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第3章 現地実態調査 3-1 漁協系統販売会社を基点とする魚類養殖業へ

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第3章 現地実態調査 3-1 漁協系統販売会社を基点とする魚類養殖業へ
第3章
現地実態調査
3-1 漁協系統販売会社を基点とする魚類養殖業への ABL 導入事例
本事例は、類似養殖業を展開する複数の漁協が協調出資して設立した漁協系
統系販売会社が個別養殖業者の経営管理・指導を行うとともに、同社に蓄積さ
れたデータのシステム化により ABL に要求される担保物の管理において合理化
が図られている事例である。
(1) 対象漁業(魚類養殖業)の概要
A県における養殖ブリ、養殖カンパチの生産量および平均単価の推移は図
3-1 に示すとおりである。ブリ、カンパチともに平成 19 年頃までは緩やかな増
産傾向にあり、19 年にはブリ 2.9 万トン、カンパチ 3.1 万トンにまで拡大した。
その後やや減少し、21 年時点でそれぞれ 2.4 万トン、2.7 万トンと 2 年間で約
15%減少している。平均価格は若干の年変動を伴いつつも、ブリが 600 円/kg
前後、カンパチが 800~1,000 円/kg で横ばいに推移している。
(千トン)
70
カンパチ
ブリ
60
50
28
40
26
26
27
31
31
29
26
27
30
20
23
10
28
25
27
29
28
29
29
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
24
0
H13
(円/kg)
1,200
1,000
カンパチ
1,030
958
800
800
600
ブリ類
954
822
922
843
823
758
H21
739
660
565
400
634
581
628
623
622
542
200
0
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
図 3-1 A 県におけるブリ・カンパチの生産量(上)および平均単価(下)の推移
資料:漁業・養殖業生産統計年報
40
A県の養殖ブリ、養殖カンパチの全国に占める生産量のシェアは、図 3-2 に
示すとおりであり、養殖ブリが 20%台で推移しているのに対して、養殖カンパ
チは 55~60%と高い値で推移している。養殖カンパチについては、A県の生産
動向が全国のそれを左右する、まさに基幹的な生産地であることが分かる。
一方、漁業センサスによると、同県のブリ類養殖経営体数は近年大きく減少
している。昭和 58 年には 491 あったA県のブリ類養殖経営体数は平成 20 年に
は 316 と、25 年間で 175 経営体が廃業あるいは他の養殖業に転換している。
すなわち、A県のブリ類(特にカンパチ)養殖業は、高い全国シェアを背景に
圧倒的な市場支配力を有してはいるが、一方で量販店主導で引き起こされた水
産物価格の低迷の影響から、種苗価格や餌飼料価格の高騰による生産コストの
増大を販売価格に転嫁しきれず、小規模経営体を中心に経営体の淘汰が進行し
ている。残存業者は、廃業した業者の施設の再配分により経営規模を拡大し、
生産量が維持されている状況にある。
カンパチ
80%
70%
60%
56.2%
55.6%
61.0%
ブリ
61.8%
58.3%
59.3%
27.2%
27.8%
27.4%
28.0%
28.9%
H16
H17
H18
H19
H20
55.0%
54.5%
50%
40%
30%
20%
26.3%
23.5%
23.8%
10%
0%
H14
H15
H21
図 3-2 A 県におけるブリ・カンパチ生産量の全国シェアの推移
資料:漁業・養殖業生産統計年報
600
(経営体)
500
491
443
400
417
377
300
371
316
200
100
0
S58
(7次)
S63
H5
H10
H15
H20
(8次) (9次) (10次) (11次) (2008)
図 3-3 A 県におけるブリ類養殖経営体の推移
資料:漁業センサス
41
こうした状況を打開することを目的に、A県ではブリ類養殖業を展開する 5
つの漁協の販売一元化を目指し、漁協系統系の販売会社が設立されることとな
る。図 3-4 は、ヒアリング調査等により、A県におけるブリ類養殖業の生産・
販売の構造を模式化したものである。図中に示す比率はヒアリング調査等によ
る概算値である。
A県のブリ類養殖業においては、大きく「商社系」と「漁協系統」に分かれ
るが、実際には、種苗供給や餌飼料供給、販売が同一の業者であったり、系列
化されていたりする場合が多く、生産者もこれらの系列に組み込まれている構
造となっている。商社系列では、販売価格や生産経費(餌料価格、種苗価格等)
