 を担 う児童 とその支援 につ いての記述 は、このプランに も見 る ことがで きる。
これ らは、 いずれ も本稿 で は用 い て い な い。機会 を改 めて利用 した い と思 う。
Alison Walker,Young carers and their fanlihes,a survey carried out by the Social Survey]Division of the
Office for National Statistics on behalf of the DepartFnent Of Health,The Stationery Office, 1996,Barrie
Fiedler,Young carers‐ making a start,repOrt of the SSI fieldwork proiect on families with disability or
innOss,october 1995‐ January 1996,Social Services lnspectorate,1996,LeedS SOCial Services]Departrnent,
Leeds children as carers working group infomation pack,Leeds SSD,1996,Jo Aldridge and Saul Becker,
Diasbility rights and the denial of young carers,the dangers of zero‐
sum ar_ents,Critical Social Policy,
vol.16(3),August 1996,Issue 48,London Borough of Havering]Directorate of Social Services,Young carers'
survey results of questionnaire,1995,Suffolk Social Services Departinent,Young carers;assessment and
provision of services guidance for staff,John Bowis,Children who want to care,Community Care,16‐
22
November 1995,Luke Clements,Carers'capabilities,Community Care,9‐ 15 November 1995,Betty Newton
and Saul Becker,Young carers in Southwark,the hidden face of community care,Loughborough University,
1996,Jo Aldridge and Saul Becker,Befriending young carers,a pilot study,Loughborough University,1996,
Suffolk Area Child Protection Cornmittee,Behind closed doors,the lives of children(speakers transcHpts,
Snape Conference,may 2nd and 3rd 1996),1996,Chris Dearden and Saul Becker,Ca五
ng crises,caring breaks,
an evaluation of two pilot Crossroads care,LoughborOugh University,1996.
尚、上 に示 した文献 の うち『コ ミュニ テ ィケア』誌 に掲載 の論文 は、編集部 による 95年 のキ ャ ンペ ー ンの一部 で
ある。上記 の 2本 の論文 の他 に も多数 にのぼ るが 、 ここで は省略 した。『 コ ミュニ テ ィケア』誌 のキャ ンペー ン論文
は、ナ シ ョナル・ ソー シ ャル ワーク研究所
(NISW)の N・
コネ リー (N.Connelly)さ んか ら教 えて い ただ くとと
もに現物 の提供 を受 けた ものである。記 して感謝 した い。
―-65-―
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