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続よくわかる心電図 ver.3.2

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続よくわかる心電図 ver.3.2
続よくわかる心電図 ver.3.2 時政孝行 久留米大学客員教授(生理学) 蓮尾 博 久留米大学非常勤講師(生理学) 鷹野 誠 久留米大学教授(医学部生理学講座) 柳(石原)圭子 久留米大学准教授(医学部生理学講座) - 9 章 - 歩調取り電位のメカニズム 1-9 章全体の目次と参考図書は 0 章を参照してください
1 目次 0 章 総合案内 ・ 目次 ・ 参考図書・文献 ・ 著者紹介 第2部 心筋細胞の興奮 7 章 静止電位のメカニズム 8 章 心室筋の興奮メカニズム 9 章 歩調取り電位のメカニズム
9 章 歩調取り電位のメカニズム ・ Ca チャネル電流(L 型、T 型) ・ K チャネル電流 ・ 陽イオンチャネル電流 ・ 心筋 HCN チャネルの特徴 ・ 心筋 HCN チャネルを標的にする新薬 ・ 洞結節細胞での HCN チャネルの生理的意義 ・ 歩調取り電位の臨床的意義
2 は じ め に 今から約 12 年前のことですが、心電図の講義・実習を終えた学生からフィードバック
される意見や感想を吟味してみると、波形の丸暗記に対する不安、波形のワケをきっ
ちり解説していない教科書への不満を感じながら、心電図の基礎、機序と症例を渇望
しているさまが垣間見えました。これらのニーズに応えられるような教科書を企画し
ていたちょうどそのとき、久留米大学が e ラーニングの導入を検討中という風の便り
を耳にしました。それでは先陣を承りましょう、ということで執筆したのが「続よく
わかる心電図 ver.1.0」でした。そして、2003 年春、久留米大学医学部生理学教室の
ホームページにリンクさせる形式で一般公開に踏み切ったのです。その後 2011 年 9 月
からバージョン 3.2(当時)の大幅改訂に取りかかり現在に至っています。第 1 章と第
2 章は昨年夏前に改訂作業が完了し、バージョン 4.0 のβ版として一般公開中。 本書の構成を簡単に紹介します。第 1 部「イオンチャネル入門」はイオンチャネル
に関する専門書を読み解くための入門書として位置づけられています。内容的にはす
でに大学院レベルですが、専門性をさらにアップさせるべく第 3 章から第 6 章までの
改訂を進めています。キーワードは Shaker、Kir、long-QT など。 第 2 部「心筋細胞の興奮」では心電図の発生源である洞結節細胞の歩調取り電位と
固有心筋細胞の活動電位についてチャネル分子、チャネル遺伝子のレベルで解説しま
す。キーワードは過分極誘発性陽イオンチャネル(HCNs)、ATP 感受性カリウムチャネ
ル(Kir6.x/SURx)など。最適レベルは大学院生や若手研究者です。 公刊論文から引用した図には出典(引用元)を明記しました。それぞれの説明文末
尾をご覧ください。出典が明記されていない図は著者等の未発表データです。参考図
書・文献は巻末にリストアップしました。
平成 25 年 8 月 著者一同 3 9 章 歩調取り電位のメカニズム 心臓には自動能があり、自ら興奮し、その結果、自ら拍動することができます。引き
金となる電気現象は洞結節に発生します。第 1 部の図 5-4 に示したように、この電気
現象は歩調取り電位とそれにより誘発される活動電位から成ります。 Ca チ ャ ネ ル 電 流 ( L 型 、 T 型 ) 0 相が立ち上がる膜電位は-40mV 付近ですが、この電位で L 型 Ca チャネル(Cav1.2)
が活性化されます。T 型 Ca チャネル(Cav3.1、Cav3.2)は 4 相終末期に活性化され Cav1.2
の活性化を後押しすると考えられています(図 9-1)。T 型 Ca チャネルの特徴は表 9-1
にまとめました。 図 9-1 ICa の時間経過 上段が活動電位、下段が電流変化の模式図。矢頭は活動電位が立ち上がる瞬間。T:T 型電流が
主体の箇所、L:L 型電流が主体の箇所。 表 9-1 心筋 T 型 Ca チャネルの特徴 項目 特徴 登録名(IUPHAR) Cav3.1、3.2 特徴 voltage-gated calcium channel α1 subunit 別名 T-type calcium channel 遺伝子(HUGO) CACNA1G(Cav3.1)、CACNA1H(Cav3.2) 補助ユニット 不明 イオン選択性 Sr>Ba=Ca(Cav3.1)、Ba=Ca(Cav3.2) 活性化閾値 -70mV 活性化速度 Na チャネルより僅かに遅い 不活性化 非常に速い ニフェジピン 非感受性 分布 洞結節 生理機能 洞結節活動電位の立ち上がり、心臓歩調取り 4 K チ ャ ネ ル 電 流 K チャネル電流に関しては IKr の変化が主体になります。IKr は活動電位初期に活性化