の決定権は商社側にあり、養殖経営への影響力は極めて大きい。なお、聞き取
り調査によれば、こうした生産者は、比較的規模が大きく、経営状況も良い場
合が多いようである。一方で、漁協系統に系列化されている生産者は、零細な
経営規模が多い。
このような構造下で、県下の生産量(在池量)の管理は困難を伴い、資金繰
りの悪化から換金売りを行う経営体が増加し、 魚価の低迷に拍車をかける状況
となった。その一方で、漁協系統への餌飼料代金の未納や養殖業者向けの融資
資金の不良債権化、それによる漁協経営の悪化等の問題が顕在化する。
魚価の低迷や餌飼料価格の高騰等による生産経費の増大等から養殖経営環境
がさらに厳しさを増す中で、生産管理の徹底化が求められる。そこで、需要に
合った計画的な生産を行うことで価格の安定化を図るために、全国有数のシェ
アという優位性を活かし、各漁協・漁業者が連携して戦略的な生産管理・販売
体制を構築することを目的に販売会社が設立されることになった。
種苗供給
餌飼料供給
運転資金調達
販売
商社系(種苗納入業者等)
(70%)
商社系(餌飼料供給業者)
(50~60%)
市中金融機関
(30~40%)
漁協系統
(30%)
漁協系統
(40~50%)
漁協系統(信漁連)
(60~70%)
商社系(種苗供給、餌飼料供給と系列化)
(55%)
漁協系統
(45%)
※上記の比率等は聞き取り調査等に基づいて推定したものである。
図 3-4 A 県におけるブリ類養殖業の生産・販売構造
42
販売会社が取り組む事業は「販売事業」と「購買事業」である。
① 販売事業
販売事業では、5 漁協が出荷する養殖水産物(ブリ、カンパチ)とその加工品
を取り扱っている。販売窓口を一元化し、販売戦略に基づく生産・出荷調整機
能を持たせることで、価格安定、漁業者の収益の向上を目指している。生産・
出荷調整の管理については、
「養殖管理システム」を開発し、個別生産者へのシ
ステム導入を推進して効率的な管理を行える体制を構築している。
② 購買事業
餌飼料購買事業では、生餌・配合飼料や水産医薬品、栄養剤等の養殖関連資
材を取り扱っている。一括購入による安価な仕入れや、在庫調整機能により、
コスト削減に繋がる漁協への供給を目指している。設立以来の取り組みにより、
水産医薬品としての認可を受けた「さかなガード」の開発や輸入種苗の供給価
格の抑制(25cm アップ種苗で 600 円/尾→480 円/尾)等といった成果を得られ、養
殖経営コストの削減に寄与している。
販売会社設立以降、カンパチの産地価格が上昇傾向となり、現在まで高値安
定(1,100 円/kg)の状況が維持されている。図 3-5 は東京市場における養殖カン
パチの月別取扱量と価格の推移をみたものであるが、産地価格と東京市場価格
とを比較すると、両者間の連動は高く、消費地価格は「(産地価格)+200~300
円/kg」で推移している。また、平成 22 年度には東京市場への入荷量が月 200
トン前後と減少する一方、価格は 1,500 円/kg と高値推移し、産地価格と消費
地価格の差は 400 円/kg 程度とやや拡大している。
こうした東京市場における取扱量の減少は、産地側からの出荷量調整も一因
である。特に、最大産地であるA県の生産管理体制が構築されたことが東京市
場における価格の維持・上昇に寄与していると考えられる。
取扱量
(円/㎏)
1,800
東京市場価格
生産者仕切価格
(トン)
600
1,700
500
1,600
1,500
400
1,400
1,300
300
1,200
1,100
200
1,000
900
100
800
700
0
600
4月
H16
10月
4月
H17
10月
4月
H18
10月
4月
H19
10月
4月
H20
10月
4月
H21
10月
4月
H22
10月
図 3-5 東京市場における養殖カンパチの月別取扱量と価格の推移
資料:東京都中央卸売市場年報
43
(2) 融資の背景
以上のように、A県のブリ類養殖業は、養殖カンパチの高い全国シェアを背
景に圧倒的な市場支配力を有するものの、商品価格の低迷、種苗や餌料価格の
高騰等による生産コストの増大から、小規模経営体を中心に経営が悪化、淘汰
が進行する。残存業者においても経営環境が厳しさを増す中で、漁協系統の販
売体制を一元化する目的で販売会社が設立された。ただし、ブリ類(カンパチ)
養殖においてA県が一定の全国シェアを維持するには、廃業した養殖業者の生
産を残存業者が引き継ぐ必要があり、残存業者にはそのための資金需要が発生
する。小規模な経営体においては不動産等の担保物件を保有しない経営体が多
く、生け簀内養殖魚を動産担保とする資金融資が有益な手法として機能してい
る。
44
(3) 融資のスキーム
魚類養殖業を営む経営体への融資については、
「商社系」と「漁協系統系」で
融資のスキームが異なっている。商社系の養殖業者は大規模経営体が多く、担
