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2014/09/05「インド:土地問題(2)~権利関係の
September 05, 2014
1. インドにおける土地問題(2)〜権利関係の確認について〜
2. 平均年齢は日本の半分、若者が多いカンボジアの人口構造
1.
インドにおける土地問題(2)〜権利関係の確認について〜
(前回レポートは、以下 URL をクリックして本文をご参照下さい。)
http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20140516.pdf
前回に引き続き、インドにおける土地問題について紹介する。第2回となる今回は、特に私有地の取得の場合に問
題になりやすい「権利関係の確認」という点について議論する。なぜインドにおいて、権利関係の確認や確立は容易
ではなく、時間がかかると言われるのか。現地法律事務所の意見も踏まえながら、その一端を紹介したい。
1.制度の概要
インドにおける不動産の権利関係を規定する法律は 1908 年登記法である。インドの制度は、日本で「登記制度」と
いった場合に想像するような、個々の不動産ごとに権利関係を記録していくというシステムではなく、代わりに、一定
地域を管轄する州や地方レベルの当局(Sub-Registrar)において、不動産に関わる重要な取引行為に関する文書が
Register されるという制度を採用している。(文書の「登録」制度という方がよりイメージに近いため、以降は Register
を「登記」ではなく「登録」と訳すこととする。)
登録の対象となる文書は、例えば、
① 100ルピー以上の価値を有する不動産の権利移転・処分等に関する書類
② 1年を超える賃貸借契約
などである。これに対し、例えば遺言書や1年以内の賃貸借契約などは義務的登録の対象とはなっておらず、任意で
登録できるとされているにすぎない。
権利確認の中で特に重要な①に関して、日本では登記は対抗要件にすぎないのに対し、インドでは登録が権利移
転の有効要件とされている。この点、「印紙税や登記費用を嫌って登記を省略するケースが多い」と述べる専門家も
いる一方で、「有効要件である以上登記は行われるが、提出書類に記載する価格は実際の取引価格よりも低く設定
1
して印紙税等を低く抑えるのが通常」と説明する専門家もいる。こうした説明の違いは、地域性といった要素もあるよ
うに思われる。
取引関係と並んで典型的な土地の権利移転のケースとしては相続の場合があるが、インドにおける相続・家族法
の世界は、宗教・文化の多様性を反映した複雑なものとなっており、相続のルールも宗教によって異なっている(例え
ばヒンズー教については 1956 年ヒンズー相続法があるが、イスラム教に関する成文法はない、など。)。これも、権利
関係の確認作業を困難にする要因の1つである。相続に関する記録がないまま複数世代も経て、さらに一部の相続
人がその土地を離れていて、誰に聞いても権利者がわからないというようなあまり想像したくないケースに遭遇する
可能性も否定できない。
2.権利関係の確認方法と実務上の困難について
州によって異なる取扱いがなされる場合もあるようだが、一般的に、政府当局が土地の権利証を発行する制度は
採られていない。そのため、現在の権利関係を確認するためには、まず、地方の登記所に赴いて、土地登録簿(land
record)から過去の登録資料を遡り、現在に至るまでの所有権の変遷(chain of title)を読み解いて、欠ける部分がな
いことを調べていく必要がある。
ここで、過去の記録を遡る際の対象期間は、一般に「30 年か、場合によってそれ以上」といわれる。30 年という区切
りの理由の1つには、30 年適切管理されたと認められる文書の真正性の推定を定める 1872 年証拠法の 90 条が挙
げられる。30 年間の所有権の変遷を遡って、瑕疵や虚偽、誤りによる登録がないか、あるとすればその原因がなに
かを調べることとなる。(ちなみに取得時効は 12 年とされているので、ケースによってはこちらを参考にすることも考え
られよう。)
こうした確認作業には、「一難去ってまた一難」ともいうべき複数の試練が存在しており、これが権利関係の確認に
時間がかかる要因となっている。
まず、登録簿は現在オンライン化が進められており、いずれは一つの窓口に行けばオンラインで登録内容を確認
できるようになると期待されるが、現時点では、実際に個別の関連当局を訪問して、現物を確認しなければならないこ
とが多い。ここで、特に地方においては、当局の場所を探すのもひと苦労、ようやく探したと思ったら担当官が離席し
ていて記録の照会ができない、などという場面も少なくない。さらに、やっと会えたとしても、すんなり閲覧が認められ
るかどうかは、 担当官次第という側面も強い。
こうして無事記録にアクセスできたとして、次に障害となるのが、地方によって使われている言語が異なるという、こ
れまたインド独自の多様性が生み出す困難さである。通訳・翻訳の質によっては、正確な内容把握が困難となってし
まう。
さらには、記録の管理状況も完全ではなく、必要な資料が欠けているような場合もある。
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これまで述べた土地登記簿の他に、税務当局でもその時々の土地所有者を歳入記録簿(revenue record)で管理