されると急速不活性化期に入りますが、3 相で不活性化が解除されるとその後は尾を引
く様にゆっくりと減少します。最近ではこのゆっくり減少する IKr が 4 相の主要なメ
カニズムだと考えられています。 図 9-2 IK の時間経過 上段が活動電位、下段が電流変化の模式図。 5 陽 イ オ ン チ ャ ネ ル 電 流 第 3 の電流成分は過分極誘発性陽イオン電流(Ih)です。神経細胞 Ih 電流トレースは
既に示しましたので、洞結節細胞での実験結果を図 2.35 に示します。 図 9-3 洞結節細胞の Ih ウサギ洞結節細胞から得られた実験結果です。温度は 35℃。(左)上段が電圧(保持電位-32mV
からの過分極性コマンドパルス)、下段が電流トレース(単位は nA)です。パルス中に Ih が活
性化され、パルス終了後に Ih の脱活性化が観察されました。(右)同じ細胞の活動電位です。上
下方向の変化が電圧(EM、単位は mV)の変化、左から右への変化は時間(単位は秒)を表して
います。 引用元:DiFracesco et al (1986) J Physiol 377, 61-88. Ih は歩調取り電位を形成すると考えられていますが、厳密には肯定派と否定派の間
でまだ論争が続いています。否定派の最大の論拠は Cs によって Ih をブロックしても
歩調取りが消失しないという実験結果、および洞結節細胞の最大陰性電位が Ih を活性
化するには浅すぎるという推論です。肯定派の論拠はおよそ以下の 3 点にまとめられ
ます。 #1 遺伝子とチャネルの両方が洞結節に限局して発現している。 #2 活性化の速さが歩調取り電位の速さと完全に一致する。 #3 アドレナリンとアセチルコリンによる調節が歩調取り電位のそれと一致する。 どちらに軍配が上がるかはひとまず棚上げにして心筋 Ih(HCN チャネル電流)の構
造と機能を詳しく吟味しましょう。 6 心 筋 HCN チ ャ ネ ル の 特 徴 HCN は 1998 年にウニ精子とマウス脳から単離された遺伝子で陽イオンチャネルをコー
ドします(図 9-4)。現在までに 4 つのクローンが単離されました。脳、末梢神経、味
細胞、網膜、嗅球、洞結節、味細胞、精巣などに発現しますが、洞結節歩調取り電位
を形成するのは HCN2 と HCN4 のヘテロポリマーだと考えられています。クローンによ
って活性化の速さが異なり HCN1、HCN2、HCN3、HCN4 の順に遅くなります。最近βサブ
ユニットと会合する可能性が示唆されています。 電位センサーS4 部には ExxKxxRxxRxxRxxKxx モチーフの繰り返しが認められます(図
9-5)。そしてその中心にセリン(S)が配されています。しかし、なぜ脱分極ではなく
過分極に反応するかはまだわかっていません。P 部には GYG モチーフが保存されていま
すが、GYG の次に A(アラニン)や R(アルギニン)、或いは Q(グルタミン)が配され
ていて、この点でアスパラギン酸(D)が配される Kv 群チャネルとは異なります。な
ぜ K+だけでなく Na+も通すのかもまだ不明です。ちなみに K チャネルは、通常は 10000
倍、最低でも 100 倍、Na+より K+を通しやすい性質を持っていますが、この陽イオンチ
ャネルでは K+と Na+の透過性比は 4-5 倍に過ぎません。 図 9-4:HCN チャネルの膜内トポロジー A
HCN1
HCN2
HCN3
HCN4
B
HCN1
HCN2
HCN3
HCN4
EVYKTARALRIVRFTKILSLLRLLRLSRLIRYIHQWEE
EVYKTARALRIVRFTKILSLLRLLRLSRLIRYIHQWEE
EVYKTARALRIVRFTKILSLLRLLRLSRLIRYIHQWEE
EVYKTARAVRIVRFTKILSLLRLLRLSRLIRYIHQWEE
KAMSHMLCIGYGAQAPVSMS
KAMSHMLCIGYGRQAPESMT
KAMSHMLCIGYGQQAPVGMP
KAMSHMLCIGYGRQAPVGMS
272
325
236
403
359
412
323
490
図 9-5 HCN チャネルの S4 と P 部 上段(A)が S4、下段(B)が P 部の構造を示します。S4 内のセリン(S)と P 部 GYG モチーフ右