保となる不動産等を保有している経営体も多い。そのため、これら不動産担保
あるいは個人保証等により市中銀行から融資を受けるケースが多い。一方、漁
協系統系の養殖業者は小規模経営体が多く、不動産等の担保物件を保有しない
経営体が多い。動産担保融資はこうした中小零細な養殖業者にとって、運転資
金の融資の獲得において有益な手法の一つとなっている。 販売会社設立後の
「漁協系統系」の融資スキームは以下のとおりである。
販売会社の設立による 5 漁協の販売一元化に伴い、
「生産管理システム」が導
入され、養殖業者の生産・経営に関わる高度な情報が販売会社に集約され、効
率的かつ信頼性の高い担保物件の管理が行われている。また、
「生産管理システ
ム」を活用した個別経営改善指導により、債務不履行の未然防止が図られてい
る。 担保物件の処分実行時には、金融機関の委託を受け、販売会社が担保物件
の生産継続を引き受ける漁業者の仲介や自らが直接生産可能な体制を構築して
いる。
生産管理システムの構築
生産管理・経営指導
販 売
養殖業者
動産担保
融 資
商社系
返 済
各 漁 協
A県信漁連
販売会社
情報提供
担保処分実行時の担保物件の生産・処分体制
図 3-6 A県ブリ類養殖業における漁協系統系養殖業者への融資スキーム
45
(4) 担保物件の評価・管理方法
① 担保物件の評価
担保物件となる生け簀内養殖魚の評価については、専門知見を有する販売会
社と連携することで、時価の 70%という高い担保評価が実現している。
② 担保物件の管理
販売会社の設立を機に「生産管理システム」が導入された。同管理システム
に集約された生産・経営に関する情報は販売会社を介して融資元である信漁連
に提供される。同管理システムには生け簀内の養殖魚の数、日々供給される餌
料の種類・量、投薬の状況等、詳細な生産情報が蓄積され、精度の高い担保物
件の管理が実現している。
③ デフォルト時の担保物件の処分
デフォルト時には、金融機関の判断により、販売会社あるいは他の養殖業者
に担保物である養殖魚を生産委託する仕組みが構築されている。こうした仕組
みの背景には、デフォルトにより担保物である養殖魚が安価で市場に投げ売り
され、市況に悪影響を及ぼす状況を極力回避したいという生産者側の意図が含
まれている。
46
3-2 地方銀行による魚類養殖業者への ABL 導入事例
本事例は、約 20 年間にわたり魚類養殖業を営んでいる地域内のリーダー的位
置づけにある養殖業者が事業規模の拡大を図るにあたり、生け簀内養殖魚を動
産担保とする ABL が実行された事例である。
(1) 対象漁業の概要
B県におけるブリ類養殖業の生産量および生産額は、この 10 年間上昇傾向が
継続し、平成 20 年度には約 2 万トンと数量では 10 ヶ年で 2 倍に拡大した。こ
の間、全国のブリ類生産量は停滞しており、その結果、全国生産量に占めるB
県の生産量シェアは徐々に上昇し、22 年には約 14%に達している。
生産量(トン)
25,000
ブリ類生産量
生産額(億円)
200
ブリ類生産額
20,000
160
15,000
120
10,000
80
5,000
40
0
0
13年 14年 15年 16年 17年 18年 19年 20年 21年 22年
注:22年の生産額はデータなし
図 3-7 B 県における養殖ブリ類生産量・生産額の推移
全国生産量(千トン)
全国生産量
200
B県シェア
B県シェア
20%
14.3%
150
15%
12.3%
8.8%
100
7.2%
9.1%
9.4%
10.1%
10.4%
10.1%
10%
6.9%
5%
50
0%
0
13年
14年
15年
16年
17年
18年
19年
20年
21年
22年
図 3-8 養殖ブリ類の全国生産量とB県シェアの推移
資料:漁業・養殖業生産統計年報
47
一方、漁業センサスによると、B県における魚類養殖業の経営体数は、平成
10 年以降 10 年間で 145 経営体から 112 経営体と 20%以上減少している。特に
10 年~15 年においては魚類養殖業の総養殖面積の増大もあり、1 経営体あたり
の養殖面積は 10 年間で約 2 倍に拡大している。
つまり、B県のブリ類養殖業はこの 10 年間、小規模経営体の廃業と、これら
廃業経営体の空き漁場の活用を含めた残存経営体の規模拡大により、全体とし
てその生産は拡大基調が継続していると考えられる。
表 3-1 B県における魚類養殖業経営体数と 1 経営体あたり養殖面積
営んだ漁業経営体数
魚類養殖業
経営体数
1経営体あたり
養殖面積
その他魚類
ブリ類
マダイ
ヒラメ
平成10年
145
73
41
67
27
2,449 ㎡
平成15年
129
61
23
62
38
4,102 ㎡
平成20年
112
56
18
53
33
4,666 ㎡
資料:漁業センサス
(2) 融資の背景
本事例の養殖業者は、B県で約 20 年間、魚類養殖業を営む地域内では比較的