している。そこで、この資料をチェックして、誰が税務当局との関係で現在の所有者として取り扱われているかを確認
し、土地登記簿の内容と照合する作業が必要となる。齟齬がある場合には、その原因を解明していく必要がある。
対象地に関する係争の有無について一覧できる記録は存在しないため、聞き込み等を通じて把握に努めることも
必要となる。
なお、以上は主に権利移転についての確認だが、担保権の有無については、土地登録簿や歳入記録簿の確認の
他、登記をせずに権利証原本を預けることで担保設定するケースもあることから、権利証関連資料の原本の確認も
必要である。
以上のように、権利関係の確認作業には、いくつもの試練が存在している。そして、これらを辛抱強く調べた上でも、
「権利関係が 100%は明らかではない」という状況に陥ることも少なくない。そのようなケースでは、土地の性質や地
域の特性などにも配慮しながら実務的な解決策を探らねばならないため、不動産関連の問題に通じた専門家の関与
が非常に重要といえる。
3.最後に
ところで、前回「インドにおける土地問題(1)」で紹介した 2013 年新土地収用法は、成立直後から批判にさらされて
きたが、2014 年 5 月のインド中央政府の政権交代を機に、再び改訂が議論されていると報じられている。こうした制度
の不安定さ自体が、インドという国における土地問題の根深さを示しているように思われる。
(2014 年 7 月 10 日作成)
記事提供:松田綜合法律事務所 弁護士 久保達弘
松田綜合法律事務所:日系企業のインドを含む海外に向けた単独・M&A
による進出を支援
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2.
平均年齢は日本の半分、若者が多いカンボジアの人口構造
概要
日本の支援により、2013 年にカンボジア中間年人口調査が実施され、このほど詳細なデータ分析が発表されまし
た。総人口は約 1,468 万人で、若年層の比率が高く、平均年齢は日本の半分に近い 24.5 歳でした。
人口ボーナス時期にあるカンボジアは、これからも成長を続けるものと期待されます。
2014 年 6 月 6 日、プノンペンのカンボジア日本人材開発センター(CJCC)にて、中間年人口調査データ分析セミ
ナーが、カンボジア計画省や国際協力機構(JICA)などの共催によって開催されました。セミナーには、サン・シィ・
タン計画省次官、計画省統計局関係者、JICA 関係者など多数が参加しました。セミナーでは 2013 年の中間年人
口調査で得られたさまざまなデータの分析が紹介されました。カンボジアの人口調査には、これまでも日本が全
面的に支援しています。
カンボジアでの本格的な人口調査は、10 年ごとに実施されることとなっており、前回は 2008 年、次回は 2018 年
の予定です。しかし、10 年ごとでは期間が長過ぎるため、5 年目の中間の年に中間年人口調査を行うこととされ、
2013 年 3 月 3~7 日に中間年人口調査が行われました。調査は、カンボジア計画省統計局が中心となり、日本政
府や国連人口基金(UNFPA)などの協力を得て実施されました。
今回の人口調査結果の分析で興味深いポイントは以下の通りです。
1. 人口は約 1,468 万人
2013 年 3 月 3 日時点のカンボジアの人口は 1467 万 6591 人。2008 年人口センサスの確報結果では 1339 万
5682 人だったため、この 5 年間に約 128 万人増加したこととなり、この間の年平均人口増加率は 1.46%でした。
2. 男性が極端に少ない人口構造
女性 100 人に対し、男性は 94.26 人と大変少なくなっています。これは、ポルポト政権時などの内戦により、男性
が兵士などとして若いうちに多く死亡した影響ではないかとみられます。
3. 0 歳の平均余命は 68.9 歳
カンボジアの 0 歳の平均余命は、68.9 歳(男性 67.1 歳、女性 71.0 歳)です。都市部は 76.8 歳ですが、農村部で
は 67.6 歳と低くなっています。0 歳の平均余命が低いのは、乳幼児死亡率がまだ高いためとみられます。5 歳未満
で死亡する乳幼児数は、出産 1,000 人当たり 53 人となっています。これも都市部では 15 人まで減少してきました
が、農村部では 60 人とまだまだ高い数字です。
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4. 1 世帯当たりの人数は減少傾向
1 世帯当たりの人数は、1998 年 5.14 人、2008 年 4.66 人、2013 年 4.42 人と減少傾向にあります。子どもの数が
減りつつあることや農村部から都市部へ働きに出る労働者の増加などにより、少人数世帯が増えているためとみ
られます。ただ、8 人以上の世帯数も約 19 万 6000 世帯あり、大家族で一緒に住む世帯もまだまだ多いようです。
5. 都市部人口比率は ASEAN 諸国で最低
都市部に住む人口は 314 万 6212 人で、総人口の 21.4%となりました。これは、2008 年の 261 万 4027 人(総人
口の 19.5%)から約 50 万人増加しており、カンボジアでも都市化が進行していることが分かります。しかし、カンボ