隣のアミノ酸残基をボックス表示。
7 心 筋 HCN チ ャ ネ ル を 標 的 に す る 新 薬 洞結節細胞の Ih チャネルをターゲットにした新薬の開発が進められています。既存薬
の化学構造との類似から、クロニジンに似た構造を持つ新薬群(ZD7288 など)とベラ
パミールに似た構造を持つ新薬群(zatebradine、ivabradine など)に分類されます。
これらの新薬は徐脈薬(bradycardic agent)と総称されますが、その理由はこれらの
薬が洞結節歩調取り電位を抑制し徐脈効果を示し(図 9-6)、したがって、虚血性心臓
病、特に心不全を伴う虚血性心臓病の治療薬になるのではないかと期待されるからで
す。なぜ虚血性心臓病かというと、心内膜側心筋は虚血に対して最も脆弱なので、こ
れを改善するためには心拍数を下げ、拡張期の冠血流量を増すことが望ましいからで
す。 図 9-6 洞結節細胞歩調取り電位に対する zatebradine の作用 上段:塩化セシウム(2mM)の作用。下段:zatebradine(1μM)の作用。どちらの場合もペース
メーカー電位の選択的抑制が観察されました。活動電位の最大振幅は Cs によりわずかに減少、
zatebradine によりわずかに増加しましたが、立ち上がり速度、立ち下がり速度、持続時間など
はあまり影響を受けませんでした。これらの実験結果は Cs や zatebradine が K チャネルにはあ
まり作用しないことを示唆しています。 引用元:Nikmaran et al (1997) AMJ 272, H2782-2792. 8 洞 結 節 細 胞 で の HCN チ ャ ネ ル の 生 理 的 意 義 洞結節はその周囲を心房筋に囲まれています。洞結節の閾値以下の電位(具体的には
-40〜-60mV)を心房筋静止電位と比較すると、両者の間には 30〜50mV の差があります
(図 9-7)。細胞同士がギャップ結合で連結されている上に、心房筋の方が数では圧倒
的に勝っているので、心房筋の方が結節細胞に対してこちらと同じ電位まで過分極し
なさいよという影響を与えます。しかし、これは洞結節にとっては一大事です。心停
止の危機です。洞結節には何か有効な対抗手段があるのでしょうか。洞結節は心房筋
からの過分極性影響に対して、過分極誘発性陽イオンチャネル(HCN)を開孔させ、そ
の結果、脱分極する事で対抗しています(図 9-6)。したがって、もし HCN が歩調取り
電位の形成に直接的に関与していなくても、洞結節の電位を浅いレベルに保持する事
で十分に生理機能を果たしているということができます。 最近 HCN のノックアウトマウス(KO マウス)が作成され、洞結節細胞の活動電位が
測定されました。もし HCN チャネルが膜電位を浅く保つ方向に働いているなら、KO マ
ウスの膜電位は対照に比べて深い事が期待されます。事実、Ludwig 等(EMBO J 22, 216-224, 2003)は KO マウスでは対照に比べて活動電位の最大陰性電位が約 5mV 深か
ったと報告しています。 図 9-7 洞結節細胞での HCN の働き 図には洞結節細胞を挟んで 2 個の心房筋細胞が描かれています。それぞれはギャップ結合により
電気的に結合しています。細胞の上方は洞結節細胞と心房筋の活動電位(模式図)です。洞結節
細胞が HCN チャネルを開孔することで心房筋からの過分極性影響を打ち消そうとするさまが描
かれています。 9 歩 調 取 り 電 位 の 臨 床 的 意 義 図 9.8 はヒツジ心臓プルキンエ線維の歩調取り電位です。洞結節細胞の活動電位波形
とは少し異なりますが、きれいに歩調取りをしています。記録温度を下げると第 4 相
脱分極の勾配が著しく平坦化する事に注目してください。温度 10℃の変化に対応する
生物学的現象の変化を生物物理学では Q10 と表現しますが、第 4 相勾配の Q10(36℃
-26℃間)は約 6 だとされています。心臓手術の際に低体温にする理由がここにありま
す。 図 9-8 ペースメーカー電位の温度依存性 ヒツジ心臓から摘出したプルキンエ線維を用いた実験結果です。記録温度を 39.0℃から 26.0℃
までの範囲で変化させました。4 つの異なった温度で記録した活動電位を重ね合わせています。 引用元:Noble (1979) Tne Initiation of the Heartbeat 2nd ed. 10 
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