大規模な業態であり、養殖魚の生産だけでなく、餌料の開発・販売も行っている。
近年は生産面での規模拡大のほか、数年前には販売会社を設立し、独自ブラン
ドを創造して量販と直接取引するなど、積極的な販売戦略による業務の拡大を
視野に入れた経営を目指している。
また、同養殖業者は、従来より管理ソフトウェアなどを活用し、生け簀ごと
に養殖魚の給餌や投薬の状況、生育状況、出荷状況などの情報を整理・分析す
るなど、地域内養殖業者の中では相対的に厳格な経営管理を行っている。した
がって、ABL の実行においては、これら蓄積された情報に金融機関が必要とす
る幾つかの管理項目を追加する程度で、新たな事務作業の負担は軽微であった
ようである。
ABL を実行した金融機関は地元地方銀行であり、養殖業者とはメインバンク
として長く付き合いのある金融機関があることから、同養殖業者の経営内容に
ついては熟知していた。 ABL 実行当時の同養殖業者の経営内容は比較的良好で
あり、大型魚生産による飼育期間の長期化に伴う資金の融資を金融機関に依頼
している。
48
(3) 融資のスキーム
本事例による融資スキームの模式図を図 3-9 に示した。既に示したように、
融資を実行した金融機関は、従来より同養殖業者に不動産担保等による融資を
実行している地元地方銀行である。金融機関は、養殖業者の生け簀内の養殖魚
に譲渡担保権を設定(公正証書作成)し、これを動産担保とする ABL を実行する
が、その際の担保評価は外部の評価管理会社に委託している。その後の担保物
(生け簀内養殖魚)の管理については、養殖業者が金融機関が独自に設定した項
目を金融機関に月次で報告しており、外部の評価管理会社は介入していない。
融 資
在庫報告
販 売
代金支払
返 済
図 3-9 B 県魚類養殖業者への融資スキーム
49
販 売 会 社
養 殖 業 者
地 方 銀 行
担保物の評価
評 価 会 社
担保物評価委託
動産担保
(4) 担保物件の評価・管理方法
① 担保物件の評価
本事例では、ABL 実行段階において担保物件である養殖魚の評価を外部の評
価・管理会社に依頼している。
② 担保物件の管理
金融機関は独自の管理項目を設定し、これら項目について、養殖業者より直
接、月次の報告を受けている。養殖業者では、ABL 実行以前より管理ソフトを
活用した養殖魚の生育管理、出荷管理等を行っており、金融機関が義務づける
担保物管理に係わる情報提供により追加された事務的な作業負担は小さいよう
である。
③ デフォルト時の担保物件の処分
デフォルト時の担保物の処分については、金融機関側は独自のノウハウを持
ち合わせてはいない。ただし、担保対象物である養殖魚は養殖共済に加入して
いるため、斃死等による担保物の喪失についてはリスクの軽減が図られている。
(5) 融資実行後の経過
本事例においては、ABL を実行した翌年に担保物件の斃死事故が発生してい
る。しかし、担保対象物の養殖魚は養殖共済に加入していたことから、共済金
が支払われ、養殖業者は共済金で借入金を返済している。その後、同様の方式
で ABL が実行されるが、金融機関側はイベントリスクを再認識したことで、担
保物件の管理を強化し、生産・出荷にまで指導を拡大したことから、養殖業者
側は独自の経営方針での事業展開の領域が制限されることとなった。そうした
面では、金融機関と養殖業者の ABL に対する考え方の違いから相互の信頼関係
が崩れ、ABL の効果が十分に発揮されなかった事例といえる。
50
3-3 新規事業を展開するマグロ養殖 LLP への ABL 導入事例
本事例は、新規事業としてマグロ養殖業に取組む複数の養殖業者が組織する
有限責任事業組合(LLP)に対して、地元地方銀行と信用組合が協調で融資を行っ
た事例である。
(1) 対象漁業の概要
C県の魚類養殖業は、主たる養殖魚種であるブリ類やマダイの価格の低迷と、
種苗や餌料等の高騰による生産コストの増大の影響を受けて経営状況が悪化。
特に小規模家族経営体は経営継続が困難な事態に直面していた。こうした状況
の中、これら養殖業者に餌料を供給していた餌料会社の声かけで、平成 17 年、
魚類養殖業を営む 19 名(いずれも小規模家族経営)が新規事業としてマグロ養
殖業を展開するために 3 つの有限責任事業組合(以下 LLP という)が組織される。
幸い同海域には従来真珠養殖業を行っていた漁場の空き施設が多く、この漁場
を活用してマグロ養殖業を開始された。 マグロ養殖業の生産面に係るノウハウ
は餌料会社が有しており、同社の指導のもと LLP による生産が行われた。その
後、大手食品会社が餌料会社及び LLP 等と共同でマグロ販売会社を設立し、同
会社が養殖規模の拡大と販売強化を主導している。
餌料販売
餌 料 会 社
出 資
生産指導
魚類養殖業者
魚類養殖業者
魚類養殖業者
魚類養殖業者
大手食品会社
マグロ養殖有限責任事業組合((LLP)
(マグロ生産)