ジアで都市部に住む人口の比率(21.4%)は東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で最低であり、まだまだ農村部の
人口が多いことを示しています(都市部人口比率の東南アジア平均 44.7%、世界平均 52.1%)。
6. 若年層の比率が高い年齢構造
総人口のうち生産年齢人口(15~64 歳)が占める割合は、2008 年の 62.0%から 2013 年には 65.6%に上昇しま
した。若年層の人口が多く、5 歳ごとに分けると、15~19 歳は 156 万人、10~14 歳は 154 万人、5~9 歳は 147 万
人となっており、当面は毎年 30 万人程度が労働市場に新しく参入します。高齢者が少なく、若い労働人口が増え
ていく「人口ボーナス」と呼ばれる時期が続くものとみられ、カンボジアが今後も経済成長を持続するために、大変
有利な人口構造であるといえます。カンボジアの平均(メディアン)年齢は、24.5 歳です(日本は 46.1 歳)。
7. 労働力人口の高まり
15 歳以上人口のうち、労働力人口が占める割合は、2008 年の 78.3%から 2013 年に 79.8%に上昇しました。こ
れはカンボジアが人口ボーナス時期にあることを示しており、持続的な経済成長を支える好条件の一つです。
8. 2.4%と低い失業率
15 歳以上で失業中の人数は約 20 万人で、失業率は 2.4%という低い数字です。しかし、農村部にとどまってや
むを得ず農業に従事しているような、多くの潜在失業者を抱えているものとみられます。
9. 工業に従事する人口は 8.1%にとどまる
産業別の雇用者数のシェアを見ると、農業は 64.2%(2008 年は 72.1%)、工業 8.1%(同 6.2%)、商業 10.1%(同
7.8%)、建設 3.2%(同 2.0%)、ホテル・レストラン 2.0%(同 0.9%)などとなっています。農業従事者は減少していま
すが、いまだに 6 割以上を占めており、工業、商業、建設、観光といったカンボジア経済のエンジンとなる産業へ
の従事者は、増加してはいるものの低いシェアにとどまっています。
10. 識字率はまだ 8 割
識字率は、1998 年 62.8%、2008 年 78.4%、2013 年 79.8%と徐々に高まってきていますが、いまだに 8 割程度
にとどまっています。日系企業の工場の中には、若い労働者たちに基礎的な国語や算数を教える寺子屋研修を
行っているところもあります。
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11. 最終学歴が高卒以上は 1 桁台
25 歳以上の人口のうち、高卒以上の学歴を有する人の割合は、2008 年の 1.8%から 2013 年には 3.5%に上昇
しました。
12. 電化率はまだ 4 割
今回の調査で、灯火のエネルギー源を聞いたところ、電力と回答した世帯は全体の 44.3%でした。2008 年調査
の 22.5%からはほぼ倍増となりましたが、まだまだ低い数字です。都市部の世帯電化率は 90.5%にまで普及して
いますが、農村部は 32.4%にとどまっています。
13. 電化製品の普及率も低い
電化製品の保有について質問しており、テレビは 65.6%となっています(電化されていない農村部では自動車
用バッテリーなどを使って短時間視聴しているケースを多く見掛けます)。しかし、冷蔵庫を持つ世帯は全体の
8.1%、洗濯機は 4.1%、エアコンは 4.0%となっており、普及はこれからです。一方、オートバイは 60.6%(都市部
80.0%、農村部 55.5%)、携帯電話は 81.4%(都市部 94.5%、農村部 77.9%)と、電化製品に比べて高い比率とな
っており、日本の昭和時代とは普及の順番が異なるようです。
14. 調理用燃料はいまだまきが主流
調理用燃料については、まきが主流で全世帯の 77.9%、炭が 8.4%となっています。ガスの使用は、2008 年の
7.9%から 12.1%に増加しつつありますが、使用しているのは一部のみといえるでしょう。プノンペン市内でも、炭を
リヤカーで売り歩く行商や七輪で調理している姿をよく見掛けます。
人口調査は、大きく話題に上ることのない地道な調査かもしれませんが、経済政策などの策定に当たり、なくて
はならない重要なものです。日本からの支援でこのような調査が実施されているのは大変に意義のあることであ
り、継続的な協力が期待されます。
(2014 年 7 月 1 日作成)
カンボジア総合研究所 CEO/チーフエコノミスト
鈴木 博
東京大学経済学部卒。海外経済協力基金(OEOF)
、国際協力銀行(JBIC)等で途上国向け円
借款業務を約 30 年務める。2007 年からカンボジア経済財政省上席顧問エコノミスト。2010
年カンボジア総合研究所設立。日本企業とカンボジア発展の Win-Win 関係を目指して、経
済調査、情報提供を行っている。
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お願い申し上げます。
(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部 情報室
(照会先) 北村 広明
(e-mail): [email protected]
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