餌料販売
出 資
出 資
販 売 会 社
(マグロ販売)
図 3-10 C 県におけるマグロ養殖業の展開
51
ところで、マグロの完全養殖の技術が確立したとはいえ、現在のところ、ク
ロマグロの養殖はほぼ 100%天然種苗に依存している。天然種苗であるヨコワ
は、長崎県の壱岐や対馬、あるいは四国や紀伊半島沖で漁獲され、100~500g
のヨコワを 2~3 年かけて 30~70kg まで育てて出荷するのが基本的な養殖パタ
ーンである。養殖場については、12℃以上の安定した水温、河川や波浪の影響
を受けないなどの立地面での制約があるうえ、マダイやブリ等の養殖に比べて
後発であるため、好条件の養殖場所の確保が難しい。長崎県や鹿児島県では、
ブリ類やマダイの養殖施設の一部をマグロ養殖に転換する事業者もいるが、今
後の生産拡大には沖合海域への展開が課題のひとつである。
漁業センサスによると、平成 20 年時点で 69 の経営体がマグロ類養殖を営ん
でいる。経営体数が多いのは長崎県と鹿児島県であり、この 2 県に約 7 割のマ
グロ養殖経営体が集中する。この他 21 経営体についても、水温や成長率、種苗
の手当ての関係から、日本海側では石川県、太平洋側では三重県を北限とする
西日本の温暖な海域に集中する。養殖面積は 69 経営体で 928,927 ㎡であり、単
純平均では 1 経営体あたり 8,012 ㎡となる。ただし、経営体が集中する長崎県
の平均施設規模は 4,348 ㎡と小規模経営体が主体である一方、鹿児島県の平均
施設規模は 19,562 ㎡と全国平均の 2 倍以上の大規模経営であるなど、養殖規模
については地域格差が大きい。
69 経営体のうち、マグロ養殖の専業体は 39 経営体、その経営組織別内訳は、
会社経営 27、個人経営 11、漁業生産組合1である。兼業体については、ブリ養
殖やマダイ養殖との兼業が多い。近年、これまで冷凍マグロ扱ってきた商社系
マグロ買付業者が漁業者と共同でマグロ養殖業に参入するケースが増えている。
表 3-2 マグロ類養殖業の経営体数・養殖面積等 平成 20 年
経営体数
養 殖 面 積
1 経 営 体
平均養殖 面積
使 用 面 積
1 経 営 体
平均使用 面積
(経営体)
(㎡)
(㎡/経営体)
(㎡)
(㎡/経営体)
全
国
69
928,927
13,463
552,799
8,012
三
重
4
64,150
16,038
52,630
13,158
京
都
1
4,039
4,039
707
707
山
4
52,009
13,002
41,009
10,252
山
口
1
85,000
85,000
20,000
20,000
愛
媛
6
12,144
2,024
12,144
2,024
高
知
3
27,920
9,307
23,460
7,820
長
崎
38
372,974
9,815
165,230
4,348
和
歌
大
鹿
沖
児
分
1
45,000
45,000
2,000
2,000
島
10
205,691
20,569
195,619
19,562
縄
1
60,000
60,000
40,000
40,000
資料:2008 漁業センサス
52
漁業
生産組
合
3%
個人
経営体
28%
会社
69%
(2) 融資の背景
C県において、新規事業としてマグロ養殖業が開始されるにあたり、初期の
整備投資資金や創業期における運転資金等の立ち上げ資金が必要であり、地元
地方銀行にこの資金融資を依頼した。しかし、同事業に参入した LLP の構成員
は、いずれも小規模家族経営の魚類養殖業者であり、不動産等の担保を有する
経営体は少なかった。結果的には、地元産業を積極的に支援するという金融機
関の判断により融資が実行されるのであるが、LLP の構成員である魚類養殖業
者の多くは、従来より同地方銀行から個別に融資を受けており、金融機関は個々
の経営状況を把握していたということも重要な要素の一つであったようである。
同地方銀行は融資リスクの軽減を図るため、地元信用金庫と協調融資とするほ
か、添え担保として生け簀内マグロに譲渡担保権を設定するなどの条件で同事
業の立ち上げ資金を LLP に一括融資している。
53
(3) 融資のスキーム
魚類養殖業を営む複数の経営体で組織された LLP に対して、新規事業として
展開するマグロ養殖事業の立ち上げ資金を 2 つの地元金融機関が協調で融資し
ている。2 つの金融機関の協調融資ではあるが、これら金融機関は、それぞれ
個別に LLP と契約を締結している。動産担保の対象は生け簀内のマグロであり、
譲渡担保権(公正証書方式)が設定されている。但し、動産担保は添え担保とし
ての位置づけであり、担保物の評価はゼロである。また、動産担保に係る権利
は、2 つの金融機関がその融資額の比率で按分する協定が交わされている。な
お、担保物件の生け簀内養殖魚については養殖共済に加入しているが、共済金
請求権に対する質権設定されていない。
また、本事例においては、養殖業者が組織する LLP に対する融資という形態
が取られているが、LLP の設立により事業の目的や各構成員の役割が明確化さ
れること、個別養殖業者への融資に比べて資金ロットが大きくことなどは、貸
し手である金融機関はメリットとして捉えている。更に、新規事業であるが故
に事業の継続性も懸念されるが、LLP は餌料会社や販売会社と深く連携してお
り、こうした組織的体制による事業継続性の向上も評価されている。
協 調
代金支払
餌料販売
在庫報告
代金支払
返 済
個別融資
投入餌料等データ
図 3-11 C 県マグロ養殖 LLP への融資スキーム
54
餌料会社
養 殖 業 者
養 殖 業 者
養 殖 業 者
地 方 銀 行
信 用 金 庫
動産担保
商品販売
マグロ養殖LLP
販売会社
協調融資
(4) 担保物件の評価・管理方法
① 担保物件の評価
担保物の評価については、外部評価会社を活用せず金融機関による独自評価
で算定されている。但し、マグロ養殖業は比較的新しい産業であるため、金融
機関がその生産物を合理的に評価するノウハウは当然有しておらず、原価評価、
すなわち「種苗代+餌料代+人件費」で算定している。
② 担保物件の管理
金融機関は、餌料会社を通じ、LLP が保有する生け簀内マグロの個体数やサ
イズ、投入餌料量等のデータについて月次で報告を受けている。担保物件の管
理については、専門知見のある外部評価会社等への委託が理想であり、これを
活用することも検討されたが、管理コストが大きいことから直接管理を行って
いる。
③ デフォルト時の担保物件の処分
デフォルト時の担保物件の処分方法等については、十分に検討されない状況
で融資が実行されている。ただし、同 LLP においては、餌料会社や販売会社が
背後に控えていることもあり、金融機関としてはこうした組織的体制に安心感
がある。しかし、動産の処理に関してこれら餌料会社、販売会社等との正式な
協定は交わされていない。
(5) 融資実行後の経過
本事例においては、関連する餌料会社の倒産があったが、民事再生法の適用
を受けた事業継続のため、LLP によるマグロ養殖事業に大きな影響は及ばなか
った。本件の場合、動産担保はあくまでも添え担保としての位置づけであり、
ABL による融資のリスクが十分に検討されないままスタートした感が強い。漁
業への ABL 手法の導入の観点からは多くの課題が残されている事例ではあるが
参考となるスキームであると考えられる。
55
3-4 事例調査結果のまとめ
本年度に事例調査を行った養殖業者に対する ABL 導入事例について、表 3-3
に ABL に係る項目比較を行った。
A県事例を除き、一般金融機関による ABL であるが、漁業者の審査あるいは
担保物件の評価ノウハウの違いの影響からか、担保物件の評価に大きな格差が
みられる。A県事例は、担保物件の管理においても、組織化、システム化が進
んでいる。一方、B県、C県の事例は、担保物件の評価や管理の体制も不十分
であり、また担保処分実行時についても十分に検討されていない。B県、C県
の ABL は従来から取引のある養殖業者への信用を補う程度の位置づけに過ぎな
い。
表 3-3 事例調査を行った養殖業への ABL の比較
A県事例
B県事例
C県事例
借り手
魚類養殖業者
魚類養殖業者
養殖業者で組織された
LLP
貸し手
系統金融機関
地方銀行
地方銀行と
信用金庫(協調)
担保物件
生け簀内養殖魚
生け簀内養殖魚
(生け簀内養殖魚)
担保物件の
評価機関
金融機関
外部評価会社
金融機関
担保物件の
評価
時価評価の約70%
時価評価の約10%※
ゼロ評価
(添え担保)
担保物件の 系統金融と販売会社の
管理機関 連携による管理
金融機関による直接管理
金融機関による直接管理
担保物件の 高度にシステム化された管 養殖業者による月次データ 養殖業者と餌料会社による
管理方法 理
の提出(自己報告)
月次データの提出
デフォルト時 販売会社主導により、販売
金融機関側は独自のノウ
の 担保物件 会社自ら、あるいは他の養
ハウを持たない
の処分方法 殖業者への生産委託
※ B県事例の担保物件の評価については借り手へのヒアリング調査による
56
金融機関側は独自のノウ
ハウを持たない
第4章
漁業金融における ABL 導入の論点
4-1 漁業分野において ABL が有効に機能する範囲
漁業者が担保として評価されうる動産を保有しない場合は言うまでもなく、
動産を保有している場合においても、不動産等の他の資産を保有する、あるい
は与信力を有し、他の手段によって融資を受けうる場合には、ABL が積極的に
活用されるケースは少ない。
漁船漁業の場合、系統金融機関が伝統的に譲渡担保として設定してきた漁船
やエンジンなどを除くと ABL に事例は極めて少ない。漁獲物を担保とする ABL
としては、漁獲後一定期間船内在庫として保管される漁業が対象として考えら
れるが、こうした漁業は長期にわたり寄港しない遠洋漁業に限られる。
また、養殖業については、無給餌養殖業は一部を除き運転資金が大きくない
ことから ABL の対象となりづらく、給餌養殖業が主な対象となる。
つまり、ABL が漁業金融において有効に機能する範囲は、ある程度限定され
る。そこで、以下では、養殖業について「①魚類養殖業への ABL 活用」ケース、
「②新規事業の展開における ABL 活用」ケース、漁船漁業について「③船内在
庫を担保とする ABL 活用」ケースの 3 つのケースについて検討する。
① 魚類養殖業への ABL 活用ケース
第 3 章 3-1 に示したA県の事例が参考になる。中小零細規模の養殖業者の多
くは、厳しい経営事情の中で担保となる資産を保有しておらず、高騰する種苗
代、餌料代等の運転資金の確保に苦慮している。魚類養殖業は、換価までの期
間が長い一方、日々の生産経費がかかることから、生け簀内の養殖魚を担保と
する融資の仕組みは有効であると考えられる。
② 新規事業の展開における ABL 活用ケース
第 3 章 3-3 に示したC県の事例が参考になる。新規事業を展開するにあたり、
初期の設備投資資金や創業期の運転資金の需要が生まれるが、既存漁業・養殖
業が好調な一部漁業者を除き、担保となる資産を保有する漁業者は少ない。ま
た、新規事業は、実績が伴わないが故に金融機関に対する信用力が弱い。事業
が軌道にのり、一定収入が確保できるまでの期間の運転資金の確保において、
動産を担保とする融資の仕組みは有効に機能すると考えられる。
③ 船内在庫を担保とする ABL 活用ケース
57
遠洋マグロ漁業に代表されるケースである。遠洋マグロ漁業は、新規航行時
のイニシャルコスト、燃料費や餌代、人件費等のランニングコストが多大であ
る一方で、漁獲物の換金には長期間を要することから、その間の資金需要があ
る。従来はマグロ問屋等がこうした資金を前渡金として融資していたケースが
多かったが、マグロ問屋の弱体化もあり、こうした慣行は減少している。法人
化されていることから経営管理の水準も高く、また融資が大口であるため、既
に地方銀行等とも取引がある漁業者も少なくない。ただし、養殖業に比べ、漁
獲高の予測は難しく、事業計画が立てづらいという欠点がある。
58
4-2 漁業金融における ABL の課題
本調査事業においては、3 ヶ年にわたり ABL を活用した漁業者(養殖業者)へ
の融資事例を調査してきたが、動産担保の評価、管理について十分に検討した
上で融資を実行している事例はほとんど見当たらなかった。事例の多くは、従
来から取引関係にある漁業者(養殖業者)と金融機関間の ABL であり、金融機関
が当該漁業者(養殖業者)の経営実態や資金需要について熟知していることを前
提に融資が実行されている。21 年度に実施された漁業者へのアンケート調査に
おいても、漁業者への ABL 実績の大部分は系統金融や日本政策金融公庫による
融資であり、系統・公的金融機関以外の地方銀行や信用金庫等による融資実績
はごく僅かしか確認されなかった。つまり、漁業金融において実施されている
今日の ABL は信用融資を補完する程度の位置づけである場合が多く、それ故、
動産担保の評価や管理については、こうした機能の一部を評価管理会社に外部
委託する事例はみられるものの、基本的には借り手の自己申告等により簡易的
に把握しているケースが多いと考えられる。
しかし、本業務の目的は新たな金融手法を活用した金融の円滑化であり、そ
うした意味では、これまで漁業者への融資実績が乏しく、個々の漁業者の経営
実態を十分に把握していない金融機関においても、漁業者への融資の可能性が
生まれる ABL の活用スキームの構築が求められる。そのためには、融資実行時
における担保の評価、期中時における担保の管理、担保実行時における処分の
方法について、貸し手、借り手の双方が抱える ABL の課題を解決する必要があ
る。
(1) 担保物件の特定
ABL における担保物件の特定には、ⅰ)動産の特質により特定する方法(個別
動産)と、ⅱ) 動産の保管場所の所在地によって特定する方法(集合動産)があ
る。漁業において ABL が有効に機能する範囲については、前項で示したように、
生け簀内の養殖魚を動産担保とする場合と、船内在庫を動産担保とする場合等
が考えられるが、いずれも動産担保の量などが増減しうることから、基本的に
集合動産として特定しておく必要がある。集合動産の場合、対象となる担保物
件の範囲については、その種類や保管場所、数量などを具体的に特定する必要
があるが、特定の保管場所のみを対象とすると、借り手の経営状況が悪化した
場合、当該商品を他の保管場所に移動させる可能性があることから、原則とし
て借り手が保有するすべての保管場所を特定すべきであるとの指摘がある 1 。
1
トゥルーバグループホールディングス株式会社編「アセット・ベースド・レンディングの理論と実在」,
きんざい,2008
59
(2) 担保物件の評価
担保物件の評価は、ABL を実行の際、融資の可否や融資の条件を決定するた
めの重要な判断材料の一つであることから、適切な評価が求められる。しかし、
アンケート調査から確認されたように、系統金融機関を除く金融機関の多くは、
漁業者が保有する動産等の代替担保の評価に係わるノウハウを有していない。
担保対象物が養殖魚や船内在庫の場合、評価の時期や保管方法等によって評価
額が変動する点も課題である。借り手となる漁業者からは、評価の基準が明確
でないことに対する不満も聞かれた。
また、貸し手となる金融機関からは、担保物件の評価は融資枠を決定する最
も重要な指標の一つであるため、専門知見を有し、かつ客観性を備えた外部の
専門会社への業務委託が理想であるとの声もある。しかし、外部の専門会社へ
の業務委託はコストの課題がある。こうしたコストについては、最終的には借
り手の負担となる。特に、資金需要の絶対量が小さい業種については、専門会
社においても評価に必要な情報の蓄積が乏しく、コストが相対的に高くなる可
能性がある。ただし、これは見方を変えれば、漁業分野における ABL が普及し、
評価に必要な情報が金融機関や専門会社に蓄積されれば、コストは低減する可
能性が高いということになる。
(3) 期中における担保物件の管理
期中における担保物件のモニタリングは、貸出金の資金使途を把握し、借り
手企業の業績や商流を把握する観点から、適切に行われる必要がある。また、
モニタリングは借り手の協力なくしては成立しないことから、モニタリングの
内容およびその必要性を借り手に十分説明し、その理解を得ておく必要がある。
ところで、漁業における ABL の担保対象物、例えば、担保物件の対象が遠洋
漁業の船内在庫の場合、担保物件が国内にないため、貸し手がこれを直接モニ
タリングすることができない。また、養殖魚の場合も、生け簀内の担保物件の
状態(サイズや尾数など)を直接モニタリングすることは難しいなどの課題があ
る。その結果、漁業者への ABL を実行している金融機関においても、担保物件
の管理は月次程度での借り手による自己報告にとどまっている場合が多く、情
報の精度については十分とは言い難い。
技術的には、船内あるいは生け簀内に固定カメラを設ける、あるいは電子タ
グ等を活用する方法で、担保物件の個体管理する方法も考えられるが、いずれ
も管理の手間とコストの課題が残されており、現実的には、借り手の販売量を
把握する販売会社や餌料供給量を把握する餌料会社との連携によるモニタリン
グが合理的であると考えられる。
なお、金融機関にとって借り手企業のモニタリングは高度であることが理想
60
ではあるが、その分、借り手にはデータ作成や報告等の負担が大きくなる。借
り手、貸し手の双方の信頼関係の醸成を図り、合理的・効率的なモニタリング
が求められる。
また、ABL の実行に際し、貸し手は借り手に対してコベナンツ条項の設定を
することが一般的である。コベナンツの内容については、借り手の行為を一方
的に制限するなど、借り手にとって過度な義務を課すものとならないように留
意すべきである。
(4) デフォルト時の担保物件の処分
担保権を処分しなければならない事態が発生した場合、確実に担保権を行使
し、担保物件を処分(換価)する必要がある。しかし、担保物件が特定されてい
る場合においても、実際に担保権を行使する段階において、担保物件の所有者
が第三者に移転されている場合にはその行使が確実に実行できるかは不明であ
り、また、遠洋漁業の船内在庫等のように、担保物件が国内になく日本法が適
用されない場合、当該法域においても対抗できるかについては検証が難しく、
現時点では明らかでない。前者については、担保物件の譲渡登記をすることに
より、第三者対抗要件が具備され、担保物件の処分に係るこうしたリスクが軽
減される。
また、ABL は借り手の事業収益に係わる資産を担保とすることから、担保権
の行使は、事業そのものの停止や制限につながる場合がある。したがって、担
保物件を処分する際の目的や時期等については、慎重かつ合理的な判断が求め
られる。例えば、養殖魚を動産担保とする場合、その処分によって一時的に大
量の養殖魚が市場に放出された場合、処分価格は通常時の価格を大きく下回る
ことが予想される。このような場合において、貸し手あるいは貸し手が処分業
務を委託した処分業者は、借り手の協力のもとで、通常の商流を活用した処分
方法をとること等により、当該商品の市況への影響に十分に配慮すべきである。
なお、処分対象が養殖魚の場合、商品として出荷可能な状態まで一定の育成期
間を必要とする場合がある。こうした場合には、処分先がある程度制限される
ことから、予め育成する委託先を確保しておくことも検討すべきである。
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